上 下
19 / 63
宇宙はいと広し(またまた3話)

2/3

しおりを挟む
15-7シャルの為に


 俺はとうとうアルファードを倒した。

 「鋼鉄の鎧騎士」に乗り込みまた塀を乗り越えて逃げようとする俺の耳に兵士たちの声が聞こえて来た。


 「あっちだ! あの精霊使いのせいだ!!」

 「『鋼鉄の鎧騎士』であの精霊使いを捕まえろ! 門の土の槍はまだ退かせないのか!?」

 「捕まえたぞ、精霊使いだ!! こいつ、アルファード様と一緒に居た奴か!?」


 城壁の向こうから聞こえたそれに俺は慌てて「鋼鉄の鎧騎士」をそちらに向かわせる。


 『シャル!』


 兵士たちの話ではシャルが捕まった様だ。
 せっかく目的が果たせたと言うのに何やってんだあいつは!?

 慌てて塀を飛び越え門の外に行くと向こうの方で「鋼鉄の鎧騎士」三体がかりで樹木にツタのようなモノが巻き付いていてわさわさとうごめく大木を押さえ、中央にいるシャルが兵士たちに捕まっているのが見えた。

 
 『シャルっ!』


 『こいつ、黒い【鋼鉄の鎧騎士】だとっ? このぉっ!!』

 後ろから残り一体の量産型「鋼鉄の鎧騎士」が襲いかかって来る。
 しかし俺はそれを振り向くことなく剣を振り上下に分割する。

 
 ずばんっ!


 「な、なんだこの黒いのは!」

 「伝令!! そいつにアルファード様がやられたぁっ!」


 城壁の上から他の兵士が叫ぶ。
 俺は構わずシャルを助け出そうとそちらに向かうが、兵士の一人がシャルを引っ張って喉元に剣を向ける。


 「そこの黒い『鋼鉄の鎧騎士』動くなぁ! 動けばこのエルフを殺す!!」


 ちっ!
 やっと目的を果たせたと言うのにこんな所でシャルを失うわけにはいかない!!

 俺は「鋼鉄の鎧騎士」を止めて手に持つ剣を地面に突き刺す。
 それを見たその兵士は笑いを上げる。


 「ははっ、はははははっ! いいぞ、おい黒いの! 『鋼鉄の鎧騎士』から降りろ!」


 兵士はそう叫ぶ。

 
 ズシン、ズシン

  
 俺のまわりに剣を構えたままの残り三機の「鋼鉄の鎧騎士」がやって来て恐る恐る俺の機体の肩に手をつき腕を取り跪かせる。
 俺は大人しくそれに従う。


 「おい、黒いの! とっととその『鋼鉄の鎧騎士』から降りろ! さもないと!!」


 びりっ!


 「きゃぁっ!」


 その兵士はシャルの衣服を破る。
 白い肌があらわになり薄い胸が見える。


 「は、ははははは、どうだ? お前が言う事聞かなければこのエルフのはらわた今ここでぶちまけてやるぞ?」


 その兵士はシャルの胸下へと剣を下げる。


 『待て! 分かった、今降りる』

 「アイン! 駄目っ!!」


 シャルがそう叫ぶがこのままシャルを見殺しには出来ない。
 それに俺は当面の目的だったアルファードの奴を倒せたこともありシャルさえ助かれば後はどうでもいいと考え始めていた。


 ばくん


 胸の扉を開け体を拘束する鎧の様なものをすべて外し地面へと降り立つ。
 するとすぐに兵士たちが寄って来て俺を捕らえる。


 「捕まえたぞ!」

 「こいつがアルファード様をやったのか?」

 「ああ、間違いない。砦の方からそう伝令が来た」

 「畜生、こいつ殺してやる!!」


 『待て。そいつにはいくつか聞かなければならない事が有る。殺すな』


 兵士たちに腕を後ろで縛られ剣で首を切り落とされそうになるが量産型の「鋼鉄の鎧騎士」に乗っている奴から待ったがかかりとりあえずはすぐには殺されない様だ。


 「ははははっ、だがこいつは始末しちまおう! 抱くにしたってこんな貧相なのじゃ起たねえし、アルファード様の隣で何時も威張っていやがって気に入らなかったんだ!」


 ちゃきっ!


 「えっ!?」

 その兵士は剣を振りあげ、シャルに突き刺そうとする。


 「操魔剣!!」


 俺は「操魔剣」を使い脚力を一瞬で強化してその場から飛び出す。
 そして振り下ろされる剣とシャルの間に入る。


 どっ!
 ずぶっ!


 剣は俺の背中に刺さったが何とか間に合った。
 アーシャの時もザシャの時も俺の目の前で女たちはその命を散らした。
 
 そんなのはもうたくさんだ!!


 「こ、こいついきなり飛び込んできやがった?」

 「アイン、ちょとアインっ!!」


 俺の背中に剣を突き刺したままその兵士は驚きの声を上げる。
 シャルの悲鳴を聞きながらそれでも俺は声をあげて叫ぶ。


 「こいっ! 俺の『鋼鉄の鎧騎士』!!」


 ぶんっ!


 三つある瞳が一瞬光り胸の扉を閉じながら俺の「鋼鉄の鎧騎士」が立ち上がる。


 『なんだと!? 誰も乗っていないはずなのに!?』

 『うわっ、なんて力だ!?』


 俺の「鋼鉄の鎧騎士」を取り押さえていた量産型「鋼鉄の鎧騎士」は誰も乗っていないのに動きだした俺の「鋼鉄の鎧騎士」に驚き動きが一瞬止まる。

 感覚が「鋼鉄の鎧騎士」とつながり背中に剣が突き刺さった俺が見える。
 俺はそのまま「鋼鉄の鎧騎士」を走らせ俺とシャルを抱え上げそばにいた兵士を蹴り飛ばしながら逃げ出した。


 後ろの方で罵声や怒声が聞こえるが今はとにかくこの場を離れなければいけない。
 俺は必死になって「鋼鉄の鎧騎士」を走らせるのだった。


 * * * * *


 「アイン、アインってば! ちょっとしっかりしてよ、アインっ!!」


 何処をどう走ったか忘れたがとにかくガレントの砦からだいぶ離れた所で意識が遠くなり崩れるように「鋼鉄の鎧騎士」を止め地面に俺たちを置く。

 そして地面に置かれた時点で俺は意識が遠のく。


 「駄目アイン! 死んじゃ駄目! しっかりして!! 今治癒の精霊魔法をかけるから!!」

 「シャ……ル……、 ケガ……ない……か……?」

 「馬鹿っ! 私の事より自分の事心配しなさい!! とにかく止血して!」


 涙目で騒ぐ彼女の顔を見て美しいなと思いながら俺の意識は遠のいていくのだった。


 * * * * *


 其処はとても暖かい所だった。
 森の清々しい香りがする。
 
 血なまぐさい戦場ばかり渡って来た俺からするとまるで楽園のような場所だった。

 と、向こうに誰かいる。
 だいぶ離れた所だったがその人影には見覚えが有った。


 「あれは…… アーシャ! ザシャ!!」


 俺の大声に二人は微笑んでいた。
 あのザシャでさえ笑っている。

 なんだよ、こんな所にいたのかよ……
 俺もそっちに行きたい。
 お前たちに触れたい。

 しかし彼女たちは悲しそうな顔をして首を横に振る。
 そして声にならない声を発する。
 
 なにを言っているのか分からない。

 俺は更に一歩前に踏み出そうとするが体が動かない。   
 しかし最後には彼女たちはまた穏やかな表情になり振り返り更に遠くへと歩き始める。


 「お、おい! 待ってくれ! アーシャ、ザシャぁっ!!」


 どんなに叫んでも手を伸ばしてもまるで鉛にでもなったかのように俺の体は動かない。
 もがき、前に進もうとしても動けない。

 動けないんだ……


 * * * * *    
 

 「アイン? アインっ! しっかりして! 私が分かる?」


 目の前にシャルがいた。
 目の前なんてもんじゃなかった。
 顔と顔がくっついてしまうほどの距離。


 「良かった、気が付いたのねアイン」

 「シャル? 俺は一体……」


 そこまで言って気が付いた。
 裸のシャルが裸の俺に抱き着いていた。
 何処かの洞窟なのだろう、近くで焚火がゆらゆらとうごめいていて温かい。


 「アインの馬鹿っ! なんて無茶するのよ!!」

 「俺は…… お前が死ぬところなんぞ見たくも無いんだ…… もう俺の前で死なれるのはごめんなんだ……」

 「だからって、あんなに血を流して! 馬鹿っ! これが終わったら私を連れて行ってくれるんでしょ! こんな所で死ぬんじゃないわよ!!」


 ちゅっ!


 言いながらシャルは俺の唇に自分の唇を重ねる。
 そしてすぐに俺から離れて俺の顔を両の手でしっかりと持ち言う。


 「アイン……」

 「シャル?」


 突然の事に俺は驚いているがシャルの瞳は俺だけを映していた。

 
 ぱちっ
 


 焚火の音が聞こえ、そしてまた唇を重ねる。

 そして俺たちはその影を混じらわせるのだった。

しおりを挟む
作者サイトにて最新の活動状況がご覧いただけます。
デジタル降魔録


----------------------------------------------------------------------------------------
感想 1

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

赤ずきんちゃんと狼獣人の甘々な初夜

真木
ファンタジー
純真な赤ずきんちゃんが狼獣人にみつかって、ぱくっと食べられちゃう、そんな甘々な初夜の物語。

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

【書籍化確定、完結】私だけが知らない

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ 目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

処理中です...