年がら年中お盆

田村 利巳

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 〈 21 〉

恋愛で結ばれた夫婦がいる。
お見合いで結ばれた夫婦もいる。

どちらも永遠の愛を信じ、
幸せに成るんだと
誓って(願って)結婚をした。

楽しい毎日、
多少の意見の食い違いは
有るけれど、
でも、愛が有るから大丈夫!
この人と一緒に居る限り
私は死ぬまで
幸せなんだ!
…そう思いたい…。

多くの夫婦はそんな感じで
毎日を過ごし、
一生を終える。

しかし中には、
些細な口論から
夫婦の歯車がズレてしまい、
相手の嫌な所ばかりが
目につく様になり…
恋愛結婚だろうが、
お見合い結婚だろうが、
結果として
別れてしまう事がある。

そう考えると、
直感で好きに
成った人と結ばれても…
それは其れで
良いではないか。

だって此処は「あの世」なんですから。
もしも、
一緒に住んでいる間に、
相手の人が暴言を吐いて来たり、
暴力を振る様に成って来たら…
その人は
アッと言う間に下界に
落ちるんです。

しっかりと反省をしなければ、
上に帰って来る事が出来ません。

好都合だとは思いませんか、
その間に
次の一手を考えれば良いんです。

彼(彼女)が反省して
帰って来るのを
待つのもよし。

見切りを付けて
別れるのも良し!
だって、
人の命の傾向性なんて
早々変わるモノじゃないって、
皆さん、
薄々知っているでしょ!
生きている時に
さんざん我慢して来たんですから…
だから、
もう肩の力を抜いて、
「いらねぇやあんな奴!
また次に良い人を見つけるわ」
くらいの気持ちで
楽しく行きましょうよ。
忍耐力を非難するつもりは
ありません。
でも、
我慢のし過ぎは命に悪いですよ!

シマモトは、
誰でも彼でも
引き合わせる訳ではない。
さりげなく
その人の手を握り、
背中を触り、
「頑張って生きて来られたんだなぁ…
でも、報われなかったんだなぁ…」
そういった過程を
観させて貰った上で…

「彼と彼女なら…
必ず幸せに成るだろう!」

そう感じなければ
絶対に会わせたりはしない。
決して
無責任な御節介者では
無いのである。

今…目の前にいる海野は、
しっかりと
ゆかりを抱きしめている、
その力の入れ方は、
生まれ変わった来世の
「ゆかり」までも
抱きしめているのだ。

二人とも本当に
嬉しそうであり、
幸せそうである。

シマモトは二人に向かい…

「さぁ…素敵なパートナーが
目の前に居られます。
お二人で良く相談をして、
まずは家を
手に入れるのはどうでしょう!
ゆかりさんの家に住むのもいい!
二人で相談して
新しい家を出すのも良い!
想像するだけで目の前に
現れますから。
そして、
その後は
新婚旅行なんてどうでしょう?
御二人で良く話し合って、
行きたい所を
決めて下さい。
とにかく…
末長くお幸せに!
そう…言わせて下さい」

すると涙で顔が
グチャグチャに成っている海野が…

「絶対に…ゆかりを大事にします!
絶対に幸せにします!
あの…何から何まで
本当に…
ありがとうございました。
今後…
シマさんと
利さんに遭いたい時は…
どうすれば良いんですか?」

シマモトは微笑みながら

「名前を呼んで貰えれば
いつでも飛んで来ますよ、
ただ、
直ぐに私達が来ない時は…
おっ、また何処かで
御節介な事をしているな
と思って下さい」

海野とゆかりが
微笑みながら会釈をすると…

利秋が…

「さぁ、新婚さんの邪魔をしては
いけませんので
私達二人は、これで失礼します」

そう言って
海野とゆかりの前から
フンワリと消えて行った。



《 25…天ぷら 》


今…
シマモトと利秋は、
少し違う地域の
小高い丘の上に立っている。

前を観れば住宅街。
後ろを振り返れば
緑豊かな草原が広がっている。

草原は、
新しく「あの世」に来た人達の
住宅予定地である。
そのことに関しては
どこも同じである。

誰かが生まれ変わりに行ったのだろう…
心地よい風が
二人の頬を撫ぜてくれた。

利秋が思わず
「良い風だなぁ…」
と呟くと、シマモトが

「利さん…たまには一杯如何ですか!」
と、グラスを持つような
格好をした。

利秋は一瞬
(おっ?…シマさんが呑みたいなんて
珍しいな…)
と思ったが…

「良いですね!」
とこたえた後に
「背もたれの付いたベンチ」
と言った。

二人でベンチに腰を下ろすと…
シマモトが
「利さんはビールですか?」
と聞いてくれた。

「あぁ~良いですね、
でも私…あまりお酒が
強く無いので
アルコール度数の低い物で
お願いします」

シマモトは微笑みながら頷くと…
指をパチンと鳴らした。

二人の目の前に
テーブルが現れた。
その上には
野菜の天ぷらの盛り合わせ、
塩と醤油、
そして
よく冷えた、
ジョッキグラスに入った
ビールが二つ…

二人は、
やんわりとジョッキを持つと、
ジョッキを軽く
「カチン」と当て…

「お疲れ様でした…」

そう言って
ビールを口に運んだ。

「ゴクリ、ゴクリ、ゴクリ」
二人は美味しそうに
喉を3回鳴らした。

シマモトは
「ふぅ~っ」と言いながら
ジョッキをテーブルに置くと、
ナスの天ぷらに
醤油を掛け…
嬉しそうに口に
頬張り…
そして又ビールを口に運んだ。

「私は…野菜の天ぷらが大好き
何ですよ!」

そう言って微笑むシマモトは、
本当に
見た目は屈託の無い
24歳の青年である…
利秋は
そんな事を思いながら
何気なく皿を見つめた

「なるほど…ナス、ピーマン、
タマネギ、ジャガイモ、
シイタケ、カボチャ…
本当に野菜が
お好きなんですね」

「…当時は…
肉とか白身魚なんて
中々手に入らなくて…
私が出撃する四日前に…
妻が作ってくれた最後の手料理何ですよ…

『肉と魚が手に入らなかった』
そう言って妻が涙ぐんで…
『ぜんぜん構わないよ!
僕は野菜が大好きなんだ!』
でもあの時、
私が心の中で思って居た事は…
肉とか、魚とか、
本当はどうでもよくて、
大好きな
妻の幸子の事だけが
頭の中にあって…
幸子の事を
考えれば考えるほど
もう頭が、胸が、
破裂しそうで…」

戦争経験の無い利秋は、
本当の意味でのシマモトの
苦しみや悲しみが
分からない。
だから
黙って頷き…

「すみません…
何も分かってなくて…
本当に、すみません…」と謝った。

するとシマモトは慌てて

「ごめんなさい!
利さんが謝る事じゃ無いんです。
もう~、
今まで一人で
御節介な事をしている時は
気が張っていたのに…
優しい利さんとコンビを
結成したら
何だか嬉しく成っちゃって!
甘えと愚痴が出ちゃって、
もう、本当に…
ごめんなさい」

そう言って
顔の前で、
拝む様に両手を合わせている。

しかし、
利秋の方としては、
シマモトから
愚痴を言って貰える事が
何だか
嬉しくて…
だから思わず明るい声で

「マジですか~
何でも言い合えるコンビって
良いですよね!
よ~し私もドンドン
シマさんに
愚痴を聞いて貰うぞ~」

「はい! ドンドン言い合いましょう…」

利秋は満面の笑みで頷くと、
ピーマンに醤油をかけ…
美味しそうに口に頬張った。

住宅街を眺めながら
しばらくの沈黙……

シマモトはジャガイモの
天ぷらに塩を振りかけると
幸せそうに
噛み締め……
ビールを一口呑むと…

「今日も一日…
沢山の方に会えたなぁ…
皆さんに…
幸せに成って貰いたいなぁ…」

何気ないシマモトの呟きは
何となく
心にしみる。

利秋はグラスを持ったまま…

「シマさんは、
其れこそ74年間…
ズッと一人で
他人の為に
御節介を焼いてたんですよね…
本当に凄いですね!」

「いえ、御節介な事をし出したのは、
昭和が終わり
平成に入った時からですよ。
それまでの私は、
ほとんど、
妻の幸子が眠るまでズッと側に居て、
寝た後に
幸子にキスをして。
そして
日本国内を順番に
旅行に行ってました。
一通り見終わった後に、
次は
世界中の国々を見て回りました」

「そうだったんですか…
あの…よその国を観て回られて、
どんな風に感じられたのか
聞いてもいいですか?」

「とてもシンプルな感想なんですけど、
何処の国にも…
子供の事を大事に思う親が居て、
親兄弟を大事に思う
子供達が居ました!」

利秋は腕組みをしながら
大きく頷き…
そして、
その後に少し首を傾げ…

「…シマさん…世界中の誰もが…
家族を大事に思って
居たんですよね…
なのに、なぜ、
あの当時…
戦争なんかに
成ったんですかね?」

シマモトも腕を組み…

「…う~ん…あの時代、
他人の不幸の上に
自分達の幸せを築こうとしたんで
しょうかね?」

「成るほど…イジメの構図に
似てますね。
俺が持ってない物を
何でお前が
持ってんだよ、
よこせ!
とか、
お前、俺より頭も力も弱いくせに
何で皆んなから人気があるんだよ、
ムカつく!
とか、
おい、俺の言う事をだけを聞けよ、
命令に従えよ!
とか、
俺が信じているものを
何でお前は理解しないんだよ。
みたいな感じですかね」

「利さん、とても分かりやすい
例えです。
あの時代
理不尽な事を
相手が言って来るので、
話し合って何とかする様な
レベルじゃなかったんで
しょうね…」

「はじめに理不尽な事を言い出した
人が悪いんですかね?」

「そうですね…
自国の民を守る為には
他国を攻めるしかないんだ!
みたいな話が
まことしやかに世間に流れて…
気が付けば、
私達が正義だ!
みたいな感じで
話しが盛り上がったんでしょうね」

「なるほど…何処かで話が
少しずつ
変わってしまったんでしょうね」

「私の親も…
「国の為に
しっかりと戦って来なさい!」
って言ってましてね、
其れを聞いた
弟と妹とも
「兄ちゃん頑張ってね!」
って言ってました…
でもそれって、
私が…
死ぬ事なんですけどね…
分かって
言ってたんですかね…
其れとも…
自分の子供だけは…
生きて帰って来ると
思っていたんですかね…」

〈 22 〉


シマモトは
そう言いながら遠くを見つめ…
更に

「一部の人を除いた、
世界中の人達が、
得体の知れない病気に犯されて
「よし、戦うぞ!」
そう言いながら
拳を空に向かって突き上げたんです。

国を守る為なんだ。
国を豊かにする為なんだ。
この大義名分は
民衆の中に広まり
多くの人達の賛同を
得る様に成りました。

やがて
膨れ上がった
大多数の意見は、
少数の意見に耳を貸さなくなり、
それどころか
少数の意見は
非国民と
言われる様に成りました…」

「滅茶苦茶な話ですね…」

「はい…戦国時代の昔から、
滅茶苦茶な事を言い出す人が
トップの立つと…
人の命が軽視され、
何十万、何百万、何千万の
人の命が奪われるんですよ」

「おかしな話しですね」

「産まれたばかりの赤ちゃんに
銃を持たせますか?
当然持たせません!
でも15年したら持たすんです、
18年したら国の為に死んで来い
と言うんです!
……戦争とは…
そうゆう物です…」

「私は子供の出産に立ち会いました…
可愛かったです、
愛おしかったです。
戦争で死ぬ為に育てた訳では
ありません」

「利さん、その意見が正解なんです!
人の生命は尊いんです!
ところが、
日本史を観ても、
世界史を観ても、
太古の昔から戦の連続です…
私は死んで居るので、
誰にも遠慮せずに
ハッキリ言いますね、
人間は、
私も含めて、
馬鹿が多いです!
何度、
同じ事を繰り返すのか…」

シマモトはそう言った後に
タマネギの天ぷらに
醤油かけ…
口に頬張ると
またビールを
「グビグビ」と呑んだ。

いくら二人で熱く語ろうとも、
過ぎてしまった歴史は
一切変わらない…
そんな事は
二人とも百も承知である。
でも、
少しだけお酒の力を借りて…
言ってみたかったのだ、

「戦争は、絶対に、反対だ!」と…



〈 26…幸子 》


利秋はシマモトの話しに
鎮痛な面持ちで頷きながら…
箸でナスをつまんだ。

その時
シマモトがある事を、
ボソッと呟いた…

「利さん……実は…私の幸子が…
もう少しで
「この世」に来るんです…」

利秋は
思わずナスを皿の上に落としてしまい…
そして
「シマさん、良かったですね!」
と言ってしまった。

シマモトは満面の笑みを利秋に向け…

「ありがとうございます…
まず、利さんに紹介します、
人柱のお姉さん方にも紹介します、
もう、
私の友人全員に紹介します。
いま幸子は96歳なんですけど、
皆さんに紹介する時には
22歳に戻った彼女を
紹介しますね!」

シマモトは嬉しくて
たまらないのか?
笑顔すぎて
歯ぐきが隠せない。

利秋はグラスを掲げて

「本当に、おめでとうございます!」

「ありがとうございます!」

二人はグラスを「カチン」と当てると、
一気にビールを呑み干した。

これは、
あくまでも「あの世」に居る
二人だけの、
お酒の席での話しである。

下界にいる時に、
余命幾ばくもない方の隣で

「良かったですね!」

「おめでとうございます」

などと言う表現は
言語道断、
非常識極まり無い
馬鹿野郎な話である。

しかし…
愛する奥さんに
やっと会える
シマモトにとっては、
最高に嬉しい話しなので、
利秋はあえて

「おめでとうございます」
と言う言葉を使ったのである。

幸子は生涯シマモトを愛し、
シマモトだけを
ズッと思い続けて居たので、
言い寄って来る男性は多かったが
全て払い除け、
再婚は絶対にしなかった!

なので今…
身寄りのない96歳の
お婆さんは、
小さな個室のベットの上で、
今生最後の時間を、
ただ一人…
取り乱す事もなく、
静かに…
ゆっくりと、
その時を待って居た。

それから2日後、
午後3時47分。

利秋の目の前に…
坊主頭で、
軍服姿のシマモトが
立っていた。

「シマさん、
いよいよ今日…奥様がこちらに…」

「はい!」

「その姿が…
シマさんの今生最後の
姿だったんですね…」

「はい、幸子が観てくれた、
最後の服装であり、
ヘアースタイルです」

シマモトはニコニコして居るのに、
利秋の目には
既に
涙が溜まっている。

(…シマさんは24歳で亡くなった…
其れは分かっている…
でも、軍服姿のシマさんは…
僕の息子と変わらない
年齢じゃないか!
この時代の青年は、
この若さで死んだのか!
待て!
待ってくれ!
なぜ
国のトップは対話よりも
武力を選んだんだ…
人の命を何だと思っているんだ!)

そんな
利秋の思いを知らないシマモトは…
嬉しそうな顔で…

「今日から
明日にかけてだと思います…
だから…
今から幸子の側に行っておこうかと
思います」

利秋は泣かないように
下腹に力を入れた

「奥様、きっと喜ばれますよ…
シマさん…私は、
この場所で待っています。
奥様を紹介して下さるんですよね…」

「はい、利さんには
一番に紹介させて頂きます!
僕の相方だよって。
でも少し…遅くなりますよ…」

すると利秋はシマモトを
いきなり抱きしめ、

「かまいません…
シマさんが、
奥様と一緒に
上がって来られる事を…
ズッと、
この場所で待っています!」
そう言いながら、
シマモトの背中をさすっている。

シマモトは利秋は優しさが
嬉しかった。

「利さん…行ってきます…
じゃあ…待っていてくださいね」

「はい!…行ってらっしゃい…シマさん!」

シマモトは微笑みながら、
利秋の前から…
フワッと消えて行った。


シマモトは今…
ベットの枕元に立ち、
幸子の頭を優しく撫ぜて居る。

(幸子…本当に長い間…
たった一人で…
良く頑張って来たね~
幸子の事を
ズッと見守って居たんだけど、
君を助ける事が全然出来なくて…
どれだけ自分自身に
イラ立っていたか…
本当にごめんね…
僕は無力な男だね…
幸子…今度こそ、
今度こそ君を……
絶対に幸せにするからね…)

そんな事を思いながら、
幸子の顔を、
かれこれ
10時間以上も眺めている。

…23時05分…
いよいよ
その時がやって来た。

死期が近づいている
幸子には、
シマモトが見えて
来た様で有る…

「…シーさん…?
シーさん何でしょ…?」

幸子は、
すっかり痩せ細ってしまった右手を…
震えながら
シマモトに向かって
ゆっくりと
上げた。

シマモトは、
幸子の右手を両手で握ると…

「そうだよ幸子!
僕だよ!迎えに来たよ!」

「あぁ…シーさん…
ごめんなさい…
ずいぶんと長い間…
待っててくれたんでしょ…?」

「大丈夫だよ幸子、
実はね、74年間
ズッと幸子の側に居たんだよ…
君こそ一人で…
本当に大変だったね」

「私は強いから大丈夫…
シーさんが居なくて…
とても
寂しかっただけ…
でも、なんだか嫌だなぁ…
しわくちゃに成った私の顔…
すごい…お婆ちゃんに
成っちゃって……
シーさんに観られたく
無かったなぁ…」

「幸子…嫌がらないで…
30代の君も、
50代の君も、
70代の君も…
そして今、
90代の君も、
ズッと観ていたよ。
幸子、全ての年齢の君が
大好きだよ!」

「ありがとう…シーさん…嬉しい…」

「幸子、もう一度…
きいて欲しい事が有るんだ」

「なぁに?」

「…僕ともう一度、
結婚して欲しいんだ!
今度こそ…
今度こそ必ず…
君を幸せにするから…」

「シーさん嬉しい…
不束者ですが…
宜しく…
お願いします。
私には…
貴方が必要なんです。
貴方以外…
考えられないんです。
貴方に…
抱いて…
もらいたいんです…
シーさん…
もう二度と…
置いて…
逝かないでね……」

その言葉が、
幸子が今生で言った…
最後の言葉である。

幸子の魂が肉体から出て来た。
シマモトは力強く幸子を抱き締めると…
直ぐに大声で

「あの頃!」と、叫んだ。

幸子はシマモトの大声に
少し驚いた様だが…
自分が22歳の若さに
戻った時は、
もう驚きを通り越して
一気に足の力が抜けてしまい…

「シーさん!シーさん!」
と叫びながら…
シマモトに抱き着く事しか
出来なかった。

「幸子、愛してるよ、
大好きだよ!
どれ程この日を待っていたか、
そして
ごめんね、
二度と君を置いて逝かないよ」

愛の表現と懺悔の言葉を
連呼するシマモト。

74年前のシマモトも
「愛してる!」
「君と離れたくない!」
心の中で大声で叫んで居たのだが、
その当時の風潮で…
「大好き」「愛してる」
と、言う様なセリフは、
なかなか言える様な
状況ではなかったのだ。

しかし、
今のシマモトは
昔とは全く違う。
其れこそ戦後、
世界中を観て来たのだ。

「愛してる」と言う表現を
ストレートに伝える
民族の多いい事。

初めは観ていて、
照れ臭く感じたが…
言われた女性は素直に
喜んでいる。
シマモトは、
外国の愛情表現を
素直に
取り入れたのだ。

しかし
「愛してる」と言われる事に
慣れていない
幸子の方は
たまったものではない…
真っ赤な顔になり、
感情が押さえ切れなくなったのか?
子供の様に大声で

「えっーん、えっーん…
シーさん…えっーん…
会えて嬉しいよ~…」と
泣き出してしまう
始末であった。

〈 23 〉

 シマモトは幸子が泣き止むまで、
ズッと頭と背中を撫ぜ続けていた…

10分ほど経っただろうか…
二人の体が宙に浮き出して来た。
シマモトは幸子のオデコに
キスをすると……

「もう離さない。
此れからはズッと一緒だよ…」

幸子は涙を拭いながら、
シマモトの胸の中に顔を埋めた。

二人の魂が病院を抜けて、
空に上がった。

「幸子、観てごらん…
夜景が綺麗だよ…」

「本当に…とっても綺麗…」

「今から「あの世」に
行くんだけど…
とても良い所だよ、
友達も沢山いるんだ、
皆んな良い人達ばかりだよ、
何時も助けて貰って居るんだ」

「そうなんだ…良かった…
シーさんが
あの世で
一人ぼっちじゃなくて…」

「ごめんよ…
幸子は、本当に人生の大半が
一人ぼっちだったよね。
…春に、
桜の花を見上げている
幸子の顔は
ほんの少しだけ
微笑んで居たんだけど…
イチョウの葉が落ちる頃の
幸子の顔は…
とっても
寂しそうだった。

僕は隣に居て…
一生懸命に幸子を抱き締めたんだ、
そしたら

『シーさん…側に居るの…?
ねぇ…居るんでしょ?
…なんだか暖かい…
お願い…
早く迎えに来て…
私…淋しいの…』
って…
僕は、泣きながら謝る事しか
出来なかったよ…」

「…そっか…やっぱりあの時…
シーさん…
ズッと私の側に
居てくれてたんだ…
じゃあ、
見ててくれたでしょ…
私、貴方以外の男性には
ただの一度も
目もくれなかったのよ、
ズッと一人で居たの
シーさんの事を
ただ一筋に思い続けて居たのよ!
ねぇ…
可愛い女だと思わない…」

「うん、可愛い…最高の奥さんだよ!」

「じゃあシーさん…
74年分のキスをして…」

96歳の幸子を、
あなどってはいけない。
さっきまで
お婆さんだからと言って、
物静かで欲はなく、
常に落ちつき
年齢の分だけ
悟りを開いて居る!
なんて…
そんな訳ないだろう!
幸子は74年間、
ズッと一人で、
シマモトと愛し合う
色々なパターンを
妄想をして来たのだ。

キスなんて言うのは
妄想のスタートラインに
立っただけの話である。

幸子は、心の中で…

(今夜からシーさんに
いっぱい
甘えるんだから…
あんな事や、こんな事なんか
とにかく
色んな形でシーさんに
抱いて貰うんだから!)

幸子の願望を誰が知ろう…
けっこう大胆な事を考える女性である。

でも、
其れで良いじゃないか。
愛し合う二人に、
なんの遠慮がいると言うのだ。
夫の身体の上で、
でんぐり返しをしようが、
逆立ちをしようが、
平泳をしようが、
何でもすれば良いのだ。

しかし…
シマモトは上に着いたら、
幸子を友達に紹介すると
言っていた。

幸子は自分の身体をさすり…

(もう少し我慢して…
貴女なら出来るはずよ…
シーさんと
二人きりに成ったら…
貴女の全てを解放してあげる…
あと少しだけ待ってね…)
そう自分の身体に、
言い聞かせていた。

そんな事を知らないシマモトは
目を潤ませながら幸子に
ソッと…キスをした。
すると
幸子のか細い両手が
シュルシュルと
シマモトの首に巻き付いて来た。

シマモトは気付いて居ない…

幸子自身が力を緩めない限り、
その手は外れないし、
キスも解除する事は
絶対に出来ないのだ。

二人の身体が
あの世に到着した。

キスはまだ継続中である。
心なしか?
幸子の両手に
力が込められている様な
気がする。

シマモトは
(あれ…?
幸子の舌が、
自分の口に帰らない…?
あれ?
離してくれそうも無い…
どうしたのかなぁ…
幸子、あの世に着いたよ…)

と思っているが、
幸子は離す気など全く無い!
離す訳が無い!
長年
恋焦がれた夫の後ろ側に、
綺麗な女性が
沢山並んでいるのだ。

(誰…?いったい誰なの?
綺麗な女性ばっかり…)

幸子、疑心暗鬼を発動中である。

幸子の思惑を知らない
シマモトは、
背中で利秋の存在だけは
感じている…

(…利さんが後ろに居るよね…
どうしよう…
幸子が離してくれない…
まぁ利さんなら
分かってくれるだろ…
少し照れくさいけど
キスの後に幸子を紹介しよう…)

シマモトの唇が
幸子の唇から解除されたのは、
それから
3分後の事である。
幸子、
やり切る女である!

シマモトは、
かなり照れ臭そうに

「…あの幸子、紹介するね、
僕の心友であり、
相方の
田口利秋さん、僕は利さんって
呼んでいるんだ…」

シマモトは振り返らずに手だけを
差し向けた。

幸子は丁寧に頭を下げた後に…

「村山シマモトの妻で
幸子と申します、
皆さん!
これから宜しくお願いします!」
そう言って
深々と頭を下げた。

シマモトは
「んッ?…皆さん…?」
と呟きながら、
ゆっくりと後ろを振り返った。

「えっ…?なんで…」
シマモトの顔は一気に
赤く成ってしまった。

人柱のお姉さん達23人と、
山本夫妻、
海野夫妻、
池本夫妻、
そして利秋の総勢30人が
自分達の事を
ジッと観ているのだ。

シマモトは頭をフル稼働させて
長いキスの言い訳を考えた。

すると横から幸子が、
いとも簡単に
本音を暴露してしまった。

「もうズッと想いを寄せていた
主人に、
やっと逢えたものですから…
つい嬉しくなってしまい、
74年分のキスを
オネダリしてしまいました。
何だか皆さんの前で
恥ずかしいです…
お見苦しい所をお見せして
申し訳ありません!」

そう言いながら
満面の笑みで
シマモトの左腕に抱きついた。

ちっとも「申し訳ない」なんて
思って居ない!

ちっとも
恥ずかしいとも思っていない!

むしろ、
シマモトは
私の亭主だ!
と言う所を思い切り
見せつけたのである。

何せ、
人柱のお姉さん方は
美人揃いなので、
幸子は、
ヤキモチを焼いてしまったのである。

30人は大爆笑である。
誰もが心の中で

(シマさんにピッタリの奥さんだ!
何と自分に正直な
奥さんだろう…
とっても可愛い性格の
女性じゃないか!)
30名は素直にそう思った。

ただ…皆んなの心の中には、
少しだけ
不安な気持ちがあった。
其れは、
シマモトが奥さんと一緒に…
直ぐに生まれ変わるんだろうな…
と言う懸念である。

そりゃそうだろう、
74年間たった一人で
頑張って来た奥様は
直ぐにでも
生まれ変わって、
シマモトと
もう一度人生を
やり直したいだろう。

人の幸せの足を引っ張ってはいけない。
そんな事は当然分かっている…
でも、
シマモトが「この世」から
居なくなるのは……
とても…
淋しいのだ。

とくに付き合いの長い
人柱のお姉さん達は、
笑いながら、
既に泣きそうに成っている。

心の中で
「行かないで!
お願いだから、行かないで!」
と、叫び倒して居るくらいである。

その事を、
何となく察している利秋は、
シマモトの奥さんに少しでも
長く「この世」に居てもらう為には
どうすれば良いのか…

まず、
立派な家を出してもらい、
この世が、
如何に住み良い所かと
全力でアピールをしたいと
思っていた。

ところがである、
幸子自身の考えは、
周りの思惑とは真逆で、
どれくらい長く
夫と一緒に「この世」に住めるのか?
そちらの方が気になって
居たようである。

利秋が「この世」の説明を仕出すと
幸子は真剣に聞いて、
頷いている。
そして、
全ての説明を聞き終わった後に…

「すごいですね、
大抵の事は思い通りになるんですね」

「そう何ですよ、
いま私が説明させて
貰った事は、
全て!
幸子さんの御主人、
シマさんに教わった事何ですよ、
どれだけ私達の心がシマさんに
救われたか、
とっても感謝して居るんですよ」

幸子は嬉しそうにシマモトの
顔を見つめると…

「ねぇシーさん、
シーさんは直ぐに
生まれ変わりたいの?」

いきなりの
核心を突いた一言に、
30人の表情は一瞬にして
こわばってしまった。

シマモトは微笑みながら

「幸子はどうしたい?
生まれ変わって子供が欲しいとか…?」

「シーさん、
私の…我がままを言ってもいい…」

シマモトは微笑みながら頷いた。

「…少なくても74年間は
生まれ変わりたくない!
貴方を一人占めにしたいの!
貴方の
お友達と…
此処で楽しく暮らしたいの!
シーさんは子供が欲しいの?」

「いやゴメン!
正直に言うと…
僕自身が幸子に甘えたいんだ、
例えば
戦争の時に、
僕が、生きて帰って来れたとするでしょ。
2、3年後に子供が産まれて…
可愛くて、
大事育てて…
そして
幸子を愛しながら
日々を過ごして…
やがて孫が出来て…
天命をまっとうして
僕達は
この世に来たと思う。

でも現実は…
僕が死んじゃって、
幸子と別々の生活を74年も
過ごして来たでしょ。
幸子が言ってくれた通り
僕も…
最低でも74年間は…
いや、本音を言えば
もっと長く…
君を一人占めにしたい!」

幸子が喜ぶ前に
周りから歓声が上がった。

人柱のお姉さん達などは
23人全員で
幸子に抱き着きに行ってしまった。
幸子の嬉しそうな悲鳴!
幸子は皆んなに笑顔を見せながら…

(シーさんが、
先に死んでしまったから、
私も早く死にたいと思ったのよ…
でも、
死後の世界の事を知らない私は…
暗いのか?
明るいのか?
暑いのか?
寒いのか?
色んな事を想像して…
死ぬ事が
怖くないと言えば嘘になるけど、
愛する人を奪う世界には、
なんの未練も無かったの。

でも…自殺をしてシーさんに
会えなかったら…
そう思ったから、
天命を全うするまで生きてたの。

親切ぼかしに近寄って来る人間が、
大嫌いだった。

「だから、再婚して、こうすれば良いのよ」

(黙れ!誰がお前に救いを求めた!)

「きっと此方の方が、
貴女を
幸せにしてくれるわ」

(うるさい!
亭主が浮気している
お前の言葉をどうやって
信じろと言うのだ!
身の程を知れ馬鹿者!
二度と来るな!)

実際にはこんな汚い言葉は
使わなかったけれど…
腹の中で
そう怒鳴り散らしていたの…
思えば可愛くない女に
見えたでしょうね。
でも其れでいいの、
私はシーさんだけに
可愛いと思って貰えば
其れで良いの。

74年間、ブスっとした女性の役は、
今日で終わり!
今からシーさんの為に
可愛くなるのよ、
ズッと甘えるんだから!」

幸子は心の底で、
そんな事を考えて居た。

利秋も、
シマモト夫妻が直ぐにでも
生まれ変わってしまうのでは…
と、思っていたので、
嬉しさのあまり
シマモトに握手を求め…
そのまま抱き締めてしまった。

利秋に抱きしめられて居る
シマモトは、
驚きながら笑って居る。
山本夫妻も
池本夫妻も
海野夫妻も嬉しそうに
利秋とシマモトを囲んだ。



 〈 28…シマモト 〉

御節介なシマモトが居てくれたから…
今の自分達の幸せが有るのだ。

生きている時は
御節介な人は
うっとうしい存在だとしか
思っていなかった。

でも…自分自身が死んで、
魂だけの存在に成って「この世」
に来た時、
あれ?…
どうやって人と仲良く
すれば良いんだっけ?
学校や職場がない、
テレビもスマホもない、
なので共通の話題が見当たらない…
って言うか、
ほとんど人が歩いて居ない。

他人との接点をどこで
結べばいいんだろ…
そんな時に
御節介なシマモトが
パッと現れて
話しかけてくれたのだ。

〈 24 〉


人なつこい24歳の青年は、
日によって
髪の色とヘアースタイルが
変わる、
ショートヘアからロングヘア、
ストレートからドレッドヘアまで、
おしゃれ心を満たすために、
やりたい放題である。

服装はアロハシャツが中心で、
秋や冬は
アロハシャツの上に
セーター、
ジャケット、
コート、
マフラーが
あしらわれる。

そして、
外見の派手さとは真逆の
優しくて丁寧な言葉づかい、
とにかく
相手を尊敬する様な
喋り方なのだ。
そんな人が目の前に現れたら
誰だって好きになる。

そりゃそうだろう!
長い、短い、の個人差は有るが、
皆んな頑張って人生を
終えて
この世に来たのだ。
なのに
いきなりガサツな喋り方の人が
目の前に現れたら
何だかガッカリして
しまうだろう。

人は相手の接し方によって
態度を変える。

敬語で話をされたら、
こちらも敬語で言葉を返す。

しかし反対に、
人を小バカにした様な
接し方をされると、
こちらも臨戦態勢を取らざるを
得ないのである。

肉体がある時には
嫌な人にも合わせなければ
ならない事情があった。

独り者であれば、
ブラック経営の社長に対して

「こんな仕事やってられるか!」
と言えるのだが……

家庭を持つと、
そうも行かない…
ムカつく相手に笑顔を作り、
下げたくも無い頭を下げて、
同意したくない意見に同意して、
つまらない話しに
笑わなければならない。

その時のストレスを
一人で居る時に
一気に吐き出すのだ。

「冗談じゃねぇぞバカ野郎!
お前の言う通りにしてたら
過労死するわ!
こんな仕事
いつでも辞めてやるわ!」

本当に辞めれば良いものを、
生真面目な人は
家庭を守るために、
死ぬまで仕事を続けて行くのだ。

そして後悔は、
亡くなる直前にやって来る…

「本当に…
こんな生き方で良かったのかな…
やりたい事を諦めて…
嫌な事ばかりの繰り返しで…
そりゃあ
楽しい事も少しはあったけど…
何時もバタバタ動き回って、
なんだか…
俺の人生(私の人生)って
何だったんだろう…
今さら後悔しても…
もう…遅いよね…
あぁ…今ドクターに
御臨終ですって
言われちゃったよ…」

そんな時、
いきなり目の前に現れた
派手な青年。

「こんにちは、お疲れ様でした。
怪しい者ではありません、
私シマモトと申します、
友達は、
シマさんと呼んでくれています…
「この世」は楽しい所ですよ。
色々な事を説明させて頂きますね!」

初対面の人に対して、
この
テンションの高い自己紹介。

昔からの親友の様に
満面の笑みを浮かべながら
話しかけて来る。

死後の世界は初めてなので、
この優しい青年が、
本当に有り難いと思った。

そして…
たった一回の対話なのに
シマモトの人柄が好きに成り、
ズッと友達で居たいと思ったのだ。

シマモトとは、
そんな風に思わせてくれる男なのだ。

今夜…
皆んなに紹介されたシマモトの
奥さんは、
この世に、
最低でも74年間住みたいと
言ってくれた。
皆んなで
楽しい時間を過ごしたいと
言ってくれた。

(…なんと素敵な奥様だろうか、
私達の心の中が
見えるのだろうか?
シマさんは女性を見る目がある!
幸子さん大好き!
シマさん大好き!
これから先も
皆んなと一緒に居れるんだ!
本当に…良かった!)

誰もがそんな風に思いながら
子供の様に喜んでいた。

次の日から10日間、
シマモトは、
幸子と二人で
嬉し恥ずかし…
新婚旅行に出かける事に成った。

シマモトはソファーに座り、
幸子を膝の上に座らせると…

「幸子、新婚旅行…
どこに行ってみたい?」
と、優しく尋ねた。
すると、
幸子は嬉しそうな顔で…

「あのね…私ね…あのね…」

そう笑顔で
ハニカミながら、
なぜか、シマモトの耳元で、
行きたい所を…コショコショと告げるのだ。

(幸子、どうしたの?
平屋建ての
大きな家に僕達は住んで居るのに?
二人以外は誰も居ないよ…
なのに、なぜ耳打ちが必要なの…?)
シマモトは
一瞬はそう思ったが…
次の瞬間、
違う、違う…
そうではないと思い返した。

(…幸子は74年間、
二人だけの秘密を
いっぱい作りたかったんだよね…)

そう思って幸子を見つめていると。

「…シーさん、
ちょっと耳を貸して…
あのね、
昨日いっぱい愛して貰ったでしょ…
嬉しくて、
恥ずかしくて、
身体中が熱くなって、
もう大満足だったのよ!
これからも毎晩…
いっぱい愛して欲しいの。
ねぇシーさん…
私がそんなエッチな
奥さんだなんて
思わなかったでしょ、
これは
二人だけの…
秘密にして欲しいの!」

シマモトは、
ワザと小さな声で…

「わかった、僕と幸子だけの
秘密だね…」
「うん!
これから先、
シーさんが他の女性に取られない様に、
もっともっと多くの秘密を
作るんだから…」

本当に可愛い女房である。

シマモトは幸子を力強く抱きしめると、

「74年間、
沢山の女性を見て来たけど…
幸子以上に素敵な女性には、
会った事がないよ!
これも二人の秘密だよ!」

「うん!
私も沢山の男性から声を
掛けられたけど、
シーさん以上に素敵な男性は、
一人も居なかったわ!
これは、
三つ目の秘密よ…」

そう言いながら、
幸子はシマモトの首に両手を回した。
するとシマモトは
キスをしながら両手で幸子の
お尻を抱き上げ…

(もう…転がしてやりたいくらいに
可愛い…
今夜から…どうしてくれよう…)
そう思っていると…

幸子は、
にやけているシマモトの頬を
両手で包み…

「シーさん…どうしたの…
お顔が少しエッチな感じよ…」

「幸子、
四つ目の秘密には、
どうしても…
入れて貰いたいモノが有るんだ」

「なぁに?」

「僕は何時も、
君を抱く事ばかりを考えている!」
すると
幸子は満面の笑みを浮かべ…

「シーさん…
一番目と四番目の秘密は…
私達二人の
トップシークレットに
しましょう…」

旅行に行く前のナイショ話し……
この、
二人の儀式の長い事!

愛し合う二人が再会すると、
こうゆう事になるのだ。

公共の乗り物には夢がある。
瞬間移動は効率的である。
どっちでもいい
大好きな人と行くのなら、
なんだって楽しいのである!



  〈 29…クインテット 〉
シマモト夫妻が
第二の新婚旅行に行っている間、
御節介な仕事は、
利秋一人で
するつもりでいた。

シマモトの様には出来ないが、
努力を重ねた結果…
シマモトの半分くらいの事が
出来るように成っていたのだ。

利秋は丘の上に立ち…

「さぁ…シマさんが新婚旅行から
帰って来られる間…
なんとか一人で頑張るぞ~」

そう自分に言い聞かせて居ると、
後ろから肩を
ポンポンと叩かれた。

「えっ?」
と言いながら振り返ると、
山本、池本、海野の3人が立っている。

「あれ?どうしたの…
奥さんを一人にしたらダメじゃん!」

3人はただ微笑んでいる。
利秋が(んっ?)と思いながら
首を傾げると山本が

「田口、俺達にもシマさんの
御節介活動…
手伝わせて貰えないかな」
池本と海野は、
山本の横で親指を立てている。

「えっ?本当に…
スゴく嬉しいけど、
あの…奥様…大丈夫?…
ちゃんと奥様から許可貰ったの?」

「利さん、妻に行ってらっしゃい、
頑張ってね、って
見送って貰ったんですよ」
と海野が言えば、

池本は
「家内に、
シマさんと利さんの
お手伝いをしたいんでしょ!
って心を読まれて…」
そう言って頭をさすっている。

すると
山本は照れ臭そうに
「貴方は利さんのヒーロー!
私はヒーローの奥さん…
美味しいご飯を作って待ってます、
って言われちゃって…
まっそんな訳で、
俺達3人、宜しく頼むよ!」
と言ってくれた。

月曜日から金曜日までの5日間、
20時から24時の
4時間を、
一緒に手伝ってくれると言うのだ。
更に、
シマモトが
新婚旅行から帰って来た後も
手伝いたいと
言ってくれたので
利秋はビックリしてしまった。

10日後…
シマモトが、
幸せ満開の顔で、
新婚旅行から帰ってきた。

10日前は坊主頭だったシマモトが、
今は、
グラデーションボブにゆるい
ウェーブが入っている。
そして服装は、
定番のアロハシャツ!

「お帰りなさいシマさん、
楽しかったですか?
なんて…聞く必要がないですよね!」
利秋のセリフに
シマモトは照れ臭そうに頭をかいた。
利秋は更に

「シマさんが新婚旅行に
行っている間…
山さん、池さん、海さんの
3人が、
御節介の手伝いを
してくれたんですよ。
それと、
3人はこれから先も
手伝いたいと言ってくれてます…
どうします?」

シマモトは、
利秋の横に居る3人に向かい

「皆さん…とても嬉しい
話なんですが、
奥様の許可を
取っておられますか?」

三人は微笑みながら
親指を立てている。

実は、
御節介活動に参加する様に
すすめてくれたのは
三人の奥様達なのだ。

「ねぇ…シマさんと利さんの仕事…
お手伝いしてみない…
私達って、
スっごくお世話に
成ったでしょ…
大好きな貴方と一緒になれたのは、
お二人のおかげだもの……」

実は内心、
山本も池本も海野も、
御節介活動を手伝いたいと
思っていたので
心の中でガッツポーズを
とってしまった。

三組の夫婦は、
初めて幸子を紹介された時に
少しだけ驚いた事があった。

其れは、
シマモトがズッとしている
御節介活動に対して
幸子が言った言葉である。

「シーさんは昔からちっとも
変わらないのね。
経済的に学校に行けない
子供達に勉強を教えたり、
仲間外れにされている子と
一緒に遊んだり…
そっか~死んだ後でも
同じような事をしてたんだ…
シーさんらしい…」

何気なく聞いた
幸子の言葉が…妙に心に響いた。

周りに居る誰もが…
(あぁ…シマさんは
昔からズッと、
優しくて御節介なシマさんなんだ…)

其れが、
11日前の話しである。

三組の夫婦は一晩で決めたのだ。
主人が
御節介の手伝いを
したいなぁと心の中で願ったら、
妻は黙って夫を抱きしめ…
「あなた…頑張ってね」
と言ってくれたのだ。

愛し合う夫婦だけが
身に付けられる必殺技がある。
その名は……「以心伝心」
最高の奥義だが……
夫婦の間で絶対に
嘘がつけないと言う
難点がある…
しかし、
もとより嘘は、
ついてはいけないモノなので、
以心伝心…
良いかもしれない。

シマモト一人から始まった御節介…
利秋とコンビを組んで
進み出したら…
いつの間にか五人に成って居た。

シマモトは四人に向かい…

「今夜から私を入れて
音楽はしませんけど、
クインテット(五重奏)ですね、
何だかワクワクしますね!」
そう言って微笑むと、

四人は照れ臭そうに…
親指を立ててくれた。

土曜、日曜日…
夫婦が
お互いに甘えまくった
2日間が終わり、
月曜日の20時に成った。
クインテットは
奥様達に見送られ、
映画に出て来るヒーローのように、
さっそうと下界に降りて行った。

 〈 25 〉
さて…
留守を護って居る
四人の奥様達は、
とにかく仲が良い。

一緒にお茶会を開く時もあれば、
一緒に創作料理の勉強会を
開く事もある。

また四人で
人柱のお姉さん達の家に行き、
子育ての
お手伝いをさせて貰う時もあれば、

四人の発案で、
お姉さん達全員をまじえて
カラオケ大会を開催する事もある。

でも、
一人一人が家の中で、
夫の為に料理の腕を
ふるっている時も有れば、

夫に甘える為に
お風呂の中で、
体の隅々までを洗い倒している
事もある。

人柱のお姉さん達は、
そんな天真爛漫な
四人の奥様達が、
とにかく
可愛くてしょうがない。

だから、
四人の内の誰かが
「此れが解らないんです…」
などと
質問をしようものなら、
お姉さん達は
まるで大学の教授にでも成った
様な勢いで、
分かりやすい例え話しを交えながら、
手取り足取り丁寧に、
四人の奥さん達が理解出来るまで、
時間をかけて
優しく教えてくれるのだ。

400年から600年以上前から
この世の
主となって居るお姉さん達を、
侮ってはいけない。

日本の歴史を
空の上からズッと、
リアルタイムで眺めて居たのだ。
大抵の事は知っている。

まして近年においては、
パソコンやスマホなどで、
色々な事を
検索をして居る人達の後ろから、
その画面をジッと見つめているのだ。

「お亀姉さん、
便利な時代に成りましたね」

「そうね、お熊ちゃんの言う通りね、
長く、あの世に
君臨してみるモノね。
こんなに沢山の情報が、
瞬時に手に入る時代に成るなんて、
良い時代に成ったものね…
でも…
その反面、
ネット上で他人を攻撃する人も
沢山居るのね…
全てがいい事ばかりじゃない様ね…」

「本当ですね、
正義の内部告発もあれば、
良い人を落とし入れる投稿まで…
何だか
凄まじい時代ですね」

お姉さん達は
そんな世の中を、
冷静に見つめていた。

ただ、
何でも知っているお姉さん達だが、
自分達の亡くなり方が
余りにも悲惨だったので、
23人とも
かなり用心深く、
また思慮深い所がある。

今現在、
起こっていない事であり、
これから先も
多分起こらないだろうな
という事でも、
「もしも…」と言う事を想定して、
色々な事を考えてしまう。

例えば、
愛し合う2人が倦怠期に
入ってしまったら、
どの様にして
乗り越えれば良いのか。

それよりも、
そもそも倦怠期に
入らない様にする為には
日頃何を心がけていれば良いのか?
お姉さん達は
23人で話し合い、
まとめ上げた答えを
四人の奥様に提出し……

「もしも、良ければ…
可愛い妻の在り方について、
って言う「講義」が有るんだけど…
受けてみない?」
と提案した。

四人の奥様達は
満面の笑みをもって快諾した。

有り難いではないか、
夫の心を離さない様に、
色々な事を教えて貰えるのだ。

思えば
マンネリほど怖いものは無い。
気付かない内に
二人の間に入って来て…
ダラダラと居座り、
マズイと思った時には
もう手遅れに成っているのだ。

あれだけ大好きだった人なのに…
顔を見るだけで
イラッとしてしまい、
挙句の果てに、
「チッ!」と言う
舌打ちまでしてしまうのだ。
倦怠期とは
そう言うモノなのである。

だからこそ、
そうならない為に
「夫が喜ぶ妻の仕草について」
あんな事から
こんな事まで…
お姉さん達は手取り足取り
教えてくれたのだ。
本当に頭の下がる思いである。

ただ…
あまりにも生々しい講義の内容に、
奥様達は常に
真っ赤な顔に成り…
気のせいだろうか?
自分の体温が
若干上がって居る様な気がした。

さて四人の奥様達は、
全員が素直である。
お姉様達から
学んだ内容を直ぐに
実行に移して行くのだ。

お姉さん達は、
こういった所が可愛いくてしょうがない!

シマモトと、山本と、
池本は結婚経験者なのだが…
まさか講義を受けた自分の妻が、
こんなにも
パワーアップをしているとは、
夢にも思っていなかった。
とにかく
奥様から受ける
甘えのテクニックに、
毎日
骨抜きにされて、
心身共にグニャグニャに
されてしまうのだ。

海野は可哀想な事に、
生前
結婚未経験者なので、
毎日が驚きの連続である。
とにかく
自分の理性を保つのが大変で、
ゆかりの甘い誘惑に負けない様に
頑張るのだが…
勝った試しが一度もない。

海野がソファーに座って居ると
ゆかりは
必ず膝の上にまたがって来る。
海野は純情なので、
この時点で既に
鼻の下をのばして御満悦である。
しかし、
お姉さん達から教わった講義
「攻めの甘えっ子!」
実戦その一番は、
ここからがスタートである。

「ウーさん、今日はこの後、
ゆかりを
何処に連れて行ってくれるの…」
そう喋りながら
夫の耳たぶをこねくり回す…
そして、
夫が喋っている合間を見つけては、
取って付けたような
不自然なキスをする。
やんわりと…
舌まで入れて来るから
タチが悪い。

海野は心の中で
(ふあぁ~…)と言いながら
目がトロンとしてしまう。

生きている時の海野は、
警察官として常にキリッとした
顔つきだったが…
今となっては見る影も無い。
とにかく
だらしの無い
幸せそうな表情に成っている。

しかし
コレだけでは終わらない、
実戦その二番が発動された。

「ゆかりはウーさんが大好き!
ウーさんは、
ゆかりの事…愛してる?」
わざと鼻にかけた様な
甘えた声…

「愛してるに決まっているじゃないか!
世界で一番大事なのは、
ゆかり…君なんだよ」

「ゆかり…嬉しくて…
身体中の力が抜けてきた…
ウーさん…しっかりと
抱き止めてね」

そう言いながら
自分の豊満な胸を…
海野のガッシリとした胸板に
グリグリと押し付けて来る。

「あっ!ゆかり…」
海野の身体は嬉しさのあまり、
小さく震え…
その後に、
ゆかりを抱きしめたまま
体が硬直をしてしまう。

其れでも海野は、
何とか理性を保ち…
こらえる事が出来たと
自分ではそう思っていた。
しかし、
ゆかりの意志によって、
講義その三番目が
発動される事に成った。

隙だらけの海野の首が、
ゆかりの舌に襲われ出した…

「あっ!ゆかり、そこダメ、
いや!待って、あっ!ダメだって…
やめて!
まだ外は明るいから…」
海野の声が裏返ってしまった。

「ウーさんは…ゆかりのモノだからね…」

海野、理性崩壊…
心の中で嬉しそうに、
白旗を上げ…
あんな事や、
こんな事に…
移行してしまう事に成った。

ただ…
ゆかりが自分の事を
「私」とは言わず
「ゆかり」と言うところが
少し切ない。

生前、親弟妹からも、
友人達からも、
ほとんど相手にして
貰えなかったせいだろうか?

自分の事を必ず
「ゆかり」と
自己主張してから喋り出す。

「ゆかり」と言う一言には、
「私は貴方の目の前に居るのよ!」
と言う意味が含まれている。

優しくて
感の良い海野は
その事を全て分かっている。

なので、
初めて会ったその日から、
必ず、
「ゆかり…ゆかり…ゆかり」と、
その都度名前を呼んでいる。

呼ばれた
ゆかりの方は、
海野の優しさと愛情を
感じてか…
とても嬉しそうな顔で微笑みながら…
海野の胸の中に
潜り込んでゆく。

二人で手を繋いで…
外を散歩をしている時にでも、
ゆかりは事あるごとに
上手に亭主に
甘えに行く…

周りの人達は
そんな二人を見かけると、
満面の笑みを浮かべながら

「こんにちは、今日も良い天気
ですね!」

そう言って挨拶をしてくれる。

海野は
「あっ、どうも、こんにちは!
本当に良い天気ですね…」

と挨拶を返すが、
ゆかりは自分の世界に
入り込んでしまって居るので
亭主の顔しか見ていない。

「ベタベタ引っ付くなら
家の中でしろよ!」
などと言う人は
1人も…いや誰も居ない、
むしろ

(…良いね~
なんて上手に御主人に
甘える奥さんだろうか、
見事な甘えっぷりだ!
観て居るコッチの方が
照れ臭く成っちゃうよ!
でも、
良いんだよ!
私達はもう死んでるんだから、
誰かの眼を気にする必要なんて、
これっぽっちも無いんだからね!
いっぱい愛し合う!
大いに結構!
最近この世界が、
住みやすく成って来たね、
何だか楽しい…
あの、5人のおかげだね…」

誰もがそんな事を言う様に成って来た。

そんな中…
シマモトは利秋を見ていて、
ふと…思った事がある。

(…利さんだけ一人なんだよなぁ~
淋しいだろうなぁ…
でも下界に居る奥さんを連れて
来る訳にも行かないし…
まして、
「利さんの奥さんも、
早くこちらに
来れば良いのにね!」
なんて言う
不謹慎な事は、
口が裂けても言えないし。
かと言って
他の女性を紹介しても
利さんが受け入れる訳もないし…)

しかし…
シマモトの心配をよそに
利秋はとても明るく、
毎日が
楽しそうである。

決して
やせ我慢をしている訳ではない。
シマモトから、
はじめに教わった

「利さん…年がら年中お盆ですよ、
好きな時に家族に会えますよ!」

利秋は
その有り難い言葉通りに、
毎日下界に降りて
妻子に会っている。

少しずつ明るさを取り戻している妻。
それぞれの職場で頑張っている
息子達。
観ているだけで、
十分に幸せを感じていたのだ。

さて、シマモトを中心とした
クインテット。
更に「この世」の中が
住みやすく成る様に
御節介のスローガンを作ろうと
皆んなで
話が盛り上がった。

「どんなスローガンにする……?」

大の男達が
けっこう長い時間をかけて、
『あっーでもない、こーでもない』と
真剣に語り合ったのだ。

思えば、
世界中を股に掛けた、
天才営業マンの
山本までもが
話し合いの中に入っている。

奥様達や、人柱のお姉様達は、
さぞかし凄いスローガンに
成るのだろうと、
興味津々に
話し合いを見守っていた。

そして、
最終的に出された答えが……

「明るい挨拶運動!」

四人の奥様達は

「おいっ!」
と一声発した後に
腹を抱えて大爆笑!

人柱のお姉さん達などは
笑い過ぎて
お腹が痛いと
泣き出す始末だった。

しかし、
男達の顔つきは、
かなり真剣な表情で…
やり切った感をかもし出し、
更に胸まで張っているではないか。

その姿がまた、
27人の女性達を、
笑いの渦に
巻き込んでしまう事に成った。

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アレキサンドライトの憂鬱。

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女神運営☆異世界転生斡旋所〈とりっぷ〉

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☆完結しました!(2023/11/10) ※カクヨムに投稿した短編版を加筆・修正し、長編として続きを書いてます。 ※R-15は保険です。虫とか人が死ぬシーンとかが苦手な方は注意。ダイジョブ、ソンナ、グロクナイ(棒)。 〈第一部 あらすじ〉 「転生希望者の方ですか?」  平凡な人生を送り、平凡に死んだ「平英望(たいらひでぼう)」は、異世界への転生を斡旋する事務所「とりっぷ」を訪れる。  非凡な後世を望む彼に、斡旋所の所長である「女神」は三つの転生先の候補を提示する。  ただし、選べる選択肢はたった一つ。英望に提示された三つの転生先の行く末に待つ人生とは……? (主な登場人物) ・平英望(たいらひでぼう)  平凡な人生を送り、平凡な死を遂げた、平凡な男。来世では非凡な人生を望むが……。 ・女神(めがみ)  「異世界転生斡旋所とりっぷ」所長。  金髪、ピンク目、白スーツの怪しげな女。  転生希望者に三つの転生先を提示し、来世を選ばせる。かなりの性悪。 ・平凡仙人(へいぼんせんにん)  とある人物が壮絶な人生を遂げた結果、「なってしまった」仙人。さまざまな異世界を渡り歩き、あらゆる魔術や言語に精通している。  女神の知人で、性悪な彼女から転生者を救おうと暗躍している。なぜか「平凡」と書かれたお面をかぶっている。 〈第二部 あらすじ〉 「転生希望者か?」  人生体験中の女神に代わり、とりっぷ所長を務めることになった平凡仙人。  斡旋業務に慣れてきた頃、悪魔「人生トレーダー」の手により、転生者たちの人生に異変が起き始め……?! さらにその矛先は、女神にも向けられる?! (主な登場人物) ・平凡仙人(へいぼんせんにん)  「異世界転生斡旋所とりっぷ」所長代理。  「平凡」仮面にスーツの男。 ・ヘカテー  美人秘書。ハデスに作られたにしては、常識人。 ・ハデス  地獄の管理者。問題児。 ・マブカ  新人コウノトリタクシー運転手。  帽子を目深にかぶっている。 ・人生トレーダー  悪魔。魂を対価に、「人生をトレードしてやる」と契約を持ちかけてくる。

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