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1章 忘却して、目覚めて、そこは

7話 ゲーマーの意地

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「どうぞこちらへ」

 机の下をくぐり、再度奥へと向かう。変わらず忙しそうな職員の合間を縫いながら移動し、エミリアさんは『応接室49』と書かれた場所で立ち止まった。

 故意なのか、狙ってなのか、わざとなのか。意図しての事なのか、その不吉な部屋の扉を開けた。もちろん偶然という選択肢は無かった。

「どうしましたか? どうぞ中へ」

「あ、ありがとうございます」

 いや待て、アニメとか漫画ならこの部屋に入るとギルドマスターが居て、「おお、あなたがこの短時間に一角兎を99体も倒した期待の新星! 是非このクエストを……」とかそんな流れかも知れない。

「おかけ下さい」

「……ありがとうございます」

 無論応接室には誰も居なかった。

「それでは納品物の確認をさせていただきます。ドロップアイテムは全てギルドに納品という形でよろしいでしょうか?」

「は、はい」

 よく分からないまま頷くと、エミリアさんは俺のポーチを傾けると少しずつ角を取り出し、似たようなポーチに中身を突っ込んでいった。ちゃんと数えているのか怪しいくらいの勢いで、最後の方はポーチとポーチの口を合わせて中身を入れ替えていた。もちろん俺のポーチに残るのは空気だけだ。

「『一角兎の角』が99個ですね。見事にまあ……限界値まで狩ったって事ですか」

「限界値?」

「ええ。忘れたのかも知れませんが、ギルドから支給されるこのポーチには同じアイテムが最大99個まで入ります」

 やはり俺の予想は当たっていたらしい。どうでもいいけど、あの兎の名前はやっぱり一角兎でいいのか。

「つまり、俺が限界まで努力したという証ですね!」

「いえ、馬鹿の証です」

「……ん?」

 何か今、即否定された挙げ句罵倒されたような気がしたんだが。

「えーと、わりと頑張ったんですけど……?」

「そうですね、無駄な努力というやつです」

 ……ちょっと待ってくれ。ボタン連打したわけじゃなく、逃げ回る兎を全力で追いかけて99体も狩ったんだぜ? 妹に「こんなのに時間かけるなんて馬鹿じゃないの?」と言われた時以来の衝撃だよ! ちなみにこんなのとはスマホのRPGゲームだ。妹的にはつむつむとかはオッケーらしい……なんてそれはいいとして。

「や、でも納品って事は報酬が発生するんですよね?」

「それはもちろんです。免許証をご提示いただいてもよろしいでしょうか?」

「分かりました……顕在せよ<アクチュアライズ>」

 自分で言うのもなんだが、慣れた手つきで免許証を取り出しエミリアさんに渡す。

 その際に免許証を見てみるも、到達階層以外に変わった所は無かった。

 名前:ソータ・ナナセ
 出身:日本
 Lv:1
 攻撃:9
 耐久:7
 俊敏:10
 知識:27
 階層:1
 担当:エミリア・バイルシュミット

 この世界はレベルが上がる事によってステータスが変化するようだ。普通ならステータスが変化した結果がレベルアップになるのだろうが、そこはゲーム的で神様が居る世界。物理法則は無視出来るようだ。まあ魔法が存在している時点で物理は崩壊しているけれども。

「お返し致します」

「へ? あ、はい」

 ふと意識を飛ばしている間にエミリアさんはカードリーダー的な機械に免許証を通し、そのまま内容も見ずに俺へと返却する。何か情報を更新したのだろうけど、普通は――――反映せよ<リフレクション>、とかやる場面じゃないの? 今までの微妙に中二病っぽい詠唱たちは何だったの?

 言いたい事はいくつもあるが、取り敢えずは返された免許証を見る。

 名前:ソータ・ナナセ
 出身:日本
 Lv:1
 攻撃:9
 耐久:7
 俊敏:10
 知識:27
 階層:1
 残金:99ソル
 担当:エミリア・バイルシュミット

 お金が追加されていた。

 99ソル……を、99で割ると1ソルだな。つまり兎の角一本1ソルか。

 大体一体をカップラーメン一回分として、時給換算すると大変な事になる。多分、自動販売機の下を覗く事に時間を費やした方が稼げる。

「……ふぅ」

「理解しましたか? 自分がどれだけ頭が足りていない――――」

「つまり、これを後十回繰り返せばいいわけですね?」

「――――へ?」

 確かに絶望はするさ。でも俺は今まで一円にもならないMMORPGの素材集めに数ヶ月、下手したら数年を費やしてきたんだぜ? 時給換算とかマイナス以外の何物でもない上に、むしろ失っていく一方だった……。

 だがしかしこうして、最初こそはグロテスクではあったが慣れた今となっては、まるでゲームみたいな感覚で楽しめてお金も稼げる……最高じゃないか!

 ここに紛れ込んだ時はどうしようかと思ったさ。確かに俺はゲームは好きだけど、それはあくまでゲームだからだ。実際に身体を動かして遊ぶタイプのゲームには興味なかったし、コスプレイベントはパソコンで画像を収集するだけで参加しようなんて思った事も無かった。

 別に引き籠もりってわけでもなく、普通に高校生活を送っていた。だけど一日の楽しみは、授業中にこっそりとイベントをこなす事と帰宅してからオンラインゲームだった。

 そんな俺だが、こうして実際に身体を動かしてモンスターを狩って、アイテムをゲットして分かった事がある。数値はそのままゲーム性に繋がる。現実がクソなのはパラメーターが秘匿されているからであって、内部パラメーターが簡単に参照出来るこの世界は、言うなれば待ちに待ったVRゲームみたいなものなのだ。

 そんな世界にわくわくしないわけが無い。

 この世界で生きていけるのか……それが不安で自分の心を偽っていたが、それが心配無いと分かった以上抑える必要は無いしな。

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