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10.王都ザラセン
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ライファンがザラセンに着いたのは、もう日没近くになってだった。
道に残された馬車の轍をたよりに、国境都市ノークトを出発して半日。ラダックを走らせ、また走らせ、ようやく西の山間に赤い太陽が沈むころに、バルサゴ王国の首都ザラセンの城壁をその視界にいれた。
ザラセンは一国の首都だけありノークトよりはずっと立派な町で、三方を山岳地に囲まれた天然の要塞のような都市だった。
不思議なことには、日が暮れる時刻だというのに町の市門は開かれたままで、物見の塔にも見張りの姿はなく、ライファンの乗ったラダックは、誰にも止められることなく都市内へ入ったのである。
市内は、王宮へと続くと思われる大通りが門から真っ直ぐにのび、その両側に石造りの三角屋根の家々が並んでいる。通りは静まり返り、人の姿はまったくない。いくら日が沈んだからといって、町の中心部にここまで人影がないのは異常であった。
ひゅうひゅうと冷たい風が吹き抜ける大通りを、ライファンは迷いなく進んでいった。地面には馬車の轍が道沿いに残っていたが、人や馬の姿はまったく見られない。国境の町ノークト同様に、ここもすでに人々が死に絶えた廃墟のようだった。
ライファンは慎重にラダックを歩ませた。
この都市に入った瞬間から、ひどく背筋がざわめきたつような、不快な気配が感じられていた。それは昨日あの谷を渡った時のような……いや、それよりもあからさまな嫌な気配に思えた。これほど静まり返り、生のない無人の都市であることがかえって似つかわしく思えるほどに、それほどの嫌らしい不気味な空気がここには充満していた。それはひとことでいえば「死の香り」であった。
いよいよ太陽は沈み、あたりは暗く、完全な夜闇に包まれていった。夜になっても町の明かりは灯らない。ラダックが不安そうに鳴いた。誰もいない無人の建物が黒々とそびえ、風は冷たく吹き、王宮を囲む木々を不気味にざわざわと揺らす。
ライファンのラダックは大通りを抜け、王城へと続く橋を渡った。ちゃぷちゃぷと堀の水が音を立てる。それだけで、なにかそこに潜む怪しい存在をかいま見るような気がしてしまう。
ラダックが跳ね橋を渡りおえると、ぎぎぎと低い音をたてゆっくりと橋が上がった。誰かが自分が通るのを見ていたかのように、ひとりでに吊り上げられた橋をライファンは奇妙な目つきで振り返った。
城門をくぐってすぐのところで、ライファンはラダックを下りた。
「お前はここで待っているんだ。いいか。僕が戻らなかったら、一人でお逃げ」
そういって手綱を離したが、ラダックはしばらくそこを動かずに、こちらを見ていた。
ライファンは歩きだした。
城内にもまったく人影はなかった。城を見上げると、三日月を背景に高い尖塔の屋根にはバルサゴ王国の旗が揺れている。塔の上方の窓がかすかに明るい気がするのが、不気味といえば不気味であった。
(誰かがいることは確かなんだ……。きっと王女様も……ここに)
通りからずっと続いていた轍の跡は、城の表門のところで止まっている。ライファンはためらいもせず扉に近づいていった。背中の剣を腰に移して、油断なく気配を窺いながら。
なんだかさっきから、この城内に足を踏み入れてからはさらに強く、必死に自分を止める誰かの声が響いている気がしていた。
この城に入ってはいけない。引き返せ。いまなら大丈夫。引き返せ、と。
それが心のの警告の声なのか、それともこの都市にただよう霊や魂の声なのかは分からなかった。たださっきから首の後ろがうすら寒いような、全身の毛がそそけ立つような感覚が、それを彼にうったえていた。
だが、戻るわけにはいかない。
感覚的な嫌悪感は別として、不思議と恐怖はなかった。
ライファンはぎゅっと剣を握りしめた。
両開きの大きな扉に手を掛けたとき。ライファンの頭の中に、今度ははっきりとした大きな声が響きわたった。
(よせ、ライファーン。入ってはダメだ)
ライファンは、はっとして扉にかけた手を引いた。
「なんだ……今のは」
もう一度、今度はおそるおそる扉に触れてみると、再び同じ声がした。
(よせよ)
それは頭の中に直接話しかけてくるような、不思議な声だった。
(やめろ。ここに入ってはダメだ。サリエルの思うつぼだぞ。ここは奴の結界内だ)
「誰だ。お前は」
それはなんとなく感じていた「警告の気配」などとは異なり、自分に向けられた明確な言葉だった。ライファンは剣に手を掛けると、辺りの気配を窺った。
近くに誰かがいるようでもない。だとすると、
(お前は……誰なんだ?)
頭のなかでそう念じてみた。すると驚いたことに、返事はすぐにあった。
(そんなことはどうでもいい。ただお前の味方だとだけいっておく)
(味方だって?僕にいったいどんな味方がいるっていうんだ?)
ライファンは周りを見回した。静まり返った城内にはやはり誰の姿もない。黒々と高くそびえる王城が彼をいざなうようにぽっかりと口を開けたような、そんな錯覚があったくらいだ。
(とにかく味方だ。いいか、この城に入るのはよせ。今はまだお前では勝てない)
頭の中の声は、断固とした口調でそう告げた。
(何を言っているんだ。ぼくは王女様を助けるんだ)
(無理だ)
(なんだって?どうしてお前なんかにそれが分かる)
扉の前に立ったまま、ライファンはその得体の知れない「誰か」と頭の中で会話を続けていた。
(まったく。君は目覚めていないんだよ。ライファーン)
(いやそれとも……目覚めたくないのかな。そんなにあの王女に惚れているのかい?)
(何を言っている。目覚めるのなんだのって、なんのことだ?)
くすくすと頭のなかで笑い声がした。
(やっぱり目覚めていないよ。ライファーン。だからやめておきなよ。危ないから。)
「うるさいな。僕はどうあっても行かなくてはならないんだ。それに僕はライファンだ。ライファーンじゃない。もう放っておいてくれ」
ライファンは、つい声に出してしまったことに気づき、口をへの字にした。
(となかく、行くんだ。僕は)
(相手が巨大な魔でもかい?)
(魔ってなんだ?化け物のことか?それでも行くさ)
(だって、今の君ではあのサリエルには……)
(黙れ)
しだいにこの相手との会話にいらいらしてきて、ライファンは大きく首を振り、再び扉に手を掛けた。もう相手がなにを言おうが無視するつもりだった。
頭の中の声は「やれやれ」というようにため息が感じられた。
(……しょうがないな。それじゃひとつだけ。いいかい。たとえどんなことかあっても、スカイソードを離してはいけないよ。どんなことがあってもそれを握っているんだ。いいね。ライファーン)
(スカイソードってなんだ?それは僕の剣のことか)
(いいね。君の今の唯一の力はスカイソード。……けっして……手放しては……いけな……)
ライファンが扉を引くと、その声はしだいに遠くなってゆき、やがてなにも聞こえなくなった。
(なんだったんだ……今のは)
ライファンは首をかしげた。ひどく奇妙な気分だった。
頭のなかで聞こえた奇妙な声が、なんとはなしにどこかで知っていた声のような気がした。
それに声が言った「魔」という言葉もちっとも恐ろしくはなかった。この城自体は不気味な空気に包まれていることは分かったが、それでもその中へ乗り込むことに一片の躊躇も感じなかった。何故だか分からないが、自信と、力を感じた。手にしているこの愛剣を見つめると、そこから体全体に勇気や決断の力が注ぎ込まれるような、そんな不思議な感覚があった。
重い扉をようやく開けると、彼は城のなかへ入った。
もわっと生暖かな空気がライファンを包んだ。迷うことなく、古びた絨毯の敷きつめられた回廊の奥へと進む。
まったく誰も居ないと思われた城内であったが、壁龕の燭台には蝋燭の火がともされ、ぼうっと暗がりを照らしていた。回廊の両側に並んだ円柱に掘られた怪物のような彫刻の目が、しきりと自分を見つめている気がした。燭台の蝋燭は一定の距離をとってともされ、それはまるで彼を案内するための火であるかのようだった。
剣を握りしめ、辺りの気配に耳を研ぎ澄ませながらライファンは進んだ。たとえこれが、何者かの罠であろうとかまいもしないというように。
階段を上り、また廊下を渡り、ライファンは導かれるようにして、その大きな扉の前に立った。
扉を開けるとそこは大広間だった。シャンデリアにはいくつか蝋燭がともされ、廊下よりはずっと明るかった。
おそらくかつてはこの広間で貴族たちの晩餐会などが盛大に催されていたのだろう。コの字型をした大きな賓客用のテーブルや、楽隊のための小舞台、古びた暖炉、豪華な飾り付きの椅子や絵画、歴史を感じさせるタペストリーなどが、薄明かりの中でいまはひどくむなしく見える。
室内に足を踏み入れるとすぐ、背後でバタンと扉が閉まった。
ライファンは振り返りもしなかった。するどく室内を見渡し、すぐに彼は一点を見つめた。小舞台のある広間の、奥まったところに横たわる人影を見つけたのだ。
ライファンはそちらに駆け寄った。
「王女様!」
プラチナの髪を乱して、顔を横に向けて倒れていたのは、クシュルカ王女に間違いなかった。
「王女様。ご無事で」
声を掛けるが、王女は目を閉じたまま動かない。
「王女様。クシュルカ様……」
王女の横に膝をつき、その背に手をまわして、こわれものを扱うようにゆっくりとその上体を支える。耳もとで名を呼ぶと、ぴくりと王女のおとがいが動いた。指先がかすかに震えて、その瞼が揺れた。
「クシュルカ様」
王女は目を開けた。
「ライ……ファン?」
その唇からの小さないらえがあった。ライファンは泣きそうになった。
「王女様。ご無事でしたか。もう大丈夫です。僕がここにいますから」
王女の瞳がじっとライファンを見た。ライファンがうなずきかけると、王女はにっこりと微笑んだ。その両腕がライファンの背に絡みついた。
「ああ……ライファン。来てくれたのですね。私のために」
「王女様……」
ライファンは顔を赤く、王女を支える左手にも思わず力がこもった。
「うれしい……。私。怖かった……」
「何があったのですか。この城でなにかひどいことをされたのですか?」
「いいえ。大丈夫でした。ずっとあなたのことを考えていました。
「クシュルカさま、」
「きっと来てくれると。信じていました。ああ……ライファン!」
王女がぎゅっと抱きついてきたので、ライファンは思わず後ろに倒れかかった。右手に持った剣が邪魔だった。
「王女様。とにかく早くここを出ましょう。国王陛下もきっとご心配でおられます」
「ライファン。……私が好き?」
「えっ」
王女の瞳が潤んだように彼を見つめていた。
「どうしたんです。クシュルカ様……」
「お願い。好きと言って。私……そうすれば何も怖くない。お願い……言って」
「す、好き……です」
「うれしい」
王女はライファンの胸に顔をうずめ、その体を押し当てた。
「私も……ずっと好きでした。あなたのことが。ずっと……」
「王女様……僕……」
「いいの。なにも言わなくて。こうして一人で私を助けに来てくれた。ライファン。あなたは強くて、やさしくて勇気のある立派な騎士です。これからもずっと私と一緒にいてくれますか?」
「はい。……クシュルカ様」
花の香りのする王女の体、そのやわらかさな感触に、ライファンはくらくらとなった。
「では。そういって。ずっと私と一緒にいると。私を守ってくれると」
「はい。僕はずっと王女様と……クシュルカ様と一緒です」
「ありがとう。大好きよ。ライファン」
王女はますます強くライファンに抱きついた。
ライファンの体からだらりと力が抜けた。その右手から剣が落ちかかる。
「クシュルカ……様、はやく……ゆかないと……」
「その前に……ちゃんと誓って欲しいの」
甘く、囁くような声。
「なにを……です?」
「あなたの身も心も私のものだと」
「……」
「もちろん私もあなたのもの。……だから、ね。あなたも誓って。あなたの心はすべて私のものだと」
王女の手が伸びて、剣を持つライファンの手に重なる。
「さあ……」
「僕は……」
王女は身をくねらせてその顔を使づけ、その唇がライファンの頬に当てられた。暖かな息がライファンを包み込む。
「ぼ……僕は……」
目がくるめくような思いで、ライファンはつぶやいていた。
「あなたの……ものです」
「そうよ。ライファン。それでいいの。あとは……」
王女の瞳が妖しく光った。
「あとは誓いの口づけをすれば……すべては……」
「王女さま……」
ぼうっとなる頭のなかで、何かが違うと警告していた。王女の唇が、ライファンの唇に合わさろうとしたとき。
「やめ、ろ」
ライファンは王女を付き飛ばし、飛び上がるようにして起き上がった。
「違う!お前は王女様ではない」
「どうしたの?ライファン」
首をかしげる王女がこちらを見上げて手を差し出した。それを払いのけてとびすさる。
「どうしたの?ライファン」
「黙れ。黙れ。お前は王女様なんかじゃない。王女様は……クシュルカ様はこんな方ではない」
ライファンは剣を構えた。その剣先は薄暗い室内で、まるで晴れた空のように青く輝いていた。
「どうしたの?ライファン」
王女は機械仕掛けの人形のように繰り返した。ぎこちない仕種でぎくしゃくと立ち上がると、両手を前につきだしゆらゆらと歩いてきた。
「寄るなっ、化け物」
ライファンは目を閉じ、反射的に剣を振った。
剣は王女の体を横凪にないでいた。
悲鳴の代わりに、がしゃんと乾いた音をたて、床に転がったのは……
「……骸骨」
不気味に赤いドレスをまとった、それは骸骨の上半身だった。剣で両断された下半身も、その場に崩れ落ちた。
はあはあと息をつき、ライファンはいままで王女に見えていたその骸骨を呆然と見下ろした。
「やあ、お見事」
背後から声がした。
ライファンが振り向くと、いつの間にそこにいたのか、足を組んで椅子に腰掛けた男がこちらを向いてぱちぱちと拍手をしている。
「やあ、いらっしゃい」
にこやかに微笑む男、ノークトの領主がそこにいた。
「あなたは……」
「またお会いしましたな。ライファンどの……でしたな」
領主はあごひげをなでつけながら、にやにやと笑っている。
「この骸骨は……」
「ああ。私が動かしていました。セリフも私の命じた通り。なかなか迫真の演技だったでしょう?あなたの方もけっこう本気になっていましたな、骸骨王女相手に。いや、実に楽しい一幕でした」
くっくっと領主はいやらしく笑ってみせた。
「では、みんなあなたのしたことだな。ノークトの城で騎士たちを石像にしたのも、骸骨を操っていたのも」
「その通り。それが私の力。ついでに泥水をワインに見せたり、谷に一夜かぎりの橋をかけたりもね」
「王女様を……どこへやった」
領主は床の上に転がった骸骨を指さした。
「あなたが今斬られましたよ」
ライファンは、かっと眉をつり上げて相手をにらみ据えた。
「本当の王女様をどこへやったんだ」
「おおこわ……なに冗談です。むろんアダラーマ王国の第一王女殿下は私どもで手厚くお持てなしをいたしております」
「すぐに返せ。そうすればもうここには用はない」
「と、申されましても」
ライファンは剣を構えた。
「その剣ですか。スカイソード……なるほど空のように青く光っている。いや実に惜しかった。その剣さえ手から離していれば、契約の口づけをするまで正気にもどることはなかったのに。いやまったく」
首を振って残念がる様子の領主に、かっとなってライファンは斬りかかった。
「おおっと」
ひらりと飛び上がった領主は、そのまま空中でぴたりと止まった。
「意外と短気なぼうやだ。やはり太陽神の血ですかな。それともあの可愛らしい王女様にそれほどぞっこんでおられるのか」
ライファンはもう驚かなかった。領主が宙に浮いたまま制止しているのを見ても。その背中から、不気味に黒い翼が生えているのを見ても。
「ほう。なにも驚いていない?この姿を見ても。聞きたいこともないですか。お前は何者だっ。とか、ば、化け物っ。とか。……なにも?……そうですか。それは残念」
本当に残念そうに領主は、いや、その魔物は空中で腕を組んだ。
「いたしかたなし。ならば私から名乗りましょうか」
背中の翼をばたばたとさせながら、領主はばっと両手を広げた。
「そう。この私!地方領主とは借りの姿……その実態は強力なパワーを秘めた魔の化身、地獄の大幹部、その名もダイ……」
(この馬鹿者が……)
部屋中に響くような、低い声が鳴り渡った。
「ひえっ」
(やはりお前の力などあてにしたのが間違いだった。もうよい)
圧倒的な力を感じるような、地の底から響くような低くて重い、そして邪悪な声。
領主は震え上がった。ライファンはぎゅっと体を緊張させた。
「サ、サリエル様……私とて一生懸命秘術を尽くして……」
(黙れ)
「は、は、はいっ」
領主は床に降り立つとがっくりとうなだれた。
(もはやお前ごときの手出しは無用。お前はただその少年を我の元に案内すればよい)
「か、かしこまりました」
威圧的な声に、しゅんとした様子で領主はひざまずいた。見るとその姿はいつの間にか真っ黒な魔物になっていた。顔もなにもない、翼と尻尾の生えたただ黒いだけの不気味な姿に、ライファンは眉を寄せたが、ひそとも声を上げることはなかった。
「ではライファン殿、こちらへ。わが殿下の元へご案内いたします」
もと領主であった化け物は、声だけはさっきと変わらぬ人間のものでそう言った。
ライファンはうなずくとその後に続いた。
どっちにしろ、もはや逃げ出すことはできない。王女様を助けるためにはたとえこれが罠だろうとかまわなかった。
ライファンはもう一度剣を握りしめた。そうすると、そこから新たな力が身体中にみなぎるのだった。
道に残された馬車の轍をたよりに、国境都市ノークトを出発して半日。ラダックを走らせ、また走らせ、ようやく西の山間に赤い太陽が沈むころに、バルサゴ王国の首都ザラセンの城壁をその視界にいれた。
ザラセンは一国の首都だけありノークトよりはずっと立派な町で、三方を山岳地に囲まれた天然の要塞のような都市だった。
不思議なことには、日が暮れる時刻だというのに町の市門は開かれたままで、物見の塔にも見張りの姿はなく、ライファンの乗ったラダックは、誰にも止められることなく都市内へ入ったのである。
市内は、王宮へと続くと思われる大通りが門から真っ直ぐにのび、その両側に石造りの三角屋根の家々が並んでいる。通りは静まり返り、人の姿はまったくない。いくら日が沈んだからといって、町の中心部にここまで人影がないのは異常であった。
ひゅうひゅうと冷たい風が吹き抜ける大通りを、ライファンは迷いなく進んでいった。地面には馬車の轍が道沿いに残っていたが、人や馬の姿はまったく見られない。国境の町ノークト同様に、ここもすでに人々が死に絶えた廃墟のようだった。
ライファンは慎重にラダックを歩ませた。
この都市に入った瞬間から、ひどく背筋がざわめきたつような、不快な気配が感じられていた。それは昨日あの谷を渡った時のような……いや、それよりもあからさまな嫌な気配に思えた。これほど静まり返り、生のない無人の都市であることがかえって似つかわしく思えるほどに、それほどの嫌らしい不気味な空気がここには充満していた。それはひとことでいえば「死の香り」であった。
いよいよ太陽は沈み、あたりは暗く、完全な夜闇に包まれていった。夜になっても町の明かりは灯らない。ラダックが不安そうに鳴いた。誰もいない無人の建物が黒々とそびえ、風は冷たく吹き、王宮を囲む木々を不気味にざわざわと揺らす。
ライファンのラダックは大通りを抜け、王城へと続く橋を渡った。ちゃぷちゃぷと堀の水が音を立てる。それだけで、なにかそこに潜む怪しい存在をかいま見るような気がしてしまう。
ラダックが跳ね橋を渡りおえると、ぎぎぎと低い音をたてゆっくりと橋が上がった。誰かが自分が通るのを見ていたかのように、ひとりでに吊り上げられた橋をライファンは奇妙な目つきで振り返った。
城門をくぐってすぐのところで、ライファンはラダックを下りた。
「お前はここで待っているんだ。いいか。僕が戻らなかったら、一人でお逃げ」
そういって手綱を離したが、ラダックはしばらくそこを動かずに、こちらを見ていた。
ライファンは歩きだした。
城内にもまったく人影はなかった。城を見上げると、三日月を背景に高い尖塔の屋根にはバルサゴ王国の旗が揺れている。塔の上方の窓がかすかに明るい気がするのが、不気味といえば不気味であった。
(誰かがいることは確かなんだ……。きっと王女様も……ここに)
通りからずっと続いていた轍の跡は、城の表門のところで止まっている。ライファンはためらいもせず扉に近づいていった。背中の剣を腰に移して、油断なく気配を窺いながら。
なんだかさっきから、この城内に足を踏み入れてからはさらに強く、必死に自分を止める誰かの声が響いている気がしていた。
この城に入ってはいけない。引き返せ。いまなら大丈夫。引き返せ、と。
それが心のの警告の声なのか、それともこの都市にただよう霊や魂の声なのかは分からなかった。たださっきから首の後ろがうすら寒いような、全身の毛がそそけ立つような感覚が、それを彼にうったえていた。
だが、戻るわけにはいかない。
感覚的な嫌悪感は別として、不思議と恐怖はなかった。
ライファンはぎゅっと剣を握りしめた。
両開きの大きな扉に手を掛けたとき。ライファンの頭の中に、今度ははっきりとした大きな声が響きわたった。
(よせ、ライファーン。入ってはダメだ)
ライファンは、はっとして扉にかけた手を引いた。
「なんだ……今のは」
もう一度、今度はおそるおそる扉に触れてみると、再び同じ声がした。
(よせよ)
それは頭の中に直接話しかけてくるような、不思議な声だった。
(やめろ。ここに入ってはダメだ。サリエルの思うつぼだぞ。ここは奴の結界内だ)
「誰だ。お前は」
それはなんとなく感じていた「警告の気配」などとは異なり、自分に向けられた明確な言葉だった。ライファンは剣に手を掛けると、辺りの気配を窺った。
近くに誰かがいるようでもない。だとすると、
(お前は……誰なんだ?)
頭のなかでそう念じてみた。すると驚いたことに、返事はすぐにあった。
(そんなことはどうでもいい。ただお前の味方だとだけいっておく)
(味方だって?僕にいったいどんな味方がいるっていうんだ?)
ライファンは周りを見回した。静まり返った城内にはやはり誰の姿もない。黒々と高くそびえる王城が彼をいざなうようにぽっかりと口を開けたような、そんな錯覚があったくらいだ。
(とにかく味方だ。いいか、この城に入るのはよせ。今はまだお前では勝てない)
頭の中の声は、断固とした口調でそう告げた。
(何を言っているんだ。ぼくは王女様を助けるんだ)
(無理だ)
(なんだって?どうしてお前なんかにそれが分かる)
扉の前に立ったまま、ライファンはその得体の知れない「誰か」と頭の中で会話を続けていた。
(まったく。君は目覚めていないんだよ。ライファーン)
(いやそれとも……目覚めたくないのかな。そんなにあの王女に惚れているのかい?)
(何を言っている。目覚めるのなんだのって、なんのことだ?)
くすくすと頭のなかで笑い声がした。
(やっぱり目覚めていないよ。ライファーン。だからやめておきなよ。危ないから。)
「うるさいな。僕はどうあっても行かなくてはならないんだ。それに僕はライファンだ。ライファーンじゃない。もう放っておいてくれ」
ライファンは、つい声に出してしまったことに気づき、口をへの字にした。
(となかく、行くんだ。僕は)
(相手が巨大な魔でもかい?)
(魔ってなんだ?化け物のことか?それでも行くさ)
(だって、今の君ではあのサリエルには……)
(黙れ)
しだいにこの相手との会話にいらいらしてきて、ライファンは大きく首を振り、再び扉に手を掛けた。もう相手がなにを言おうが無視するつもりだった。
頭の中の声は「やれやれ」というようにため息が感じられた。
(……しょうがないな。それじゃひとつだけ。いいかい。たとえどんなことかあっても、スカイソードを離してはいけないよ。どんなことがあってもそれを握っているんだ。いいね。ライファーン)
(スカイソードってなんだ?それは僕の剣のことか)
(いいね。君の今の唯一の力はスカイソード。……けっして……手放しては……いけな……)
ライファンが扉を引くと、その声はしだいに遠くなってゆき、やがてなにも聞こえなくなった。
(なんだったんだ……今のは)
ライファンは首をかしげた。ひどく奇妙な気分だった。
頭のなかで聞こえた奇妙な声が、なんとはなしにどこかで知っていた声のような気がした。
それに声が言った「魔」という言葉もちっとも恐ろしくはなかった。この城自体は不気味な空気に包まれていることは分かったが、それでもその中へ乗り込むことに一片の躊躇も感じなかった。何故だか分からないが、自信と、力を感じた。手にしているこの愛剣を見つめると、そこから体全体に勇気や決断の力が注ぎ込まれるような、そんな不思議な感覚があった。
重い扉をようやく開けると、彼は城のなかへ入った。
もわっと生暖かな空気がライファンを包んだ。迷うことなく、古びた絨毯の敷きつめられた回廊の奥へと進む。
まったく誰も居ないと思われた城内であったが、壁龕の燭台には蝋燭の火がともされ、ぼうっと暗がりを照らしていた。回廊の両側に並んだ円柱に掘られた怪物のような彫刻の目が、しきりと自分を見つめている気がした。燭台の蝋燭は一定の距離をとってともされ、それはまるで彼を案内するための火であるかのようだった。
剣を握りしめ、辺りの気配に耳を研ぎ澄ませながらライファンは進んだ。たとえこれが、何者かの罠であろうとかまいもしないというように。
階段を上り、また廊下を渡り、ライファンは導かれるようにして、その大きな扉の前に立った。
扉を開けるとそこは大広間だった。シャンデリアにはいくつか蝋燭がともされ、廊下よりはずっと明るかった。
おそらくかつてはこの広間で貴族たちの晩餐会などが盛大に催されていたのだろう。コの字型をした大きな賓客用のテーブルや、楽隊のための小舞台、古びた暖炉、豪華な飾り付きの椅子や絵画、歴史を感じさせるタペストリーなどが、薄明かりの中でいまはひどくむなしく見える。
室内に足を踏み入れるとすぐ、背後でバタンと扉が閉まった。
ライファンは振り返りもしなかった。するどく室内を見渡し、すぐに彼は一点を見つめた。小舞台のある広間の、奥まったところに横たわる人影を見つけたのだ。
ライファンはそちらに駆け寄った。
「王女様!」
プラチナの髪を乱して、顔を横に向けて倒れていたのは、クシュルカ王女に間違いなかった。
「王女様。ご無事で」
声を掛けるが、王女は目を閉じたまま動かない。
「王女様。クシュルカ様……」
王女の横に膝をつき、その背に手をまわして、こわれものを扱うようにゆっくりとその上体を支える。耳もとで名を呼ぶと、ぴくりと王女のおとがいが動いた。指先がかすかに震えて、その瞼が揺れた。
「クシュルカ様」
王女は目を開けた。
「ライ……ファン?」
その唇からの小さないらえがあった。ライファンは泣きそうになった。
「王女様。ご無事でしたか。もう大丈夫です。僕がここにいますから」
王女の瞳がじっとライファンを見た。ライファンがうなずきかけると、王女はにっこりと微笑んだ。その両腕がライファンの背に絡みついた。
「ああ……ライファン。来てくれたのですね。私のために」
「王女様……」
ライファンは顔を赤く、王女を支える左手にも思わず力がこもった。
「うれしい……。私。怖かった……」
「何があったのですか。この城でなにかひどいことをされたのですか?」
「いいえ。大丈夫でした。ずっとあなたのことを考えていました。
「クシュルカさま、」
「きっと来てくれると。信じていました。ああ……ライファン!」
王女がぎゅっと抱きついてきたので、ライファンは思わず後ろに倒れかかった。右手に持った剣が邪魔だった。
「王女様。とにかく早くここを出ましょう。国王陛下もきっとご心配でおられます」
「ライファン。……私が好き?」
「えっ」
王女の瞳が潤んだように彼を見つめていた。
「どうしたんです。クシュルカ様……」
「お願い。好きと言って。私……そうすれば何も怖くない。お願い……言って」
「す、好き……です」
「うれしい」
王女はライファンの胸に顔をうずめ、その体を押し当てた。
「私も……ずっと好きでした。あなたのことが。ずっと……」
「王女様……僕……」
「いいの。なにも言わなくて。こうして一人で私を助けに来てくれた。ライファン。あなたは強くて、やさしくて勇気のある立派な騎士です。これからもずっと私と一緒にいてくれますか?」
「はい。……クシュルカ様」
花の香りのする王女の体、そのやわらかさな感触に、ライファンはくらくらとなった。
「では。そういって。ずっと私と一緒にいると。私を守ってくれると」
「はい。僕はずっと王女様と……クシュルカ様と一緒です」
「ありがとう。大好きよ。ライファン」
王女はますます強くライファンに抱きついた。
ライファンの体からだらりと力が抜けた。その右手から剣が落ちかかる。
「クシュルカ……様、はやく……ゆかないと……」
「その前に……ちゃんと誓って欲しいの」
甘く、囁くような声。
「なにを……です?」
「あなたの身も心も私のものだと」
「……」
「もちろん私もあなたのもの。……だから、ね。あなたも誓って。あなたの心はすべて私のものだと」
王女の手が伸びて、剣を持つライファンの手に重なる。
「さあ……」
「僕は……」
王女は身をくねらせてその顔を使づけ、その唇がライファンの頬に当てられた。暖かな息がライファンを包み込む。
「ぼ……僕は……」
目がくるめくような思いで、ライファンはつぶやいていた。
「あなたの……ものです」
「そうよ。ライファン。それでいいの。あとは……」
王女の瞳が妖しく光った。
「あとは誓いの口づけをすれば……すべては……」
「王女さま……」
ぼうっとなる頭のなかで、何かが違うと警告していた。王女の唇が、ライファンの唇に合わさろうとしたとき。
「やめ、ろ」
ライファンは王女を付き飛ばし、飛び上がるようにして起き上がった。
「違う!お前は王女様ではない」
「どうしたの?ライファン」
首をかしげる王女がこちらを見上げて手を差し出した。それを払いのけてとびすさる。
「どうしたの?ライファン」
「黙れ。黙れ。お前は王女様なんかじゃない。王女様は……クシュルカ様はこんな方ではない」
ライファンは剣を構えた。その剣先は薄暗い室内で、まるで晴れた空のように青く輝いていた。
「どうしたの?ライファン」
王女は機械仕掛けの人形のように繰り返した。ぎこちない仕種でぎくしゃくと立ち上がると、両手を前につきだしゆらゆらと歩いてきた。
「寄るなっ、化け物」
ライファンは目を閉じ、反射的に剣を振った。
剣は王女の体を横凪にないでいた。
悲鳴の代わりに、がしゃんと乾いた音をたて、床に転がったのは……
「……骸骨」
不気味に赤いドレスをまとった、それは骸骨の上半身だった。剣で両断された下半身も、その場に崩れ落ちた。
はあはあと息をつき、ライファンはいままで王女に見えていたその骸骨を呆然と見下ろした。
「やあ、お見事」
背後から声がした。
ライファンが振り向くと、いつの間にそこにいたのか、足を組んで椅子に腰掛けた男がこちらを向いてぱちぱちと拍手をしている。
「やあ、いらっしゃい」
にこやかに微笑む男、ノークトの領主がそこにいた。
「あなたは……」
「またお会いしましたな。ライファンどの……でしたな」
領主はあごひげをなでつけながら、にやにやと笑っている。
「この骸骨は……」
「ああ。私が動かしていました。セリフも私の命じた通り。なかなか迫真の演技だったでしょう?あなたの方もけっこう本気になっていましたな、骸骨王女相手に。いや、実に楽しい一幕でした」
くっくっと領主はいやらしく笑ってみせた。
「では、みんなあなたのしたことだな。ノークトの城で騎士たちを石像にしたのも、骸骨を操っていたのも」
「その通り。それが私の力。ついでに泥水をワインに見せたり、谷に一夜かぎりの橋をかけたりもね」
「王女様を……どこへやった」
領主は床の上に転がった骸骨を指さした。
「あなたが今斬られましたよ」
ライファンは、かっと眉をつり上げて相手をにらみ据えた。
「本当の王女様をどこへやったんだ」
「おおこわ……なに冗談です。むろんアダラーマ王国の第一王女殿下は私どもで手厚くお持てなしをいたしております」
「すぐに返せ。そうすればもうここには用はない」
「と、申されましても」
ライファンは剣を構えた。
「その剣ですか。スカイソード……なるほど空のように青く光っている。いや実に惜しかった。その剣さえ手から離していれば、契約の口づけをするまで正気にもどることはなかったのに。いやまったく」
首を振って残念がる様子の領主に、かっとなってライファンは斬りかかった。
「おおっと」
ひらりと飛び上がった領主は、そのまま空中でぴたりと止まった。
「意外と短気なぼうやだ。やはり太陽神の血ですかな。それともあの可愛らしい王女様にそれほどぞっこんでおられるのか」
ライファンはもう驚かなかった。領主が宙に浮いたまま制止しているのを見ても。その背中から、不気味に黒い翼が生えているのを見ても。
「ほう。なにも驚いていない?この姿を見ても。聞きたいこともないですか。お前は何者だっ。とか、ば、化け物っ。とか。……なにも?……そうですか。それは残念」
本当に残念そうに領主は、いや、その魔物は空中で腕を組んだ。
「いたしかたなし。ならば私から名乗りましょうか」
背中の翼をばたばたとさせながら、領主はばっと両手を広げた。
「そう。この私!地方領主とは借りの姿……その実態は強力なパワーを秘めた魔の化身、地獄の大幹部、その名もダイ……」
(この馬鹿者が……)
部屋中に響くような、低い声が鳴り渡った。
「ひえっ」
(やはりお前の力などあてにしたのが間違いだった。もうよい)
圧倒的な力を感じるような、地の底から響くような低くて重い、そして邪悪な声。
領主は震え上がった。ライファンはぎゅっと体を緊張させた。
「サ、サリエル様……私とて一生懸命秘術を尽くして……」
(黙れ)
「は、は、はいっ」
領主は床に降り立つとがっくりとうなだれた。
(もはやお前ごときの手出しは無用。お前はただその少年を我の元に案内すればよい)
「か、かしこまりました」
威圧的な声に、しゅんとした様子で領主はひざまずいた。見るとその姿はいつの間にか真っ黒な魔物になっていた。顔もなにもない、翼と尻尾の生えたただ黒いだけの不気味な姿に、ライファンは眉を寄せたが、ひそとも声を上げることはなかった。
「ではライファン殿、こちらへ。わが殿下の元へご案内いたします」
もと領主であった化け物は、声だけはさっきと変わらぬ人間のものでそう言った。
ライファンはうなずくとその後に続いた。
どっちにしろ、もはや逃げ出すことはできない。王女様を助けるためにはたとえこれが罠だろうとかまわなかった。
ライファンはもう一度剣を握りしめた。そうすると、そこから新たな力が身体中にみなぎるのだった。
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