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真相

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 西日を背にして駆けてくる、馬上の騎手……その姿が、いまはっきりと見えた。馬上から金髪をなびかせるその相手に向かって、レークは叫んだ。
「ア……アレン!」
 混乱から脱した騎士たちは、現れた二騎の前に立ちはだかった。
「何者だ。お前たちは」
「邪魔をするな!トレミリアの騎士たちよ」
 馬上の人物から力強い声が上がった。
「あ……あなたは」
 白銀の鎧に赤いビロードのマントをはためかせるその姿に、騎士たちは圧倒された。トレミリアにおいて、赤いマントは上級騎士の印である。
「私はレード公爵騎士団団長、ローリングである」
 馬上の人物が兜の面頬を上げると、あたりの騎士たちから大きなどよめきが起こった。
「道をあけよ。至急、国王陛下並びに方々へ申し上げるべき事がある。そこをどけ。この私に刃向かうは、我が騎士団のすべてを敵となす意思ありと見なすぞ」
 一介の騎士ごときでは到底持ち得ぬような、品位ある強い声だった。
「ローリング騎士伯……」
 フェスーン宮廷で、最強と謳われる騎士の中の騎士……ローリングの名を知らぬものはいない。トレミリアの騎士たちは、驚きと動揺に包まれて道を開けた。
「アレン……本当におまえなのか」 
 目の前に現れた相棒に、レークはゆっくりと歩み寄った。馬上のアレンは、こちらを見て笑みを浮かべ、うなずきかけた。
「レーク、すまなかった。これからすべてを話そう」
 そしてまた、もうひとつの驚きは、アレンと馬を並べてそこにいる、ローリングと名乗った騎士……その顔が、確かにあの山賊のデュカスであることであった。
「どう……なっているんだ」
  ざわめきたつ人々が見守る中、ローリングとアレンの馬は貴族席に近づいた。馬を下りると、二人は国王に向かいひざまずく。
「私は、レード公爵騎士団団長、ローリングであります。まず、かような騒ぎとともに突然に馳せ参じましたこと、方々にお詫びいたします」 
 騎士ローリングの力強い声が、客席にいるすべての人々の耳に届いた。 
「そして陛下、我々がこのように慌ただしくこの場に現れましたのには、火急のお知らせがあってのこと。どうか、しばしのお時間をいただき、私と……こちらの者とに、発言のお許しをいただきたく存じます」
「おもてを上げよ、ローリング卿。そなたの言葉ならば、我にはいつなりと耳を傾ける用意がある」
 席上から国王が軽く手を上げる。
「して、その横にいるのは何者であるか?」
「は。こちらは、こたびの剣技会に参加しました剣士の一人。一介の浪剣士ではありますが、このたびの剣技会においての重要なる事実を証言するべく、ここにおります」
「なるほど。では、そのほうも、顔をあげよ」
 ローリングの横で静かに頭を垂れていたアレンが、ゆっくりと顔を上げると、
「おお……」
 客席の貴族たち、貴婦人たちが、はっとしたように息をついた。
「そのほう……名はなんという?」
「アレイエン・デイナースと申します。陛下」
 高く響きのよい声がその口から上がる。
「身分なき下郎の身ながら、このようにご尊顔を拝する光栄をいただき、身に余る幸せに存じます」
  人々は吸いよせられるように、その金髪の剣士を見つめた。声の美しさは竪琴のようで、ふるまいには宮廷人のような雅さがあり、その完璧といってよい美貌は、いかなる貴公子と並んだとしても、少しも見劣りせぬだろう。
「アレイエン……と申したな」
「はい、陛下」
「では申してみるがいい。ローリングが言うに、そのほうは、この剣技会における重大事とやらを知っておるということだが」
「恐れながら、その通りでございます。お許しをいただけるのなら、しばしの時間を、この私めにお与え頂きたく存じます」
 国王を前にしてもまったく落ち着きはらったアレンの様子は、到底ただの浪剣士などとは思えぬものであった。人々は、ますます興味をもったように、彼を見つめるのだった。
「よかろう。ではオライア公爵」
「はっ」
 王の前に進み出たオライア公爵がひざまずく。
「この場の進行はすべてそちに任せる。この者、アレイエンの言葉を聞き、それについての判断のいっさいは、これより公爵に任せることとする」
「承知いたしました」
 公爵は一礼すると、二人に向き直った。
「それでは、ローリング卿、そして……アレイエンとやら。貴公らのすべき話を始めるがよい。陛下より一任された権限において、これよりしばしの時を与える」
「おそれいります。それでは……」
 アレンはまず、うやうやしく貴族席に向かって礼をした。
「まず、皆様には、この私が、何者であるかを申し上げなくてはなりませぬでしょう。私は、アレイエン・ディナースと申すもの。このトレミリアの大剣技会に参加いたしました旅の剣士であります。また、話を始める前に、もうひとつ申し上げておかなくてはならないことがあります」
 そう言って振り返ると、騎士たちに取り囲まれたレークの姿を見つけ、指さした。
「今現在、間者の疑いをかけられ、罪人として処罰されようとしている、そこの浪剣士、レーク・ドッブは、私の知己であるということを、あらかじめ申しておきます。つまり、私がこれより申し上げることとは、その男にかけられた間者の疑いというのが、まったくの冤罪にほかならぬという事実であるからです」
 客席からざわめきが起こった。しかし、アレンはまったく静かな顔つきで言葉をついだ。
「肝心の話を始める前に、ひとつだけ確認しておかなくてはならないことがございます。公爵閣下、ほんの一時よろしいか?」
「うむ」
 公爵の許しを得ると、アレンは騎士たちの中にいるレークの方に近付いた。
「レーク」
「ア……アレン。本当にお前なんだな」
 目の前に立つ相棒に、レークは思わずその声を震わせた。
「いったい……どうなってるんだ。だって、お前は、落馬してそのまま……いつ意識が戻ったんだ?それに、一緒に戻ってきたあいつは、山賊のデュカスだよな。いったい全体、なにがどうなってるんだ?」 
「それは、すぐ分かるさ。それより、あることを確認しなくてはならん」
「確認ってなんだ?」
「お前はただ、俺の言うことに答えるだけでいい」
「わかったよ。なんだ」
「お前は、間者の罪に問われて、捕らわれようとしている。そうだな?」 
「ああ。だが……それは」
「いいんだ。今はそれだけで」
 安心させるように、アレンはうなずきかけた。
「お前は馬上槍試合の決勝戦を戦い、それに勝利した。しかし、すぐにビルトール卿からの告発を受けて捕らえられた。懐にあった密書を見つけられ、それを証拠にこうして断罪されている。そういうわけだな?」 
「そのとおりだが……」
 レークは目を白黒させた。
「お前、どこかで見ていたのか?」
「いや、ただ確かめただけさ。それと、もうひとつ」
 アレンはそっと声をひそめた。
「試合の後、ビルトールは、『この試合が八百長である』というようなことを言っていたか?」
「ああ。確かに、そんなことを叫んでいたようだが……」
「そうか。わかった。あとは任せておけ」
  そう言って、アレンはうっすらと微笑みを浮かべた。
「お、おい。アレンよ……」
 レークは不思議そうに相棒を見やった。落ち着いたアレンの顔を見ていると、これまでの不安などが、まるで風に吹かれたようにどこかへ消えてゆく気がした。
「すまねえ、アレン」
「ふむ……だから言ったろう。面倒なことに巻き込まれるなと」
「すまねえ……」
 レークは目を潤ませていた。二人は何も言わず、ただ互いの目を見交わした。
 それで十分だった。彼らは、かけがえのない相棒同士であり、そして兄弟だった。血よりも濃い、それは魂のつながりの兄弟だった。
  さっきまで、死人のように青ざめていたレークの顔には生気が戻ってきた。金髪の相棒は、いたずらそうにふっと笑った。
「さて、これから種明かしだ。ところで、お前に預けたあの密書はどこだ?」
「たぶん……オライア公が持っているはずだ」 
「わかった。ではまたあとでな」
 貴族席の前に戻ったアレンは、国王とオライア公爵に再び一礼した。
「お待たせしました。これで、私の求めていた現在の状況を示す要素がすべて手に入りました。それでは、話を続けさせていただきます。まずは、重要な証拠である、例の密書のことです。こちらにその密書の片割れを持ってきました」
 アレンは懐から筒を取り出し、そこから破れた紙片を取り出した。
「レークの懐より見つかった半分と、それが合わさるかどうか、どうぞお確かめを」
「よかろう。やってみよう」
 オライア公はうなずくと、アレンから手渡された紙片をもうひとつに合わせてみた。
「おお……まさしく」
  二つの紙片の破れ目はぴたりと合わさった。
「間違いありませんね。まぎれもなく、その二つの紙片は、もとは一つであったと、これで証明されました」
「確かに」
「じつは、その密書の下半分は、フェスーン市街の、とある屋敷で手に入れたものです」
 アレンは、含みを持たせるように間を置いてから、言葉を続けた。
「ところで、私は本日の馬上槍試合に出場しておりましたが、力及ばず一回戦で落馬し、敗退いたしました。そのことは天幕にいる医師が証明する通りです。その後、私はゆえあってフェスーン市街へとおもむくことになりました。その辺りの詳しい事情については、またのちほどお話しますが、私は職人通りにある一軒の金細工師の店で、こちらにおられる、ローリング騎士伯と偶然にお会いしたのです」
 隣に立つローリング……かつての山賊のデュカスであった騎士がうなずく。
「まさしく、驚きの再会だったわけだな」
「ええ。実のところ、私と伯とは、初めて会ったわけではなく、伯が山賊としてその身を扮して剣技会に出場しておられたときから、すでに見知っておりました。ともかく、そうして偶然にも、我々は行動を共にすることとなりました。そして、ついに陰謀の大元を突き止め、この密書の半分を重要な証拠として発見するに至ったのです」
 国王をはじめ、多くの貴族、騎士たちを前にして、金髪の剣士は、物語を語るかのように、いたって穏やかな口調で話し続けた。
「それでは、これから順をおってお話します。もし、私の言葉に一片の虚偽でもあれば、その時点でここにおられるローリングどの、さらにはオライア公爵閣下、そして宮廷騎士長クリミナどのが、私を糾弾なさるでしょう。しかし、そのような虚言のいっさいのなきことを、私はここでジュスティニアに誓って申し上げましょう」

 客席はにわかにざわめきだし、人々は、これからの事の成り行きがどうなるのか、馬上槍試合で優勝したこの浪剣士の処遇がいったいどう下されるのか、大いに興味を持って見つめていた。
「さて、先に申しました通り、私とレークとは旅をする剣士仲間であります。あるとき我々はトレミリアの大剣技会の話を聞き及び、このフェスーンへ意気揚々とやってきました。数千人の参加者による弓での予選を運良く通過すると、我々はその晩、宮廷前広場で一夜を明かすことになります。おそらくこれは、参加者の中の不審者……もっと言えば、剣技会に乗じて入り込んできた他国からの密偵、間者たちを密かに取り除くための方策であったのだと思われます。我々と同じ天幕にいた山賊のデュカスなるものが、実は、騎士ローリングどの、その人であったことは、もう明かしてしまってもよいでしょうね?」
「そうだ。俺の役目は、剣技会参加者にまぎれこむ間者たちを見つけ出すことだった。そのために山賊の格好をし、剣士のふりをして大会に参加したのだ」
 山賊のデュカス……いや、ローリングはにやりと笑って言った。
「お前さんがたは、最初に見たときから、なんというか……ただ者ではないように思われたのでな。これは放っておくわけにもいくまいと、さり気なく近づき見張っていたのだが、実際におぬしらの試合を見て確信した。その見事な剣の技、戦いぶりは、そこいらのごろつき共とは違っていたからな。いっときは間者ではないかとも確かに疑ったが……どうもそれとも違うようだ思うようになった。それはおぬしらの雰囲気のせいなのか、あるいは剣の腕前、その誇り高さからなのか。不思議なことだ」
「おそれいります、ローリング卿」
 軽く頭を下げると、アレンは話を続けた。
「さて、その夜のことです。相棒のレークは偶然に、騎士たちによる枝打ちの場面を見てしまいます。そこで息を引き取る直前の男から、指輪を渡されますが、これがすべての始まりでした。そしてまた、騎士たちに追跡されて逃げる途中に、レークは、こちらにおられる、宮廷騎士長クリミナどのと遭遇することになります」
 オライア公の隣で、女騎士は無言でうなずいた。
「そうして、いよいよ剣技会の本戦が始まりました。我々はそれぞれ、剣の部とレイピアの部に分かれて出場し、一回戦、二回戦と勝ち残り、ついに馬上槍試合への出場権を得ることとなります。三日目の休日のこと、レークはイルゼという娘と一緒に町を歩きます。じつは彼女が、クリミナどのより命を受けた宮廷女官であることなどは、レークはもちろん知りません。おそらく、二人が金細工ベアリスの店に入ったのも偶然でしょうし、そのベアリスに指輪を見せ、間者と誤解されたのも、いわば成り行きでした。彼はただの好奇心によって動いていたのですから」
 アレンが語る話は、じつのところかなり省略され、二人にとって都合のよくない事柄については省かれてはいたが、それらはおおむね事実であった。
 その場にいるオライア公をはじめ、女騎士クリミナも、ローリング伯も、他のすべての騎士たちも、アレンの話をひと言も聞き漏らすまいというように、じっと耳を傾けていた。
「さて、次は、企てられた周到な陰謀劇についてです。いまオライア公爵が手にしておられる書面、それに書かれていた内容については、この場で申し上げるべきことではありません。ただ、それはたいへん重要な情報で、ましてや他国の間諜などに知られてはならぬ類の極秘事項、その最たるものであるでしょう」
 オライア公の手にする密書を指さし、アレンは言った。
「私は、今朝になって相棒から、その密書の半分を見せられました。これをどこで手に入れたのかと彼に問うと、ルミエール通りの屋敷にてガヌロンという名の伯爵から受け取ったものだと、彼はそう申しました。ここで問題なのは、そのガヌロンというのが何者なのかということです。おそらく、その名は偽名に違いないでしょう。私は少しでも手掛かりを知るために、その他の細かな事柄を相棒の口から聞き出しました。そして、私が出した結論は、このままでは私の友人である浪剣士は、いずれ投獄の憂き目をみるだろうということでした」
「ところで、馬上槍試合の一回戦で、山賊デュカスの試合を見ていたとき、私にはそれが替え玉の別人であることが分かりました。それは、私の剣士としての直感であると申し上げるしかありませんが、とにかく、宮廷からの回し者である……失礼、山賊のデュカスことローリング騎士伯どのは、おそらくなんらかの重大な事実を知り、試合への出場を捨ててまでなすべき事があった。もとより、大会での優勝などが目的ではなかったわけですから。推測しますに、宮廷女官のオードレイから事情を聞かされた伯は、今朝になって怪しむべきその金細工師、ベアリスの店へと踏み込んだのではないかと。そう考えた私は、槍試合の一回戦であえて落馬をし敗退しました。そして頃合いを見て試合場を抜け出し、町へと赴いたのです。そして金細工師の店にて、予想通りにローリングどのと遭遇することとなったわけです」
「恐るべき推察……やはり、貴公はただ者ではないな」
 ローリングが唸るように言った。
「恐れ入ります。さて、話はガヌロンというその伯爵のことに戻しますが、おそらく、彼こそがすべての企みの張本人であり、他国からの間者に情報を流し、その礼金をせしめていた、まさしく売国の輩であろうことは明白でした。いまから一刻ほど前、ローリングどのと私は、そのガヌロンの屋敷に潜入いたしました」
「おお……では、すでにその者を捕らえたと?」
 そう尋ねるオライア公に向かって、アレンはうなずいてみせた。
「はい。そう言ってよいかと思います。ただし、まだ罪の告発をして罪人として捕らえたわけではありません。それにはこの場で、その罪を本人に認めさせねばなりません。そして、そうしなくては、私の友人であり相棒の嫌疑は完全には晴れないでしょう。ガヌロンであると思われる……いいえ、私が確信をもってそうみなす男は、もうすぐここにやって来ます。すでに、ローリングどのが騎士たちに命じまして、その者は連行されてくる途上にあります」
「私の一存で、騎士たちを動かしてしまいましたが」 
 ローリング伯は、国王と公爵に向かって頭を下げた。
「それはかまわん。この剣技会においては、おぬしたちには間者を捕らえ、その処遇を決する権限を与えてあるのだから。それより、そのガヌロンなる輩が何者であるのかについて、もう少し聞かせてもらえるかな?アレイエンとやら」
「もちろんです、公爵閣下。それでは、そのガヌロンなる人物を断定するに至った要因を、これからご説明させていただきますが、まずその前に……」
 アレンは、居並んだ騎士たちの方へ目を向けた。
「そちらにおられる宮廷騎士ビルトールどのにも、ぜひここにお越し願いたいのですが」
 騎士たちの中にいて、身を隠すようにしていたその男は、名を呼ばれると、おずおずと顔を上げた。
「私に……何か用か?」
「恐れながら、あなた様にも関わりのあることでありますので。どうかこちらに」
「なんだと。おい浪剣士。まさか、この私に疑いをかけているとでも言うのか?」
 ビルトールは声をうわずらせた。その青白い顔にかすかに血の気を浮かべて。
「なぜ、騎士たるこの私が、下賤なる一介の浪士に名を呼ばれ、足を運ばなくてはならないのか……冗談ではない!」
「ビルトール卿、ひとつも後ろ暗き点がないのであれば、陛下の前に立ち、堂々とそれを証明されるがよかろう」
 ローリングが言葉をかけると、彼はその顔をさらにどす黒く染めた。
「それではやはり、あなたも、この私をお疑いか?同じ騎士たる身のローリング卿までもが?」
「まあ、そう興奮せずともよいではないか」
 オライア公がなだめるように言った。
「ビルトール卿、前にでるがいい。そしてこのアレイエンの質問に答えるなり、反論するなりすればよいだけだ。そうであろう?」
「わかりました……公爵がそう仰せならば」
 しぶしぶ進み出たビルトールに一礼すると、アレンはさっそくきりだした。
「それでは、まず、いくつかの事実を挙げさせていただきます。はじめに、この密書の文面についてですが、ここに書かれている内容は、先にも申しました通り、重大なる秘密事項であり、おそらくは国の重要な役職にある者でなければ、決して知り得ぬ情報であろうという点です。これにより、少なくともガヌロン伯なる人物は、宮廷内部にてそれなりの地位にあるか、又は内部と内通した人物の近くにある者……どちらにしろ、国家の重要事項を知り得るほどの地位にあろうということが推測できます」
「つまり、おぬしが言うには、売国の所業をなすような輩が、このフェスーン宮廷の内部におるというのか」
 オライア公がその顔つきを険しくする。
「ええ。いくつかの要素を見るに、そう考えざるをえません。次に、ガヌロン伯の屋敷についてですが、これについては、金細工師のベアリスから場所を聞き出して、実際に私とローリング卿が屋敷に赴き、調べてまいりました。ちなみに、このベアリスという金細工師は、他国の間者を仲介した容疑ですでに捕らえてあります。証拠品なども店から多く発見されましたが、そのうちの一つに金でメッキされた、いかにも怪しい鍵がありました。それが実はガヌロンの屋敷の地下室に通じる鍵だったわけですが……とにかく、我々はその屋敷に入りました。ルミエール通りにあるガヌロンの屋敷は、立派な屋根窓と広い中庭を持つ、なかなか豪奢な建物でした」
 アレンはそこでいったん言葉をとめた。彼は、何かに気づいたように、広場の西側……中州とフェスーン市街を結ぶ橋の方へと、その顔を向けた。
「……どうやら来たようです。ガヌロン伯、その人が」 
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