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10.ウルスラ・ブラッド襲来
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昼を過ぎてから二人目のお客が来た。
買ったばかりの帽子をなくしたという紳士で、これから市参事会の役員会があるのでそれまでに見つけたいという。さっそくミミーがペンデュラムで占うと、おかしなことに、帽子は町の中をあちこちに動いているという結論になった。
不思議がる紳士に向かって、ミミーは地図を指さして言った。
「きっと、誰かがかぶっているんだと思います。この通りの、ここからこのあたりまでの間に、その帽子をかぶった人がいるはずです」
はたして、店を出て戻ってきた紳士の頭には、立派な黒いフェルト帽があった。
聞くと、帽子を拾ったのは皮なめし職人で、日除けにちょうどよいと仕事をしながらそのままかぶっていたという。紳士はミミーに礼をいい、一枚よけいに銀貨を渡してくれると、帽子に手をかざし揚々と市庁舎へ出かけていった。
次に来た客は、迷子の子どもを探す乳母であった。
「まだ三歳なんです。ちょっと買い物をしている間にいなくなっていて。おおどうしよう。もし人買いにでもさらわれてしまっていたら。奥様になんと言えばいいのかしら」
泣きそうな様子で、ひどくうろたえている女性をなだめつつ、ミミーは子どもの名前と特徴を聞き、さっそくペンデュラムを手に意識を集中させた。
「ええと、この辺りにいるのではないかと……」
ミミーが指した地図を覗き込むや、女性は顔を蒼白にした。
「なんてことでしょう。そこは柄の悪い貧民窟です。ああ、なんてことでしょう!」
今にも卒倒しそうな女性を見かねて、ミミーは「ちょっと待っていてください」と言い残し、ほうきを手に店を出た。
「留守番お願いね。パステット」
ほうきに乗って飛んでゆくミミーを、通りの人々が指をさして見上げる。
「ほら、あれが新しくきた魔女だよ」
「なんだか可愛らしいねえ。まだ小さな女の子じゃないか」
「ああ、でもほら、仕立屋のラムズさんの奥さんの指輪を一発で見つけたってよ」
「へえ、そりゃたいしたもんだ」
人々の噂には、そんなふうに少しずつ、町にやってきた新しい魔女のことがのぼり始めていた。
「ぼっちゃん。まあ、ぼっちゃん。よくご無事で!」
店に戻ってきたミミーが連れてきた男の子を見せると、乳母の女性は顔を輝かせた。
「よかった。ああ、本当によかった」
手を組み合わせ涙を流す女性の横で、男の子の方は無邪気そうにきゃっきゃっと笑っている。好奇心旺盛な年頃なのだろう。女性は何度も礼を言い、代金とともに、買い物袋から果物を取り出し、遠慮するミミーに手渡した。
「ふう……よかった。でもちょっと疲れたわ。初日からこんなにお客が来るなんて」
だが、ひと休みする暇もなく、店にはまた客が訪れた。それも、二人、三人と。
前の村での暇な店番と比べたら、大変な違いである。ミミーは疲れを振り払い、なるたけにこやかに「いらっしゃいませ」と声をかけた。
「足腰に効く軟膏はあるかしら?」
「息子の風邪に効くハーブはあるかねえ?」
「頭痛と不眠になにかよいものをおくれよ」
新しいもの好きの主婦たちだろうか。店内を見回しながら一斉に注文してきた。それににミミーは慌ててうなずきかけた。
「は、はい。少々お待ちを。ええと、軟膏は……あります。ハーブの方は、今のところ店にあるのは、ローズマリーとペパーミント、あとレモングラスにラベンダーが少々……すみません、明日にはもう少し仕入れてブレンドとしておきますので」
ミミーは、前の村から持ってきておいた残りの軟膏を客に渡した。
「わたしの特製の軟膏です。朝晩に塗っていただければ痛みは治まります。なくなったらまたお越しください。新しい軟膏も作りはじめますので」
「ありがとう。おいくら?」
「はい、ひとビンで銀貨三枚です」
「ねえ、風邪に効くやつないの。明日じゃ困るのよ」
「こっちも頭痛がひどくて、仕事にも家事にも差し支えるわ。お金は払うから、どうしても今欲しいのよ」
「は、はい……でも、あの……」
ネコの手も借りたいくらいだと、ミミーは陳列棚の方を見たが、よほど居心地がいいのかパステットは丸くなって昼寝を始めていた。
どうしたものかとミミーが困り果てていると、おもむろに奥の扉が開いた。
「ねえ、おやつ」
ぬらりと出てきたのは、青白い顔をした陰気な少年だった。
「デュール」
「ミミー……、ねえ、おやつある?」
「ちょうどよかったわ。デュール、お願い。お隣の店に行ってハーブを買ってきてくれないかしら?」
「でも、ぼかぁ……」
「ね。お願いよ」
ミミーの真剣な目にややたじろいだように、少年は黙ってうなずいた。
「ありがとう。銀貨二枚あれば足りるでしょう。必要なのはね、アンゼリカとオレガノ、コリアンダーの種、それと、できればエルダーフラワーも。分かる?」
「アンゼリカ、オレガノ、コリアンダー、エル……ダフ、ラ」
「エルダーフラワーよ。お願いね」
少年はうなずくと、緊張した面持ちでぎくしゃくと外へ出ていった。
(大丈夫かしら……)
しかし、ミミーの心配をよそに、デュールはほどなくして、ハーブの入った包みをかかえて戻ってきた。しかも、銅貨のお釣りまでちゃんと持って。
「ありがとう。デュール!」
ミミーはさっそくハーブを調合し、風邪と頭痛に効くブレンドティーを作った。
「ええと、こちらが風邪用のハーブティーです。アンゼリカの根とエルダーフラワーの花びら、それにレモングラスをブレンドしたものです。こちらが頭痛用で、ペパーミントとレモンバーム、それにコリアンダーの種を砕いたものブレンドしました。鎮静作用があります。月経のときにも効くオレガノを入れたものも別に作っておきましたので、よかったらこちらもどうぞ」
「まあ、助かるわ」
「さっそく息子に飲ませなくちゃ」
お客たちは喜んでハーブティを受け取ると、代金を払って帰っていった。
「よかったわ……なんとかなって」
ほっとして椅子に座り込んだミミーの横に、おずおずとデュールが寄ってきた。
「あ、あの……ぼかぁ」
「ああ、本当にありがとう。デュール。あなたのおかげだわ」
少年の手を取って、ミミーは心から礼をいった。
「ぼ、僕の……?」
「ええ。あなたのおかげよ。ありがとう」
すると、デュールの青白い頬に、ほのかに赤みがさしたように見えた。
「そうだわ。よかったら、明日からこの店を手伝ってくれないかしら」
ミミーは思いついたように言った。
「ね。今日みたいにハーブを買いにいってくれたり、あとはちょっとした手伝いをしてくれればいいから」
「で、でも……ぼかぁ」
「お願い。一緒にやりましょう。パステットはあの通り、店ではあまり役にたたないし」
ぴくりと耳をもたげたパステットだったが、そのまま昼寝を決め込んだようだ。
「でも、ぼかぁ……楽園に行くんだ」
「楽園?それはなんのこと?」
首をかしげるミミーに、少年は真顔で言った。
「ぼ、ぼかぁ、いつか、行くんだ。楽園に行くんだ……」
「ふうん。そっか。でも、じゃあ、とりあえず……それまでは手伝ってくれるでしょ?」
「ええと、それまでなら……」
こうして、ミミーの店に新たな手伝いができた。翌朝、パンを持ってきてくれたポボルにそのことを話すと、
「おやまあ、そうなのかい。あの子がねえ。そりゃ驚いた」
ミルクを舐めるパステットを撫でながら、ポボルは目を丸くして言った。
「だって、あの子は食事のとき以外はほとんど部屋から出ないんだから。だから日にも当たらず青白くて痩せっぽち。あたしもときどきパンやおやつを持ってきてやってたけどさ。でも店の手伝いを始めるというのなら、いい傾向さ。少しは体力もつくだろう」
「ポボルさんは、デュールのことをよくご存じなんですか?」
「いや、よくってほどでもないけどね。あの子がここに住みはじめてからはずっと知ってるよ。もう三年くらいになるかね。聞いた噂だと、もともとはどこかの名のある家系の若君だったとか。確かなことは分からないけどね」
「へえ、そうなんですか」
それがいったいどうして、たった一人でここに住むことになったのかしらと、ミミーは思った。だがきっと、それはデュール自身も知らないのではないか。何故だかそんな気がした。
「それにしても、昨日はさっそくお客が何人も来ていたみたいじゃないか。あたしも、うちの店に来たお客には、新しく来た魔女だよって、あんたの店のことを宣伝しているけど、けっこうもう町ではあんたは知られ始めてるみたいだね」
「ありがとうございます。もっと頑張って、みなさんに喜んでもらえる魔女になります。それから、明日からはパンとミルクのお金も支払います」
「いいんだよ。そんなことは。あたしは好きでそうしてるんだから。あんたとデュールと、
ネコちゃんの分くらい、どうってことないよ」
ポボルは豪快に笑って胸をたたいた。
店を開ける前に、ミミーは隣の店で必要になりそうなハーブを買っておくことにした。セージ、タイム、リンデン、エキナセア、タンディライオン、チコリの根、ネトル、ヒソップ、マリーゴールド、ヤロウ、レッドクローバー、ワームウッド、等々……
「これでたいていのものは揃ったわ。よーし」
ミミーはさっそくハーブのブレンドを始め、あれこれと組み合わせを考えながら、特製のハーブティーを作っていった。胃腸によいもの。関節痛に効くもの、頭痛、生理痛、神経痛、咳や喉の痛みをやわらげるもの、食欲促進や鎮静、殺菌作用のあるものなど、喜ばれそうな効能と味とのバランスを考えてブレンドを試すのは、なかなか楽しいものだった。
「ええと、これにレモングラスを入れれば、もう少し美味しくなりそうだわ。こっちのはマリーゴールドとラベンダーの花が少し濃厚すぎるかも。どちらかにしましょう」
こうして、店頭にはミミー特製のハーブティーの包みが、その効能の書かれた札とともに並べられていった。しばらくして、デュールが店に降りてきた。ミミーが笑顔で「おはよう」というと、少年は少し照れくさそうにうなずいた。
店を開けると、今日もお客がさっそくやってきた。なくしもの探しのお客に、ハーブや軟膏を買いに来たお客。デュールは落ち着かない様子で店の中をうろうろとしていたが、ミミーにまたあれこれと買い物を頼まれると、むしろ嬉しそうに出かけていった。
ミミーのハーブはよく売れた。また軟膏も、その効き目が確かだと知れると、リピーターの客とともに、新たに買いに来るお客も増えて、ミミーは時間をみつけて新たな軟膏の仕込みにとりかかった。
「ひい、ふう、みい……じゅうしち、じゅうはち」
店を閉め、その日の売り上げを数えて、ミミーは興奮に声を上げた。
「すごいわ。二日目で銀貨25枚の売り上げよ!」
<探しもの通りのミミー>の店の噂は、数日のうちには町中に広まっていった。なくしものをほぼ確実に見つけてくれるその確かな腕前や、軟膏の質の高さ、それにいろいろなハーブティー。新しいもの好きの婦人たちは、噂を聞きつけるとミミーの店に押しかけ、ハーブや軟膏を買い求めた。
ミミーは、売り上げのお金でまた材料を揃えながら、他にもいろいろなことを考えた。
「そうね。どうせなら、店の中でハーブティーが飲めるようにするといいかも。椅子とテーブルを置いて、お好みのブレンドティーを試しに飲んでみて、気に入ってもらえたら買ってもらえればいいし。それに、ちょっとしたおしゃべりなんかができたら、町の人たちともっと仲良くなれるわ」
それから、新たな試みとして、魔除けとなる石も売ることにした。紅縞メノウ、猫目石、病気を癒す力のあるブラッドストーン、毒から身を守る琥珀。それから儀礼やまじないに用いる赤い斑点のある緑の碧玉は、粉末にすると妊娠期、授乳期の女性の体にもよい。
ミミーは、週に一日の定休日を定めると、その日は材料の買い出しや、新たな商品の開発にあてることにした。デュールを連れて、通りの店店を回り、店で使えそうなものを揃えてゆく。店に置くテーブルと椅子は、小道具屋の老店主に頼むと、知り合いから安いものを届けてもらえることになった。
ミミーはうきうきとして、買い込んだハーブや薬草、天然石、それに店に飾るための燭台や、ティーカップ、壁にかけるタペストリーやレースのテーブルかけなどを店に並べて、それらを眺めながら、理想の店作りのイメージを膨らませた。
お客は日増しに増えていった。ミミーの考えたとおり、店に来た婦人たちは、その場でハーブティを飲めるとあって、喜んでそれを味わい、気に入ったものを買っていった。また、家の床や壁にふりかけることで邪悪なものを遠ざける、薬草と水を混ぜたウォッシュもよく売れた。
はじめのうちは、店の中で慣れない様子でおどおどとしていたデュールも、今では買い物を頼まれると喜んで出かけてゆくし、ミミーが占いの方で手が放せないときは、お客の注文を受けたりもできるようになった。
パステットはここのところ寝てばかりいた。昼間でも眠そうに、ミミーの買ってやったバスケットの中で丸くなり、陳列台を覗き込む客たちの視線をものともせず、ぬくぬくとまどろんでいる。そしてときおりいなくなったかと思うと、いつのまにか三階の部屋に戻ってきたりしていて、ミミーを驚かせた。
店の売り上げは順調そのもので、お客の多い日は一日に銀貨五十枚を超えることもあった。勢いづいたミミーは、今度は蜜蝋をベースにアーモンドオイルなどを加えた美容クリームを開発し、それもまた婦人たちの間で大ヒットになった。
「ミミー、すごいよ。ミミー」
陰気な少年デュールも、今ではすっかり店員が板についた様子で、ミミーに買ってもらった真新しいチュニックを着て、楽しそうに店の掃除をするのだった。
「ねえ、ミミー。僕を家来にしておくれよ。ねえ」
「家来?まあ、デュール。あなたは家来ではなくてお友達よ。それにこの店を手伝ってくれる立派な店員さんだわ」
しかし、デュールは何故かそれにはあまり嬉しそうにはせず、「僕を家来にしておくれよ」と繰り返すのだった。ミミーは困りながら、「考えておくね」と笑って答えた。ミミーには、デュールがどういうつもりでそう言うのかがよく分からなかった。
ともかくも、店は順調そのものであった。二月のキャンドルマスを迎える頃には、<探しもの通りの魔女ミミー>は、クセングロッドの町で知らぬものはないくらいまでになりつつあった。
「早いわね。もうキャンドルマスか……そういえば、去年は村でリミーと一緒に儀式をしたんだったわ」
麦わらで作ったブリードの十字架を店の扉に飾りながら、ミミーは思い出すようにつぶやいた。とっておきの蜜蝋のろうそくを棚に並べ、それにデュールが火をつけてゆく。店内を幻想的に包む炎の輝きを、ミミーはうっとりと眺めた。
「今年はこんなに立派な店でこの日を迎えられるなんて、思ってもいなかったわ」
パステットは散歩に出かけたらしい。今朝からずっと姿が見えない。せっかく今日は早めに店を閉め、ゆっくりとインモラグを祝おうと思っていたのだが。
「変ねえ、あの子はサバトの儀式は大好きなはずなのに……まあ、いいわ。そのうち帰ってくるでしょう。デュール、手伝って」
北側に寄せたテーブルに銀のペンタクルを置き、その両側にはろうそくを立てた燭台をすえる。聖杯、ワンド、チャリス、水を入れた杯、塩を盛った皿をそれぞれ置いてゆけば祭壇の完成だ。
「さあ、できたわ。南側には大釜を持ってきて。うん、その辺でいいわ」
「なんだか、ぼかぁ……面白くなってきたよ」
大釜の中に立てたろうそくに火をつけながら、デュールはくすくすと笑った。
「ブリードの十字架をここに持ってきてちょうだい」
儀式の準備が整い、ミミーがアサミィを手にして床に魔法円を書き始めようとしたときだった。
コンコンと店の扉が叩かれた。
「あら、誰かしら。閉店の立て札を出しておいたのに。ポボルさんかな?いいわ、デュール、わたしが出る」
そのとき、遠くでぎゃあぎゃあという、カラスの鳴くような声が聞こえた気がした。
「なにかしら……」
いやな予感がしたが、ミミーは思い切って扉を開けた。だが、そこには誰もいなかった。
「おかしいわ。確かに誰かが扉を叩いていたのに」
ミミーが店の前の通りを見回していると、予想もつかないことが起こった。
突然、ガラガラという音がしたかと思うと、いきなり空から石が降ってきたのだ。
「きゃあっ」
ミミーは慌てて店の中に逃げ込んだ。
「な、なに……?」
店の前にはまるで雨のように、小石がバラバラと降り注いだが、落ちた石はすぐに消えてしまった。
「これって、もしかして、リトボリ……かしら」
石を降らせる悪霊、リトボリアのことは聞いたことがある。しかし、実際に目にするのは初めてだった。驚きに胸をどきつかせながら、店の中を振り返ったミミーは、今度こそ腰を抜かしそうになった。
そこに、人が立っていた。それも、妖艶な美女が。
「あ、あの、あの……」
「やあ、こんにちは、ミミー・シルヴァー」
胸元もあらわな黒い胴着にスカート姿であごをつんともたげ、赤茶色の髪をたてがみのように広げた女性は、威圧するようにミミーをじろりと睨んだ。
「ええ?なんとかお言いよ。せっかくこうして挨拶に来たんだから」
「あ、あの……」
よく見れば、濃いめの化粧の下には、見た目よりも歳を経た女の顔が隠れていた。おそらく三十歳はとうに越しているだろうが、それにしても派手な格好だ。
ミミーは、それが魔女であることにようやく気づいた。
「もしかして、ウルスラ・ブラッドさん?」
「ああ、そうさ。すぐに分からないなんて、やっぱり子どもだねえ。ハッ!」
ミミーは内心でむっとしたが、ここで喧嘩腰になるのもいけないと、なんとか穏やかな笑顔を取りつくろった。
「ごめんなさい。あの……ウルスラってお名前から、もっとお歳の魔女を想像していたから。とっても綺麗なので、つい驚いてしまって」
「ああ、わかるわ。みなそう言うのよ」
彼女は髪をかき上げると、両手を腰に当て、胸をそらしてポーズを作った。
「そして、誰もが私の美しさに驚嘆する。もちろん、魔女としての能力とともに」
赤く塗った唇をにっと広げると、美しくも邪悪そうな魔女の顔になった。
「ところでミミーちゃん。あんたの店、ずいぶん繁盛しているようじゃない」
店の中を見回しながら、魔女ウルスラは言った。
「あ、ありがとうございます」
「ふん。なるほど、ハーブやら軟膏やら、いろいろ種類が多いみたいね。それに、あんたのダウンジングはそれはよく当たるって評判のようだしぃ」
「そ、それほどでも……」
「あとから来ておいて、このあたしを差し置いて町の魔女ナンバーワンになろうって、そういう魂胆かい?」
「いえ、そんな……めっそうもない」
「おだまり」
ウルスラの青い目が、ミミーを射抜くようにぎらりと光った。
「いつまでたっても、こっちに挨拶にすら来ないで。こうして先輩であるあたしの方から来させて、さぞ満足だろうね。ええ?」
「そんな……ただ、あの、毎日忙しくて、ついご挨拶に伺えず、すみませんでした」
「忙しい?はっ、そりゃそうだろう。これだけお客が来れば。あたしの店がある町の西側の連中も、今やあんたのファンがいるくらいさ。あたしのお客を奪っておいて、毎日忙しいとは、なんて傲慢な言いぐさだろう!」
「ご、ごめんなさい」
ミミーは心からあやまった。
「まさか、ウルスラさんのお客さんまで来ているとは、知らなくて。……あの、みなさんが喜んでくれているから、それでいいって、思ってしまって。本当にごめんなさい」
「ああ、ああ。そうして口であやまれば済むだろうと思っているんだろうねえ。可愛い顔をしていても、心の中はやはり魔女さ。あたしと同じね。どろどろに薄暗いものが、あんたにもたっくさん住み着いているんだよ」
「そんな……」
これ以上どうあやまればいいのか分からず、ミミーは口ごもった。
「ところで、そっちの痩せたぼうやは、あんたのお友だちかい?なんだか、今にも死にそうな顔をしているみたいだけどぉ」
「ぼ、ぼかぁ……」
デュールは、突然現れたウルスラがいったい何者なのかまるで理解できない様子で、さっきからおろおろとしていた。
「ふふふ。怖がっているのね、ぼうや。あたしの店に来たら可愛がってあげるわよ」
「でも、ぼかぁ……いつか、楽園に行くんだ」
「はあ?なんなの、この子。頭がどうかしているみたい」
「デュールの悪口を言うのはやめてください」
「まあいいわ。ともかく……あまり調子に乗らないことね。でないと、今に大変なことになるから……あら」
陳列棚に向けられたウルスラの目が、きらりと光った。
「面白いものがあるのね。ここには」
そこにあったのは人の形をした根を持つ植物……マンドラゴラの入ったビンだった。
「ふうん……なる、ほど」
意味ありげに微笑んだ魔女の目に、ぼうっと怪しい光が宿った。
「さって、今日のところはこれで帰ることにするわ」
それを聞いてミミーはほっとしたが、
「お互い、仲良くやりましょうね」
そう言ったウルスラのねっとりと絡みつくような視線に、思わずぶるっと体を震わせた。
「クロウリー!」
手を触れずに扉を開けると、ウルスラは黄昏の空に向かって叫んだ。するとバサバサと黒いものが飛んできて、地面に下りた。かと思うと、それは真っ黒な犬になった。この赤い目をしたグレイハウンドが、ウルスラの使い魔であるらしい。
「じゃあ、またね。ミミーちゃん」
黒い不吉な姿で去ってゆく魔女を、ミミーはほのかな不安の予兆とともに見送った。
その日は、なかなかパステットが帰って来なかった。仕方ないのでデュールと二人で食事を済ませると、ミミーは三階の部屋へ戻った。
「いったい、どこへ行ったのかしら。いつもなら、どんなに遅くても夕御飯には戻ってくるのに」
店の扉のかんぬきはかけないでおいた。しかし、ここのところ、たいていはいつのまにか、この三階の部屋に戻ってきていることが多い。ミミーは寝台に腰掛けて、お客からの注文を書きつけた台帳を確かめたり、ハーブのブレンドに関する自分で書いた研究手帳を広げて見たりしながら、さっきのウルスラの訪問について思い出していた。
(なんだか、あの人……少し怖いわ)
口では仲良くやりましょうと言ってはいたが、そのときの敵意に満ちた目つきや、毒のこもったような声は、まるで彼女の宣戦布告のようだった。だが、確かにそれも無理はないのかもしれない。この町にあとからやってきた自分が、彼女のお客までとってしまったのだとしたら。ミミーの店の繁盛ぶりを、ウルスラがよく思わないのも当然かもしれない。
(でも……やっぱり、できれば仲良くやりたいわ。同じ王国の魔女として)
そんなことを考えているとき、木窓の向こうからカリカリという音がした。
「あら、パステットかしら」
帰って来たパステットが、外から「開けて」とツメを立てているのだと思ったが、木窓を開けてみると、そこにいたのは一匹のカラスだった。
「お前は……どこのカラス?」
漆黒の羽をしたそのカラスは、緑色の目でじっとミミーを見つめている。これがただのカラスでないことはすぐに分かった。
「もしかして、パイワケット……?」
だが、女王シビラの使い魔がここにいるというのもおかしいし、それに、あのパイワケットに比べれば、このカラスはひと回り体が小さいようだ。
「……」
カラスの目を覗き込むと、そこにはよく知った光がある気がした。そして、胸のあたりにある白い斑点を見て、ミミーははっとした。
「まさか……お前、パステット?お前は……パステットなの?」
驚くミミーの前で、カラスはひょいと部屋の中に飛び下りた。すると、その体が黒いもやもやに覆われたかと思うと、一瞬ののちに、それは黒猫の姿に変わった。
「みゃあ」
パステットはひと声鳴くと、あっけにとられるミミーをよそに、寝台に丸くなった。
「お前……そうだったの。カラスに変身できるのね。でも、いつから……」
パイワケットの力で遣わされた使い魔が、ただの猫ではないだろうとは思っていたが、まさかカラスになって空を飛べるようになるなんて、想像もしなかった。
「でも……そういえば、エルフィルも言っていたわね。お前はエルフキャットだって」
そういえば、ここのところ外から戻ってくると、ひどくお腹をすかせていた。それは変身に力を使っていたせいだったのかもしれない。
「もしかして、ちゃんと飛べるようになったから、わたしに教えてくれたのかしら。お前って、案外プライドが高いものね」
すやすやと眠っているパステットを見て、ミミーはくすりと笑った。そっとその体を撫でると、やわらかな毛並みはいつもと変わらぬ手触りだった。
「明日からは店の扉のかんぬきはかけておいてよいのね。そのかわり、この部屋の木窓は開けておこう」
翌日からは、とくになにも事件もない、平穏な日々が続いた。
パステットは、変身しての飛行にも慣れたようで、月の出る夕刻近くになると、三階の窓から優雅に飛び立っていった。上空から町をぐるりと回ってくるのが散歩代わりの日課のようで、夕食どきになると戻ってきて、猫の姿でちゃっかり階段を降りてくるのだった。
店の売り上げはますます順調で、ミミーのハーブや軟膏を求めてやってくるお客は増えるばかりだった。店にはハーブティーの試飲をしながら、世間話をしてゆく顔見知り客も増え、店を閉める夕暮れどきまでお客が絶えることはなかった。ミミーは注文のあったハーブや軟膏を調合し、なくしもの探しや占いの客の相手をし、てきぱきと仕事をこなした。
あれからウルスラはまったく姿を見せなかった。
ただ、ときおりバサバサという羽音が聞こえたかと思うと、通りの向こうの路地の暗がりから、赤い目がこちらを見ているということがあった。だが、ミミーはそれについてはさほど気にもとめず仕事を続けた。少々のやっかいごとに頭を悩ませるよりも、魔女としてこの町で認められてゆくことの方がずっと大切なことに思えたし、それに仕事は楽しかった。
春分を迎え、通りに差し込む日差しにも暖かさが感じられるようになると、人々は春の訪れにどこかうきうきとする風で、女性たちの服装にもあでやかな明るさが増してくる。店店の軒先からの掛け声も威勢よく、通りをゆく人々の足どりを軽くする。
ミミーの店に、思いがけないお客がやってきたのは、そんなうららかな日の午後だった。
買ったばかりの帽子をなくしたという紳士で、これから市参事会の役員会があるのでそれまでに見つけたいという。さっそくミミーがペンデュラムで占うと、おかしなことに、帽子は町の中をあちこちに動いているという結論になった。
不思議がる紳士に向かって、ミミーは地図を指さして言った。
「きっと、誰かがかぶっているんだと思います。この通りの、ここからこのあたりまでの間に、その帽子をかぶった人がいるはずです」
はたして、店を出て戻ってきた紳士の頭には、立派な黒いフェルト帽があった。
聞くと、帽子を拾ったのは皮なめし職人で、日除けにちょうどよいと仕事をしながらそのままかぶっていたという。紳士はミミーに礼をいい、一枚よけいに銀貨を渡してくれると、帽子に手をかざし揚々と市庁舎へ出かけていった。
次に来た客は、迷子の子どもを探す乳母であった。
「まだ三歳なんです。ちょっと買い物をしている間にいなくなっていて。おおどうしよう。もし人買いにでもさらわれてしまっていたら。奥様になんと言えばいいのかしら」
泣きそうな様子で、ひどくうろたえている女性をなだめつつ、ミミーは子どもの名前と特徴を聞き、さっそくペンデュラムを手に意識を集中させた。
「ええと、この辺りにいるのではないかと……」
ミミーが指した地図を覗き込むや、女性は顔を蒼白にした。
「なんてことでしょう。そこは柄の悪い貧民窟です。ああ、なんてことでしょう!」
今にも卒倒しそうな女性を見かねて、ミミーは「ちょっと待っていてください」と言い残し、ほうきを手に店を出た。
「留守番お願いね。パステット」
ほうきに乗って飛んでゆくミミーを、通りの人々が指をさして見上げる。
「ほら、あれが新しくきた魔女だよ」
「なんだか可愛らしいねえ。まだ小さな女の子じゃないか」
「ああ、でもほら、仕立屋のラムズさんの奥さんの指輪を一発で見つけたってよ」
「へえ、そりゃたいしたもんだ」
人々の噂には、そんなふうに少しずつ、町にやってきた新しい魔女のことがのぼり始めていた。
「ぼっちゃん。まあ、ぼっちゃん。よくご無事で!」
店に戻ってきたミミーが連れてきた男の子を見せると、乳母の女性は顔を輝かせた。
「よかった。ああ、本当によかった」
手を組み合わせ涙を流す女性の横で、男の子の方は無邪気そうにきゃっきゃっと笑っている。好奇心旺盛な年頃なのだろう。女性は何度も礼を言い、代金とともに、買い物袋から果物を取り出し、遠慮するミミーに手渡した。
「ふう……よかった。でもちょっと疲れたわ。初日からこんなにお客が来るなんて」
だが、ひと休みする暇もなく、店にはまた客が訪れた。それも、二人、三人と。
前の村での暇な店番と比べたら、大変な違いである。ミミーは疲れを振り払い、なるたけにこやかに「いらっしゃいませ」と声をかけた。
「足腰に効く軟膏はあるかしら?」
「息子の風邪に効くハーブはあるかねえ?」
「頭痛と不眠になにかよいものをおくれよ」
新しいもの好きの主婦たちだろうか。店内を見回しながら一斉に注文してきた。それににミミーは慌ててうなずきかけた。
「は、はい。少々お待ちを。ええと、軟膏は……あります。ハーブの方は、今のところ店にあるのは、ローズマリーとペパーミント、あとレモングラスにラベンダーが少々……すみません、明日にはもう少し仕入れてブレンドとしておきますので」
ミミーは、前の村から持ってきておいた残りの軟膏を客に渡した。
「わたしの特製の軟膏です。朝晩に塗っていただければ痛みは治まります。なくなったらまたお越しください。新しい軟膏も作りはじめますので」
「ありがとう。おいくら?」
「はい、ひとビンで銀貨三枚です」
「ねえ、風邪に効くやつないの。明日じゃ困るのよ」
「こっちも頭痛がひどくて、仕事にも家事にも差し支えるわ。お金は払うから、どうしても今欲しいのよ」
「は、はい……でも、あの……」
ネコの手も借りたいくらいだと、ミミーは陳列棚の方を見たが、よほど居心地がいいのかパステットは丸くなって昼寝を始めていた。
どうしたものかとミミーが困り果てていると、おもむろに奥の扉が開いた。
「ねえ、おやつ」
ぬらりと出てきたのは、青白い顔をした陰気な少年だった。
「デュール」
「ミミー……、ねえ、おやつある?」
「ちょうどよかったわ。デュール、お願い。お隣の店に行ってハーブを買ってきてくれないかしら?」
「でも、ぼかぁ……」
「ね。お願いよ」
ミミーの真剣な目にややたじろいだように、少年は黙ってうなずいた。
「ありがとう。銀貨二枚あれば足りるでしょう。必要なのはね、アンゼリカとオレガノ、コリアンダーの種、それと、できればエルダーフラワーも。分かる?」
「アンゼリカ、オレガノ、コリアンダー、エル……ダフ、ラ」
「エルダーフラワーよ。お願いね」
少年はうなずくと、緊張した面持ちでぎくしゃくと外へ出ていった。
(大丈夫かしら……)
しかし、ミミーの心配をよそに、デュールはほどなくして、ハーブの入った包みをかかえて戻ってきた。しかも、銅貨のお釣りまでちゃんと持って。
「ありがとう。デュール!」
ミミーはさっそくハーブを調合し、風邪と頭痛に効くブレンドティーを作った。
「ええと、こちらが風邪用のハーブティーです。アンゼリカの根とエルダーフラワーの花びら、それにレモングラスをブレンドしたものです。こちらが頭痛用で、ペパーミントとレモンバーム、それにコリアンダーの種を砕いたものブレンドしました。鎮静作用があります。月経のときにも効くオレガノを入れたものも別に作っておきましたので、よかったらこちらもどうぞ」
「まあ、助かるわ」
「さっそく息子に飲ませなくちゃ」
お客たちは喜んでハーブティを受け取ると、代金を払って帰っていった。
「よかったわ……なんとかなって」
ほっとして椅子に座り込んだミミーの横に、おずおずとデュールが寄ってきた。
「あ、あの……ぼかぁ」
「ああ、本当にありがとう。デュール。あなたのおかげだわ」
少年の手を取って、ミミーは心から礼をいった。
「ぼ、僕の……?」
「ええ。あなたのおかげよ。ありがとう」
すると、デュールの青白い頬に、ほのかに赤みがさしたように見えた。
「そうだわ。よかったら、明日からこの店を手伝ってくれないかしら」
ミミーは思いついたように言った。
「ね。今日みたいにハーブを買いにいってくれたり、あとはちょっとした手伝いをしてくれればいいから」
「で、でも……ぼかぁ」
「お願い。一緒にやりましょう。パステットはあの通り、店ではあまり役にたたないし」
ぴくりと耳をもたげたパステットだったが、そのまま昼寝を決め込んだようだ。
「でも、ぼかぁ……楽園に行くんだ」
「楽園?それはなんのこと?」
首をかしげるミミーに、少年は真顔で言った。
「ぼ、ぼかぁ、いつか、行くんだ。楽園に行くんだ……」
「ふうん。そっか。でも、じゃあ、とりあえず……それまでは手伝ってくれるでしょ?」
「ええと、それまでなら……」
こうして、ミミーの店に新たな手伝いができた。翌朝、パンを持ってきてくれたポボルにそのことを話すと、
「おやまあ、そうなのかい。あの子がねえ。そりゃ驚いた」
ミルクを舐めるパステットを撫でながら、ポボルは目を丸くして言った。
「だって、あの子は食事のとき以外はほとんど部屋から出ないんだから。だから日にも当たらず青白くて痩せっぽち。あたしもときどきパンやおやつを持ってきてやってたけどさ。でも店の手伝いを始めるというのなら、いい傾向さ。少しは体力もつくだろう」
「ポボルさんは、デュールのことをよくご存じなんですか?」
「いや、よくってほどでもないけどね。あの子がここに住みはじめてからはずっと知ってるよ。もう三年くらいになるかね。聞いた噂だと、もともとはどこかの名のある家系の若君だったとか。確かなことは分からないけどね」
「へえ、そうなんですか」
それがいったいどうして、たった一人でここに住むことになったのかしらと、ミミーは思った。だがきっと、それはデュール自身も知らないのではないか。何故だかそんな気がした。
「それにしても、昨日はさっそくお客が何人も来ていたみたいじゃないか。あたしも、うちの店に来たお客には、新しく来た魔女だよって、あんたの店のことを宣伝しているけど、けっこうもう町ではあんたは知られ始めてるみたいだね」
「ありがとうございます。もっと頑張って、みなさんに喜んでもらえる魔女になります。それから、明日からはパンとミルクのお金も支払います」
「いいんだよ。そんなことは。あたしは好きでそうしてるんだから。あんたとデュールと、
ネコちゃんの分くらい、どうってことないよ」
ポボルは豪快に笑って胸をたたいた。
店を開ける前に、ミミーは隣の店で必要になりそうなハーブを買っておくことにした。セージ、タイム、リンデン、エキナセア、タンディライオン、チコリの根、ネトル、ヒソップ、マリーゴールド、ヤロウ、レッドクローバー、ワームウッド、等々……
「これでたいていのものは揃ったわ。よーし」
ミミーはさっそくハーブのブレンドを始め、あれこれと組み合わせを考えながら、特製のハーブティーを作っていった。胃腸によいもの。関節痛に効くもの、頭痛、生理痛、神経痛、咳や喉の痛みをやわらげるもの、食欲促進や鎮静、殺菌作用のあるものなど、喜ばれそうな効能と味とのバランスを考えてブレンドを試すのは、なかなか楽しいものだった。
「ええと、これにレモングラスを入れれば、もう少し美味しくなりそうだわ。こっちのはマリーゴールドとラベンダーの花が少し濃厚すぎるかも。どちらかにしましょう」
こうして、店頭にはミミー特製のハーブティーの包みが、その効能の書かれた札とともに並べられていった。しばらくして、デュールが店に降りてきた。ミミーが笑顔で「おはよう」というと、少年は少し照れくさそうにうなずいた。
店を開けると、今日もお客がさっそくやってきた。なくしもの探しのお客に、ハーブや軟膏を買いに来たお客。デュールは落ち着かない様子で店の中をうろうろとしていたが、ミミーにまたあれこれと買い物を頼まれると、むしろ嬉しそうに出かけていった。
ミミーのハーブはよく売れた。また軟膏も、その効き目が確かだと知れると、リピーターの客とともに、新たに買いに来るお客も増えて、ミミーは時間をみつけて新たな軟膏の仕込みにとりかかった。
「ひい、ふう、みい……じゅうしち、じゅうはち」
店を閉め、その日の売り上げを数えて、ミミーは興奮に声を上げた。
「すごいわ。二日目で銀貨25枚の売り上げよ!」
<探しもの通りのミミー>の店の噂は、数日のうちには町中に広まっていった。なくしものをほぼ確実に見つけてくれるその確かな腕前や、軟膏の質の高さ、それにいろいろなハーブティー。新しいもの好きの婦人たちは、噂を聞きつけるとミミーの店に押しかけ、ハーブや軟膏を買い求めた。
ミミーは、売り上げのお金でまた材料を揃えながら、他にもいろいろなことを考えた。
「そうね。どうせなら、店の中でハーブティーが飲めるようにするといいかも。椅子とテーブルを置いて、お好みのブレンドティーを試しに飲んでみて、気に入ってもらえたら買ってもらえればいいし。それに、ちょっとしたおしゃべりなんかができたら、町の人たちともっと仲良くなれるわ」
それから、新たな試みとして、魔除けとなる石も売ることにした。紅縞メノウ、猫目石、病気を癒す力のあるブラッドストーン、毒から身を守る琥珀。それから儀礼やまじないに用いる赤い斑点のある緑の碧玉は、粉末にすると妊娠期、授乳期の女性の体にもよい。
ミミーは、週に一日の定休日を定めると、その日は材料の買い出しや、新たな商品の開発にあてることにした。デュールを連れて、通りの店店を回り、店で使えそうなものを揃えてゆく。店に置くテーブルと椅子は、小道具屋の老店主に頼むと、知り合いから安いものを届けてもらえることになった。
ミミーはうきうきとして、買い込んだハーブや薬草、天然石、それに店に飾るための燭台や、ティーカップ、壁にかけるタペストリーやレースのテーブルかけなどを店に並べて、それらを眺めながら、理想の店作りのイメージを膨らませた。
お客は日増しに増えていった。ミミーの考えたとおり、店に来た婦人たちは、その場でハーブティを飲めるとあって、喜んでそれを味わい、気に入ったものを買っていった。また、家の床や壁にふりかけることで邪悪なものを遠ざける、薬草と水を混ぜたウォッシュもよく売れた。
はじめのうちは、店の中で慣れない様子でおどおどとしていたデュールも、今では買い物を頼まれると喜んで出かけてゆくし、ミミーが占いの方で手が放せないときは、お客の注文を受けたりもできるようになった。
パステットはここのところ寝てばかりいた。昼間でも眠そうに、ミミーの買ってやったバスケットの中で丸くなり、陳列台を覗き込む客たちの視線をものともせず、ぬくぬくとまどろんでいる。そしてときおりいなくなったかと思うと、いつのまにか三階の部屋に戻ってきたりしていて、ミミーを驚かせた。
店の売り上げは順調そのもので、お客の多い日は一日に銀貨五十枚を超えることもあった。勢いづいたミミーは、今度は蜜蝋をベースにアーモンドオイルなどを加えた美容クリームを開発し、それもまた婦人たちの間で大ヒットになった。
「ミミー、すごいよ。ミミー」
陰気な少年デュールも、今ではすっかり店員が板についた様子で、ミミーに買ってもらった真新しいチュニックを着て、楽しそうに店の掃除をするのだった。
「ねえ、ミミー。僕を家来にしておくれよ。ねえ」
「家来?まあ、デュール。あなたは家来ではなくてお友達よ。それにこの店を手伝ってくれる立派な店員さんだわ」
しかし、デュールは何故かそれにはあまり嬉しそうにはせず、「僕を家来にしておくれよ」と繰り返すのだった。ミミーは困りながら、「考えておくね」と笑って答えた。ミミーには、デュールがどういうつもりでそう言うのかがよく分からなかった。
ともかくも、店は順調そのものであった。二月のキャンドルマスを迎える頃には、<探しもの通りの魔女ミミー>は、クセングロッドの町で知らぬものはないくらいまでになりつつあった。
「早いわね。もうキャンドルマスか……そういえば、去年は村でリミーと一緒に儀式をしたんだったわ」
麦わらで作ったブリードの十字架を店の扉に飾りながら、ミミーは思い出すようにつぶやいた。とっておきの蜜蝋のろうそくを棚に並べ、それにデュールが火をつけてゆく。店内を幻想的に包む炎の輝きを、ミミーはうっとりと眺めた。
「今年はこんなに立派な店でこの日を迎えられるなんて、思ってもいなかったわ」
パステットは散歩に出かけたらしい。今朝からずっと姿が見えない。せっかく今日は早めに店を閉め、ゆっくりとインモラグを祝おうと思っていたのだが。
「変ねえ、あの子はサバトの儀式は大好きなはずなのに……まあ、いいわ。そのうち帰ってくるでしょう。デュール、手伝って」
北側に寄せたテーブルに銀のペンタクルを置き、その両側にはろうそくを立てた燭台をすえる。聖杯、ワンド、チャリス、水を入れた杯、塩を盛った皿をそれぞれ置いてゆけば祭壇の完成だ。
「さあ、できたわ。南側には大釜を持ってきて。うん、その辺でいいわ」
「なんだか、ぼかぁ……面白くなってきたよ」
大釜の中に立てたろうそくに火をつけながら、デュールはくすくすと笑った。
「ブリードの十字架をここに持ってきてちょうだい」
儀式の準備が整い、ミミーがアサミィを手にして床に魔法円を書き始めようとしたときだった。
コンコンと店の扉が叩かれた。
「あら、誰かしら。閉店の立て札を出しておいたのに。ポボルさんかな?いいわ、デュール、わたしが出る」
そのとき、遠くでぎゃあぎゃあという、カラスの鳴くような声が聞こえた気がした。
「なにかしら……」
いやな予感がしたが、ミミーは思い切って扉を開けた。だが、そこには誰もいなかった。
「おかしいわ。確かに誰かが扉を叩いていたのに」
ミミーが店の前の通りを見回していると、予想もつかないことが起こった。
突然、ガラガラという音がしたかと思うと、いきなり空から石が降ってきたのだ。
「きゃあっ」
ミミーは慌てて店の中に逃げ込んだ。
「な、なに……?」
店の前にはまるで雨のように、小石がバラバラと降り注いだが、落ちた石はすぐに消えてしまった。
「これって、もしかして、リトボリ……かしら」
石を降らせる悪霊、リトボリアのことは聞いたことがある。しかし、実際に目にするのは初めてだった。驚きに胸をどきつかせながら、店の中を振り返ったミミーは、今度こそ腰を抜かしそうになった。
そこに、人が立っていた。それも、妖艶な美女が。
「あ、あの、あの……」
「やあ、こんにちは、ミミー・シルヴァー」
胸元もあらわな黒い胴着にスカート姿であごをつんともたげ、赤茶色の髪をたてがみのように広げた女性は、威圧するようにミミーをじろりと睨んだ。
「ええ?なんとかお言いよ。せっかくこうして挨拶に来たんだから」
「あ、あの……」
よく見れば、濃いめの化粧の下には、見た目よりも歳を経た女の顔が隠れていた。おそらく三十歳はとうに越しているだろうが、それにしても派手な格好だ。
ミミーは、それが魔女であることにようやく気づいた。
「もしかして、ウルスラ・ブラッドさん?」
「ああ、そうさ。すぐに分からないなんて、やっぱり子どもだねえ。ハッ!」
ミミーは内心でむっとしたが、ここで喧嘩腰になるのもいけないと、なんとか穏やかな笑顔を取りつくろった。
「ごめんなさい。あの……ウルスラってお名前から、もっとお歳の魔女を想像していたから。とっても綺麗なので、つい驚いてしまって」
「ああ、わかるわ。みなそう言うのよ」
彼女は髪をかき上げると、両手を腰に当て、胸をそらしてポーズを作った。
「そして、誰もが私の美しさに驚嘆する。もちろん、魔女としての能力とともに」
赤く塗った唇をにっと広げると、美しくも邪悪そうな魔女の顔になった。
「ところでミミーちゃん。あんたの店、ずいぶん繁盛しているようじゃない」
店の中を見回しながら、魔女ウルスラは言った。
「あ、ありがとうございます」
「ふん。なるほど、ハーブやら軟膏やら、いろいろ種類が多いみたいね。それに、あんたのダウンジングはそれはよく当たるって評判のようだしぃ」
「そ、それほどでも……」
「あとから来ておいて、このあたしを差し置いて町の魔女ナンバーワンになろうって、そういう魂胆かい?」
「いえ、そんな……めっそうもない」
「おだまり」
ウルスラの青い目が、ミミーを射抜くようにぎらりと光った。
「いつまでたっても、こっちに挨拶にすら来ないで。こうして先輩であるあたしの方から来させて、さぞ満足だろうね。ええ?」
「そんな……ただ、あの、毎日忙しくて、ついご挨拶に伺えず、すみませんでした」
「忙しい?はっ、そりゃそうだろう。これだけお客が来れば。あたしの店がある町の西側の連中も、今やあんたのファンがいるくらいさ。あたしのお客を奪っておいて、毎日忙しいとは、なんて傲慢な言いぐさだろう!」
「ご、ごめんなさい」
ミミーは心からあやまった。
「まさか、ウルスラさんのお客さんまで来ているとは、知らなくて。……あの、みなさんが喜んでくれているから、それでいいって、思ってしまって。本当にごめんなさい」
「ああ、ああ。そうして口であやまれば済むだろうと思っているんだろうねえ。可愛い顔をしていても、心の中はやはり魔女さ。あたしと同じね。どろどろに薄暗いものが、あんたにもたっくさん住み着いているんだよ」
「そんな……」
これ以上どうあやまればいいのか分からず、ミミーは口ごもった。
「ところで、そっちの痩せたぼうやは、あんたのお友だちかい?なんだか、今にも死にそうな顔をしているみたいだけどぉ」
「ぼ、ぼかぁ……」
デュールは、突然現れたウルスラがいったい何者なのかまるで理解できない様子で、さっきからおろおろとしていた。
「ふふふ。怖がっているのね、ぼうや。あたしの店に来たら可愛がってあげるわよ」
「でも、ぼかぁ……いつか、楽園に行くんだ」
「はあ?なんなの、この子。頭がどうかしているみたい」
「デュールの悪口を言うのはやめてください」
「まあいいわ。ともかく……あまり調子に乗らないことね。でないと、今に大変なことになるから……あら」
陳列棚に向けられたウルスラの目が、きらりと光った。
「面白いものがあるのね。ここには」
そこにあったのは人の形をした根を持つ植物……マンドラゴラの入ったビンだった。
「ふうん……なる、ほど」
意味ありげに微笑んだ魔女の目に、ぼうっと怪しい光が宿った。
「さって、今日のところはこれで帰ることにするわ」
それを聞いてミミーはほっとしたが、
「お互い、仲良くやりましょうね」
そう言ったウルスラのねっとりと絡みつくような視線に、思わずぶるっと体を震わせた。
「クロウリー!」
手を触れずに扉を開けると、ウルスラは黄昏の空に向かって叫んだ。するとバサバサと黒いものが飛んできて、地面に下りた。かと思うと、それは真っ黒な犬になった。この赤い目をしたグレイハウンドが、ウルスラの使い魔であるらしい。
「じゃあ、またね。ミミーちゃん」
黒い不吉な姿で去ってゆく魔女を、ミミーはほのかな不安の予兆とともに見送った。
その日は、なかなかパステットが帰って来なかった。仕方ないのでデュールと二人で食事を済ませると、ミミーは三階の部屋へ戻った。
「いったい、どこへ行ったのかしら。いつもなら、どんなに遅くても夕御飯には戻ってくるのに」
店の扉のかんぬきはかけないでおいた。しかし、ここのところ、たいていはいつのまにか、この三階の部屋に戻ってきていることが多い。ミミーは寝台に腰掛けて、お客からの注文を書きつけた台帳を確かめたり、ハーブのブレンドに関する自分で書いた研究手帳を広げて見たりしながら、さっきのウルスラの訪問について思い出していた。
(なんだか、あの人……少し怖いわ)
口では仲良くやりましょうと言ってはいたが、そのときの敵意に満ちた目つきや、毒のこもったような声は、まるで彼女の宣戦布告のようだった。だが、確かにそれも無理はないのかもしれない。この町にあとからやってきた自分が、彼女のお客までとってしまったのだとしたら。ミミーの店の繁盛ぶりを、ウルスラがよく思わないのも当然かもしれない。
(でも……やっぱり、できれば仲良くやりたいわ。同じ王国の魔女として)
そんなことを考えているとき、木窓の向こうからカリカリという音がした。
「あら、パステットかしら」
帰って来たパステットが、外から「開けて」とツメを立てているのだと思ったが、木窓を開けてみると、そこにいたのは一匹のカラスだった。
「お前は……どこのカラス?」
漆黒の羽をしたそのカラスは、緑色の目でじっとミミーを見つめている。これがただのカラスでないことはすぐに分かった。
「もしかして、パイワケット……?」
だが、女王シビラの使い魔がここにいるというのもおかしいし、それに、あのパイワケットに比べれば、このカラスはひと回り体が小さいようだ。
「……」
カラスの目を覗き込むと、そこにはよく知った光がある気がした。そして、胸のあたりにある白い斑点を見て、ミミーははっとした。
「まさか……お前、パステット?お前は……パステットなの?」
驚くミミーの前で、カラスはひょいと部屋の中に飛び下りた。すると、その体が黒いもやもやに覆われたかと思うと、一瞬ののちに、それは黒猫の姿に変わった。
「みゃあ」
パステットはひと声鳴くと、あっけにとられるミミーをよそに、寝台に丸くなった。
「お前……そうだったの。カラスに変身できるのね。でも、いつから……」
パイワケットの力で遣わされた使い魔が、ただの猫ではないだろうとは思っていたが、まさかカラスになって空を飛べるようになるなんて、想像もしなかった。
「でも……そういえば、エルフィルも言っていたわね。お前はエルフキャットだって」
そういえば、ここのところ外から戻ってくると、ひどくお腹をすかせていた。それは変身に力を使っていたせいだったのかもしれない。
「もしかして、ちゃんと飛べるようになったから、わたしに教えてくれたのかしら。お前って、案外プライドが高いものね」
すやすやと眠っているパステットを見て、ミミーはくすりと笑った。そっとその体を撫でると、やわらかな毛並みはいつもと変わらぬ手触りだった。
「明日からは店の扉のかんぬきはかけておいてよいのね。そのかわり、この部屋の木窓は開けておこう」
翌日からは、とくになにも事件もない、平穏な日々が続いた。
パステットは、変身しての飛行にも慣れたようで、月の出る夕刻近くになると、三階の窓から優雅に飛び立っていった。上空から町をぐるりと回ってくるのが散歩代わりの日課のようで、夕食どきになると戻ってきて、猫の姿でちゃっかり階段を降りてくるのだった。
店の売り上げはますます順調で、ミミーのハーブや軟膏を求めてやってくるお客は増えるばかりだった。店にはハーブティーの試飲をしながら、世間話をしてゆく顔見知り客も増え、店を閉める夕暮れどきまでお客が絶えることはなかった。ミミーは注文のあったハーブや軟膏を調合し、なくしもの探しや占いの客の相手をし、てきぱきと仕事をこなした。
あれからウルスラはまったく姿を見せなかった。
ただ、ときおりバサバサという羽音が聞こえたかと思うと、通りの向こうの路地の暗がりから、赤い目がこちらを見ているということがあった。だが、ミミーはそれについてはさほど気にもとめず仕事を続けた。少々のやっかいごとに頭を悩ませるよりも、魔女としてこの町で認められてゆくことの方がずっと大切なことに思えたし、それに仕事は楽しかった。
春分を迎え、通りに差し込む日差しにも暖かさが感じられるようになると、人々は春の訪れにどこかうきうきとする風で、女性たちの服装にもあでやかな明るさが増してくる。店店の軒先からの掛け声も威勢よく、通りをゆく人々の足どりを軽くする。
ミミーの店に、思いがけないお客がやってきたのは、そんなうららかな日の午後だった。
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