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まれびと来たりて
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律は大きく息を吐き出すと、心を落ち着かせた。冷静になれと自分に言い聞かせる。ここには龍司はいない。夢中で話しても、失言して相手を怒らせても、いつもなら龍司がフォローをしてくれていたのだがそれは望めないのだ。
自分が今まで自由に発言できたのは龍司のお陰だったと今更ながらに実感する。よくもこんなに情けない男の味方をしてくれたものだと、龍司の懐の大きさに感謝した。
「俺が龍司が来ていることを証明します。どうか俺に、友人を探させてください」
セドリックをじっと見ると、その目が少し細くなる。何を考えているのかわからない表情だった。
「駄目だよ。危険だし、君は私達の大切なまれびとで碧のガイアだ。君を守ることは、私やオスカーだけの意志ではない。この国にとっても重要なことなんだよ」
「でも、そんなの……」
勝手だと言いたかったが、臆病ゆえに口ごもってしまう。
「お願いです。大切な人なんです。彼に会うためなら……」
――死んだっていい。
そう言いたかったが、口にしたら胡散臭くなりそうで言えなかった。
「恋人なのか?」
オスカーが不躾に聞いてくる。律はそれは慌てて首を振った。龍司との関係をホモかとからかわれたことはあったが、実際に疑う者はいなかった。それはそうだろう。あの龍司が男の律を恋人にするなどあり得ないからだ。
だが、この国は男同士が恋人でもおかしくはないらしく、同性間での婚姻も認められている。だからこその問いなのだろう。嬉しいのか嬉しくないのか、複雑な思いが湧いてくる。
はっきりと答えない律に、オスカーはイエスだと思ったのだろうか。睨み付けるように見てくる。
「だったら、尚更駄目だ。リツは俺達のものだ。誰にも渡さない。絶対に駄目だ。いいか」
傲慢な言葉に、言い返すことはしなかったがうなずくこともしなかった。
「オスカー、いい加減にしなさい」
セドリックが少しきつい口調で言うと、ニコリと笑って見てくる。
「息子は君がとても大切なんだ。私もだよ」
「碧のガイアだからですか」
「勿論そうだよ」
そりゃそうだろう。そうでなければこんなちんけな男一人捕まえて、ここまで大切にはしてくれないだろう。それに律が喜んでいないことは、この人達には理解できなだろうが。
そうだ。ちんけな男だ。この人達が何を望んでいるのかわからないが、律には何もできない。実際にここにきてから一月、何もしていないのだ。
律が何故呼ばれたのか、律に何を求めているのか未だわからないが、役立たずとわかればここから追い出されるのだろう。そうなれば自由に龍司を探すことができるが、出会う前に野垂れ死ぬのは確実だ。
ならばどうすればいいのか。どうしたら追い出されずに龍司をさがすことができる。自分が人より秀でているのは役にも立たない記憶力だ。今まで読んだ本の内容は大抵頭の中に入っている。そこまで考え、ふと、町で見た施療院を思い出した。
「もし、俺が医療や科学に力を貸して、役に立ったら許可をしてくれますか」
「役に立ったらとは?」
セドリックが首を傾げる。
「ご存じのとおり、俺のいた世界はこの世界よりも医学も科学も進んでいます」
「そうだね。だけど、神に授かった力を忘れた、無機質で冷たい世界だ」
なるほど、そういう考えもあるのかと納得しながらも、話を続けた。
「はい。わかっています。この世界は俺の住んでいた世界とは違う理がある。でも、今はそれが崩れてきているのですよね。だから俺が呼ばれたと聞いたけど、一体何をどうすべきか俺にはわかりませんし、ここにいろと言われただけで何もしていない。何も変わっていないし、今すぐに誰かを救えているわけじゃない」
「何を言いだすんだ。律は何もしなくていい。ここにいるだけでいいんだ」
オスカーが顔をしかめる。
「傷口を無闇やたらに焼くなんてしなくても治療はできる。他にも、色々と知っています。知識だけはあるんです」
実践したことはないけど、と心の中で呟く。
セドリックとオスカーが顔を見合わせる。何を言い出すのだと思っているのだろう。
自分が今まで自由に発言できたのは龍司のお陰だったと今更ながらに実感する。よくもこんなに情けない男の味方をしてくれたものだと、龍司の懐の大きさに感謝した。
「俺が龍司が来ていることを証明します。どうか俺に、友人を探させてください」
セドリックをじっと見ると、その目が少し細くなる。何を考えているのかわからない表情だった。
「駄目だよ。危険だし、君は私達の大切なまれびとで碧のガイアだ。君を守ることは、私やオスカーだけの意志ではない。この国にとっても重要なことなんだよ」
「でも、そんなの……」
勝手だと言いたかったが、臆病ゆえに口ごもってしまう。
「お願いです。大切な人なんです。彼に会うためなら……」
――死んだっていい。
そう言いたかったが、口にしたら胡散臭くなりそうで言えなかった。
「恋人なのか?」
オスカーが不躾に聞いてくる。律はそれは慌てて首を振った。龍司との関係をホモかとからかわれたことはあったが、実際に疑う者はいなかった。それはそうだろう。あの龍司が男の律を恋人にするなどあり得ないからだ。
だが、この国は男同士が恋人でもおかしくはないらしく、同性間での婚姻も認められている。だからこその問いなのだろう。嬉しいのか嬉しくないのか、複雑な思いが湧いてくる。
はっきりと答えない律に、オスカーはイエスだと思ったのだろうか。睨み付けるように見てくる。
「だったら、尚更駄目だ。リツは俺達のものだ。誰にも渡さない。絶対に駄目だ。いいか」
傲慢な言葉に、言い返すことはしなかったがうなずくこともしなかった。
「オスカー、いい加減にしなさい」
セドリックが少しきつい口調で言うと、ニコリと笑って見てくる。
「息子は君がとても大切なんだ。私もだよ」
「碧のガイアだからですか」
「勿論そうだよ」
そりゃそうだろう。そうでなければこんなちんけな男一人捕まえて、ここまで大切にはしてくれないだろう。それに律が喜んでいないことは、この人達には理解できなだろうが。
そうだ。ちんけな男だ。この人達が何を望んでいるのかわからないが、律には何もできない。実際にここにきてから一月、何もしていないのだ。
律が何故呼ばれたのか、律に何を求めているのか未だわからないが、役立たずとわかればここから追い出されるのだろう。そうなれば自由に龍司を探すことができるが、出会う前に野垂れ死ぬのは確実だ。
ならばどうすればいいのか。どうしたら追い出されずに龍司をさがすことができる。自分が人より秀でているのは役にも立たない記憶力だ。今まで読んだ本の内容は大抵頭の中に入っている。そこまで考え、ふと、町で見た施療院を思い出した。
「もし、俺が医療や科学に力を貸して、役に立ったら許可をしてくれますか」
「役に立ったらとは?」
セドリックが首を傾げる。
「ご存じのとおり、俺のいた世界はこの世界よりも医学も科学も進んでいます」
「そうだね。だけど、神に授かった力を忘れた、無機質で冷たい世界だ」
なるほど、そういう考えもあるのかと納得しながらも、話を続けた。
「はい。わかっています。この世界は俺の住んでいた世界とは違う理がある。でも、今はそれが崩れてきているのですよね。だから俺が呼ばれたと聞いたけど、一体何をどうすべきか俺にはわかりませんし、ここにいろと言われただけで何もしていない。何も変わっていないし、今すぐに誰かを救えているわけじゃない」
「何を言いだすんだ。律は何もしなくていい。ここにいるだけでいいんだ」
オスカーが顔をしかめる。
「傷口を無闇やたらに焼くなんてしなくても治療はできる。他にも、色々と知っています。知識だけはあるんです」
実践したことはないけど、と心の中で呟く。
セドリックとオスカーが顔を見合わせる。何を言い出すのだと思っているのだろう。
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