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まれびと来たりて
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イホークの太く逞しい腕が律の腹に回され体を支えられた。もう片方の手で手綱を操るイホークは力強く体幹も強いようだ。それにドキリとしてしまうのは仕方がないだろう。
「アスタリアンは皆、こんなに弱弱しいのか」
独り言のように呟いたイホークに、思わず振り返る。彼らは律のような異世界の人間をアスタリアンと呼ぶ。
「え?」
「あ、いや、独り言だ。ただ、我々に比べると、あまりにも細く、力も弱く、敏捷さもない……失礼だが、リツは男性で間違いないな」
「えぇ、女性に見えますか」
「いや、少年に見える」
少年ではない。もうすぐ二十三歳になるのだ。向こうの世界でも幼く見られていたが、この世界では尚更そうなのだろう。彼らに比べれば性格も姿形も幼いのはわかっている。それでも、そう誤解されるのは悔しかった。
「いえ、俺が特別に鈍いだけです。俺の親友は、貴方のように体格もいいし、力も強いし、加えて頭もいいです。凄い奴なんです。第一、あんな治療をしているような人達に言われたくない」
「あんな治療?」
しまった。言いたいことを言えない引っ込み思案な性格のくせに、余計なことを言ってしまう癖は抜けていない。特に興奮したり熱中したりすると思っていることが口から出てしまう。感情を言葉に出すと言うよりも、知っていることを口にしたくなるのだ。
級友などに嫌われていたのはこれも原因だ。知ったかぶりだとか、うざいとか言われることが多かったのだが、何故か龍司だけは、凄いなと褒めてくれ、知的好奇心が強いだけだと言ってくれた。
「親友とは、リツが探している人間か」
「そうです。龍司といいます」
何を考えてもすぐに龍司とつなげてしまう。きっと、これ以上龍司と離れていたら、死んでしまうのではないかと思う。
勿論両親にも弟にも会いたい。大切に育ててもらったし、大好きで、これ以上の家族はないとさえ思う。それなのに、一番に会いたいのは龍司なのだ。こんな自分は冷たくておかしい人間なのだろう。
「とっても会いたいんです」
「そうか」
イホークはそれ以上は何も言わなかった。律に自由がないと知っているから哀れんだのか、もしくは馬鹿なことを言っているとかわされたのか。そのどちらだとしても大した違いはないので、律もそれ以上は話さなかった。
馬は天空の城である、碧の城についた。城にいるときも不思議だと思ったが、外から見るとますます不思議な城だ。
見たこともないような大きな碧い木が四本で城を支えている。これ以上成長をしない木なのだという。
真ん中を特に大きな木が支え、三本の木が等間隔で周りを支えている。城は円形で、碧と紅で彩られていた。城に入るのには、地上から延々と続く螺線階段を登るか、崖から渡された三カ所のいずれかの橋を渡るかしかない。
「碧のガイアのご帰還だ。門を開けてくれ」
イホークが門番に言うと、厚い鉄の扉が開く。橋は馬が五頭ほど横に並べる広さがあり、安定感もあるために渡るのに不安はないが、橋の上から下を覗くと、地面は遙か彼方にあるので怖くなる。東京タワーのてっぺんから見下ろす感じと似ているので、三百メートルはありそうだ。高いところといったら東京タワーくらいしか知らないのでそう思うだけなのだろうが。
「リツ!」
王座の間に入ると、律が来たことにセドリック王が気が付き、王座から立ち上がった。
王座の間は律が召喚された場所でもあり、いつ見ても美しい。王座は階段で上がった高い場所にあり、広間が見下ろせるようになっていた。王座の背後の壁は金や赤で装飾されていて、王の権威を見せつけている。
セドリックが階段を下りてくるのと同時に、王の間の扉が開き、第一王子であるオスカーが飛び込んできた。肩まである真っ赤な髪と、勝ち気な顔は母親譲りなのだろう。穏やかな美しさを持つ父王とは違い、きりっとした眉に彫りが深く濃い顔立ちは、戦う神を思わせた。どちらにしろ、ハンサムには変わりない。
王に王子に騎士のイホークと、どうもこの国には美形しかいない。恋愛の対象が男である律にとっては喜ばしいことなのかもしれないが、不思議と龍司に感じるような感情を持つことはなかった。そもそも、律は龍司が好きなだけで、同性愛者かさえも自分ではわからないのだが。
「リツ!」
二人はほぼ同時に律の元に駆け寄ると、ギュッと抱きしめてきた。ハグをする習慣などない律には、これは少々、いや大分困る。固まっている律を気にせず、二人は頭を撫でたり、頬にキスをしてきたりする。律がこれまでもこれからも見ることのないだろう美形――勿論龍司を抜かしてだが――に抱きしめられれば、どうしたって心臓が高鳴ってしまう。
「アスタリアンは皆、こんなに弱弱しいのか」
独り言のように呟いたイホークに、思わず振り返る。彼らは律のような異世界の人間をアスタリアンと呼ぶ。
「え?」
「あ、いや、独り言だ。ただ、我々に比べると、あまりにも細く、力も弱く、敏捷さもない……失礼だが、リツは男性で間違いないな」
「えぇ、女性に見えますか」
「いや、少年に見える」
少年ではない。もうすぐ二十三歳になるのだ。向こうの世界でも幼く見られていたが、この世界では尚更そうなのだろう。彼らに比べれば性格も姿形も幼いのはわかっている。それでも、そう誤解されるのは悔しかった。
「いえ、俺が特別に鈍いだけです。俺の親友は、貴方のように体格もいいし、力も強いし、加えて頭もいいです。凄い奴なんです。第一、あんな治療をしているような人達に言われたくない」
「あんな治療?」
しまった。言いたいことを言えない引っ込み思案な性格のくせに、余計なことを言ってしまう癖は抜けていない。特に興奮したり熱中したりすると思っていることが口から出てしまう。感情を言葉に出すと言うよりも、知っていることを口にしたくなるのだ。
級友などに嫌われていたのはこれも原因だ。知ったかぶりだとか、うざいとか言われることが多かったのだが、何故か龍司だけは、凄いなと褒めてくれ、知的好奇心が強いだけだと言ってくれた。
「親友とは、リツが探している人間か」
「そうです。龍司といいます」
何を考えてもすぐに龍司とつなげてしまう。きっと、これ以上龍司と離れていたら、死んでしまうのではないかと思う。
勿論両親にも弟にも会いたい。大切に育ててもらったし、大好きで、これ以上の家族はないとさえ思う。それなのに、一番に会いたいのは龍司なのだ。こんな自分は冷たくておかしい人間なのだろう。
「とっても会いたいんです」
「そうか」
イホークはそれ以上は何も言わなかった。律に自由がないと知っているから哀れんだのか、もしくは馬鹿なことを言っているとかわされたのか。そのどちらだとしても大した違いはないので、律もそれ以上は話さなかった。
馬は天空の城である、碧の城についた。城にいるときも不思議だと思ったが、外から見るとますます不思議な城だ。
見たこともないような大きな碧い木が四本で城を支えている。これ以上成長をしない木なのだという。
真ん中を特に大きな木が支え、三本の木が等間隔で周りを支えている。城は円形で、碧と紅で彩られていた。城に入るのには、地上から延々と続く螺線階段を登るか、崖から渡された三カ所のいずれかの橋を渡るかしかない。
「碧のガイアのご帰還だ。門を開けてくれ」
イホークが門番に言うと、厚い鉄の扉が開く。橋は馬が五頭ほど横に並べる広さがあり、安定感もあるために渡るのに不安はないが、橋の上から下を覗くと、地面は遙か彼方にあるので怖くなる。東京タワーのてっぺんから見下ろす感じと似ているので、三百メートルはありそうだ。高いところといったら東京タワーくらいしか知らないのでそう思うだけなのだろうが。
「リツ!」
王座の間に入ると、律が来たことにセドリック王が気が付き、王座から立ち上がった。
王座の間は律が召喚された場所でもあり、いつ見ても美しい。王座は階段で上がった高い場所にあり、広間が見下ろせるようになっていた。王座の背後の壁は金や赤で装飾されていて、王の権威を見せつけている。
セドリックが階段を下りてくるのと同時に、王の間の扉が開き、第一王子であるオスカーが飛び込んできた。肩まである真っ赤な髪と、勝ち気な顔は母親譲りなのだろう。穏やかな美しさを持つ父王とは違い、きりっとした眉に彫りが深く濃い顔立ちは、戦う神を思わせた。どちらにしろ、ハンサムには変わりない。
王に王子に騎士のイホークと、どうもこの国には美形しかいない。恋愛の対象が男である律にとっては喜ばしいことなのかもしれないが、不思議と龍司に感じるような感情を持つことはなかった。そもそも、律は龍司が好きなだけで、同性愛者かさえも自分ではわからないのだが。
「リツ!」
二人はほぼ同時に律の元に駆け寄ると、ギュッと抱きしめてきた。ハグをする習慣などない律には、これは少々、いや大分困る。固まっている律を気にせず、二人は頭を撫でたり、頬にキスをしてきたりする。律がこれまでもこれからも見ることのないだろう美形――勿論龍司を抜かしてだが――に抱きしめられれば、どうしたって心臓が高鳴ってしまう。
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