ひたむきな獣と飛べない鳥と

本穣藍菜

文字の大きさ
上 下
11 / 55
まれびと来たりて

3

しおりを挟む
 イホークは長い金髪を持つ他の四人とは違い、短く刈り上げられた真っ赤な髪が陽に輝く偉丈夫だ。

 王宮にいる騎士は大抵が貴族の息子であり、権威と見栄えのために美しく着飾っているお飾りの騎士だがイホークは違う。顔は男らしく凜々しい。見栄えという点では文句なしだが、その上剣の腕は一流で馬上試合では負けなしのエリン国の筆頭剣士だと聞いた。セドリック王の親衛隊長であるので、セドリックの命令でここに来たのだろう。

「勝手に城から出ては困る」

 有無を言わさぬ冷淡な口調で言い放ったイホークが、律の腕を握る。律は思わずイホークの手をはらった。

「この人、なんで……」

 律が矢で射られた男を見た後イホークの顔を睨み付けると、イホークは首を傾げて律の言っていることが理解できないといった顔をした。

「リツが危険だったからだ」

「でも」

「リツは大切なまれびとだ。怪我をされては一大事だ。さぁ帰るぞ」

「い……いやです」

 龍司以外の人間に否というのが苦手な律が、それでも勇気を振り絞って答える。イホークは律をじっと律を見つめた後、他の騎士を見て言い放った。

「碧のガイアであるリツを傷つけた。大罪だ。男達を捕らえろ」

 男達が逃げようとするも、騎士達に囲まれているため無理だった。男達は許してほしいと懇願をするが、容赦なく手を縛られてしまう。見ていて、なんだか哀れになってくる。

「彼らをどうするのですか」

「裁判に」

「有罪なら?」

「死刑か、リツを蹴った足を切り落とされるか、軽ければ鞭打ちといったところか」

「え? やめてください。こんなのただの喧嘩ですから」

「それは私が判断することではない……王の裁量でどうにでもなるだろうが、私は進言するつもりはない。リツが頼めばもしくは……」

 イホークは勘がいい。律の心理を一瞬で読み取り、交渉材料にしたのだろう。

「どちらにしろ、このままここにいればまた襲われる」

 律はその言葉に、忘れていた背中の痛みがぶり返してきたのを感じ、イヤイヤながらうなずいた。確かにこのまま逃げ切れるとも思えないし、一人では何もできない。わかっていたが、悔しい。

「わかりました。城に帰ります」

 律の言葉に、イホークはニコリともせずに律の顔を見ながら馬の背中をポンと叩いた。

「馬には乗れませんから歩いて帰ります」

「私が叱られるからそれはやめてもらいたい。簡単だ。あぶみに足を乗せて馬にまたぐだけだ」

 何を言っているのだと思ってイホークを見るが、相変わらず表情も変えずにこちらを見ている。体格や無愛想さが龍司とどこか似ていると思っていたのだが、こうやって見ると印象も好感度も雲泥の差だ。龍司の素っ気なさが怖いと言っていた級友達を思い出し、彼らが龍司に抱く感覚は、こんな感じだったのかなと思うことで気を紛らわした。

 律は言われたとおりにあぶみに足を乗せ、手綱とたてがみを掴んでぴょんと跳ぶがうまく乗れない。運動神経の悪さには自信があるが、ここでもそれは発揮されているようだ。

 イホークの顔を見ると、冷たい視線でこちらを見ていた。多分馬鹿にされている。今までこの鈍さを何度笑われてきたことかと思って顔を赤くした。

「手伝おう。私の手に左足を乗せて」

「え、や、それは……」

 人の手を踏みつけるなんてと躊躇するが、イホークはしゃがみ込むと、さっさとしろと言わんばかりの目で見てくる。仕方なく律がイホークの手に足を乗せると、ぐいっと持ち上げてくれ、馬に乗ることができた。

 馬に乗ったところでどうしていいかわからないでいると、律の後ろにイホークが乗って手綱をとった。

「一人じゃ危険だ」

「あ、はい。でも、馬が重いんじゃ……」

「この馬はタフだから気にするな」

「すいません」

 自分の意志で馬に乗ったわけじゃないのに何故だか謝ってしまう。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

『これで最後だから』と、抱きしめた腕の中で泣いていた

和泉奏
BL
「…俺も、愛しています」と返した従者の表情は、泣きそうなのに綺麗で。 皇太子×従者

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

初恋はおしまい

佐治尚実
BL
高校生の朝好にとって卒業までの二年間は奇跡に満ちていた。クラスで目立たず、一人の時間を大事にする日々。そんな朝好に、クラスの頂点に君臨する修司の視線が絡んでくるのが不思議でならなかった。人気者の彼の一方的で執拗な気配に朝好の気持ちは高ぶり、ついには卒業式の日に修司を呼び止める所までいく。それも修司に無神経な言葉をぶつけられてショックを受ける。彼への思いを知った朝好は成人式で修司との再会を望んだ。 高校時代の初恋をこじらせた二人が、成人式で再会する話です。珍しく攻めがツンツンしています。 ※以前投稿した『初恋はおしまい』を大幅に加筆修正して再投稿しました。現在非公開の『初恋はおしまい』にお気に入りや♡をくださりありがとうございました!こちらを読んでいただけると幸いです。 今作は個人サイト、各投稿サイトにて掲載しています。

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた

翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」 そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。 チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。

秘花~王太子の秘密と宿命の皇女~

めぐみ
BL
☆俺はお前を何度も抱き、俺なしではいられぬ淫らな身体にする。宿命という名の数奇な運命に翻弄される王子達☆ ―俺はそなたを玩具だと思ったことはなかった。ただ、そなたの身体は俺のものだ。俺はそなたを何度でも抱き、俺なしではいられないような淫らな身体にする。抱き潰すくらいに抱けば、そなたもあの宦官のことなど思い出しもしなくなる。― モンゴル大帝国の皇帝を祖父に持ちモンゴル帝国直系の皇女を生母として生まれた彼は、生まれながらの高麗の王太子だった。 だが、そんな王太子の運命を激変させる出来事が起こった。 そう、あの「秘密」が表に出るまでは。

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

執着攻めと平凡受けの短編集

松本いさ
BL
執着攻めが平凡受けに執着し溺愛する、似たり寄ったりな話ばかり。 疲れたときに、さくっと読める安心安全のハッピーエンド設計です。 基本的に一話完結で、しばらくは毎週金曜の夜または土曜の朝に更新を予定しています(全20作)

完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました

美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

処理中です...