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まれびと来たりて
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イホークは長い金髪を持つ他の四人とは違い、短く刈り上げられた真っ赤な髪が陽に輝く偉丈夫だ。
王宮にいる騎士は大抵が貴族の息子であり、権威と見栄えのために美しく着飾っているお飾りの騎士だがイホークは違う。顔は男らしく凜々しい。見栄えという点では文句なしだが、その上剣の腕は一流で馬上試合では負けなしのエリン国の筆頭剣士だと聞いた。セドリック王の親衛隊長であるので、セドリックの命令でここに来たのだろう。
「勝手に城から出ては困る」
有無を言わさぬ冷淡な口調で言い放ったイホークが、律の腕を握る。律は思わずイホークの手をはらった。
「この人、なんで……」
律が矢で射られた男を見た後イホークの顔を睨み付けると、イホークは首を傾げて律の言っていることが理解できないといった顔をした。
「リツが危険だったからだ」
「でも」
「リツは大切なまれびとだ。怪我をされては一大事だ。さぁ帰るぞ」
「い……いやです」
龍司以外の人間に否というのが苦手な律が、それでも勇気を振り絞って答える。イホークは律をじっと律を見つめた後、他の騎士を見て言い放った。
「碧のガイアであるリツを傷つけた。大罪だ。男達を捕らえろ」
男達が逃げようとするも、騎士達に囲まれているため無理だった。男達は許してほしいと懇願をするが、容赦なく手を縛られてしまう。見ていて、なんだか哀れになってくる。
「彼らをどうするのですか」
「裁判に」
「有罪なら?」
「死刑か、リツを蹴った足を切り落とされるか、軽ければ鞭打ちといったところか」
「え? やめてください。こんなのただの喧嘩ですから」
「それは私が判断することではない……王の裁量でどうにでもなるだろうが、私は進言するつもりはない。リツが頼めばもしくは……」
イホークは勘がいい。律の心理を一瞬で読み取り、交渉材料にしたのだろう。
「どちらにしろ、このままここにいればまた襲われる」
律はその言葉に、忘れていた背中の痛みがぶり返してきたのを感じ、イヤイヤながらうなずいた。確かにこのまま逃げ切れるとも思えないし、一人では何もできない。わかっていたが、悔しい。
「わかりました。城に帰ります」
律の言葉に、イホークはニコリともせずに律の顔を見ながら馬の背中をポンと叩いた。
「馬には乗れませんから歩いて帰ります」
「私が叱られるからそれはやめてもらいたい。簡単だ。鐙に足を乗せて馬にまたぐだけだ」
何を言っているのだと思ってイホークを見るが、相変わらず表情も変えずにこちらを見ている。体格や無愛想さが龍司とどこか似ていると思っていたのだが、こうやって見ると印象も好感度も雲泥の差だ。龍司の素っ気なさが怖いと言っていた級友達を思い出し、彼らが龍司に抱く感覚は、こんな感じだったのかなと思うことで気を紛らわした。
律は言われたとおりに鐙に足を乗せ、手綱とたてがみを掴んでぴょんと跳ぶがうまく乗れない。運動神経の悪さには自信があるが、ここでもそれは発揮されているようだ。
イホークの顔を見ると、冷たい視線でこちらを見ていた。多分馬鹿にされている。今までこの鈍さを何度笑われてきたことかと思って顔を赤くした。
「手伝おう。私の手に左足を乗せて」
「え、や、それは……」
人の手を踏みつけるなんてと躊躇するが、イホークはしゃがみ込むと、さっさとしろと言わんばかりの目で見てくる。仕方なく律がイホークの手に足を乗せると、ぐいっと持ち上げてくれ、馬に乗ることができた。
馬に乗ったところでどうしていいかわからないでいると、律の後ろにイホークが乗って手綱をとった。
「一人じゃ危険だ」
「あ、はい。でも、馬が重いんじゃ……」
「この馬はタフだから気にするな」
「すいません」
自分の意志で馬に乗ったわけじゃないのに何故だか謝ってしまう。
王宮にいる騎士は大抵が貴族の息子であり、権威と見栄えのために美しく着飾っているお飾りの騎士だがイホークは違う。顔は男らしく凜々しい。見栄えという点では文句なしだが、その上剣の腕は一流で馬上試合では負けなしのエリン国の筆頭剣士だと聞いた。セドリック王の親衛隊長であるので、セドリックの命令でここに来たのだろう。
「勝手に城から出ては困る」
有無を言わさぬ冷淡な口調で言い放ったイホークが、律の腕を握る。律は思わずイホークの手をはらった。
「この人、なんで……」
律が矢で射られた男を見た後イホークの顔を睨み付けると、イホークは首を傾げて律の言っていることが理解できないといった顔をした。
「リツが危険だったからだ」
「でも」
「リツは大切なまれびとだ。怪我をされては一大事だ。さぁ帰るぞ」
「い……いやです」
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「碧のガイアであるリツを傷つけた。大罪だ。男達を捕らえろ」
男達が逃げようとするも、騎士達に囲まれているため無理だった。男達は許してほしいと懇願をするが、容赦なく手を縛られてしまう。見ていて、なんだか哀れになってくる。
「彼らをどうするのですか」
「裁判に」
「有罪なら?」
「死刑か、リツを蹴った足を切り落とされるか、軽ければ鞭打ちといったところか」
「え? やめてください。こんなのただの喧嘩ですから」
「それは私が判断することではない……王の裁量でどうにでもなるだろうが、私は進言するつもりはない。リツが頼めばもしくは……」
イホークは勘がいい。律の心理を一瞬で読み取り、交渉材料にしたのだろう。
「どちらにしろ、このままここにいればまた襲われる」
律はその言葉に、忘れていた背中の痛みがぶり返してきたのを感じ、イヤイヤながらうなずいた。確かにこのまま逃げ切れるとも思えないし、一人では何もできない。わかっていたが、悔しい。
「わかりました。城に帰ります」
律の言葉に、イホークはニコリともせずに律の顔を見ながら馬の背中をポンと叩いた。
「馬には乗れませんから歩いて帰ります」
「私が叱られるからそれはやめてもらいたい。簡単だ。鐙に足を乗せて馬にまたぐだけだ」
何を言っているのだと思ってイホークを見るが、相変わらず表情も変えずにこちらを見ている。体格や無愛想さが龍司とどこか似ていると思っていたのだが、こうやって見ると印象も好感度も雲泥の差だ。龍司の素っ気なさが怖いと言っていた級友達を思い出し、彼らが龍司に抱く感覚は、こんな感じだったのかなと思うことで気を紛らわした。
律は言われたとおりに鐙に足を乗せ、手綱とたてがみを掴んでぴょんと跳ぶがうまく乗れない。運動神経の悪さには自信があるが、ここでもそれは発揮されているようだ。
イホークの顔を見ると、冷たい視線でこちらを見ていた。多分馬鹿にされている。今までこの鈍さを何度笑われてきたことかと思って顔を赤くした。
「手伝おう。私の手に左足を乗せて」
「え、や、それは……」
人の手を踏みつけるなんてと躊躇するが、イホークはしゃがみ込むと、さっさとしろと言わんばかりの目で見てくる。仕方なく律がイホークの手に足を乗せると、ぐいっと持ち上げてくれ、馬に乗ることができた。
馬に乗ったところでどうしていいかわからないでいると、律の後ろにイホークが乗って手綱をとった。
「一人じゃ危険だ」
「あ、はい。でも、馬が重いんじゃ……」
「この馬はタフだから気にするな」
「すいません」
自分の意志で馬に乗ったわけじゃないのに何故だか謝ってしまう。
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