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友
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「ここまでで大丈夫」
律の家は坂の上にある。坂を上ってもらうのは申し訳ないので、坂の下で止まると龍司から離れようとするが、龍司はピッタリとくっついて離れない。
「いや、上まで送るよ」
「いいよ、ここまで送ってもらったんだし。龍司はこれからマンションに帰るんだからさ」
龍司の実家は律の家の近所だが、そこには住まずに一人暮らしをしている。ここからは電車で三駅だ。わざわざここまで送ってくれただけでも嬉しい。
「ここまできたんだから、大して変わらないだろ。家まで送るよ」
「本当にいい。大丈夫。明日も仕事だろ。また飲もうな」
無理矢理に体を離すと、龍司の手が宙をさまよい、ぎゅっと握られた。
表情は変わっていないが、どこか寂しそうに感じる。飲み足りないのだろうか。そういえば、自分の話をしすぎて龍司の話を聞かなかった。自分勝手だと反省をする。
「俺ばっか話してごめん。今度俺が龍司の話聞くからさ。なんなら明日でもいいよ」
明日も会えたらいいと思って、さりげなく提案をする。自分勝手だと反省したばかりなのに、すぐに自分の欲求を口にしてしまった。こういうところがいけないのだろう。
「そうだな。じゃあ、明日も会おう」
龍司の表情が緩んだ気がした。よかったと思って、律も笑う。
「ほら、行けよ」
しっしといったように手を振ると、龍司はチラチラとこちらを振り返りながら帰っていく。同じ歳なのに過保護なのは昔からだ。彼女にも同じだと思っていたが、さっきの話からすると違うのかもしれない。それに少しだけ優越感を抱いた。
「え?」
龍司の背中を見送っていると。なんだか足下がふわっと光った気がして下を見た。
「え、なにこれ」
アスファルトの下から漏れ出てくるような、アスファルト全体が光っているような、そんな感じだ。その光は徐々に強くなって、空に向かって放たれていく。
――なんだこれ、怖い。
離れようとしたが、何かにぶつかってしまい跳ね返された。
「なんだ、これ」
光に手をかざすと、そこには壁のようなものがある。まるで、光の檻に閉じ込められたようだ。地面を見ると、円が描かれておりその円に沿って光が出ていた。円の中には何か文字のようなものが書かれている。
――アニメとかで見る魔方陣みたいだ。そんなことを思うのは厨二病か?
そんなことを冷静に思う自分と、焦ってパニックになる自分がいる。ガンガンと光の壁を叩いて叫ぶが、外に出ることができず、叫び声は、まるで光に吸収されるように一瞬で消えていった。
そうこうしているうちに、足下に違和感を覚えて下を見ると、つま先から膝まで消えている。
「は? は? なんだよ、これ! なに!」
早く逃げなければと思ってぱっと顔を上げると、そこにはこちらに走ってくる龍司の姿があった。必死の形相で手を差し伸べてくる。
無理だ。壁があると思ったが、龍司の手は光の壁を破って律の手を掴む。外からは入れるのか。でも、中からは出られず、何より、体が消えていっているのだ。助けてほしいという思いと同時に、ここに来たら駄目だと思い手を振り払おうとしたが、とても強い力で握られていたため、それはできなかった。手首が折れるのではないかというほどに強く握られている。
龍司は律の様子を気にも留めずに飛び込んでくると、ギュッと抱きしめてくる。
「馬鹿! 何考えてんだ!」
いつも冷静な龍司の行動とは思えない。振り払おうと思っても力が強くてそれは無理だった。龍司の体も一緒に消えていく。
「龍司!」
龍司の匂いに包まれる。馬鹿、馬鹿、と呟きながらも、抱きしめられたまま死ねたら、これ以上の死に方はないな、と少しだけ嬉しくなった。やっぱり龍司よりも律の方が、よっぽど馬鹿なのだろう。
龍司の顔をじっと見つめる。死ぬ前にこの顔を目に焼き付けたい。
龍司も同じようにじっと見つめ返してくると、掌で律の頬に触れた。顔がゆっくりと近づいてくる。なんだかキスをするみたいだと思って、思わず目を瞑ってしまった。
だが、ふいに頬から龍司の手が離れ、体温も感触も消えた。不安になって律が目を開けると、そこは今までいた場所とは全く違う場所で、そこに律はただ一人で立っていた。
律の家は坂の上にある。坂を上ってもらうのは申し訳ないので、坂の下で止まると龍司から離れようとするが、龍司はピッタリとくっついて離れない。
「いや、上まで送るよ」
「いいよ、ここまで送ってもらったんだし。龍司はこれからマンションに帰るんだからさ」
龍司の実家は律の家の近所だが、そこには住まずに一人暮らしをしている。ここからは電車で三駅だ。わざわざここまで送ってくれただけでも嬉しい。
「ここまできたんだから、大して変わらないだろ。家まで送るよ」
「本当にいい。大丈夫。明日も仕事だろ。また飲もうな」
無理矢理に体を離すと、龍司の手が宙をさまよい、ぎゅっと握られた。
表情は変わっていないが、どこか寂しそうに感じる。飲み足りないのだろうか。そういえば、自分の話をしすぎて龍司の話を聞かなかった。自分勝手だと反省をする。
「俺ばっか話してごめん。今度俺が龍司の話聞くからさ。なんなら明日でもいいよ」
明日も会えたらいいと思って、さりげなく提案をする。自分勝手だと反省したばかりなのに、すぐに自分の欲求を口にしてしまった。こういうところがいけないのだろう。
「そうだな。じゃあ、明日も会おう」
龍司の表情が緩んだ気がした。よかったと思って、律も笑う。
「ほら、行けよ」
しっしといったように手を振ると、龍司はチラチラとこちらを振り返りながら帰っていく。同じ歳なのに過保護なのは昔からだ。彼女にも同じだと思っていたが、さっきの話からすると違うのかもしれない。それに少しだけ優越感を抱いた。
「え?」
龍司の背中を見送っていると。なんだか足下がふわっと光った気がして下を見た。
「え、なにこれ」
アスファルトの下から漏れ出てくるような、アスファルト全体が光っているような、そんな感じだ。その光は徐々に強くなって、空に向かって放たれていく。
――なんだこれ、怖い。
離れようとしたが、何かにぶつかってしまい跳ね返された。
「なんだ、これ」
光に手をかざすと、そこには壁のようなものがある。まるで、光の檻に閉じ込められたようだ。地面を見ると、円が描かれておりその円に沿って光が出ていた。円の中には何か文字のようなものが書かれている。
――アニメとかで見る魔方陣みたいだ。そんなことを思うのは厨二病か?
そんなことを冷静に思う自分と、焦ってパニックになる自分がいる。ガンガンと光の壁を叩いて叫ぶが、外に出ることができず、叫び声は、まるで光に吸収されるように一瞬で消えていった。
そうこうしているうちに、足下に違和感を覚えて下を見ると、つま先から膝まで消えている。
「は? は? なんだよ、これ! なに!」
早く逃げなければと思ってぱっと顔を上げると、そこにはこちらに走ってくる龍司の姿があった。必死の形相で手を差し伸べてくる。
無理だ。壁があると思ったが、龍司の手は光の壁を破って律の手を掴む。外からは入れるのか。でも、中からは出られず、何より、体が消えていっているのだ。助けてほしいという思いと同時に、ここに来たら駄目だと思い手を振り払おうとしたが、とても強い力で握られていたため、それはできなかった。手首が折れるのではないかというほどに強く握られている。
龍司は律の様子を気にも留めずに飛び込んでくると、ギュッと抱きしめてくる。
「馬鹿! 何考えてんだ!」
いつも冷静な龍司の行動とは思えない。振り払おうと思っても力が強くてそれは無理だった。龍司の体も一緒に消えていく。
「龍司!」
龍司の匂いに包まれる。馬鹿、馬鹿、と呟きながらも、抱きしめられたまま死ねたら、これ以上の死に方はないな、と少しだけ嬉しくなった。やっぱり龍司よりも律の方が、よっぽど馬鹿なのだろう。
龍司の顔をじっと見つめる。死ぬ前にこの顔を目に焼き付けたい。
龍司も同じようにじっと見つめ返してくると、掌で律の頬に触れた。顔がゆっくりと近づいてくる。なんだかキスをするみたいだと思って、思わず目を瞑ってしまった。
だが、ふいに頬から龍司の手が離れ、体温も感触も消えた。不安になって律が目を開けると、そこは今までいた場所とは全く違う場所で、そこに律はただ一人で立っていた。
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