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母の教えと姫の自覚無き思い

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屋敷に帰ってくつろぐ
だが、侍女が黙っている
いつも煩い者が黙っていると、気が散るというものだ

「……どうした、いつもうるさいそなたが静かだと息が詰まる」

「…未央様、深児様にあのようなことを仰ってよろしいのですか?」

「…何だ、悪いか」

「未央様のお気持ちは分かりますが、あの言葉は少し厳しいかと…」

「私の言ったことは間違ってはおらぬはずだ。それに、私に情などを求める方が愚かというもの。責めるのであればあの女子にしろ」

「いえ、未央様を責めるつもりではありません。ですが、婚約者である深児様にあのような言葉は…」

「…ではどうすれば良かったのだ」

「そうですね…」

「謝ったとしても惨めにさせるだけ。今後はパートナーとして見ると言ったところで、私はいづれ消滅する身だ。どれだけ相手が共に消滅したいと言ったところで私はそれを望まぬ。…私は、あの女子を婚約者として面目とやらを立てただけだ。母が消滅する前に言われたことは忘れておらぬぞ」


…母に言われたこと
「貴女は情を持ってはいけない。男だろうが女だろうが、誰でも裏切るものよ。もちろん私も例外ではないわ。決して他人に情を持ってはいけないの、覚えておきなさい」

…情を持つことがどういうことか母から教わっているが、私には情など持ち合わせておらぬし、母が持ってはいけないと言った以上は持たぬようにしている


「そなたは母の侍女ゆえ、傍に置いていた。母から頼まれたのだろう。母が望むことは叶えるつもりだ。…そなたが何をしようと構わぬ、好きにしろ。ただ、私が何かを望まぬ限りは私のことに口を出すでない。よいか」

「……かしこまりました。申し訳ありません。ただ、一つだけ申し上げてもよろしいですか?」


侍女が私の前で跪く


「…跪いてでも私に言いたいことがあるというか」

「はい」

「…何だ、申せ」

「深児様を離さないでください。きっと未央様にとって必要なお方になるかもしれません」

「…なぜそなたがそう申すのかは分からぬが、分かった。そなたの言葉は覚えておこう。あの女子が私の邪魔をしない限り、離さぬよう心がける」

「…ありがとうございます」

「もうよい、立て。そなたが跪けば私が母に叱られる」

「ふふ。私は未央様の侍女ですから、忠誠を誓うのは当然ですよ?」

「そなたの忠誠など望んでおらぬ」

「酷いです…。私は未央様の侍女として、思うことをお伝えしただけですのに」

「…そなたは時に、母のようになる」

「母君ですか?」

「…ああ。消滅する前の、あの母のような香りがする」

「それはきっと、私が母君のお傍に長く仕えましたから、自然に香りがついたのでしょう」

「…そうだな」

「今日は感傷的でいらっしゃいますね。深児様がおっしゃったことが気にかかるのですか?」

「そうではない。ただ、何となくそなたと話がしたかっただけだ」

「そうですか。…私でよいのならば、いつでもお相手いたします」

「…ああ。疲れた、もう休む。明日も散歩するゆえ、ついてくるがいい」

「はい、かしこまりました」


微笑む侍女
それほど嬉しかったのか
たまには私から誘うのも良かろう
何も起こらねばよいが
いや、それはそれで退屈だな

「おやすみなさいませ」

「ああ」

       ☆

「未央様と深児様は運命で結ばれています。この糸は切っても切っても、切れないものですよ。どうか、未央様の氷の心が、愛という名の火で溶かせる日が来ますように」
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