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姫の婚約者

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………

「居るか」


??「ここに」


「皆を例の場所へ」


??「はっ」


………さて、どうするか
………?

あれは、何者だ?



「何をしている」

「っ!…あっ、ご、ごめんなさい…」

「そなたは……」

「私は…秋男爵家の娘、深児と申します…」


……秋男爵
あぁ、あやつらの仲間か


「何用だ、用がないなら消えろ」

「……あ、あの、私、未央様の婚約者…です」


?何を言っておるのだ?
私の婚約者だと…?


「何を言っておるのか分からぬ」

「私の父と未央様の父君がお決めになったことで……」

「私とそなたが…?」

「はい。あの、そちらに伺っても、よろしいですか?」

「………好きにせよ」

「ありがとうございます」


私の婚約者とは…
ああ、確か、あやつらが言っておったな
私の元に嫁に来るとは、哀れな娘がいたものだ


「私の噂は聞いておろう、怖くないのか?」

「いえ!怖くなど…私はむしろ…未央様と共に生きてゆきたいのです」

「…おかしな娘だ」


私と共に生きてゆきたいとは
この娘も愚かなものよ


「私は…未央様と同じなのです。両親に蔑まれ、酷い扱いを受けています」

「……同情か」

「…いえ。私は未央様の境遇を知り、貴女の容姿を拝見しました。そして、貴女と共に生きていきたいと、そう思ったのです。許されるのなら、未央様のお傍に置いて頂けませんか?」

「………消滅の姫」

「…?」

「消滅の姫だと言われているが、そなたはそれでよいのか?」

「はい。私は貴女様と共に、消滅したい」

「………もの好きにも程がある」

「もの好きで構いません。私は、未央様の傍に居たいのです」

「………好きにしろ」

「はい!」


………厄介な女子が来たものだ
どうせ、この女子も、あやつらと同じなのだろう
人間など、信頼に値しない生き物なのだ
もちろん、私自身も

「私は両親の家に生まれ、幸せに暮らすのだと思っていました…。だけれど、私が生まれたせいで、母が亡くなりました。私の母は父の側室で、父は母を愛していました。母は私の姿を見ることなく…。それで、父は私を憎み、嫡母は私の母を元より気に入らなかったからか私を虐めるようになりました」


…………
親とはそういうものだ


「………分かっています。嫡母は私の母を憎んでいる。夫と側室の間に生まれた子など、愛す価値などないと」


「…望んでいるのか、そなたは」


「…はい。ふふ、我儘ですよね、私」


「…我儘でない人間など、どこにも居らぬ」


「……未央様」


「どのような人間でも、望むことくらいあるだろう」


「……未央様は…無いのですか?」


「無い。望むことなど禁じられている」


「不公平です。なぜ私達のような人間には、何も望ませてくれないのですか?」


「さぁ、知らぬ。望まぬとしても困ることは無かろう」


「……そんなこと…」


「…疲れた、そなたも帰れ。事情は承知した、今後は一声かけてくれ」


「…はい」


………話し相手くらいなら構わん
私も暇が多いからな
名は深児だったか


??「……場は整いました。主君、お出ましを」


「ああ、では行くぞ」


??「はっ」


秋男爵家………
そなたらは何を考えておるか、調べさせてもらうぞ
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