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君と紫陽花の咲く頃に
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くるくるくる、くるくるくる。
蛇の目傘が回っている。
くるくるくる、くるくるくる。
カタツムリの、巻いた殻。
降りしきる雨、濡れた地面。
急いで歩く、あの人は。
下駄の鼻緒もよく締まり。
着物の裾を捌いて歩く。
くるくるくる、くるくるくる。
渦巻き模様と波模様。
着ている着物も、はいからで。
くるくるくる、くるくるくる。
紫陽花の着いたかんざし付けて。
くるくるくる、くるくるくる。
待ち合わせでもあるのかな。
・・・・・・。
「うーん。」
前回は発表会と歓迎会を兼ねているからとは言え。抽象的で難しかったと部長が反省したらしく、今回は読みやすい詩にしてくれたのだが。俺が読むのはこの、くるくるくる、というパートだそうだ。
時間はまた、俺たちが朗読研究会をしていたころに戻っている。部長からタイムオーバーも告げられ、来週には桜の詩も部室の発表会で読むことになっているが、時期的にも桜満開と言ったところでちょうどいいのもある。
「今回は俺は、イメージ音は考えなくてよさそうだな。」
今回も俺は、くるくるのパートを読むことになっている。いつまでもやまない雨の中に、蛇の目傘をくるくる回して、それが渦巻き模様と連想して、カタツムリもいて、波模様もあって、雨の中にいる、と言ったところか。
「文章にはないけど紫陽花のかんざしにもイメージ音、付けたいな。
せっかくアジサイまで出てきているんだし。
ここで最後にイメージ転換でもやったらいいんじゃないかな。」
つけるんだったら待ち合わせの人をイメージさせるような。着物を着て、こんなにめかし込んでいるんだから、相手は大体、予測は着くだろう。後はガラッと意識を変えるフレーズを付けるのみである。
「色気のある、フレーズかな。じゃなかったら……。」
二度目の俺のイメージもそうだが、部長に渡された本を読んで、自分で読み方を作っていくのも結構嵌っていて。ぶつぶつと自分の読むパートを呟きながらイメージしていった。
「くる、くる……あ、そうか。くるくる、と来る、を掛けているんだこれ。」
途中まではずっと、くるくる回る方で読んでいって、読み進めるうちに紫陽花の花が出てきたところで、来る、に本文も転調しているんだ。全部ひらがなだから気づかなかった。
「何だ、本文もそうしているんだ。じゃあ。紫陽花の花のかんざしの前に……。」
前回、散々、悩んだからか、今度は読み方もするっと行けるようになっていた。
―次の日―
「はあい、ランラン。どうだね調子は。」
「部長、今回は俺、いい線行ってると思います。」
「ふふん、いいことじゃないの。じゃあ教えて。」
「はい、まずは―」
俺は放課後、部室に部長と集まるとさっそく昨日の読み進めの報告をした。
「おお、いいじゃない。そうそう。この話は最初はくるくる回る方だったんだけど。
ランランの言う通り、待ち合わせに来る来るに代わっているの。」
「はい。それで、ここで場面が変わるように紫陽花の花のかんざしの所に。
自分で音を入れたいんですが。」
「うん。ランランは何を入れたい?」
「はい。まず第一候補としては。
ここで場面が切り替わるのを、もっと分かりやすくした方がいいかなと。」
「そのためには何をすればいい?」
「はい。さっき言ったように音を入れたいんですけど。
多分これ、デートの待ち合わせだと思うんですよね。」
「そうだね。別におしゃれを楽しんでるのでもいいと思うけど。」
「俺はそう思ったんです。だから。待ち合わせで、雨でも走っていくとなると。」
「ふんふん。」
「早く会いたいか、着きたいか、雨のないところに行きたいかで急いでいると。」
「となると?」
「ここはシンプルに。「ドキドキ、ドキドキ」でいいんじゃないかと。」
「そうねー。場面も変わるし、それを狙うならくるくる、と韻は踏まなくていいかな。
あればやってみる?」
「ありますかね、韻を踏んでる擬音。」
「あとありそうなのは、ソワソワ、トクトク、キュルン、キュルン?」
「近いのはキュルン、キュルンですけど、俺が言っても引かれそうです。」
「オッケー。じゃあドキドキにしよう。
そこだけ私が、くる、くるってランランのドキドキに連唱するよ」
「了解です。それだと女の人の心情にもなりそうですね。」
「とりあえず読んでみて。そしたらまた甘いものを食いに行こう。」
「ういす。」
と、こんな調子で今回は随分、快調に行けたのだった。部長とは部活で朗読の話もしていたから話のネタもあったし、事あるごとに自分の事とか、読んだ本の事とかを間に挟んできたから、話で詰まる事も別になかった。俺もようやく、新歓イベントを経て、ここの部員になれたと思った瞬間でもあった。
・・・・・・。
蛇の目傘が回っている。
くるくるくる、くるくるくる。
カタツムリの、巻いた殻。
降りしきる雨、濡れた地面。
急いで歩く、あの人は。
下駄の鼻緒もよく締まり。
着物の裾を捌いて歩く。
くるくるくる、くるくるくる。
渦巻き模様と波模様。
着ている着物も、はいからで。
くるくるくる、くるくるくる。
紫陽花の着いたかんざし付けて。
くるくるくる、くるくるくる。
待ち合わせでもあるのかな。
・・・・・・。
「うーん。」
前回は発表会と歓迎会を兼ねているからとは言え。抽象的で難しかったと部長が反省したらしく、今回は読みやすい詩にしてくれたのだが。俺が読むのはこの、くるくるくる、というパートだそうだ。
時間はまた、俺たちが朗読研究会をしていたころに戻っている。部長からタイムオーバーも告げられ、来週には桜の詩も部室の発表会で読むことになっているが、時期的にも桜満開と言ったところでちょうどいいのもある。
「今回は俺は、イメージ音は考えなくてよさそうだな。」
今回も俺は、くるくるのパートを読むことになっている。いつまでもやまない雨の中に、蛇の目傘をくるくる回して、それが渦巻き模様と連想して、カタツムリもいて、波模様もあって、雨の中にいる、と言ったところか。
「文章にはないけど紫陽花のかんざしにもイメージ音、付けたいな。
せっかくアジサイまで出てきているんだし。
ここで最後にイメージ転換でもやったらいいんじゃないかな。」
つけるんだったら待ち合わせの人をイメージさせるような。着物を着て、こんなにめかし込んでいるんだから、相手は大体、予測は着くだろう。後はガラッと意識を変えるフレーズを付けるのみである。
「色気のある、フレーズかな。じゃなかったら……。」
二度目の俺のイメージもそうだが、部長に渡された本を読んで、自分で読み方を作っていくのも結構嵌っていて。ぶつぶつと自分の読むパートを呟きながらイメージしていった。
「くる、くる……あ、そうか。くるくる、と来る、を掛けているんだこれ。」
途中まではずっと、くるくる回る方で読んでいって、読み進めるうちに紫陽花の花が出てきたところで、来る、に本文も転調しているんだ。全部ひらがなだから気づかなかった。
「何だ、本文もそうしているんだ。じゃあ。紫陽花の花のかんざしの前に……。」
前回、散々、悩んだからか、今度は読み方もするっと行けるようになっていた。
―次の日―
「はあい、ランラン。どうだね調子は。」
「部長、今回は俺、いい線行ってると思います。」
「ふふん、いいことじゃないの。じゃあ教えて。」
「はい、まずは―」
俺は放課後、部室に部長と集まるとさっそく昨日の読み進めの報告をした。
「おお、いいじゃない。そうそう。この話は最初はくるくる回る方だったんだけど。
ランランの言う通り、待ち合わせに来る来るに代わっているの。」
「はい。それで、ここで場面が変わるように紫陽花の花のかんざしの所に。
自分で音を入れたいんですが。」
「うん。ランランは何を入れたい?」
「はい。まず第一候補としては。
ここで場面が切り替わるのを、もっと分かりやすくした方がいいかなと。」
「そのためには何をすればいい?」
「はい。さっき言ったように音を入れたいんですけど。
多分これ、デートの待ち合わせだと思うんですよね。」
「そうだね。別におしゃれを楽しんでるのでもいいと思うけど。」
「俺はそう思ったんです。だから。待ち合わせで、雨でも走っていくとなると。」
「ふんふん。」
「早く会いたいか、着きたいか、雨のないところに行きたいかで急いでいると。」
「となると?」
「ここはシンプルに。「ドキドキ、ドキドキ」でいいんじゃないかと。」
「そうねー。場面も変わるし、それを狙うならくるくる、と韻は踏まなくていいかな。
あればやってみる?」
「ありますかね、韻を踏んでる擬音。」
「あとありそうなのは、ソワソワ、トクトク、キュルン、キュルン?」
「近いのはキュルン、キュルンですけど、俺が言っても引かれそうです。」
「オッケー。じゃあドキドキにしよう。
そこだけ私が、くる、くるってランランのドキドキに連唱するよ」
「了解です。それだと女の人の心情にもなりそうですね。」
「とりあえず読んでみて。そしたらまた甘いものを食いに行こう。」
「ういす。」
と、こんな調子で今回は随分、快調に行けたのだった。部長とは部活で朗読の話もしていたから話のネタもあったし、事あるごとに自分の事とか、読んだ本の事とかを間に挟んできたから、話で詰まる事も別になかった。俺もようやく、新歓イベントを経て、ここの部員になれたと思った瞬間でもあった。
・・・・・・。
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