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潮の町の神様
カモメが帰る日(この話はこれで完結です)
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「それでは、今までお世話になりました。」
「はーい。」
「うん……。」
それから一か月後。カモメは本当に帰る事となり。俺は俺の家の玄関先でナツミちゃんと二人で見送る事になった。
(今までずっと、俺……一人になったって思った事、あったかな。)
一人暮らし自体はしていたが、親がいなくなって。カモメは一時的に来てくれたが、カモメもいなくなって。ナツミちゃんはいてくれるのはありがたいと思っている。それでも。いつもいてくれて当たり前だったような相手が誰も居なくなる実感が別れ際に急にわいてきた。
繰り返すがナツミちゃんはいてくれるし、そのためにカモメも縁結びをして、大丈夫だと思って離れていくのだが(いられると今度はナツミちゃんとの関係が危うくなるのもあるし)。ちょっと気持ちの切り替えがうまくできていないんだろう。両親の死を目の当たりにしたばかりだから喪失感の方が上回っているというか喪失感に引っ張られているからそっちの感傷に弱いというか。
「大丈夫ですよ、渉さん。今度はナツミさんと過ごす時間を増やして……他の方にも増やして。」
「そ、そうだけどさ。」
カモメはそんな俺の表情を見てか、俺に声を掛けてくれる。
「全く。あんた達は心配しすぎなのよ。
誰だって親きょうだいが急にいなくなったら寂しくなるぐらいあるでしょ。
渉の場合は親の次はカモメだからそれで参っているんでしょ。」
「ああ……うん。ありがとう~ナツミちゃん!」
「あ、こら、ちょっと!」
ナツミちゃんに理解して貰えた喜びで俺は感激すると、ナツミちゃんが慌てたようになる。
「俺さあ、どうしようもないやつだけど、それでも見捨てないでくれる。
ナツミちゃんがいるもんね!」
「はいはい……。」
俺とナツミちゃんのやり取りはいつまでも面倒見て貰う方と見る方になっているようだったが。
「……大丈夫そうですね。」
カモメは俺たちを見ながら改めて思ったようだった。
「ええ。こっちは大丈夫よ。カモメがいなくなるって聞いたから厨房に新しい人だって入れたし。
渉は相変わらずレジと注文聞いて運んでくれているし。」
「はい。私も……もうお役目が本当に無くなってしまったんですね……。」
「うん。今までありがとう、カモメ。」
俺の言葉に。
「はい。」
カモメは嬉しそうに頷くと。
「それでは、私も。今までありがとうございました。」
ぺこりとお辞儀をすると、そのまま神社の方へカモメは歩いていった。
「カモメ、向かうの駅の方じゃないんだ。」
俺の街の大きな神社と、駅は反対方面だった。
「バス停じゃない?」
「それもそうね。」
俺の言葉で気づいたようになる。ナツミちゃんは最後までカモメの正体は知らないままだったし、知られると俺も困るんだけど。
(縁結びの神様の遣いか……。)
俺の神社にそういう神様がいたとは。今度お守りでも買ってこようかなと俺は思っていた。
・・・・・・。
――それから俺たちがどうなったのかと言うと――
「……ふう、ふう……。」
俺は山道を登りながら神社のある道へと向かって行く。山といっても傾斜のある舗装された道だし、舗装されていない山道の奥まで行かず、そこからちょっと歩いただけで神社はあるのだが。
「ふう、着いた。」
俺は俺の町にある大きな神社……の手前にある、今の時期だけ来ている出店に寄ってみる。
「すみません、この、大根飴ください。あと、べっこう飴とニッキ飴。」
「はいよ~。」
出店の人から飴を買い、袋から一つだけ取り出すと、舐めながら参拝するために、神社の門の端っこをくぐっていく。この時期だけやってくる飴屋は俺のお気に入りなのだった。
「おお~。賑わっているな~。」
俺は参拝客で、平日にもかかわらず人のいる様子を見て、地元に集まる観光客が相変わらずいるんだなあと、ほのぼのとしていた。
「まあ、俺も用事を済ませるか。」
俺はいつものように境内に並ぶ人に交じって並び、神社にお参りをする。
「今年こそは、ナツミちゃんと結婚できますように……。」
あれから数年後、俺はナツミちゃんと付き合うことにはなったし、新しい就職先も、前働いていた会社の実務経験をアピールしたら採用され再就職も達成したのだが、ナツミちゃんとは付き合えてはいるが、まだ結婚できていなかった。結婚だけはできていなかった。まあ、あるよな。生活資金とか、まだ遊んでいたいのとか。そんな余裕まだないわとか。若い女の子だもんな。仲が悪い訳ではなく、むしろ良すぎるぐらいなんだけど。
「俺も家族に飢えているのかな~。お守り買って帰ろう。」
結婚したいのは俺だけなんだろうかと不安になった俺は参拝を済ませると、縁結びの神様がここの主祀神なんだからきっとご利益があるはずだと思い、売店に向かおうとすると。
みゃあっ、みゃあっ。
「おお……。」
俺の上空……。神社から、丁度海が見える大鳥居の前の高台近くに俺は来ていたようだった。そこにはカモメがクルクルと空を旋回していた。
「……うん。そうだね、カモメ……。」
俺は丁度、このあたり近くでカモメと再開したのを思い返していた。
「飴も買ったし、お守りも買ったら。海でも見てこようかな……。」
俺は売店に目を向け直すと。お守りを買うためにそこに歩いていった……。
「はーい。」
「うん……。」
それから一か月後。カモメは本当に帰る事となり。俺は俺の家の玄関先でナツミちゃんと二人で見送る事になった。
(今までずっと、俺……一人になったって思った事、あったかな。)
一人暮らし自体はしていたが、親がいなくなって。カモメは一時的に来てくれたが、カモメもいなくなって。ナツミちゃんはいてくれるのはありがたいと思っている。それでも。いつもいてくれて当たり前だったような相手が誰も居なくなる実感が別れ際に急にわいてきた。
繰り返すがナツミちゃんはいてくれるし、そのためにカモメも縁結びをして、大丈夫だと思って離れていくのだが(いられると今度はナツミちゃんとの関係が危うくなるのもあるし)。ちょっと気持ちの切り替えがうまくできていないんだろう。両親の死を目の当たりにしたばかりだから喪失感の方が上回っているというか喪失感に引っ張られているからそっちの感傷に弱いというか。
「大丈夫ですよ、渉さん。今度はナツミさんと過ごす時間を増やして……他の方にも増やして。」
「そ、そうだけどさ。」
カモメはそんな俺の表情を見てか、俺に声を掛けてくれる。
「全く。あんた達は心配しすぎなのよ。
誰だって親きょうだいが急にいなくなったら寂しくなるぐらいあるでしょ。
渉の場合は親の次はカモメだからそれで参っているんでしょ。」
「ああ……うん。ありがとう~ナツミちゃん!」
「あ、こら、ちょっと!」
ナツミちゃんに理解して貰えた喜びで俺は感激すると、ナツミちゃんが慌てたようになる。
「俺さあ、どうしようもないやつだけど、それでも見捨てないでくれる。
ナツミちゃんがいるもんね!」
「はいはい……。」
俺とナツミちゃんのやり取りはいつまでも面倒見て貰う方と見る方になっているようだったが。
「……大丈夫そうですね。」
カモメは俺たちを見ながら改めて思ったようだった。
「ええ。こっちは大丈夫よ。カモメがいなくなるって聞いたから厨房に新しい人だって入れたし。
渉は相変わらずレジと注文聞いて運んでくれているし。」
「はい。私も……もうお役目が本当に無くなってしまったんですね……。」
「うん。今までありがとう、カモメ。」
俺の言葉に。
「はい。」
カモメは嬉しそうに頷くと。
「それでは、私も。今までありがとうございました。」
ぺこりとお辞儀をすると、そのまま神社の方へカモメは歩いていった。
「カモメ、向かうの駅の方じゃないんだ。」
俺の街の大きな神社と、駅は反対方面だった。
「バス停じゃない?」
「それもそうね。」
俺の言葉で気づいたようになる。ナツミちゃんは最後までカモメの正体は知らないままだったし、知られると俺も困るんだけど。
(縁結びの神様の遣いか……。)
俺の神社にそういう神様がいたとは。今度お守りでも買ってこようかなと俺は思っていた。
・・・・・・。
――それから俺たちがどうなったのかと言うと――
「……ふう、ふう……。」
俺は山道を登りながら神社のある道へと向かって行く。山といっても傾斜のある舗装された道だし、舗装されていない山道の奥まで行かず、そこからちょっと歩いただけで神社はあるのだが。
「ふう、着いた。」
俺は俺の町にある大きな神社……の手前にある、今の時期だけ来ている出店に寄ってみる。
「すみません、この、大根飴ください。あと、べっこう飴とニッキ飴。」
「はいよ~。」
出店の人から飴を買い、袋から一つだけ取り出すと、舐めながら参拝するために、神社の門の端っこをくぐっていく。この時期だけやってくる飴屋は俺のお気に入りなのだった。
「おお~。賑わっているな~。」
俺は参拝客で、平日にもかかわらず人のいる様子を見て、地元に集まる観光客が相変わらずいるんだなあと、ほのぼのとしていた。
「まあ、俺も用事を済ませるか。」
俺はいつものように境内に並ぶ人に交じって並び、神社にお参りをする。
「今年こそは、ナツミちゃんと結婚できますように……。」
あれから数年後、俺はナツミちゃんと付き合うことにはなったし、新しい就職先も、前働いていた会社の実務経験をアピールしたら採用され再就職も達成したのだが、ナツミちゃんとは付き合えてはいるが、まだ結婚できていなかった。結婚だけはできていなかった。まあ、あるよな。生活資金とか、まだ遊んでいたいのとか。そんな余裕まだないわとか。若い女の子だもんな。仲が悪い訳ではなく、むしろ良すぎるぐらいなんだけど。
「俺も家族に飢えているのかな~。お守り買って帰ろう。」
結婚したいのは俺だけなんだろうかと不安になった俺は参拝を済ませると、縁結びの神様がここの主祀神なんだからきっとご利益があるはずだと思い、売店に向かおうとすると。
みゃあっ、みゃあっ。
「おお……。」
俺の上空……。神社から、丁度海が見える大鳥居の前の高台近くに俺は来ていたようだった。そこにはカモメがクルクルと空を旋回していた。
「……うん。そうだね、カモメ……。」
俺は丁度、このあたり近くでカモメと再開したのを思い返していた。
「飴も買ったし、お守りも買ったら。海でも見てこようかな……。」
俺は売店に目を向け直すと。お守りを買うためにそこに歩いていった……。
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