潮の町の神様

白石華

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潮の町の神様

レジ打ち実践初回

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「お客さん、少なくなってきたから、レジ打ちの練習、してみる?」
「うん。」

 今日も怒涛の人捌き……しかも山場の土曜日を迎え、普段の五倍くらい疲労困憊な中、ナツミちゃんについてもらってレジ打ちをすることになった。

「―円になります。」

 ナツミちゃんにテーブル番号に合わせた代金の伝票を見せて貰い、それをお客さんに言う。

「ああ、新しい子がすることになったんだ。」
「はい、そうなんです。最初だからちょっとトロくても許してあげてください。」

 ナツミちゃんも頭を下げながら俺の紹介をしてくれて。

「大変だろうけどね、頑張って。ハイお金。」
「あ、ありがとうございます。」

 俺は初めて、ここに来たお客さんに声を掛けて貰えた。とは言え感激している間もなく、お礼を済ませるとレジを打って、出てきたレシートを見ながらお釣りを渡す。

「―円になります。」
「はい。ありがとうね。」

 随分と丁寧なお客さんは俺に声を掛けると、そのまま去っていった。

「丁寧な人だったな。」
「ああ、あの人、ここの漁師さんなの。近い商売で関係がある人だから。
 ちょっとこっちにも話しかけてくるし丁寧なのよね。」
「へー。」

 うちも定食屋だけど地元の魚も扱っているし、持ちつ持たれつの関係なのか。

「アンタもレジ打ち、練習してきたのね。指、利き手に絆創膏巻いてるじゃない。」
「う、うん。まだまだ動きは遅いけどね。ナツミちゃんたちと比べたら全然。」
「それはもう、こっちは打ち慣れてるもん。じゃ、明日でどれだけ打てるようになるか。
 見て行ってあげる。」
「今日も来てくれるの?」
「うん。隣だから泊ってもいいって親からも言われたし。」

 随分理解があるというか、面倒見のいい家族なんだな、ナツミちゃんの家は。いくら仕事を教えるためとは言え。そこまで許して貰えるのは俺と幼馴染なのもあるだろうがカモメも俺の家にいるから、男女で二人きりにならないためなんだろうけど。

「アンタにレジ打ちと電卓計算、夏祭りまでに覚えさせるって言ったら。
 二つ返事でオーケー貰ったわ。」
「そんなに過酷なの。しかも夏祭りって電卓もするの。」
「そうね。だから覚えること、まだあるわよ。」

 と思ったら近くに待ち受けている大イベントを迎えるための切実な理由だった。

「じゃ、夜になったらアンタんち行くから。」
「うん、待っているよ。お疲れさまでした。」
「はーい。」

 俺は周りにお疲れ様でしたを言うと、自分の家に戻っていった。

「ただい……ま。」
「大丈夫ですか、渉さん。」

 土曜日の仕事は覚悟していたがハードだったため、玄関先にたどり着くと緊張の糸が切れて、足腰立たなくなる俺。

「とりあえずシャワー浴びて着替えたら、ナツミちゃんが来るまで寝ている。」
「それだともう、お風呂もくまれて入ってください。歩けます?」
「それは何とか。」

 俺はよろよろとした足取りで浴室に向かうと。シャワーを浴びて風呂にも入ったのだった。

「うおう。もう寝ていた。」

 気づいたら俺は着替えてベッドの中で眠っていたようだ。昨夜と同じパターンである。時間は……そろそろナツミちゃんが来る時間帯で。

「髪と口だけでも綺麗にしておかないと。あと服のシワは……無理だからとりあえず鏡。」

 最低限の身支度を整えて、ナツミちゃんを待つことにした。
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