潮の町の神様

白石華

文字の大きさ
上 下
21 / 30
潮の町の神様

レジ打ち特訓の日々が始まる

しおりを挟む
「ただいまー。」
「お帰りなさい、渉さん。」

 ナツミちゃんがいたときは随分にぎやかだったが。カモメだけに出迎えられて静かな金曜日が送れそうだ。カモメがいるだけで出迎えてくれる人はいるけどな。

「どうしたんですか、その荷物。」

 カモメが俺がナツミちゃんに持たされたレジを見たようだ。

「ああ、これ? お祭りまでにレジ打ち覚えてって貸してもらったの。」
「そうなんですか。じゃあさっそく、今日から練習、されるんですか?」
「そうだね。メニュー表も貰ったし。まずはこれ見て打ち方から。」
「それだと、家計簿も付けられるといいかもしれませんね。電卓で計算して。」
「ああ、計算と手に慣れそうだね。」

 他にも、お釣りを間違えたり桁を間違えたりしたら大変だから、それもしっかり、打てるようにしておかないとな。まさか自分もそうする日がやってくるとは思わなかったけど。他にも偽札とか偽の小銭とかもあるらしいし。という訳で練習に打ってみることに。

 ぽち、ぽち……。

 初めて打つレジは随分、手際が悪かった。これは打つ練習をしておかないと危ない。今日は指の運動だけで終わった。

「お疲れさまでした。」
「ありがとう。」

 それから数時間ぐらい経って。俺の手が疲れて動かせなくなったのを見計らってカモメがおしぼりとお茶を持って来てくれた。

「手が疲れたときはよく解した方がいいですよ。」
「何から何まで、ありがとうね。」

 俺はおしぼりで手を揉むように拭いて、準備運動でするみたいに手を握ったり開いたりする。

「お疲れですか?」
「うーん、疲れたんだけど具体的には、手が動かなくて反応も鈍いから。
 自分のトロさで余計に疲れたって感じ。」
「それじゃあ、しばらくこうされますか?」
「そうだね。おしぼり持って来てくれたカモメには悪いけど。
 今日は寝るまでここでレジ打っているよ。」
「はい、腱鞘炎には気を付けてくださいね。あと明日もありますから。
 根を詰めるなら明日の方がいいかもしれません。」
「あ、そっか。メニュー表とかお冷が持てなかったら大変だ。
 もうちょっとだけ、やってるよ。カモメは寝ていて。」
「はい。」

 一日でやれるようになれる訳がないのだが、俺はレジ打ちの練習をしていた。多分、ナツミちゃんがいなかったらここまですることはなかっただろうし、カモメの存在にも励まされている。今の俺ならやれるんじゃないか。そういう、根拠のない自信がいつの間にか俺の中に芽生え、それが起爆剤になっている気がする。

 ・・・・・・。

 チチチチ、チチチチ……。

「うお。いつのまにか寝ていた。」

 次の日。きちんと床に就いて、布団で寝ていたのだが、それまでの過程を全く覚えていない。

「手は……大丈夫か。」

 一応、確認したが、手を握ったり開いたりしても大丈夫だし物だって掴めた。

「危ないところだったな。働く前からやる気出してしまった。」

 俺は一応、肩の回り方も確認して、茶の間に向かった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

隠れドS上司をうっかり襲ったら、独占愛で縛られました

加地アヤメ
恋愛
商品企画部で働く三十歳の春陽は、周囲の怒涛の結婚ラッシュに財布と心を痛める日々。結婚相手どころか何年も恋人すらいない自分は、このまま一生独り身かも――と盛大に凹んでいたある日、酔った勢いでクールな上司・千木良を押し倒してしまった!? 幸か不幸か何も覚えていない春陽に、全てなかったことにしてくれた千木良。だけど、不意打ちのように甘やかしてくる彼の思わせぶりな言動に、どうしようもなく心と体が疼いてしまい……。「どうやら私は、かなり独占欲が強い、嫉妬深い男のようだよ」クールな隠れドS上司をうっかりその気にさせてしまったアラサー女子の、甘すぎる受難!

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

パート先の店長に

Rollman
恋愛
パート先の店長に。

教え子に手を出した塾講師の話

神谷 愛
恋愛
バイトしている塾に通い始めた女生徒の担任になった私は授業をし、その中で一線を越えてしまう話

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる

ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。 幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。 幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。 関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。

スパルタ上司と甘くとろけるチョコレートキス

散りぬるを
恋愛
2月14日バレンタインデー。その日、大園紗和(26)は朝から頭を悩ませていた。 物腰柔らかな口調とは裏腹に、妥協を許さないスパルタ上司ーー米山将彦(34)にチョコを渡すかどうかで。 それは「日頃のお礼として」用意したチョコだったのだが、米山に対して苦手意識を持つ紗和は、昼休みになっても渡せずにいた。しかし、ふいに訪れた2人きりの時間。そしてまさかの、米山からの告白。 会社では見せることのない米山の意外な一面に、紗和はドキドキしてしまって……? 最初から最後まで甘い、バレンタインデーをテーマにした短編です。 ※ムーンライトノベルズからの転載です。

一夏の性体験

風のように
恋愛
性に興味を持ち始めた頃に訪れた憧れの年上の女性との一夜の経験

処理中です...