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潮の町の神様
レジ打ち特訓の日々が始まる
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「ただいまー。」
「お帰りなさい、渉さん。」
ナツミちゃんがいたときは随分にぎやかだったが。カモメだけに出迎えられて静かな金曜日が送れそうだ。カモメがいるだけで出迎えてくれる人はいるけどな。
「どうしたんですか、その荷物。」
カモメが俺がナツミちゃんに持たされたレジを見たようだ。
「ああ、これ? お祭りまでにレジ打ち覚えてって貸してもらったの。」
「そうなんですか。じゃあさっそく、今日から練習、されるんですか?」
「そうだね。メニュー表も貰ったし。まずはこれ見て打ち方から。」
「それだと、家計簿も付けられるといいかもしれませんね。電卓で計算して。」
「ああ、計算と手に慣れそうだね。」
他にも、お釣りを間違えたり桁を間違えたりしたら大変だから、それもしっかり、打てるようにしておかないとな。まさか自分もそうする日がやってくるとは思わなかったけど。他にも偽札とか偽の小銭とかもあるらしいし。という訳で練習に打ってみることに。
ぽち、ぽち……。
初めて打つレジは随分、手際が悪かった。これは打つ練習をしておかないと危ない。今日は指の運動だけで終わった。
「お疲れさまでした。」
「ありがとう。」
それから数時間ぐらい経って。俺の手が疲れて動かせなくなったのを見計らってカモメがおしぼりとお茶を持って来てくれた。
「手が疲れたときはよく解した方がいいですよ。」
「何から何まで、ありがとうね。」
俺はおしぼりで手を揉むように拭いて、準備運動でするみたいに手を握ったり開いたりする。
「お疲れですか?」
「うーん、疲れたんだけど具体的には、手が動かなくて反応も鈍いから。
自分のトロさで余計に疲れたって感じ。」
「それじゃあ、しばらくこうされますか?」
「そうだね。おしぼり持って来てくれたカモメには悪いけど。
今日は寝るまでここでレジ打っているよ。」
「はい、腱鞘炎には気を付けてくださいね。あと明日もありますから。
根を詰めるなら明日の方がいいかもしれません。」
「あ、そっか。メニュー表とかお冷が持てなかったら大変だ。
もうちょっとだけ、やってるよ。カモメは寝ていて。」
「はい。」
一日でやれるようになれる訳がないのだが、俺はレジ打ちの練習をしていた。多分、ナツミちゃんがいなかったらここまですることはなかっただろうし、カモメの存在にも励まされている。今の俺ならやれるんじゃないか。そういう、根拠のない自信がいつの間にか俺の中に芽生え、それが起爆剤になっている気がする。
・・・・・・。
チチチチ、チチチチ……。
「うお。いつのまにか寝ていた。」
次の日。きちんと床に就いて、布団で寝ていたのだが、それまでの過程を全く覚えていない。
「手は……大丈夫か。」
一応、確認したが、手を握ったり開いたりしても大丈夫だし物だって掴めた。
「危ないところだったな。働く前からやる気出してしまった。」
俺は一応、肩の回り方も確認して、茶の間に向かった。
「お帰りなさい、渉さん。」
ナツミちゃんがいたときは随分にぎやかだったが。カモメだけに出迎えられて静かな金曜日が送れそうだ。カモメがいるだけで出迎えてくれる人はいるけどな。
「どうしたんですか、その荷物。」
カモメが俺がナツミちゃんに持たされたレジを見たようだ。
「ああ、これ? お祭りまでにレジ打ち覚えてって貸してもらったの。」
「そうなんですか。じゃあさっそく、今日から練習、されるんですか?」
「そうだね。メニュー表も貰ったし。まずはこれ見て打ち方から。」
「それだと、家計簿も付けられるといいかもしれませんね。電卓で計算して。」
「ああ、計算と手に慣れそうだね。」
他にも、お釣りを間違えたり桁を間違えたりしたら大変だから、それもしっかり、打てるようにしておかないとな。まさか自分もそうする日がやってくるとは思わなかったけど。他にも偽札とか偽の小銭とかもあるらしいし。という訳で練習に打ってみることに。
ぽち、ぽち……。
初めて打つレジは随分、手際が悪かった。これは打つ練習をしておかないと危ない。今日は指の運動だけで終わった。
「お疲れさまでした。」
「ありがとう。」
それから数時間ぐらい経って。俺の手が疲れて動かせなくなったのを見計らってカモメがおしぼりとお茶を持って来てくれた。
「手が疲れたときはよく解した方がいいですよ。」
「何から何まで、ありがとうね。」
俺はおしぼりで手を揉むように拭いて、準備運動でするみたいに手を握ったり開いたりする。
「お疲れですか?」
「うーん、疲れたんだけど具体的には、手が動かなくて反応も鈍いから。
自分のトロさで余計に疲れたって感じ。」
「それじゃあ、しばらくこうされますか?」
「そうだね。おしぼり持って来てくれたカモメには悪いけど。
今日は寝るまでここでレジ打っているよ。」
「はい、腱鞘炎には気を付けてくださいね。あと明日もありますから。
根を詰めるなら明日の方がいいかもしれません。」
「あ、そっか。メニュー表とかお冷が持てなかったら大変だ。
もうちょっとだけ、やってるよ。カモメは寝ていて。」
「はい。」
一日でやれるようになれる訳がないのだが、俺はレジ打ちの練習をしていた。多分、ナツミちゃんがいなかったらここまですることはなかっただろうし、カモメの存在にも励まされている。今の俺ならやれるんじゃないか。そういう、根拠のない自信がいつの間にか俺の中に芽生え、それが起爆剤になっている気がする。
・・・・・・。
チチチチ、チチチチ……。
「うお。いつのまにか寝ていた。」
次の日。きちんと床に就いて、布団で寝ていたのだが、それまでの過程を全く覚えていない。
「手は……大丈夫か。」
一応、確認したが、手を握ったり開いたりしても大丈夫だし物だって掴めた。
「危ないところだったな。働く前からやる気出してしまった。」
俺は一応、肩の回り方も確認して、茶の間に向かった。
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