潮の町の神様

白石華

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潮の町の神様

浮かれた次の日の仕事

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「ハイ次、これ持って行って!」
「はーい!」
「ここにもあるからね、忘れないで! 冷めてからじゃ作り直しだよ!」
「はい!」

 金曜日のランチタイムだが既に満席で行列も数人、作られている。テーブルさばきを手早く済ませて次のお客さんを呼びこまないと、どんどん人が溜まっていく悪循環になり、親父さんもおかみさんも手が速いからどんどん料理の作り置きもたまってくるという状況だった。どんどん、どんどんである。

(まだ金曜午後なのに、既にたくさんの人が。)

 観光地だから油断すると大変なことになるという例だった。週末と言っても明日ほどは大変じゃないだろうと思っていたが、既に大変だった。こんな状況がランチタイムのピークを過ぎても終わらず、結局ランチタイムギリギリまで続いていた。締め切りを作らないと際限なくお客さんは訪れるのだろう。

 ・・・・・・。

「おおおお……脚と腰に来た。」
「お疲れ様。」

 俺はテーブルにぐったりとなって、毎度のウーロン茶を貰っていた。

「今が海のある町のかき入れ時、と言っても、観光地だから秋でも冬でも来てくれるのよね。」
「海だけじゃなくて山も川も、近くには湖もありますからね。」

 俺はおかみさんと話していたが改めてここいら周辺は観光地として場所の良さに恩恵を受けていると思った。

「日曜日はみんなここいら一帯、休みだし。
 うちも休みだから明日を乗り切ったら休んでいいからね。」
「はい。明後日もこれじゃ、体がもたないから大丈夫です。」

 日曜日と言えばみんな休みの日なのに、どうして飲食店も休みなんだという言葉は、その通りにしたらマジで体がぶっ壊れるから聞かないことにして。

「あ、そうだ渉。」
「何? ナツミちゃん。」

 ナツミちゃんにも声を掛けられた。

「アンタそろそろ、レジ打ちも覚えて貰うわよ。」
「そういえばそうだったね。」
「ウチで使わないレジがあるから、持って帰ってそれ練習にして。
 メニュー表も渡しておくから。それ見て適当にメニュー決めて、計算して打って。」
「あ、うん。」
「営業時間外の、お店の勉強だし、後でなんか、差し入れに持って行ってあげるから。」
「え。ありがとう。来てくれるんだ。」
「それに、教わると言っても人がいないと分からないことだってあるでしょ?」
「おお……ありがとう。」

 至れり尽くせりのナツミちゃんの教え方に俺は感動を覚える。そういうことがやれるし、やって貰えるのも、家族経営で、ある程度は家族間で面倒を見て何とかするところだろうな。給料はそんなにいいわけじゃないけど。一昨日の夜のことからもあるし、その分、随分面倒を見て貰っている気がする。

「じゃあ、持ってくるから今日はアンタそれ、持って帰ってね。」
「うん。」
「今日も飲みに誘いたいけど、明日もあるからそれはまた今度ね。」
「そうだね。」

 週末一日目の勤労はこうして終わった。
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