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潮の町の神様
渉の気持ち
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「定食A二人前、定食B三人前、これすぐ持って行って!」
「はい!」
「こっちは定食Cと定食A、お子様ランチも持って行って。
お子様連れてお待たせしているから、お待たせしましたってちゃんと言ってね!」
「はい!」
ランチタイムはメニューが少ない代わりに山のように作った仕込みがどんどん減っていき。現れては去っていくお客さんに次々と配っていった。ちなみにナツミちゃんとナツミちゃんのお母さんはそれに併せてレジまで打っている。揚げ物は二度揚げも可能なのと、そうすると衣が美味しくなるからか、手が空いている内にストックを作っているな。
(うへえ。流石、海がある夏の観光地。どんどんお客さんがやってくるな。)
俺も簡単なかき氷とかジュース汲みとかならメニューも作れるため手伝っていったが、それでも追いつかない。しかも店を出たお客さんのテーブル片付けもあるし、外で待っているお客さんに声かけもある。
(これはカモメに手伝って貰っても足りないぐらいだ……。)
俺が手伝うのは一番、お客さんが入るランチタイムのみだが、平日でこれだと週末や盆休みだとどうなるのか想像するのも怖かった。
・・・・・・。
「はい。お疲れ様。」
「ありがとうございます……。」
ランチタイム終了後。俺はナツミちゃんのお母さんからキンキンに冷えたウーロン茶を貰っていた。
「おお……茶がうまい。」
「結構初日から大変だったでしょ?」
「はい。これを家族だけで回していたんですか?」
「そうよ。でもお客さんが来るお陰でお店も続けられるんだけどね!」
「そうですね。」
あれだけのお客さんをさばいた後でもナツミちゃんのお母さんは元気だった。どうやったらいつも元気でいられるのか、俺とは根本的に身体の作りが違う。
「明日からはカモメちゃんも仕込みに来てくれるみたいだから、少しは楽になるかしらね。」
「あ、もうカモメのこと知ってるんですか?」
「そうよ! 娘がね、すぐに教えてくれたの! 人も欲しいって思っていたから丁度良かったわ!」
本当にナツミちゃんのお母さんは元気だった。
「渉君、よく来てくれたね。」
ナツミちゃんのお父さんも片づけをテキパキと終わらせてこっちに挨拶に来てくれた。
「いえ。こちらこそ、お仕事を頂けてありがたかったです。」
「ああ。いいんだよ。人が来てくれるのはありがたいからね。」
俺はまだ、仕事を貰ったばかりなのだが随分と歓迎されている。最初の内はそういうものかもしれないが、そこで調子に乗らずに腰を低くしていればいいのだろうか。仕事経験はそこまであるものじゃないが、そういう風に目上の人とは上下関係を作っていた。
「お疲れ様。」
ナツミちゃんも来てくれた。
「最初だけどミスもなかったし、あっても他にオーダーがあれば回しちゃうんだけど。
結構やれていたんじゃない?」
「えっ本当!?」
ナツミちゃんはこういう事で嘘は吐かなさそうだったから喜ぶ俺。
「うん。後はカモメ。今年の夏も乗り切れそうね。」
「そうだね! ナツミちゃんにそう言って貰えると嬉しいよ俺!」
「その意気よ。やる気出していかないと。」
「うん、うん!」
「あんた、元気なくなっていたと思ったけど、ちゃんと出せるのね。」
「あ、うん。」
言われてみれば。カモメが出てきた辺りから雲行きが脱線していたが俺はそういう境遇だったのを思い出した。
「ナツミちゃん、心配してくれていたんだ。」
「当たり前でしょ。幼馴染なんだから。
隣の子がいきなり天涯孤独になって消沈していたらほっとけるわけないじゃない。」
「……うん。俺も、いきなり目標が無くなっちゃったからな。」
「若い人でも簡単に弱っちゃう話も聞くし。近所でそういう事があればね。」
「ありがとう、ナツミちゃん。」
「そうよー。お店に来たからには、元気出して貰わないと!」
ナツミちゃんのお母さんは常に元気だった。
「は、はいっ。」
「ナツミもここでは愛想笑いも覚えたからね。」
「もうずっと言われたわよ。お陰でオフじゃ素になると一ミリも笑わなくなったけどね。」
「渉君は、物腰は低いのはいいことだから、あとは営業でもいいから愛想よくしてね!
若い子なんだから、元気出して! 暗い顔だとお客さん来なくなっちゃう!」
「あ、はい。」
俺、そんなに愛想よくなかったんだ。直さないとだな。おかみさんにも色々言われるからか、俺のこれからやることがどんどん増えているような気がする。
「……。」
俺はここで、もう一度やることにしている間は、ときどき俺の身におとずれていた虚無感は無くなっていけそうだった。
「ありがとうございます。宜しくお願いします。」
俺はナツミちゃんとご両親の前で大きく頭を下げた。
「うん。挨拶がやれるなら最初はそれでいいんじゃない?」
「そうね! やる気のある内にいっぱい覚えてね!」
「渉君も、そういうことやるようになったんだな。」
ナツミちゃんとご両親は俺を見守ってくれているような、元気づけてくれているような、俺のことを感慨深く見てくれているような。隣の家の人に面倒を見て貰うのは最初は遠慮や気恥ずかしさを作っていたような気がしていたが、これからお世話になるところで、子供の頃は面倒も見て貰っていたところだから、もっと馴染んで、働きやすくしていこうと思いつつあった。それに。
(俺、働いていて、雇い主から元気づけられて応えられた事ってあったかな。)
俺は雇ってもらう身でありながら、入ったばかりの頃はいつも雇い主から元気づけられていたような気がする。しかも今回は両親が亡くなって、仕事先も倒産した後だ。よくよく思ってみれば倒産した会社の人からも労って貰えていた気がする。仕事をしている内に麻痺していくが俺は恵まれていた方なんじゃないかと思っていてもどうにもならなかったのだから、ここでぐらいは、きちんと働けるようになるまでは、やっていきたいと思ってきた。
「はい!」
「こっちは定食Cと定食A、お子様ランチも持って行って。
お子様連れてお待たせしているから、お待たせしましたってちゃんと言ってね!」
「はい!」
ランチタイムはメニューが少ない代わりに山のように作った仕込みがどんどん減っていき。現れては去っていくお客さんに次々と配っていった。ちなみにナツミちゃんとナツミちゃんのお母さんはそれに併せてレジまで打っている。揚げ物は二度揚げも可能なのと、そうすると衣が美味しくなるからか、手が空いている内にストックを作っているな。
(うへえ。流石、海がある夏の観光地。どんどんお客さんがやってくるな。)
俺も簡単なかき氷とかジュース汲みとかならメニューも作れるため手伝っていったが、それでも追いつかない。しかも店を出たお客さんのテーブル片付けもあるし、外で待っているお客さんに声かけもある。
(これはカモメに手伝って貰っても足りないぐらいだ……。)
俺が手伝うのは一番、お客さんが入るランチタイムのみだが、平日でこれだと週末や盆休みだとどうなるのか想像するのも怖かった。
・・・・・・。
「はい。お疲れ様。」
「ありがとうございます……。」
ランチタイム終了後。俺はナツミちゃんのお母さんからキンキンに冷えたウーロン茶を貰っていた。
「おお……茶がうまい。」
「結構初日から大変だったでしょ?」
「はい。これを家族だけで回していたんですか?」
「そうよ。でもお客さんが来るお陰でお店も続けられるんだけどね!」
「そうですね。」
あれだけのお客さんをさばいた後でもナツミちゃんのお母さんは元気だった。どうやったらいつも元気でいられるのか、俺とは根本的に身体の作りが違う。
「明日からはカモメちゃんも仕込みに来てくれるみたいだから、少しは楽になるかしらね。」
「あ、もうカモメのこと知ってるんですか?」
「そうよ! 娘がね、すぐに教えてくれたの! 人も欲しいって思っていたから丁度良かったわ!」
本当にナツミちゃんのお母さんは元気だった。
「渉君、よく来てくれたね。」
ナツミちゃんのお父さんも片づけをテキパキと終わらせてこっちに挨拶に来てくれた。
「いえ。こちらこそ、お仕事を頂けてありがたかったです。」
「ああ。いいんだよ。人が来てくれるのはありがたいからね。」
俺はまだ、仕事を貰ったばかりなのだが随分と歓迎されている。最初の内はそういうものかもしれないが、そこで調子に乗らずに腰を低くしていればいいのだろうか。仕事経験はそこまであるものじゃないが、そういう風に目上の人とは上下関係を作っていた。
「お疲れ様。」
ナツミちゃんも来てくれた。
「最初だけどミスもなかったし、あっても他にオーダーがあれば回しちゃうんだけど。
結構やれていたんじゃない?」
「えっ本当!?」
ナツミちゃんはこういう事で嘘は吐かなさそうだったから喜ぶ俺。
「うん。後はカモメ。今年の夏も乗り切れそうね。」
「そうだね! ナツミちゃんにそう言って貰えると嬉しいよ俺!」
「その意気よ。やる気出していかないと。」
「うん、うん!」
「あんた、元気なくなっていたと思ったけど、ちゃんと出せるのね。」
「あ、うん。」
言われてみれば。カモメが出てきた辺りから雲行きが脱線していたが俺はそういう境遇だったのを思い出した。
「ナツミちゃん、心配してくれていたんだ。」
「当たり前でしょ。幼馴染なんだから。
隣の子がいきなり天涯孤独になって消沈していたらほっとけるわけないじゃない。」
「……うん。俺も、いきなり目標が無くなっちゃったからな。」
「若い人でも簡単に弱っちゃう話も聞くし。近所でそういう事があればね。」
「ありがとう、ナツミちゃん。」
「そうよー。お店に来たからには、元気出して貰わないと!」
ナツミちゃんのお母さんは常に元気だった。
「は、はいっ。」
「ナツミもここでは愛想笑いも覚えたからね。」
「もうずっと言われたわよ。お陰でオフじゃ素になると一ミリも笑わなくなったけどね。」
「渉君は、物腰は低いのはいいことだから、あとは営業でもいいから愛想よくしてね!
若い子なんだから、元気出して! 暗い顔だとお客さん来なくなっちゃう!」
「あ、はい。」
俺、そんなに愛想よくなかったんだ。直さないとだな。おかみさんにも色々言われるからか、俺のこれからやることがどんどん増えているような気がする。
「……。」
俺はここで、もう一度やることにしている間は、ときどき俺の身におとずれていた虚無感は無くなっていけそうだった。
「ありがとうございます。宜しくお願いします。」
俺はナツミちゃんとご両親の前で大きく頭を下げた。
「うん。挨拶がやれるなら最初はそれでいいんじゃない?」
「そうね! やる気のある内にいっぱい覚えてね!」
「渉君も、そういうことやるようになったんだな。」
ナツミちゃんとご両親は俺を見守ってくれているような、元気づけてくれているような、俺のことを感慨深く見てくれているような。隣の家の人に面倒を見て貰うのは最初は遠慮や気恥ずかしさを作っていたような気がしていたが、これからお世話になるところで、子供の頃は面倒も見て貰っていたところだから、もっと馴染んで、働きやすくしていこうと思いつつあった。それに。
(俺、働いていて、雇い主から元気づけられて応えられた事ってあったかな。)
俺は雇ってもらう身でありながら、入ったばかりの頃はいつも雇い主から元気づけられていたような気がする。しかも今回は両親が亡くなって、仕事先も倒産した後だ。よくよく思ってみれば倒産した会社の人からも労って貰えていた気がする。仕事をしている内に麻痺していくが俺は恵まれていた方なんじゃないかと思っていてもどうにもならなかったのだから、ここでぐらいは、きちんと働けるようになるまでは、やっていきたいと思ってきた。
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