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潮の町の神様
かつての思い出と、忘れた再会
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それはまだ、俺たちが子供だった頃のこと。
「うわああんっ、うわあああんっ!」
「ええと君、誰? どこから来たの?」
「分からない。」
「えっ。」
神社近くの海で隣の家の子と遊んでいたら。突然、知らない女の子が現れて泣き出していた。
「ねえアンタ、私たちより年上に見えるけど。
何でそんなに泣いてるの。」
ぐずっている女の子を見て俺はオロオロしていたが、隣の家の子はシッカリしていて。そしてちょっと厳しかった。
「分からないならとりあえず呼び名を付けるわよ。
かもめでいい?」
「ね、ねえ。ナツミちゃん、その辺に飛んでる鳥から付けたの?」
「別にいいでしょ本名じゃないんだから。
かもめ、お父さんとお母さん、どこにいるか知らないの?」
「おとうさんと、おかあさんって何?」
「……。」
俺たちがカモメちゃんと名付けた女の子は本当に何も知らないようだった。
「うーん。どこから来たのかも分からないんじゃ。
キオクソウシツ?」
「アンタそんなむずかしい言葉言わないでよ。」
「だってここ、海辺だし。すべって転んで、あたま打っちゃったのかも。」
「カモメ、あんたあたまが痛いとかはないの?」
「ううん。」
女の子は首を左右にフルフルしていた。
「よし。とりあえず周りを歩いて尋ねてみましょう。
商店街で他の子に聞いてみる。」
「うん。」
「しょうてんがい……。」
子供だった俺たちにとって、情報収集源と言えば商店街だった。駄菓子屋もあるし、おやつに丁度いい串カツ屋もあるし、お好み焼き屋もあるし、団子屋もあるし喫茶店もあるし、街並みを歩けば大人の人だっている。観光地として有名な場所だから、とりあえず、ここの神社周辺を回ってみればだれか知っている人がいるかもしれない。そう思った俺たちは町を回ってみることにした。
・・・・・・。
「すみません、この子、どこの子か知りませんか?」
とりあえず屋台のような店構えの串カツ屋で聞いてみることにした。
「知らないねぇ。」
「わたしも……しらない。ぐすっ。」
「泣くんじゃないわよ。ホラ、串カツ、買ってあげるから。」
「はいっ、どうもね。」
「ありがとう。」
涙ぐんでいた女の子がソースの匂いを嗅ぐと泣き止んだ。ナツミちゃんは家が定食屋だから子供の頃から手伝っている内に人と大人に慣れていて、あやし方も心得ていた。
「おいしい……。」
「あらーありがとう。」
カモメちゃんは珍しそうに串カツを食べていた。
「ホラ、ここの串カツ、美味しいでしょ?」
「うん! すごくおいしい。」
「ああでもよかった。泣いてばかりいたら困っちゃうからね。」
「こまるの?」
俺の言葉に女の子が聞き返す。
「うん。女の子でも男の子でも。
泣いている子のめんどうは、たいへんだと思うよ。」
「そう、なんだ。ごめんなさい。」
「ううん。泣かないならいいよ。」
「うん。なるべく泣かないようにするね。」
女の子と俺で話していると。
「ほんとうに、知らない子なんですね?」
「そうだね。ナツミちゃんは見たことないだろ?
お客さんでも。」
「そうですね。ウチには来てないです。
かんこうちのお客さんかな?」
「もしくは隣町かもしれないね。」
「うーん。とりあえず巡ってみましょ。」
俺たちは串カツ屋を後にした。
・・・・・・。
「よし、段々、飽きてきたからここの遊具で遊ぶわよ。」
「いいの?」
「これってどう遊ぶの?」
「ジャングルジムも知らないの?
単に掴んで登るだけよ。あとこっちはうんていで。
掴んで移動するの。」
「つかめばいいんだ!」
「そうよ!」
何かいつの間にか女の子とナツミちゃんが意気投合していた。
「アンタも。泣いていないで遊びなさいよ。」
「うん!」
女の子は遊具で遊んでいた。
「まあ、きげんがとれたからいいのか。」
俺たちは気を取り直して再び捜索を始めた。捜索と言っても女の子を商店街に連れ回しただけだったが、女の子は珍しそうにしていた。
・・・・・・。
「うーん。どこにもいないね。」
「どうしよう。」
その後、商店街を回ったが、どこにも女の子の親はいなくて、結局、神社前の鳥居に戻ってきてしまっていた。
「これはもう、キチンとしたところに預けないと。」
「そうだね。」
「……ぐすっ。」
ナツミちゃんと俺で自分たちの手に余ることを大人に解決して貰おうと思っていると。
「すみません、その子……うちの子なんです。」
大人の女性らしき声を掛けられて、振り向くと、やはり大人の女性だった。神秘的と言うか、人間離れしているというか。その人は声も振る舞いも、威圧感こそないものの、穏やかな口調で相手を圧するような気迫のようなものがあった。
「カモメ、本当?」
「カモメ?」
カモメちゃんにナツミちゃんが確認していたが、女の人は不思議そうにこちらを見ている。
「ああ、ごめんなさい。名前を知らないって言うから。
こっちで付けちゃったんです。」
「そう。あなた。カモメって付けて貰ったのね。」
「あっ。」
女の人に抱かれると、カモメちゃんはさっきまで泣きそうでいたのがウソのように穏やかになっていた。
「……すー、すー。」
「寝ちゃった。ちょっと、カモメ!」
「知らないところを歩いて、疲れちゃったんだと思います。
私たちは戻りますね。」
「あっ。」
カモメちゃんは寝てしまうと、驚いている俺たちをよそに、女の人は神社の方向に去っていった。
「向こうって山か林しかないけど、そこの子だったのかな?」
「うーん。俺にも何も。」
夏の不思議な一日はこうして終わって、いつの間にか俺たちも忘れてしまっていた。それから十数年が経って―
「はい、ご苦労様。」
「ありがとうございます。」
俺は抜け殻になっていた。両親の突然の死と、会社の倒産。両親の四十九日が終わって一段落付いたところに倒産した会社に再び向かい、給与明細と源泉徴収を貰っていた。これで何もかも、俺が今までしていたことは終わって、なくなってしまった。
「……はあ。戻るか。」
誰もいなくなった家に帰り、明日からは葬儀を親代わりに手伝って貰った隣の家の子の家で手伝いをさせて貰う所までは拾って貰えていた。
何もする気が起こらない。再就職も見つけないとだが、そんな気力もわかない状態だった。
・・・・・・。
「……ふう。」
電車に乗りながら、俺はぼんやりと考え事をしていた。いや、考えているのかも定かではない。見ている景色と頭の中がちぐはぐで、気が付くとぼうっとしてしまっていた。
「いかんな。せめて……家にぐらいは帰らないと。」
駅を降りると再び歩いていく。眺めている内に懐かしい街並みに泣きそうになってきた。
「んん……海が見たくなってきた。」
寄せては返す、波の音を聞きながら感傷に浸るのもいいだろう。単に現実逃避がしたいだけだが、俺は海沿いを歩いてみることにした。
「とりあえず、ここに住んでみるかな。
でていった町だけど、再就職を探して、就職支援センターがいいかな。」
町自体は小さくても、観光地だし飯もうまい。車を飛ばせば働き口がそれなりにあるところもある。人生の小休止をしながら新たな生活を送るのも……と言う発想自体が既に打ちひしがれているのかもしれない。とにかく休みたい。
「ああ、とりあえず神社にでも向かうか。」
俺は何となく、子供の頃、よく遊んでいた海沿いの神社まで歩いていくことにした。
「なっつかしいなー。この階段。
子供の頃は絶壁に見えたけど。大人になっても絶壁だな。」
急な階段を上っていき、次第に街の景色が見渡せるようになっていき、その先は海だった。海。何もかもを包み込むような広い海。ここの神社は海沿いだから、そんなに海とは離れていない。
みゃあっ、みゃあっ。
「……ん?」
カモメでも飛んできたか? そう思って音のする先を振り返ってみたが、当然、あるのは階段を上り切った先にある神社だった。いつの間にか境内前の鳥居まで来てしまっていたようだ。
「何にもない……よな。」
「いいえ、いますよ。私が。」
「へっ?」
目の前にはいつの間にか、女の人が立っていた。見た目の歳は俺とそんなに変わらないようだ。でも、おっとりしている。見覚えのあるような、無いような、懐かしい気持ちになってくるが、それが何なのかは思い出せない。
「私を……神の遣いにさせてください。」
「うへっ?」
女の人を懐かしいと思っている暇もなく、すごいことを言われた。
[newpage]
「ええと、神の遣いって、神の遣い?」
「はい。私はまだ、見習いなんです。
修行をして、人々にご利益を授けられるような霊威を手に入れたくて。」
今は神社の前でこういうのが流行っているのだろうか。俺はすぐさま近所から回ってくる不審者情報を思い浮かべた。
「あの、そういうことなら俺、間に合ってますから。」
「ま、待ってください。私、ようやく神の遣いになれそうなんです。」
「だから神様とか、遣いとかって何?」
「はい。簡単に説明しますと、こんな感じに。」
「へ……。」
女の人は目の前でカモメになってしまった。
「どうですか? 私、霊威を授かってここの神社に神の遣いとして。
いられることになったんです。」
「……うわっ。」
今度は人間の姿になった。
「という訳なんです。どうか、修行に協力して貰えませんか?」
「……。」
今のところ、俺は一軒家の主で誰もいない。さっきはそれで感傷に浸っていたが一気に吹っ飛んでしまった。
「……協力って、何かしてくれるの?」
「はいっ。それはもう。この神社を祭る神の御利益が授かります。」
「家のこと、代わりにしてくれるとかあるの?」
「そういうのは言ってくださればご協力しますが。
主神は縁結びの神のため、そういうので。」
「縁結び……。」
「はいっ。」
「……。」
俺は抜け殻の人生をこれから歩むのかと思っていたが。一気に吹っ飛んだ挙句、縁結びまでしてくれると聞いた。女の人は家の手伝いも言えばしてくれるらしい。
「まあ、一人でいるよりは、いいか。」
俺は随分あっさりと決めてしまい女の人を受け入れることにしてしまった。
「ありがとうございます、助かりますっ。」
「いや、いいけどさ。君は名前、何て言うの。
俺は船橋 渉(ふなばし あゆむ)だけど。」
「はいっ。カモメです。」
「そのまんまだね。」
「はい。カモメの化身ですから。」
「カモメか……カモメ、カモメ。」
俺は何となく、懐かしい響きを思い出しそうだったが、結局思い出せなくて、家に帰ることにした。
「うわああんっ、うわあああんっ!」
「ええと君、誰? どこから来たの?」
「分からない。」
「えっ。」
神社近くの海で隣の家の子と遊んでいたら。突然、知らない女の子が現れて泣き出していた。
「ねえアンタ、私たちより年上に見えるけど。
何でそんなに泣いてるの。」
ぐずっている女の子を見て俺はオロオロしていたが、隣の家の子はシッカリしていて。そしてちょっと厳しかった。
「分からないならとりあえず呼び名を付けるわよ。
かもめでいい?」
「ね、ねえ。ナツミちゃん、その辺に飛んでる鳥から付けたの?」
「別にいいでしょ本名じゃないんだから。
かもめ、お父さんとお母さん、どこにいるか知らないの?」
「おとうさんと、おかあさんって何?」
「……。」
俺たちがカモメちゃんと名付けた女の子は本当に何も知らないようだった。
「うーん。どこから来たのかも分からないんじゃ。
キオクソウシツ?」
「アンタそんなむずかしい言葉言わないでよ。」
「だってここ、海辺だし。すべって転んで、あたま打っちゃったのかも。」
「カモメ、あんたあたまが痛いとかはないの?」
「ううん。」
女の子は首を左右にフルフルしていた。
「よし。とりあえず周りを歩いて尋ねてみましょう。
商店街で他の子に聞いてみる。」
「うん。」
「しょうてんがい……。」
子供だった俺たちにとって、情報収集源と言えば商店街だった。駄菓子屋もあるし、おやつに丁度いい串カツ屋もあるし、お好み焼き屋もあるし、団子屋もあるし喫茶店もあるし、街並みを歩けば大人の人だっている。観光地として有名な場所だから、とりあえず、ここの神社周辺を回ってみればだれか知っている人がいるかもしれない。そう思った俺たちは町を回ってみることにした。
・・・・・・。
「すみません、この子、どこの子か知りませんか?」
とりあえず屋台のような店構えの串カツ屋で聞いてみることにした。
「知らないねぇ。」
「わたしも……しらない。ぐすっ。」
「泣くんじゃないわよ。ホラ、串カツ、買ってあげるから。」
「はいっ、どうもね。」
「ありがとう。」
涙ぐんでいた女の子がソースの匂いを嗅ぐと泣き止んだ。ナツミちゃんは家が定食屋だから子供の頃から手伝っている内に人と大人に慣れていて、あやし方も心得ていた。
「おいしい……。」
「あらーありがとう。」
カモメちゃんは珍しそうに串カツを食べていた。
「ホラ、ここの串カツ、美味しいでしょ?」
「うん! すごくおいしい。」
「ああでもよかった。泣いてばかりいたら困っちゃうからね。」
「こまるの?」
俺の言葉に女の子が聞き返す。
「うん。女の子でも男の子でも。
泣いている子のめんどうは、たいへんだと思うよ。」
「そう、なんだ。ごめんなさい。」
「ううん。泣かないならいいよ。」
「うん。なるべく泣かないようにするね。」
女の子と俺で話していると。
「ほんとうに、知らない子なんですね?」
「そうだね。ナツミちゃんは見たことないだろ?
お客さんでも。」
「そうですね。ウチには来てないです。
かんこうちのお客さんかな?」
「もしくは隣町かもしれないね。」
「うーん。とりあえず巡ってみましょ。」
俺たちは串カツ屋を後にした。
・・・・・・。
「よし、段々、飽きてきたからここの遊具で遊ぶわよ。」
「いいの?」
「これってどう遊ぶの?」
「ジャングルジムも知らないの?
単に掴んで登るだけよ。あとこっちはうんていで。
掴んで移動するの。」
「つかめばいいんだ!」
「そうよ!」
何かいつの間にか女の子とナツミちゃんが意気投合していた。
「アンタも。泣いていないで遊びなさいよ。」
「うん!」
女の子は遊具で遊んでいた。
「まあ、きげんがとれたからいいのか。」
俺たちは気を取り直して再び捜索を始めた。捜索と言っても女の子を商店街に連れ回しただけだったが、女の子は珍しそうにしていた。
・・・・・・。
「うーん。どこにもいないね。」
「どうしよう。」
その後、商店街を回ったが、どこにも女の子の親はいなくて、結局、神社前の鳥居に戻ってきてしまっていた。
「これはもう、キチンとしたところに預けないと。」
「そうだね。」
「……ぐすっ。」
ナツミちゃんと俺で自分たちの手に余ることを大人に解決して貰おうと思っていると。
「すみません、その子……うちの子なんです。」
大人の女性らしき声を掛けられて、振り向くと、やはり大人の女性だった。神秘的と言うか、人間離れしているというか。その人は声も振る舞いも、威圧感こそないものの、穏やかな口調で相手を圧するような気迫のようなものがあった。
「カモメ、本当?」
「カモメ?」
カモメちゃんにナツミちゃんが確認していたが、女の人は不思議そうにこちらを見ている。
「ああ、ごめんなさい。名前を知らないって言うから。
こっちで付けちゃったんです。」
「そう。あなた。カモメって付けて貰ったのね。」
「あっ。」
女の人に抱かれると、カモメちゃんはさっきまで泣きそうでいたのがウソのように穏やかになっていた。
「……すー、すー。」
「寝ちゃった。ちょっと、カモメ!」
「知らないところを歩いて、疲れちゃったんだと思います。
私たちは戻りますね。」
「あっ。」
カモメちゃんは寝てしまうと、驚いている俺たちをよそに、女の人は神社の方向に去っていった。
「向こうって山か林しかないけど、そこの子だったのかな?」
「うーん。俺にも何も。」
夏の不思議な一日はこうして終わって、いつの間にか俺たちも忘れてしまっていた。それから十数年が経って―
「はい、ご苦労様。」
「ありがとうございます。」
俺は抜け殻になっていた。両親の突然の死と、会社の倒産。両親の四十九日が終わって一段落付いたところに倒産した会社に再び向かい、給与明細と源泉徴収を貰っていた。これで何もかも、俺が今までしていたことは終わって、なくなってしまった。
「……はあ。戻るか。」
誰もいなくなった家に帰り、明日からは葬儀を親代わりに手伝って貰った隣の家の子の家で手伝いをさせて貰う所までは拾って貰えていた。
何もする気が起こらない。再就職も見つけないとだが、そんな気力もわかない状態だった。
・・・・・・。
「……ふう。」
電車に乗りながら、俺はぼんやりと考え事をしていた。いや、考えているのかも定かではない。見ている景色と頭の中がちぐはぐで、気が付くとぼうっとしてしまっていた。
「いかんな。せめて……家にぐらいは帰らないと。」
駅を降りると再び歩いていく。眺めている内に懐かしい街並みに泣きそうになってきた。
「んん……海が見たくなってきた。」
寄せては返す、波の音を聞きながら感傷に浸るのもいいだろう。単に現実逃避がしたいだけだが、俺は海沿いを歩いてみることにした。
「とりあえず、ここに住んでみるかな。
でていった町だけど、再就職を探して、就職支援センターがいいかな。」
町自体は小さくても、観光地だし飯もうまい。車を飛ばせば働き口がそれなりにあるところもある。人生の小休止をしながら新たな生活を送るのも……と言う発想自体が既に打ちひしがれているのかもしれない。とにかく休みたい。
「ああ、とりあえず神社にでも向かうか。」
俺は何となく、子供の頃、よく遊んでいた海沿いの神社まで歩いていくことにした。
「なっつかしいなー。この階段。
子供の頃は絶壁に見えたけど。大人になっても絶壁だな。」
急な階段を上っていき、次第に街の景色が見渡せるようになっていき、その先は海だった。海。何もかもを包み込むような広い海。ここの神社は海沿いだから、そんなに海とは離れていない。
みゃあっ、みゃあっ。
「……ん?」
カモメでも飛んできたか? そう思って音のする先を振り返ってみたが、当然、あるのは階段を上り切った先にある神社だった。いつの間にか境内前の鳥居まで来てしまっていたようだ。
「何にもない……よな。」
「いいえ、いますよ。私が。」
「へっ?」
目の前にはいつの間にか、女の人が立っていた。見た目の歳は俺とそんなに変わらないようだ。でも、おっとりしている。見覚えのあるような、無いような、懐かしい気持ちになってくるが、それが何なのかは思い出せない。
「私を……神の遣いにさせてください。」
「うへっ?」
女の人を懐かしいと思っている暇もなく、すごいことを言われた。
[newpage]
「ええと、神の遣いって、神の遣い?」
「はい。私はまだ、見習いなんです。
修行をして、人々にご利益を授けられるような霊威を手に入れたくて。」
今は神社の前でこういうのが流行っているのだろうか。俺はすぐさま近所から回ってくる不審者情報を思い浮かべた。
「あの、そういうことなら俺、間に合ってますから。」
「ま、待ってください。私、ようやく神の遣いになれそうなんです。」
「だから神様とか、遣いとかって何?」
「はい。簡単に説明しますと、こんな感じに。」
「へ……。」
女の人は目の前でカモメになってしまった。
「どうですか? 私、霊威を授かってここの神社に神の遣いとして。
いられることになったんです。」
「……うわっ。」
今度は人間の姿になった。
「という訳なんです。どうか、修行に協力して貰えませんか?」
「……。」
今のところ、俺は一軒家の主で誰もいない。さっきはそれで感傷に浸っていたが一気に吹っ飛んでしまった。
「……協力って、何かしてくれるの?」
「はいっ。それはもう。この神社を祭る神の御利益が授かります。」
「家のこと、代わりにしてくれるとかあるの?」
「そういうのは言ってくださればご協力しますが。
主神は縁結びの神のため、そういうので。」
「縁結び……。」
「はいっ。」
「……。」
俺は抜け殻の人生をこれから歩むのかと思っていたが。一気に吹っ飛んだ挙句、縁結びまでしてくれると聞いた。女の人は家の手伝いも言えばしてくれるらしい。
「まあ、一人でいるよりは、いいか。」
俺は随分あっさりと決めてしまい女の人を受け入れることにしてしまった。
「ありがとうございます、助かりますっ。」
「いや、いいけどさ。君は名前、何て言うの。
俺は船橋 渉(ふなばし あゆむ)だけど。」
「はいっ。カモメです。」
「そのまんまだね。」
「はい。カモメの化身ですから。」
「カモメか……カモメ、カモメ。」
俺は何となく、懐かしい響きを思い出しそうだったが、結局思い出せなくて、家に帰ることにした。
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