その匂いには逆らえない

白石華

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第五章

幕間、記憶を確かめるように

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「いかがなさいました?」
「あっ、お、俺……?」

 ウィレンツェが気づくと、そこはサロンの中だった。

「ニコレ……。本当に、いたみたいだった。嗅いでいる時に、そんな気分になれました。」
「そうでしたか。匂いはこれで合っていましたか?」
「そうですね。もうちょっと、特徴的でもいいかもしれません。
 それと、別の商家の人気商品ってどういう香りなんですか?」
「気分を和らげる匂いですね。こういう匂いはどこでも人気なんです。」
「へえ……。」

 ウィレンツェは興味を持ったようだが、ニコレの性格とはあんまり関係なさそうだったから、興味から外れたようだった。

「僕の商家でもそういう匂いは扱っていませんか? 試しにそちらでも試してみたいです。」
「了解しました。では、そういう形でもお作りしてみます。
 もしかすると、特徴的な匂いを強くするのであれば、そちらの方が合うかもしれません。」
「そうなんですね。それじゃあ、お願いします。」
「はい。他には何かないですか。」
「うーん……マイペースな中に、女性的な感じを受ける匂いってないですか?」
「特徴的な香りの香に、女性的……女性的の方向性を教えて貰っていいですか?」
「えっと……お母さんみたいって言うか。そんな匂いです。」
「それでしたら、植物の香りと、香辛料の甘い香りで、相性のいいものを足しておきますね。」
「そういうのもあるんですね。」
「はい。用意してありますよ。匂いはそのくらいでいいですか?」
「それでお願いします。」
「では、調香までお待ちください。」

 調香師は調香に向かったのか部屋を出ていった。

「ニコレ……俺。忘れかけていたのに、こんなにニコレが大きな存在だったなんて。
 知らなかったよ……。」

 改めて自分の少年時代の記憶のかけらを見つけたようなウィレンツェだった。
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