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喫茶モフモフ
フェア二日目
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「わーい! パフェだー!」
「アイスだー! スコーンも食べるー!」
今日も営業終了後にやってきた王子たちだったが、予告通り妹たちまで連れてきていた。今はマスターのサナダさんを挟んでカウンターに、王子と妹たちが三匹の魔獣に囲まれて席を陣取っている。
「今回は来ると分かっていましたし……在庫に余裕を持っておきましたから。
今度からお忍びでも事前に連絡をくださいね。言ってくだされば対応します。」
「ホント……すみません……。」
サナダさんの言葉に王子様が謝る。王子様は昨夜の決壊以来、随分と礼儀正しく涙もろくなっていた。
「何と言うかこう……王子としての威厳が変な方向に行って……。」
「お金は頂けているからいいですけどね。」
限界育児の次は限界王子の話になりそうで、カフェというよりは酒場の愚痴の様相で、また長い身の上話になる気配がしたからサナダさんは話題を打ち切る事にした。王子様も大変なのだろう。
「お姫様、こちらのワンワン(魔獣)は怖くないですか?」
「怖くない!」
「カワイイ! 人懐っこいなら大丈夫!」
「ワオーン」
一人は肝試しをしたがるほどだったから、魔獣でも大丈夫かマスエさんが二人の姫に確認すると、二人そろって、元気な返事で帰ってきた。おりこうで人懐っこくなった魔獣はちょい悪ワンちゃん感覚で扱われるようだ。
「うちの犬(番犬)みたいでかわいい!」
「へー。お城でも犬を飼われているんですね。」
「うん。夜は庭に放し飼い(侵入防止用の番犬)してるよ。
逃げ出さないように兵士も付いているし。」
「……まさか。」
お姉さんの方のお姫様の話を聞いてマスエさんもよくある侵入者用のトラップ的なアレを感じ取ったようだ。それでも子どもも含めた主人たちに懐いているならいいかと思っていると。
「はあ……こういうお茶会がずっとしたかったよぉ……。
遊園地で遊ぶためにお外出して貰えたと思ったらお化け屋敷なんだもん。」
妹の方のお姫様も苦労しているようだった。
「すまないな、妹よ。これだけ好みがはっきり分かれていても。
一人だけ置いておくわけにもいかないのだ。」
「うん……お兄様。そうだよね。」
「今日は好きなのを頼んでいいぞ。」
「やったあ! ありがとう! お兄様!」
ずっと泣きっぱなしのようだった妹の方のお姫様がようやく見せてくれるようになった、弾けるような笑顔を兄の王子に向けている。
「ひょっとして、こちらの妹さんにもお忍びを楽しんでもらうためにここに来たんですか?」
「いやあ、サナダさん……もう何もかもが限界で……。」
「ははは……。」
サナダさんはまた、王子様の限界スイッチを入れてしまったみたいで乾いた相槌を打った。
「ええ。それでもですね。こうして……王家の人たちに来て頂けて。
お茶と香辛料がそちらの物だからとしても……そんなに喜んでいただけると。
自分たちの仕事というのは、全てではなくても人に喜びを与えられるかもしれないと。
そういう自信を……もらえますね。王家という国の重役を背負っている人にも。
こうして頂けているんですから。」
「コクリ。」
サナダさんの言葉にゴンドウさんも頷く。
(あっ……。)
(サナダさんもゴンドウさんも。嬉しそうに自分の仕事について思っているみたい。)
昨夜は休憩に入っていたから見られなかったが、カウンターから離れて様子を眺めていたマスエさんがサナダさんとゴンドウさんの様子に何か思ったようだった。
(サナダさん、ゴンドウさん。この仕事で……いいって思えるようになっているのかな。)
この喫茶店に回してもらう何やかやのためにしている裏仕事として受けている仕事はまだ、ギルドでも受理されていない仕事でも。自分の働く場所がこのモフモフカフェでいいんだと、本人の口から言えるようになれてきているのかもしれない。それは確かに、王子様と結んだ不思議な縁のお陰で。
「あっ、あっ……あああああっ!」
と、余韻に浸る間もなく王子様がカウンターのテーブルに叫びながら突っ伏した。
「私……私っ。公務を……自分の行っている公務の役割を……っ。
こんな形で実感することになるとは……っ!
正直、限界だとばかり思っていたのに、それを大回復する喜び……っ!」
王子様にも自分の役割が見つかったようだった。
「王子様にもそう思って頂けるようで……。喜びは相手に伝えて分かち合うものなんですね。
僕……そういうのに疎くて、鈍いんですが今は手に取るような実感です。」
「いえ、そんな、私こそ……。何かに使命を負わされているような気がして。
本来の自分に不釣り合いな態度でいるのが当たり前だったようかもしれません。」
「フルフル。コクコク。」
サナダさんと王子様と、ゴンドウさんで自分たちの仕事(公務含む)の価値とかやりがいとか、そういうのを見つけ、仲良くなった男たちの男子会が開かれそうな勢いだった。奪う事、奪われる事、釣り合いを取る事にもしかすると心を占めていたかもしれない人たちの、与える事の喜びにようやく気付けたような、遅い心の成長だったのだろう。
「それじゃあ、乾杯代わりにチャイを飲みましょう!」
「ありがとうございます!」
「われらの新しい門出に!」
サナダさん、王子様、ゴンドウさんたちが楽しそうな感じで男子会は盛り上がっていった。
「私は動物がモフれてパフェが食べられればいいわ。」
そんな中、連れてこられたお茶会に退屈していた姉の方のお姫様だったが、犬(魔獣)とパフェはお気に召したようだった。
・・・・・・。
「帰っちゃいましたね。」
その後、飲み食いするだけして、帰っていった後の店内を見て。疲労は残ったが随分と静かになった様子をに静寂を感じるマスエさんだった。
「限界育児と言ってもあれだけ賑やかだと、確かに静かになりますね。」
「はい。」
サナダさんの言葉にマスエさんが相槌を打つ。
「しかし……公務と本人の王子としての時間の他に。
いつもこういうのがあるのでしょうか。あれが毎日となると。」
ゴンドウさんも騒がしくも忙しい時間を体力で乗り切った感をひしひしと感じていた。
「他にも面倒を見てくださる方はいらっしゃらないんでしょうかねぇ。」
「来るといいですね、教育係の方。」
マスエさんもお姫様の教育係は他にいた方がいいのだろうなと思いながら話す。
「王子様の方は大分、素直になったかもしれませんが。
お姫様たちはまだまだ自由気ままですねぇ。あ、そう言えば。」
サナダさんがポンと手を叩く。
「何ですか?」
「昨日今日と、こちらにいらした謝礼を、お忍びで来たのを言わない代わりに。
茶葉と香辛料をまた頂いたから、フェア延長か、在庫に余裕が作られました。
僕たちもまだまだ働く必要がありますね。」
「ええ。」
「はいっ。」
疲労困憊のはずなのに頷く声には力が籠り。何となくだが、昨日と今日を経て、心の中で自分の仕事にポジティブなイメージを持てるようになった三人だった。
「アイスだー! スコーンも食べるー!」
今日も営業終了後にやってきた王子たちだったが、予告通り妹たちまで連れてきていた。今はマスターのサナダさんを挟んでカウンターに、王子と妹たちが三匹の魔獣に囲まれて席を陣取っている。
「今回は来ると分かっていましたし……在庫に余裕を持っておきましたから。
今度からお忍びでも事前に連絡をくださいね。言ってくだされば対応します。」
「ホント……すみません……。」
サナダさんの言葉に王子様が謝る。王子様は昨夜の決壊以来、随分と礼儀正しく涙もろくなっていた。
「何と言うかこう……王子としての威厳が変な方向に行って……。」
「お金は頂けているからいいですけどね。」
限界育児の次は限界王子の話になりそうで、カフェというよりは酒場の愚痴の様相で、また長い身の上話になる気配がしたからサナダさんは話題を打ち切る事にした。王子様も大変なのだろう。
「お姫様、こちらのワンワン(魔獣)は怖くないですか?」
「怖くない!」
「カワイイ! 人懐っこいなら大丈夫!」
「ワオーン」
一人は肝試しをしたがるほどだったから、魔獣でも大丈夫かマスエさんが二人の姫に確認すると、二人そろって、元気な返事で帰ってきた。おりこうで人懐っこくなった魔獣はちょい悪ワンちゃん感覚で扱われるようだ。
「うちの犬(番犬)みたいでかわいい!」
「へー。お城でも犬を飼われているんですね。」
「うん。夜は庭に放し飼い(侵入防止用の番犬)してるよ。
逃げ出さないように兵士も付いているし。」
「……まさか。」
お姉さんの方のお姫様の話を聞いてマスエさんもよくある侵入者用のトラップ的なアレを感じ取ったようだ。それでも子どもも含めた主人たちに懐いているならいいかと思っていると。
「はあ……こういうお茶会がずっとしたかったよぉ……。
遊園地で遊ぶためにお外出して貰えたと思ったらお化け屋敷なんだもん。」
妹の方のお姫様も苦労しているようだった。
「すまないな、妹よ。これだけ好みがはっきり分かれていても。
一人だけ置いておくわけにもいかないのだ。」
「うん……お兄様。そうだよね。」
「今日は好きなのを頼んでいいぞ。」
「やったあ! ありがとう! お兄様!」
ずっと泣きっぱなしのようだった妹の方のお姫様がようやく見せてくれるようになった、弾けるような笑顔を兄の王子に向けている。
「ひょっとして、こちらの妹さんにもお忍びを楽しんでもらうためにここに来たんですか?」
「いやあ、サナダさん……もう何もかもが限界で……。」
「ははは……。」
サナダさんはまた、王子様の限界スイッチを入れてしまったみたいで乾いた相槌を打った。
「ええ。それでもですね。こうして……王家の人たちに来て頂けて。
お茶と香辛料がそちらの物だからとしても……そんなに喜んでいただけると。
自分たちの仕事というのは、全てではなくても人に喜びを与えられるかもしれないと。
そういう自信を……もらえますね。王家という国の重役を背負っている人にも。
こうして頂けているんですから。」
「コクリ。」
サナダさんの言葉にゴンドウさんも頷く。
(あっ……。)
(サナダさんもゴンドウさんも。嬉しそうに自分の仕事について思っているみたい。)
昨夜は休憩に入っていたから見られなかったが、カウンターから離れて様子を眺めていたマスエさんがサナダさんとゴンドウさんの様子に何か思ったようだった。
(サナダさん、ゴンドウさん。この仕事で……いいって思えるようになっているのかな。)
この喫茶店に回してもらう何やかやのためにしている裏仕事として受けている仕事はまだ、ギルドでも受理されていない仕事でも。自分の働く場所がこのモフモフカフェでいいんだと、本人の口から言えるようになれてきているのかもしれない。それは確かに、王子様と結んだ不思議な縁のお陰で。
「あっ、あっ……あああああっ!」
と、余韻に浸る間もなく王子様がカウンターのテーブルに叫びながら突っ伏した。
「私……私っ。公務を……自分の行っている公務の役割を……っ。
こんな形で実感することになるとは……っ!
正直、限界だとばかり思っていたのに、それを大回復する喜び……っ!」
王子様にも自分の役割が見つかったようだった。
「王子様にもそう思って頂けるようで……。喜びは相手に伝えて分かち合うものなんですね。
僕……そういうのに疎くて、鈍いんですが今は手に取るような実感です。」
「いえ、そんな、私こそ……。何かに使命を負わされているような気がして。
本来の自分に不釣り合いな態度でいるのが当たり前だったようかもしれません。」
「フルフル。コクコク。」
サナダさんと王子様と、ゴンドウさんで自分たちの仕事(公務含む)の価値とかやりがいとか、そういうのを見つけ、仲良くなった男たちの男子会が開かれそうな勢いだった。奪う事、奪われる事、釣り合いを取る事にもしかすると心を占めていたかもしれない人たちの、与える事の喜びにようやく気付けたような、遅い心の成長だったのだろう。
「それじゃあ、乾杯代わりにチャイを飲みましょう!」
「ありがとうございます!」
「われらの新しい門出に!」
サナダさん、王子様、ゴンドウさんたちが楽しそうな感じで男子会は盛り上がっていった。
「私は動物がモフれてパフェが食べられればいいわ。」
そんな中、連れてこられたお茶会に退屈していた姉の方のお姫様だったが、犬(魔獣)とパフェはお気に召したようだった。
・・・・・・。
「帰っちゃいましたね。」
その後、飲み食いするだけして、帰っていった後の店内を見て。疲労は残ったが随分と静かになった様子をに静寂を感じるマスエさんだった。
「限界育児と言ってもあれだけ賑やかだと、確かに静かになりますね。」
「はい。」
サナダさんの言葉にマスエさんが相槌を打つ。
「しかし……公務と本人の王子としての時間の他に。
いつもこういうのがあるのでしょうか。あれが毎日となると。」
ゴンドウさんも騒がしくも忙しい時間を体力で乗り切った感をひしひしと感じていた。
「他にも面倒を見てくださる方はいらっしゃらないんでしょうかねぇ。」
「来るといいですね、教育係の方。」
マスエさんもお姫様の教育係は他にいた方がいいのだろうなと思いながら話す。
「王子様の方は大分、素直になったかもしれませんが。
お姫様たちはまだまだ自由気ままですねぇ。あ、そう言えば。」
サナダさんがポンと手を叩く。
「何ですか?」
「昨日今日と、こちらにいらした謝礼を、お忍びで来たのを言わない代わりに。
茶葉と香辛料をまた頂いたから、フェア延長か、在庫に余裕が作られました。
僕たちもまだまだ働く必要がありますね。」
「ええ。」
「はいっ。」
疲労困憊のはずなのに頷く声には力が籠り。何となくだが、昨日と今日を経て、心の中で自分の仕事にポジティブなイメージを持てるようになった三人だった。
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