喫茶モフモフ

白石華

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喫茶モフモフ

保護者、現る

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「ありがとうございます。ここで大丈夫ですよ。」
「はい……隠れていたんですね。」
「はい。姫様がここに入り浸っていると確認した時は。
 どう帰そうかとこちらでも悩んでいたのです。」

 その後、研究所を出たところで停まっていた馬車から兵士のようないでたちの人間が現れ、城のエンブレムを見せられると、姫様達を引き取って貰えた。

「確認ですが、本当にお城の人間で?」
「証拠になるかは分かりませんが。
 この場で報酬に王室御用達の香辛料と茶葉の引換券を用意しましょうか?
 元々、用意する予定でしたが王城にいらして引き取ってください。」
「いえ。皆さんも見張っていないとここまで来られないでしょうし。
 扱いに困った案件だったんでしょうね。」
「あ、あの! 私、お姉さまにだまされてここに来たんです!」
「ちょっと! 告げ口する気?」
「だって~もう肝試しなんてヤダ~。」

 サナダさんが兵士に確認を取っている内に子供たちが騒ぎ始める。

「ふん! 肝試しでビビるなんて子供ね! 私たちの領土じゃない!」
「姫様。姫様のようなご身分の方が護衛もなしに夜の街をうろついては危ないのです。」
「だったら、護衛がいればいいんでしょ?」
「いても危ないです。危ないことは全てしないでください。」

 どうやらお姉さんの方が大分、聞かん坊に育っているようだった。どこの子供も大変なんだなとサナダさんが思っていると。

「ふっ……妹たち、探したぞ!」
「「お兄様!!」」

 馬車から人影がもう一人現れ、随分と煌びやかな見た目と衣装の人間だった。

「ふっ、助けて貰った時はまずは『ありがとうございます』と言うのだ。
 君たちは素敵なレディなのだろう?」
「はいっ、ありがとうございます!」
「ありがとうございます!」

 レディを随分と巻き舌に発音しているが、特に気にせず、二人はサナダさんたちにお礼を素直に言っている。

「私たちは王族……民主の見本となり導き手となる存在……悪いことはしないのだ。
 でないと反乱を起こされるからな! 特に君たちみたいな年齢の、か弱い存在の子供だと。
 復讐のされ方がえげつない!」
「「はい! お兄様!」」

 地球という惑星の中世みたいな時代のところだと実際そうなんだけど、そうやって言い聞かせているのかと思っていた。

「そこの君……ええと、誰?」
「サナダです。この度はどうも。」
「いえいえ。妹たちの面倒を見るのがコチラの役目ですが。見ての通り。
 人の言う事を守らないし、その場を切り抜けたら同じことするし命知らずな連中で。」
「いえいえ。大変そうで。」

 お兄様と思わしき煌びやかな青少年は苦労しているようだった。今お兄さんの言う事聞いているのもその場を切り抜けるためだろうか。

「教育係の人はいらっしゃらないんですか?」
「みんな逃げました。それで僕がお忍びで出る事に。」
「逃げた……。」

 いい所の子供の教育係って劇場ストーリーみたいに余程の人格者や子育てが得意な人が主人公になるが。そうなれなかった人に本当に逃げ出される事ってあるんだなと思ったのと、そうなると押し付けられる係が城に出てくるんだなと思った。

「時に相談なんですが。」
「僕達でも教育係は無理ですよ。」
「いえ、ちょっと……さっき妹たちにしようとしていた夜のお茶会がやってみたくて……。
 ちょっとした悪戯の後、不思議なお茶屋さんと夜のティーパーティ―とか。
 私も危うく引っかかりそうに……。」
「引っかけるためにしたんじゃないですよ。」

 王子様と思わしき煌びやかな青少年は頬を染めてメルヘンな提案をしてきた。どうやら王子様はメルヘンな展開をお望みのようだった。

「いいですよ。それじゃあさっき、沸かしたお茶を。多分冷めてないと思いますし。」
「ありがとうございます! さあ、妹たちもお茶にしようじゃないか!」
「お兄様がしたいって言うならするわよ。その人たちも安全なんでしょ。」
「やったー! お茶だー!」

 命知らずなのか警戒心は身についているのか分からないやり取りの後、さっきやりそびれたお茶会を今度は開催することになった。

「ふむ……携帯食はビスケットか。美味しいですね。」
「はい、作ったのはゴンドウさんですが。」
「ゴンドウさん……どうして姿を見せないのでしょう?」
「いえ、顔が怖いのといかつい図体をしているから子供たちの前に現れないのです。」

 サナダさんと王子様がお茶をしながら話している。

「へー。お茶も美味しいじゃない。」
「お姉さま、お茶会もこういうのにしようよ。」
「私は肝試しがしたいんだけど、夜の城をぶらつくだけじゃ飽きちゃって。」
「妹たちよ。子供の内から危険な遊びにスリルを求めてするものではない。」
「私じゃないよ~お姉さまだよ~。」
「だからあんたはすぐ告げ口すんな!」
「だって言わないと何されるか分かんないんだもん!」
「ふっ、妹よ。今度お化け屋敷にお忍びで連れて行ってやろう。
 確かめっちゃ怖いと評判のが移動式遊園地に来たそうだ。」
「やったー!」
「やだー!」
「ふふ、元気でいいですね。」

 様子を見ていたマスエさんが微笑ましく見ている。

「マスエさんは子供、大丈夫なんですか。」
「ええ。家にもきょうだいがいたんですが、こんな感じでしたよ。
 なんか懐かしいなって。」
「そうですか。」
「はい……みんな、元気にしているかな。」
「そうですねえ。」

 サナダさんは相槌を打つのみだった。暗殺者という職業に手を染めた者に、帰る家の存在は詮索するものではなかったからだった。

「僕たちもお茶会にしましょうか。」
「はいっ。」

 サナダさんたちもお茶にしたのだった。
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