喫茶モフモフ

白石華

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喫茶モフモフ

モフモフ喫茶への依頼

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「いらっしゃいませ……あっ。」

 モフモフ喫茶に深くかぶった帽子とコートの人物が訪れる。

「マスター。チャイを。ミルクから煮出したやつだ。」
「はい。」
「おっと。」

 そしてカウンターの前に座ると本を広げ、しおりを落とす。

「すまないね、拾ってくれるかい?」
「はい。」

 一連の動作に全く違和感を感じないが辺りに従業員にしか伝わらない緊迫感が漂う。

「……確かに、こちらですね。」
「ああ。返してくれるかい?」
「はい。」

 拾ったと同時にマスターが間をおいて返す。

「ありがとう。お茶、そろそろ沸くかな。」
「ええ。」

 カウンターに戻ると、マスターのサナダさんが沸いたチャイをカップに注いで渡す。

「うん……うまい。香辛料は……どこ産だい?」
「茶葉と同じ産地ですよ。」
「ほう……隣国産ではない、天然ものか。」
「ええ。魔法で品種改良した植物ではない……といっても、全く質は変わらないから。
 今求める人間は道楽か……そういうのに価値を見つける者の対象ですね。」
「フフ。そちらさんは商品に持っているじゃないか。」
「ええ。茶葉と香辛料がいいのが入ったんです。」
「ああ。ご馳走様。犬を撫でたら帰るよ。」
「ありがとうございました。」
「ワフワフ!」
「ヘッヘッ!」

 コートの人物がモフモフ魔獣に近寄ると魔獣が嬉しそうに駆け寄っていく。

 ギイイ……バタン。

「依頼は決まったな。隣国の……香辛料研究所だ。」
「はい。」
「分かりました。」

 客が去り、誰もいなくなったのを見計らってマスターのサナダさんが従業員を集めて話していた。

 ・・・・・・。

「……という訳で香辛料研究所だが。どうも怪しい連中にここを見張られているらしい。」
「香辛料泥棒ですか?」

 専門の装備に着替え。隣国の香辛料研究所の屋上にたどり着いた面々。サナダさんにマスエさんが質問する。

「分からない。不審人物の見回りに付いていて欲しいという事だろうが。
 どうしてこれがギルドで受理されなかったんだろう。」
「駆け出しの人間にもこなせる仕事ですね。」
「最も、私たちは隠密行動を得意とするから。
 バレないように捕まえて欲しいのかもしれないし……ん。」

 研究所奥の森にガサガサと誰かが入っていくような物音がする。

「マスター。不審人物ですか?」
「いいや、まだ、分からない……。静かに。聞き耳を立てる。」
「「……。」」

 マスターのサナダさんは耳がよく離れた場所でも物音が確認可能だったため、二人が黙る。

「……! ……。……わ。」

 段々と音が聞こえてくるようになっていたため、サナダさんが音に集中していくと。

「お、お姉様。肝試しなんてやめましょうよ~。」
「うるさいわね! あんたも付いてきたんだからするのよ!
 それにここは香辛料研究所……。
 裏の森にもこぼれた種とか伸びた根っ子とかで香辛料も取れるのよ!
 バレたら王族の名前を出してひれ伏せさせればいいわ!」
「あ~ん。私はお茶に呼ばれたと思ったから来たのに~。」
「だからお茶の材料ならここで調達するって言ってるのよ!」

 話を聞くに、ここの王族の人間(姉妹)が肝試しに香辛料研究所に忍び込み、探検気分で香辛料を取りに来たようだった。

「こんな感じですが……どうしますかね、みなさん。」
「私たち、連れて帰るのか、二人が帰るまで護衛でもしているんでしょうか。」
「これはギルドに依頼すると事件になってしまいますし……確かに私たち向けですな。」

 サナダさんがみんなに説明すると。

「とりあえず、お茶を沸かしましょう。」
「そんな悠長な。」
「いいえ。僕には策があります。」
「策?」
「そうこう言っている内に湧きましたね。さあ、持っていきましょう。」
「持っていくって……ああ。」

 サナダさんの案にマスエさんも思い当たったようだ。

「ねえ、お姉さま~。怒られちゃうよ~。帰ろうよ~。」
「それならあんただけで帰りなさいよ!」
「やだ~。こわい~!」
「そこのお嬢さん。お茶が欲しいのですか?」
「「えっ?」」

 サナダさんの呼びかけに姉妹(多分)が振り向くと。

「私はここを旅するお茶屋さんです。宜しかったら一杯、いかがですか?」

 メルヘンチックな語り口でお茶を持ってサナダさんが姉妹の前に現れる。

「その代わり、お茶を飲んだらすぐに帰る事と……。
 もうここには悪戯しに来ない事が条件です。」
「お、お茶菓子もありますよ! 良かったらどうぞ!」

 マスエさんもお菓子(携帯食)を持って現れる。ゴンドウさんは闇に隠れていた。

「いらない。」
「うん。知らない人からお茶とお菓子を貰わないようにって言い聞かされてるし。」
「……。」

 子供たちにド正論で返された。

「あなた、雇われた護衛か誰かでしょ? やるきなくなったから帰る。
 案内してちょうだい。」
「あ、はい……。」

 そして子供の興を無くして城に返すのも成功した。
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