精霊都市の再開発事業

白石華

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第五章

レジャー施設再建の前に

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「ん……ん~……。んあ……朝……か?」

 目が覚め、カーテンの差す日が明るいのを感じ取ると、俺はのっそりと起き上がる。

「サシガネ……はいない。」

 俺の横で寝ていたはずのサシガネがいなくなっていて、既に食べ物から発せられるようないい匂いがここまで漂っている。

「あ。起きたんだ。」

 と思ったらリビングから寝室の戸に首を出したサシガネの顔が見えた。

「おう、おはよー。」
「うん、おはよ。ご飯作ったから来て。」
「早起きだな、サシガネは。」
「うん。いつも通りだから。トンカも身支度終わったら来てよ。」
「はいよ。ちょっと待ってな。」

 サシガネがいなくなったのを見計らって俺は着替える。今になって気にするほどの事じゃないんだが朝から俺の着替えを見せるとかどういうエロ社長の思惑だと心底思うから人払いで成功だろう。親しき中にも礼儀ありだ。ちゃっちゃと着替えてリビングに向かうと。

「おはよ。もう朝ごはん、作ってあるから。」
「って、おお。」

 サシガネが昨日俺がリクエストしたまんまのブラウスとストッキングを穿いた格好でエプロンを付けて給仕をしてくれている。

「朝だからトーストとスープに、ステーキのシャリアピンソースの残りをちょっとだけ。
 だけど、トンカは気にしないで大盛でいい?」
「悪いな! 朝から現場仕事だからよ!」
「ホントに、元気ね。」
「まあな、俺の場合、元気が無くなったら危機レベルだからな!」
「うん。」

 サシガネが俺を見て柔和に微笑んでいる。昨日からいきなり機嫌がよくなっているが、何かあったか説明させるのも面倒なことになりそうだから、そのまんまにして合わせる事にした。昨夜がどうあれ、気持ちの切り替えがやれてるなら問題ないからな。

「がつがつ。くあ~。ベルさんの作った飯はうめえ~。」
「そうだね、調味料を合わせたい人は合わせるんだろうけど、一瞬で作れる便利さだと。
 そういう事しなくなっちゃうもんね。」
「ああ。でもよ、誰かが飯を用意してくれるありがたさってのはな。
 そういうのでも嬉しいもんだぜ。」
「うん、ありがと。」

 やっぱり昨日よりも機嫌がよくなっているな。

「私も食べよ。今日はベルさんと過ごすんでしょ?」
「ああ。レジャー施設の再建が終わったらみんなで試しにやってみようぜ。
 それで意見とかくれよ。」
「オッケー。あのさ、トンカ。」
「?」
「カンナも、二人きりでお泊りに呼んであげなよ。」
「そうだな!」

 昨夜のあの様子は、サシガネもどうやら気持ちが切り替わるのに時間が掛かったのだろう。サシガネの事だから何かと真面目にあーだこーだ、頭の中で思い描いていたに違いない。それで寝て、こうなったと。随分と……本人に段階というか、自分の立ち位置を確認するのが面倒そうな生き方をしているなと思ったが、女の世界とはそういうものかもしれない。重婚という生き方を選んだ俺は深く考えるのをやめた。

「そんじゃ、事務所行ったらベルさんとそのまんま行ってくるぜ。」
「うん。行ってらっしゃい。」
「おう!」
 
 という訳で今日の仕事はレジャー施設の再建となった。
 
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