62 / 113
ブロッサムミスト後日談、ステラ編
ステラとコリスの小休止、ブロッサムミスト編
しおりを挟む
「ふんふんふーん。」
「コリスさん、俺どうしてます?」
その後、二人で起きて。体を綺麗に洗った俺とコリスさんで食事も済ませると。コリスさんが早速、封印具の仮作をしていた。
「そうだね。私が作っている間は君は暇だし。もう護衛の必要もないと知っているだろう?
精霊の壁でも作って誰も入ってこられないように結解でも作っておくけど。
君はどうする?」
「とは言っても俺、コリスさんがいないと一人で回っても見せたいところとかないからな。」
「君が行きたいところってないの? 折角なんだ。私がいなくて丁度いい場所をだね。
そういうのも君の息抜きだろう。今からそういう時間も作っておかないと。」
「うーん……。あればいいんですけどね。そうだな……。」
俺は思案する。どうせならサプライズとしてコリスさんを連れて行けそうな場所の探索とかどうだろうとか思った。行くとしたらまたバザールになると思うが、そういう場所で面白いものや美味しいものとかが置いてあれば、先に調べておいて後でそこから案内してもいいかもしれない。と言うのもあるが、ひょっとしたらそこで俺の見たいものが見つかるかもしれないし、行ってだけみることにした。
「じゃあ、行ってきます。」
「行ってらっしゃい。」
俺はバザールに行ってみると。
「お、また遺跡からの発掘品か。」
ここの出店に出回るのは遺跡から発掘したもので王宮に献上されないもので個人でも用いられるのはここに来るのだった。シーフやハンターのダンジョン探索の訓練になるし、遺跡自体がそういう場所として他の盗掘者に持って行かれるくらいなら、いっそ王宮で雇ってアイテムを手に入れつつ鍛えてしまえという発想になったんだな。とは言え、盗掘者もいることはいる。それはどこの国にもこういう遺跡があれば起こる問題なんだろう。特殊な訓練を受けていなければ、ステータス異常やトラップがここは尋常ではないから、耐性と罠回避能力がないとそのままお陀仏という場合もある。
(ライコ、って言ったっけ。)
(あの子……適性があるって言われていきなりアサシンになったんだよな。)
(遺跡探索能力とかもあるのかな。)
いつから勇者としてここにいるのかは分からないが。初陣と言っていたから、そんなにここにいる訳じゃないと思うけど、どんな訓練を受けてそうなったんだろう。アサシンとしての能力以外にも、遺跡探索とかもスキルとしてあれば、アサシンとして以外の生き方だって生きていけるんじゃないだろうか……と思ったが。今はそれどころじゃないだろうけど、うーん、どうなんだろう。
「なんだ、今日はアンタだけか。」
「こ、こんにちは!」
そんなことを思っていたら、まさにその子たちと会ってしまった。勇者の二人組である。
「ああ。今日はね、コリスさんは忙しいから俺が一人で回っているんだ。」
「ふーん。アンタも結構、ここにいるんだな。」
「えっと、せっかくだから、今日も……。いいかな、ライカ君。」
「俺はいいけど、そっちの方はどうなんだよ。」
「ああ、いいよ。ちょうど俺、コリスさんが興味を持ちそうなところを調べておこうと思って。」
「へー。マメだな、アンタも。」
ライコちゃんに声を掛けられて。少年の方は相変わらずこっちの事情も聞いてくれて。俺がコリスさんのことを話したらライカ君か、そっちの方に感心されてしまった。感心というか、女性に対してそういう行為をすることに対しての興味と言ったところか。
「俺もコリスさんにはお世話になっているからね。今回も俺に関してだから。
こういうところではいいところを見せないと。」
このくらいの事なら喋ってもいいだろう。
「ふーん。」
ライカ君は相変わらずそっけない返事だったが興味を持っているようだ。
「それで、どういうところを回りたいと思っているんですか?」
ライコちゃんの方は興味深々を隠す気もなく聞いてきている。
「うん。まずはマジックアイテムからかな。それからパンとかここの郷土料理とか。
あとは……穀物も好きだって言っていたし、他に何か面白そうなのがあれば。」
「コリスさんって、そういうのがお好きなんですか?」
「あはは。みんなで見に行こうか?」
「見に行くのは構わねーけど。アンタの相棒ってジョブと性格まんまの物が好きなんだな。」
「ああ、言われてみればそうだね。」
美味しいものや面白いもの興味を引くもの、後は自分のジョブに関わるものか。趣味とジョブに生きている人って感じだな。
「後は俺の見たいものを見て来ていいって言われたけど。
俺ってそういう固まった趣味ってないし。寄って面白そうなのがあればいいかなって。」
「アンタ、趣味とかないのか?」
「うーん。ハンティングとかはするけど。仕事の延長だよね。」
「ギルドで働いているならな。」
「あ、そうだ。趣味といえば。二人に聞きたいことがあったんだ。」
「何だよ。」
「ライコちゃんって、どうしてアサシンの能力があるって言われたのかなって。
遺跡探索の試験でそうなったなら。
アサシン以外にもそういう生き方とかもありそうだなって。」
「ええと、そういう話はここじゃ話せなくて。」
「あ、ごめん、そうだったね。」
勇者の話はここじゃ迂闊に話せないか。勇者はライカ君とライコちゃんのどちらかか、正体自体はここの国の人が知っているかもしれないことだろうけど。勇者の適性を調べる何かがあるのは分からずじまいか。
「でも。アサシンから派生した仕事ってあるんですね。」
「そうだな。発掘調査とか発掘したアイテムの鑑定とか。お前やれるようになれれば?」
「うん。この前は武術だったし、やれそうなことがどんどん増えていくね!」
俺の言葉で二人がきゃいきゃいしているのを見るのは、とても微笑ましい。俺とコリスさんもくっつけた後だったから、幸せを貰えるのを享受して更に、ふふん、俺だって数日後はそうなるんだぜとか内心、得意げになっている。幸せって幸せ状態になると他の人の幸せ状態でも俺みたいな日陰の人間でも聞いていて蒸発しないから不思議だ。しかも向こうは俺のコンプレックスだった才能の話でもだ。とは言え、この子たちも苦労してこの立場にいることは知っているから、そんなに妬ましい話でもないのだが。寧ろ、今はどんどんそういう話をして試していけばいいと思っている。
「俺もジョブを転職する人の話とかも知っているし。そういうのの話でよければ。
聞いてくれればするよ?」
「あ、それならお茶でも飲んでゆっくり。」
「そうだな。ライコも聞いて行けよ。お前アサシンなりたくながっていただろ。」
という訳で、この前とは別のケーキ屋でケーキとお茶を買って飲むと。
・・・・・・。
「ここのケーキ屋も甘いな。」
「うん。ミルクと穀物を甘く煮たのだね。」
今度はここのプディングを食べているのだが。ここのプディングは哺乳類の動物の乳を搾って糖質と混ぜ、穀物と煮て固める料理なのだが、そこに香辛料も入っていて香りもよく甘く食べやすくなっている。今回のサボテンで作ったコーヒーのお茶も香りがよくて飲みやすい。
「ライカ君はどうするの?」
「うーん? 俺は武闘家のまんまでいいよ。殴る方が向いていそうだからな。」
ライカ君は相変わらず腕力で解決するのを好む男の子だった。
「それなら二人で冒険をしていたらいいんじゃない?」
「俺の国って冒険って職業はこう……余程の金持ちじゃねーとなれねーからな。」
「うん。そうだね……冒険って言っても旅に出るか、遺跡を発掘調査するとか。
出土した発掘品を解読したり調べるくらいかな。」
「職業ってないんだね。」
「そういう国もあるんだね。」
「ああ。野生動物はいるが、モンスターとかそういう扱いまでのはねーからな。」
異界の地からと言っても、それはライカ君やライコちゃんの住む国から呼ばれる確率が結構あると聞いたが。冒険とかモンスターとかがない国から勇者適性のある者が召喚とか、それは確かに過酷な使命を持っていたんだろうな。
「うん。二人は、改めて大変なところに呼び出されたんだね。」
「そうですね。ずっとそう思っていたけど。ここの人とかでそう言って貰えなくて。」
「まあな。最後は俺たちで強くなるしかねー、ってなったよな。」
「俺自身も、あんまり成長の伸びとかなかったけど。
適性があるからっていきなりこっちに呼ばれても大変だっただろうね。」
改めて、この子たちはティティさん以外には親身になってくれる人はいなかったのだと思ってしまう。いるのかもしれないけど。大河の将軍の反乱とか酔っ払いとか見ているとな。
「うん……君たちがそういうことを経験した後で。
俺が言ってもコリスさんみたいに響かないかもしれないけど。
君たちは、立派に人から与えられた使命でもやってこられたと思うよ。」
「ありがとうございます。ステラさんも全然、そんなことないです。」
「ああ。アンタもさ。女の相棒の方がすげーんだろーけどさ。
二人でつるんでいるんなら胸張っていいと思うぜ。
そういうところから並んでやれよ。向こうだってアンタを相棒だと選んだんだろ?」
「あはは……逆に励まされちゃったね。」
ライコちゃんも相変わらず、明るくなった後は人に気を回せるようになっているし。ライカ君はシッカリしているなと思っているが。それはライカ君もライコちゃんの方が勇者の能力を持っているから本人の身に着けた気構えみたいなものなんだろう。俺としては、そういう気持ちはあっても、やっぱりコリスさんを立てないとなという気持ちになってしまうが。例を言えば、一歩間違えるとコリスさんの威を借りる何とやらになりそうだからな。
(でも、この子たちの前だったらそうしてもいいのかもしれないな。)
子供たちの前では大人の算段は必要ないのかもしれない。そういう、大人の枷が無いところを分けて貰おうという気にもなる。子供と接するのは沢山の発見があって面白いな。
「後は、回っていきますか?」
「うん。そうだね。君たちはどうするつもりだったの?」
「俺たちか? 今回は好きに回って衝動買いをするつもりだったから。
別にアンタと回ることとかもそれも偶然の産物だと思っていたからな。」
この子は遊ぶのは得意そうだ。何となく、コリスさんとそういうところでは意気投合もしやすそうな気がする。俺とだけ回ってもなと思ったが、その分、コリスさんと二人で回るときは俺がリードしよう。
「まずはアンタがいい店、教えてくれよ。」
「いい店って言っても、食べ物屋とか、物品販売とかあるけどどれがいい?」
「ああ。食べ物はさっき食ったばかりだからそれ以外で何かだな。」
「それ以外……それだとここかな。」
・・・・・・。
「スカラベの細工か。」
ここは岩塩都市であり、岩塩の彫刻。粘土用の土もあってそれに釉薬に金属混ぜたりしたものやガラス質の七宝焼きみたいなパーツを背中の甲に塗った物などと言った焼物。木や乾燥させたサボテンなどの彫刻、他にも彫金とガラスの合わせ細工などがあって、そういったものを展示販売していた。
「ここのスカラベは泥団子を転がして巨大になるとモンスターになるけど。
大体、遺跡の中にいて掃除とかをしてくれているからね。」
泥団子を転がしていると、落ちているものを固めて持って行ってしまうから、結果としてそれが掃除にもなるのである。
「ああ。でもそれを食っちまうから。
そうされる前に見つけたらさっさと手に入れねーとなんだけどな。」
「遺跡の発掘品には何故か手を着けないのは耐性や解ける人がいないと。
毒や麻痺状態になるからだね。」
ライカ君とライコちゃんも話している。やっぱりそういうのにも詳しいのか。鍛錬と言っても、別に組手やトレーニング、武器や体術の扱い方だけじゃないだろうからな。やっていくのは魔軍との戦争だろうし、現地に向かって単独行動をするか少人数か。大規模に部隊を指揮して地形や地理なども戦い方に入れる訓練などもあるのだろう。
この国のスカラベの話になってしまったが。話をここの売り物に戻して。
「いやーやっぱり造詣がいいなー。」
「ふーん。」
「そうですねー。」
俺がスカラベの置物を見ていると二人も興味深そうに見ている。
「どういうのがいいんですか?」
「こういうのは、自分がいいと思うのだろうけど……やっぱり細工が綺麗なのとか。
たくさん施されているのとか、貴重な材料を用いているのとかかな。」
「そうですよね。手間と物か……。」
俺の説明にライコちゃんも納得していた。
「アンタって結構、変わった趣味でもねーが、スカラベとか好きなのか?」
「うん。好きって言うか、ここの国を象徴する物の一つだからね。」
「確かにそうか。」
ライカ君も納得する。言えば聞いてくれる子だし質問も結構してくるんだな。
「ライカ君。私たちはどういうのを買う?」
「俺はこの、でかいお面だな。」
ライカ君はスカラベの形に切り整えて薄く平たく打った金属のお面だった。男の子って一時期、お面とか好きな時代があるのだろうか。俺もなりたての頃はガードっぽくしたくて兜とか被りたがったな。今でも当然、付けるけど。
「私はねー。指輪は前、ライカ君が買ってくれたから、ネックレスがいいな。」
「ああ。いいんじゃねーの。」
「うん!」
二人も無事、欲しいものが見つかったみたいだが、俺は……。
「このブローチでいいか。」
俺はブローチを手に取る。金属の土台に背中の翅の所が釉薬を重ね塗りして文様になっている。ヒエログリフとか文様とか、ここならではのものだもんな。他にも石を埋めるとか様々なのだが、こういう民族的なお土産は珍しがって観光してくれるコリスさんの興味を引きそうだった。
「わあ……。」
「ふーん。」
アクセサリーの類だから、コリスさん絡みだと思うのだろう。そこは俺に聞いて来なかったが二人は言いたくても言わないのだろう。目だけが輝いている。
「えへへ。いいですねー。」
「ああ、コリスさんが別に要らないって言うなら、俺が自分でつけるよ。」
ライコちゃんに聞かれて答える俺。スカラベだから男性が付けても違和感がないデザインである。元々、お守りとしてここではあるものだからな。
「やっぱり……そうなんですね!」
浮足立った口調で俺に言う。こういう話って女の子は好きそうだからな。とは言え、付き合うようになったのは昨日からなんだけど。それと、この子たちに触発されたからなんだけどな。
「えっと。みんなで買ったから、今度は私が回りたい所に行っていいですか?」
「ああ、いいよ。」
「ああ。スカラベも見ると愛嬌出てくるよな。」
何故か子供たちにもスカラベがヒットして、この店を後にした。
・・・・・・。
「はいらっしゃい! また来たの? よく来るね!」
「また八百屋かよ。」
「いいじゃない。来たかったんだし。」
「へー。こういう店もあったんだ。」
今度来たのはズタ袋にここで取れた野菜やら農作物やらが詰めて売られている店だが。現地に近い俺でもカタコトに聞こえる店の主人が出迎えてきた。
「また、遺跡での出土品、見てく?」
「はい!」
女の子はとても嬉しそうに主人と会話をしている。思っていたより、随分変わった物が好きなんだな。スカラベを見ていた俺が言う言葉じゃないかもしれないが。
「えっと、この前の豆は、ネックレスにしました!」
「おおー似合うね!」
しかも既に何か買った後のようで、自慢げに首飾りを見せて会話をしている。
「俺も折角だから、何か見るか。」
少年……ライカ君はおもむろに店の商品を物色し始めたが、野菜ってそんなに見るものがあるのだろうかと思っていると。
「へちまか……。」
長い瓜を手に取り眺めている。この子たちって性格は正反対でも案外、趣味が合うのかもしれないな。
「俺はスイカにするかな。
種が出ないからイチジクの方がいいかな、あと杏とか。葡萄も買っておくか。
ナッツも携帯食にいいからな。あとは飴とかも見ていくか。」
俺は俺で宿屋で研究しているコリスさんの差し入れにもなるだろうと。水の代わりに新鮮な果物や小粒でも腹持ちがいいナッツ類などを食べようと、物色していくと。
「……。」
「へー。」
何故か二人に感心するような目で見られてしまった。
「君たちは王宮でそういうのは出るから必要ないんじゃない?」
「俺たちってそういうの知らないからさ。」
「はい。どうしてもお店の人に勧められたのか、面白そうなのに行っちゃって。」
「二人は遊びに来ているんだから、そういうのでいいんじゃない?」
「いえ、こういうところからの一歩です!」
「こいつほどの意気込みはねーけど、俺も。」
何というか、自立したいけどやり方が分からない子って、他の人が自分の知らないことでそうしているのを見ると、そうなることに対して切実になるんだなと思った。
「でも、他の事はやれるんでしょ?」
「教わったことしか……。」
「俺も。知っててもやっぱり、生活力とかは弱いよな。」
「いや、二人のその好奇心はそのままでいいんだよ! これから学べばいいんだって!」
いつの間にかしんみりしそうになっていたから慌ててフォローしたが。この子たちにとって自立とはとてもデリケートな問題かもしれないんだな。子どもの内なんだから遊んでいればいいと思うけど、となったところで。
「それなら、今日の買い物は、そういうのにする?」
「え?」
俺はこの子たちに提案してみることにした。
「俺も混ぜて貰っちゃった側だし、君たちが興味があるなら。」
「あ、ありがとうございます。」
「わりぃな。」
二人も乗り気になってくれて。
・・・・・・。
「ここはキャンプとかの用具を売りとか貸し出しとかをしてくれる店で。」
「へー。」
「そういう用品もあるんですね。」
この子たちは軍がほとんど用意をしてくれるだろうから、自分で必要にならない限り、そういうことはしないのだろう。知らない分野だからそれでいいんだけどな。
「あとここは保存食も売ってくれるよ。
道具屋で冒険するのを揃えるときはこういうところで何でも置いてあるよ。」
「何だよステラ、ガキのお守りかぁ?」
「お守りじゃないよ。この子たちだっていっぱしの冒険者なんだから。」
「ああ。そうか。」
この道具屋は会ったことがないからだろう。隣の国とは言え同盟国でここで仕事はしたことがある俺の顔は覚えているが勇者たちは知らないようだった。俺も酒場に来るまで知らなかったもんな。
「悪かったな、ガキ扱いしちまってよ。」
「いいよ。ガキなのは本当だからな。」
「はい……。」
「なんだなんだ、随分と素直なんだな。」
「そうだよ、そういう子たちなんだよ。」
「ああ、悪かったよ! それなら俺が冒険に必要なのを何か見繕ってやるか。」
「今回は見に来ただけに近いから、品ぞろえを見るのと買っても不要にならないのでな。」
「はいはい……。」
道具屋のおやじは何か探しに倉庫に行ってしまったが。
「道具屋で貰えるものってなんだ、治療薬とかか?」
「あとは、ステータス異常の万能回復薬?」
ライカ君とライコちゃんが話しているが確かにそれなら貰っても不要にならないものだ。結構、知ってるじゃないか。
「ナイフでもいいよな。」
「うん……あとはバックラーとか。」
「俺もガンドレットとか買おうかな。」
そういうことがスラスラ言えるんだから、知識の範囲は狭くないと思うんだけどな。そういう子でも他の人が自分の知らないことでサラッとやってしまうと悩むときは悩むのだろう。その悩みを解消するように親父が戻ってくる間、きょろきょろと興味深そうに眺めている。冒険に関わるものと、生活力は自立には密着しているのだろう。
「ホラよ。持ってきたぜ!」
「おやじ、来るのに時間がかかった分、この子たちのハードル高くなっているからな。」
「指定はそっちで言ってきたんだろ。冒険と言えばこれだろ。」
親父が持ってきたものは。
「マジックアイテムの……ペンライトか。」
ペンライト。便宜上、俺がそう言っているだけで、先の丸くとがった棒にライト代わりの光球が付いているものだった。
「ああ。ダンジョンには明かりなんてねえからな。
光球だから魔力を持っていれば半永久的に光が出るって訳だ。」
「へえ……ペンにもなる明かりなんですね。」
「冒険用にメモを残したいのにも便利だろ? 目印も付けられる。インクも付けてやるぜ。」
インク。こちらではサボテンから取った墨を瓶に詰めたものだな。固まらないように小瓶になっている。紐でクルクルッと小瓶とペンを括りつけて、無くさないようにもしてくれた。
「ホラよ! 暗いところで何か書く時にもやってみるといいぜ。」
「ありがとうございます。」
「へー。言われてみればあって困るもんじゃねーな。」
道具屋のおやじに渡されたアイテムは二人の興味を引いたようだ。と言うよりも、冒険もそうだが勉強の足しにもなりそうなものだった。おやじも子どもに渡すのにいいところを選んできたな。
「後はステラ、お前にもだ。」
「俺に? 何だよ。」
「前に欲しいって言っていただろう? ここの国の、星座図だよ。」
「ああ。」
星座図と言っても星とそれにまつわる神話をモチーフにしたこの国の工芸品である。俺がもらった国宝とは違うが、民間で家のインテリアや壁掛けとかにもなるもので、この国で見える北極星を中心に星座の神が配置されているものだな。この国の砂に蝋で模様を描いて型にして、そこに熔かした金属を流し込んで細い金属の絵が描かれたような金属細工のようにする。という作り方だ。
「星座図なんてどうするんだ?」
「俺の趣味だよ。」
「そうだったんですね。」
聞いてきたライカ君に説明するとライコちゃんが頷く。本当はこの国の占星術にまつわるアイテムなら何でも知っておこうということからだったが、詳細に説明するわけにもいかないからな。吉凶占いみたいなもんだし。そこは趣味と言っておけば通じるしいいだろう。男性でも吉凶占いが趣味の人はいるだろうからな。
「ありがとな、おやじ。」
「ああ、いいって事よ。」
「俺の用事はこれだけだけど、君たちは他に見たいものとかある?」
「ああ、冒険って他に何が必要なんだ?」
「後は君たちのいるところの人の方が詳しいと思うけど、そういう人はいないの?」
「うーん。ライコに付いている連中なら詳しいかな。」
「後は君たちのところの、そういう人たちと会話するきっかけにするといいよ。」
「あ、ああ、そうだな。」
「はい……。」
俺の言葉に何か気づいたように返事をする二人。言われて気づいたように話すきっかけも特になかったようだ。おやじの店を後にすると。
「あ、そういえば。ティティさんがアサシンで影武者を用意してくれるんだった。」
人気がいないのを見計らって俺に教えてくれるライコちゃん。
「影武者って、ライコちゃんに付くの?」
「そうなんです。私そっくりの子で、アサシンがいたって。
その子に影武者になって貰って、何かあったらその子も軍を率いるって。」
「そうなんだよ。だから俺たちの鍛錬の他にそいつも入るようになったんだ。」
「へえ……。」
もうライコちゃんが勇者だと知られている相手に対して、特に魔軍だろう。囮の数を増やしたということなんだろうけど。この子二人だけの世界だと思っていたら急に人が増えたな。と思ったけどティティさんもいるか。
「その子とは、仲良くなれそうなの?」
「まだよく分かりません。」
「そいつだって波風立てる気はねーだろ。」
「そっか。話の流れだと、その子に君たちも教えて貰えそうだと思ったからさ。」
「うーん……そうなれるといいなと思っているんですが。」
「とりあえずな。」
ライカ君たちはそうしたいと思っているのか。立場もあるだろうしティティさんが選んだ人だったら間違いはないと思うけど、能力的な問題はライコちゃんの誰でも勇者にしちゃうという能力があれば付いていけるか。
「でも、刺激になるんじゃない? 新しい人が入ったら。」
「そう思うしかねーよな。まだ会っていない内からビビっても無駄だ。」
「はい……。」
ライコちゃんもライカ君の言葉でキリっとしたようだ。
「それじゃあ、君たちもティティさんへの報告とかもあるだろうし、今日はここまでかな?」
「すみません。」
「ああ、いいよいいよ。君たちだって息抜きに来たんだろう?
楽しかったし、いいんだよ。そういうのは引きずらなくて。」
「向こうもそう言っているし、お前も引きずるなよ。」
「うん、ありがとうございました。」
「ああ。気を付けて帰ってね。」
「おう。」
二人は王宮へ戻っていったようだ。
「よし、じゃあ俺も用事を済ませたら帰るか。」
俺はコリスさんが他にも欲しがっていた、ここでの占星術の術書を買って帰ることにした。
「それにしても、あの子たちにアサシンの影武者が付くのか。何もないといいけどな。」
元々が、周囲に馴染めなくて悩んでいた子だ。勿論。新しい人とやっていけたら自信も付くだろうし悩みなんて吹き飛ぶだろうけど。そうなってくれるといいなと今は思うだけにしておこう。ひょっとしたらライコちゃんと意気投合したり、ライカ君が仕切ったりするかもしれないからな。二人にもそう言ったけど、そういう、新しい人との交流も、自分に自信をつけるためのイベントだと割り切って思えればいいなと思いながら、俺もコリスさんの所に戻っていく。
・・・・・・。
「ただいま帰りましたー。」
「ああ。お帰り、ステラ。」
宿屋に戻るとコリスさんが俺を出迎えてくれたが。仮にでも作っていた割には何も散らかっていない状態だった。作業を広げるのは、何かあるのだろうか。
「君も帰ってきてくれたし、そろそろ休憩とするか。」
「仮に作るのでも時間がかかるんですか?」
「まあ、一日で作れるものではないかな。」
「そうですね。」
言われてみれば。精霊の作るものでも時間はかかるのか。
「休憩はどうするんですか。」
「そうだね。ご飯が食べたいかな。食べないことには何もやれないからね。」
「お、それならここで酒場にでも行きますか。」
屋台もやってはいるだろうが。他にもご飯をゆっくり食べた方が疲れは取れそうだった。
「それからは風呂にでもゆっくり入って……。
ご飯を食べて、ゆっくり風呂に入らないと一日が終わった気がしないんだ。」
コリスさんの一日を締めくくる習慣はご飯と風呂なのか。ご飯は知っていたけど、そんなに風呂も好きなんだな。
「何だったら君も布団にこだわりがあるんだったらクオンタムロッドで出してあげるよ?」
「あ、盲点。」
「ああ。これからはキャンプ用具やもろもろは私に言ってくれれば出してあげよう。」
「ああ……。」
「これがあるから私は何も持ち歩く必要がなかったのだが。
知らない街の知らないものは知っておきたかったし、知らないと出せないからね。」
「それって、食べ物もです?」
「まあ、全物質だからね。それでも美味しいものを食べたいんだったら。
現地に勝るものはないかな。」
「知らないと出せませんからね。」
「そういうことだ。お金がないときと、そういうものを欲していないときは呼ぶといい。」
今までずっとコリスさんに言わないでいたが、俺も気づかなかったし。コリスさんも言わなかったのは知りたかったからか。
「という訳だ。君が案内してくれる食べ物屋に行こうじゃないか!」
「はい。」
突然のコリスさんの万能能力に驚いたが、気を取り直して行く事になった。
・・・・・・。
「折角だから、ビールで行きましょう。」
「ああ、かんぱーい。」
打ち上げと言えばビールだろうということでビールで乾杯し、胡麻とレモン、香料の混ざったディップが付いたパンをおつまみにして食べる。他にもサラダ、ヨーグルトのようなフレッシュチーズもあって小食な人は、それだけでお腹いっぱいになるところだが、メインに肉料理を頼んでいた。ここは灌漑農業もしているし、家畜も肉や乳、卵などを取るために育てている。それにモンスターを狩ったときの肉もこちらには出回っている。俺たちが仕留めたモンスターもこっちで売ったし報酬以外にもモンスターの肉や素材が売れるのだった。リザードマン将軍も多分いい装甲が……と思ったが。それは思わないでおこう。
いきなり食欲がなくなりそうな話もしてしまったが。メインは肉料理だが俺たちがここで頼んだのは、シチューだった。煮込みならどこでもありそうだがここでは香辛料をたっぷり利かせて内臓も入っている。更にデザートと、お茶を頼んでゆっくりシッカリ食べるという算段だ。デザートは果実とナッツの入ったケーキのような甘いパンでコリスさんも穀物を今回も食べられるだろう。
「はあ……屋台もいいが、こういう店の中でゆっくり食べる料理ってのもいいね。」
「そのために選びましたからね。」
コリスさんは既にビール二杯目に突入し、俺は果物のジュースを頼んだらコリスさんもそれにした。熱い気候の場所だからそういう果物も取れるし、コリスさんにも買ってきたのだがそれは後で食べるのだろう。
「ふーむ。メイン料理はシッカリ食べるものか。」
「ええ。レバーも入っていますが香辛料もあるから独特の香りの良さがありますね。」
「そうだな。ここでは匂いはいい匂いの物が多いかな。」
他にも保存技術や塩のお陰か、食べ物はここでは肉まで美味しく食べられるな。しかも内臓もだ。
「それに……デザートだって美味しい!」
「良かったです。」
甘いパンも気に入って、紅茶を流し込んでいるようだ。
「茶も、随分と飲み口がスッキリしているじゃないか。香草と混ぜるといいんだな。」
「そうですね。香草もここではいっぱい取れます。」
「へーえ。私の国にもあるぞ、この香草なら。だが薬用や、シロップにして舐めるんだ。」
「薬用は珍しくないですが、シロップは美味しそうですね。」
「ああ。ハッカ水と言ってだね。他にも寒天のゼリーにしたり……。」
コリスさんのご当地の話も聞きながら、俺はしばしのお祝いをしていると。
「そう言えば君は私の国も見てみたいと言っていたね。」
コリスさんが尋ねてきた。
「はい。あ、そう言えば、何かあったんです?」
「国自体には何もないが。この国での依頼がなければ行ってしまおうかと思ってね。」
「いいですよ。フローライトサンドの後ですか?」
「ああ。君も、私とこうなっただろう? だったら報告もしておかないとと。」
「ええ。」
精霊と人間が付き合い、もしも子をなすことがあったら。事前に言っておいた方が波風は立つまい。とは言え。
(俺が精霊に謁見するのか……いきなりだな。)
どういう世界なんだろう。精霊と関わるようになってから俺の人生は毎度、急展開を迎えているが。
「後は……勇者もかな。」
「関わることになりましたからね。」
「向こうの精霊との不可侵は破るつもりはないからね。私達だけの判断に余る場合の事を。」
「ありそうですよね。」
既にコリスさんは勇者関連では大分、干渉しているし、それでいいのかと思う場面もあったから、コリスさんはコリスさんで一応、懸念していたのか。
「それはそれとして。美味しい料理だ。ゆっくり味わおう。
胡麻のディップが美味しいな。これもっと食べたい!」
「はーい。お代わり頼みますか?」
「ああ、あと串焼きと、ビール!」
「じゃあ俺は同じ料理と地酒にするかな。」
「また君は違うものを選ぶー。それも追加だ。」
こうして、俺とコリスさんは、付き合うようになったのと、依頼も済ませた記念に美味しいものをたらふく食べたのであった。
「……ふう。食べた呑んだ。」
「俺も腹いっぱいです。」
あっという間に宿屋に戻り。コリスさんはまたベッドでゴロゴロしている。
「コリスさん、お風呂には入らないんですか?」
「ああ。入るよ。食べすぎたから腹ごなしをちょいと済ませたらだね。」
酒で酔って、身体も温まっているからか、ゆっくりと風呂には入りたいが無理したらリバースするからな。酒呑みは呑んだ後は無茶しないのは鉄則である。
「じゃあ、俺が風呂の準備もしておきます?」
「ああ。お願いするよ。持って行っていいよ。」
一度説明を聞いたときはお城が買えるくらいの値段で、更に精霊具にもかかわらず、随分な扱いである。それだけ俺に許してくれているということだけど。
「そう言えば暴飲暴食や酔いに効くお風呂とかも出せるのかな。」
あるのかそんなの、と言いたいところだが無いわけでもあるまい。一応念じて風呂を作って溜めていくと。
「あ、いい匂い。」
爽快感のあるいい匂いが風呂から漂ってきた。
「ああ。君は気を利かせてくれたのか。」
コリスさんも匂いに気が付いたのか、こちらにやってくる。
「じゃあ、せっかくだから二人で入ろうか!」
「はい。」
という訳で二人で風呂に入ることにした。
・・・・・・。
「はあ……お湯も香りも染み渡る……。」
「そうですね。」
二人で風呂に入り、薬湯に浸かっているような気分で風呂に入っていた。
「温泉もいいけど薬湯もいいな。」
「そうですね、いい匂いですし疲れが芯から取れそうです。」
「ここの塩湖も面白かったな。」
「何ならいっそ、プールにしちゃいます? 洗い場全体をそうしちゃえば。
やれないことはなさそうです。」
「ああ。やってみるといいよ。」
コリスさんも止めず、俺もまだ酔いが回っているのか調子に乗って風呂をプールにする。
「おおー大浴場だ。」
「ですねー。」
完全に歯止めの利かなくなった浮かれた酔っ払いである。魔力を出しているのは俺だから全然、問題ないんだけどな。
「じゃあ。泳いじゃおうかなー。」
「どうぞどうぞ。」
コリスさんも泳ぎ始めた。
「……ふう。すー。」
俺は深呼吸する。今日は勇者の子たちと会って、コリスさんと宴会もして。その前は付き合うようにもなって。更にその前は……俺の身に起こったと思えない事の連続だったな。だけど、まぎれもなく俺の身に起こった事だ。俺の運命はコリスさんと組んだことで大きく変わっている。目まぐるしい日々の中にこうした小休止があるとつい、浮かれてしまうのも仕方あるまい。
「俺は、これから……。」
しばらくはコリスさんの仮作が終わるまではここにいるのだろう。それもいつまでかは分からないけど、歩くと勇者の子たちによく遭遇するんだよな。遊びたい場所が同じなのだろう。
「どうしたんだい、ステラ。」
「ああ、そうだコリスさん。」
「?」
「勇者の子たちに今日も会ったんです。」
「ああ、よかったじゃないか。今日も元気だったのかい?」
「そうですね。それと影武者がライコちゃんに付くそうです。」
「まあ、狙われると知ったら今度はそうするだろうね。」
「その子と仲良くなれるといいねって言う話と。」
「主君に近い存在で逆らおうとする者は……いない訳じゃないだろうが。
ティティさんが選んだ相手なら間違いはなさそうだな。」
「そうですね。」
ティティさんには絶大なる期待感があるからな。ティティさんならやってくれる、何とかしてくれる、とか。
「いつの間にか私たちもあの子たちの事がこうなってしまっているな。」
「ええ。こうなるとは思わなかったんですが。やっぱり可愛いですよね。」
「ああ。その話をすると、私は君だってだね。」
「それなら俺もコリスさんもですね。」
「うう……っ。」
コリスさんはお湯に潜りそうな動揺を見せている。
「逃げないでくださいよ。」
「うわあ?」
俺はそこを抱きとめて。
「コリスさん……。」
「う、うう。」
いきなりだったがコリスさんとすることになってしまった。
「コリスさん、俺どうしてます?」
その後、二人で起きて。体を綺麗に洗った俺とコリスさんで食事も済ませると。コリスさんが早速、封印具の仮作をしていた。
「そうだね。私が作っている間は君は暇だし。もう護衛の必要もないと知っているだろう?
精霊の壁でも作って誰も入ってこられないように結解でも作っておくけど。
君はどうする?」
「とは言っても俺、コリスさんがいないと一人で回っても見せたいところとかないからな。」
「君が行きたいところってないの? 折角なんだ。私がいなくて丁度いい場所をだね。
そういうのも君の息抜きだろう。今からそういう時間も作っておかないと。」
「うーん……。あればいいんですけどね。そうだな……。」
俺は思案する。どうせならサプライズとしてコリスさんを連れて行けそうな場所の探索とかどうだろうとか思った。行くとしたらまたバザールになると思うが、そういう場所で面白いものや美味しいものとかが置いてあれば、先に調べておいて後でそこから案内してもいいかもしれない。と言うのもあるが、ひょっとしたらそこで俺の見たいものが見つかるかもしれないし、行ってだけみることにした。
「じゃあ、行ってきます。」
「行ってらっしゃい。」
俺はバザールに行ってみると。
「お、また遺跡からの発掘品か。」
ここの出店に出回るのは遺跡から発掘したもので王宮に献上されないもので個人でも用いられるのはここに来るのだった。シーフやハンターのダンジョン探索の訓練になるし、遺跡自体がそういう場所として他の盗掘者に持って行かれるくらいなら、いっそ王宮で雇ってアイテムを手に入れつつ鍛えてしまえという発想になったんだな。とは言え、盗掘者もいることはいる。それはどこの国にもこういう遺跡があれば起こる問題なんだろう。特殊な訓練を受けていなければ、ステータス異常やトラップがここは尋常ではないから、耐性と罠回避能力がないとそのままお陀仏という場合もある。
(ライコ、って言ったっけ。)
(あの子……適性があるって言われていきなりアサシンになったんだよな。)
(遺跡探索能力とかもあるのかな。)
いつから勇者としてここにいるのかは分からないが。初陣と言っていたから、そんなにここにいる訳じゃないと思うけど、どんな訓練を受けてそうなったんだろう。アサシンとしての能力以外にも、遺跡探索とかもスキルとしてあれば、アサシンとして以外の生き方だって生きていけるんじゃないだろうか……と思ったが。今はそれどころじゃないだろうけど、うーん、どうなんだろう。
「なんだ、今日はアンタだけか。」
「こ、こんにちは!」
そんなことを思っていたら、まさにその子たちと会ってしまった。勇者の二人組である。
「ああ。今日はね、コリスさんは忙しいから俺が一人で回っているんだ。」
「ふーん。アンタも結構、ここにいるんだな。」
「えっと、せっかくだから、今日も……。いいかな、ライカ君。」
「俺はいいけど、そっちの方はどうなんだよ。」
「ああ、いいよ。ちょうど俺、コリスさんが興味を持ちそうなところを調べておこうと思って。」
「へー。マメだな、アンタも。」
ライコちゃんに声を掛けられて。少年の方は相変わらずこっちの事情も聞いてくれて。俺がコリスさんのことを話したらライカ君か、そっちの方に感心されてしまった。感心というか、女性に対してそういう行為をすることに対しての興味と言ったところか。
「俺もコリスさんにはお世話になっているからね。今回も俺に関してだから。
こういうところではいいところを見せないと。」
このくらいの事なら喋ってもいいだろう。
「ふーん。」
ライカ君は相変わらずそっけない返事だったが興味を持っているようだ。
「それで、どういうところを回りたいと思っているんですか?」
ライコちゃんの方は興味深々を隠す気もなく聞いてきている。
「うん。まずはマジックアイテムからかな。それからパンとかここの郷土料理とか。
あとは……穀物も好きだって言っていたし、他に何か面白そうなのがあれば。」
「コリスさんって、そういうのがお好きなんですか?」
「あはは。みんなで見に行こうか?」
「見に行くのは構わねーけど。アンタの相棒ってジョブと性格まんまの物が好きなんだな。」
「ああ、言われてみればそうだね。」
美味しいものや面白いもの興味を引くもの、後は自分のジョブに関わるものか。趣味とジョブに生きている人って感じだな。
「後は俺の見たいものを見て来ていいって言われたけど。
俺ってそういう固まった趣味ってないし。寄って面白そうなのがあればいいかなって。」
「アンタ、趣味とかないのか?」
「うーん。ハンティングとかはするけど。仕事の延長だよね。」
「ギルドで働いているならな。」
「あ、そうだ。趣味といえば。二人に聞きたいことがあったんだ。」
「何だよ。」
「ライコちゃんって、どうしてアサシンの能力があるって言われたのかなって。
遺跡探索の試験でそうなったなら。
アサシン以外にもそういう生き方とかもありそうだなって。」
「ええと、そういう話はここじゃ話せなくて。」
「あ、ごめん、そうだったね。」
勇者の話はここじゃ迂闊に話せないか。勇者はライカ君とライコちゃんのどちらかか、正体自体はここの国の人が知っているかもしれないことだろうけど。勇者の適性を調べる何かがあるのは分からずじまいか。
「でも。アサシンから派生した仕事ってあるんですね。」
「そうだな。発掘調査とか発掘したアイテムの鑑定とか。お前やれるようになれれば?」
「うん。この前は武術だったし、やれそうなことがどんどん増えていくね!」
俺の言葉で二人がきゃいきゃいしているのを見るのは、とても微笑ましい。俺とコリスさんもくっつけた後だったから、幸せを貰えるのを享受して更に、ふふん、俺だって数日後はそうなるんだぜとか内心、得意げになっている。幸せって幸せ状態になると他の人の幸せ状態でも俺みたいな日陰の人間でも聞いていて蒸発しないから不思議だ。しかも向こうは俺のコンプレックスだった才能の話でもだ。とは言え、この子たちも苦労してこの立場にいることは知っているから、そんなに妬ましい話でもないのだが。寧ろ、今はどんどんそういう話をして試していけばいいと思っている。
「俺もジョブを転職する人の話とかも知っているし。そういうのの話でよければ。
聞いてくれればするよ?」
「あ、それならお茶でも飲んでゆっくり。」
「そうだな。ライコも聞いて行けよ。お前アサシンなりたくながっていただろ。」
という訳で、この前とは別のケーキ屋でケーキとお茶を買って飲むと。
・・・・・・。
「ここのケーキ屋も甘いな。」
「うん。ミルクと穀物を甘く煮たのだね。」
今度はここのプディングを食べているのだが。ここのプディングは哺乳類の動物の乳を搾って糖質と混ぜ、穀物と煮て固める料理なのだが、そこに香辛料も入っていて香りもよく甘く食べやすくなっている。今回のサボテンで作ったコーヒーのお茶も香りがよくて飲みやすい。
「ライカ君はどうするの?」
「うーん? 俺は武闘家のまんまでいいよ。殴る方が向いていそうだからな。」
ライカ君は相変わらず腕力で解決するのを好む男の子だった。
「それなら二人で冒険をしていたらいいんじゃない?」
「俺の国って冒険って職業はこう……余程の金持ちじゃねーとなれねーからな。」
「うん。そうだね……冒険って言っても旅に出るか、遺跡を発掘調査するとか。
出土した発掘品を解読したり調べるくらいかな。」
「職業ってないんだね。」
「そういう国もあるんだね。」
「ああ。野生動物はいるが、モンスターとかそういう扱いまでのはねーからな。」
異界の地からと言っても、それはライカ君やライコちゃんの住む国から呼ばれる確率が結構あると聞いたが。冒険とかモンスターとかがない国から勇者適性のある者が召喚とか、それは確かに過酷な使命を持っていたんだろうな。
「うん。二人は、改めて大変なところに呼び出されたんだね。」
「そうですね。ずっとそう思っていたけど。ここの人とかでそう言って貰えなくて。」
「まあな。最後は俺たちで強くなるしかねー、ってなったよな。」
「俺自身も、あんまり成長の伸びとかなかったけど。
適性があるからっていきなりこっちに呼ばれても大変だっただろうね。」
改めて、この子たちはティティさん以外には親身になってくれる人はいなかったのだと思ってしまう。いるのかもしれないけど。大河の将軍の反乱とか酔っ払いとか見ているとな。
「うん……君たちがそういうことを経験した後で。
俺が言ってもコリスさんみたいに響かないかもしれないけど。
君たちは、立派に人から与えられた使命でもやってこられたと思うよ。」
「ありがとうございます。ステラさんも全然、そんなことないです。」
「ああ。アンタもさ。女の相棒の方がすげーんだろーけどさ。
二人でつるんでいるんなら胸張っていいと思うぜ。
そういうところから並んでやれよ。向こうだってアンタを相棒だと選んだんだろ?」
「あはは……逆に励まされちゃったね。」
ライコちゃんも相変わらず、明るくなった後は人に気を回せるようになっているし。ライカ君はシッカリしているなと思っているが。それはライカ君もライコちゃんの方が勇者の能力を持っているから本人の身に着けた気構えみたいなものなんだろう。俺としては、そういう気持ちはあっても、やっぱりコリスさんを立てないとなという気持ちになってしまうが。例を言えば、一歩間違えるとコリスさんの威を借りる何とやらになりそうだからな。
(でも、この子たちの前だったらそうしてもいいのかもしれないな。)
子供たちの前では大人の算段は必要ないのかもしれない。そういう、大人の枷が無いところを分けて貰おうという気にもなる。子供と接するのは沢山の発見があって面白いな。
「後は、回っていきますか?」
「うん。そうだね。君たちはどうするつもりだったの?」
「俺たちか? 今回は好きに回って衝動買いをするつもりだったから。
別にアンタと回ることとかもそれも偶然の産物だと思っていたからな。」
この子は遊ぶのは得意そうだ。何となく、コリスさんとそういうところでは意気投合もしやすそうな気がする。俺とだけ回ってもなと思ったが、その分、コリスさんと二人で回るときは俺がリードしよう。
「まずはアンタがいい店、教えてくれよ。」
「いい店って言っても、食べ物屋とか、物品販売とかあるけどどれがいい?」
「ああ。食べ物はさっき食ったばかりだからそれ以外で何かだな。」
「それ以外……それだとここかな。」
・・・・・・。
「スカラベの細工か。」
ここは岩塩都市であり、岩塩の彫刻。粘土用の土もあってそれに釉薬に金属混ぜたりしたものやガラス質の七宝焼きみたいなパーツを背中の甲に塗った物などと言った焼物。木や乾燥させたサボテンなどの彫刻、他にも彫金とガラスの合わせ細工などがあって、そういったものを展示販売していた。
「ここのスカラベは泥団子を転がして巨大になるとモンスターになるけど。
大体、遺跡の中にいて掃除とかをしてくれているからね。」
泥団子を転がしていると、落ちているものを固めて持って行ってしまうから、結果としてそれが掃除にもなるのである。
「ああ。でもそれを食っちまうから。
そうされる前に見つけたらさっさと手に入れねーとなんだけどな。」
「遺跡の発掘品には何故か手を着けないのは耐性や解ける人がいないと。
毒や麻痺状態になるからだね。」
ライカ君とライコちゃんも話している。やっぱりそういうのにも詳しいのか。鍛錬と言っても、別に組手やトレーニング、武器や体術の扱い方だけじゃないだろうからな。やっていくのは魔軍との戦争だろうし、現地に向かって単独行動をするか少人数か。大規模に部隊を指揮して地形や地理なども戦い方に入れる訓練などもあるのだろう。
この国のスカラベの話になってしまったが。話をここの売り物に戻して。
「いやーやっぱり造詣がいいなー。」
「ふーん。」
「そうですねー。」
俺がスカラベの置物を見ていると二人も興味深そうに見ている。
「どういうのがいいんですか?」
「こういうのは、自分がいいと思うのだろうけど……やっぱり細工が綺麗なのとか。
たくさん施されているのとか、貴重な材料を用いているのとかかな。」
「そうですよね。手間と物か……。」
俺の説明にライコちゃんも納得していた。
「アンタって結構、変わった趣味でもねーが、スカラベとか好きなのか?」
「うん。好きって言うか、ここの国を象徴する物の一つだからね。」
「確かにそうか。」
ライカ君も納得する。言えば聞いてくれる子だし質問も結構してくるんだな。
「ライカ君。私たちはどういうのを買う?」
「俺はこの、でかいお面だな。」
ライカ君はスカラベの形に切り整えて薄く平たく打った金属のお面だった。男の子って一時期、お面とか好きな時代があるのだろうか。俺もなりたての頃はガードっぽくしたくて兜とか被りたがったな。今でも当然、付けるけど。
「私はねー。指輪は前、ライカ君が買ってくれたから、ネックレスがいいな。」
「ああ。いいんじゃねーの。」
「うん!」
二人も無事、欲しいものが見つかったみたいだが、俺は……。
「このブローチでいいか。」
俺はブローチを手に取る。金属の土台に背中の翅の所が釉薬を重ね塗りして文様になっている。ヒエログリフとか文様とか、ここならではのものだもんな。他にも石を埋めるとか様々なのだが、こういう民族的なお土産は珍しがって観光してくれるコリスさんの興味を引きそうだった。
「わあ……。」
「ふーん。」
アクセサリーの類だから、コリスさん絡みだと思うのだろう。そこは俺に聞いて来なかったが二人は言いたくても言わないのだろう。目だけが輝いている。
「えへへ。いいですねー。」
「ああ、コリスさんが別に要らないって言うなら、俺が自分でつけるよ。」
ライコちゃんに聞かれて答える俺。スカラベだから男性が付けても違和感がないデザインである。元々、お守りとしてここではあるものだからな。
「やっぱり……そうなんですね!」
浮足立った口調で俺に言う。こういう話って女の子は好きそうだからな。とは言え、付き合うようになったのは昨日からなんだけど。それと、この子たちに触発されたからなんだけどな。
「えっと。みんなで買ったから、今度は私が回りたい所に行っていいですか?」
「ああ、いいよ。」
「ああ。スカラベも見ると愛嬌出てくるよな。」
何故か子供たちにもスカラベがヒットして、この店を後にした。
・・・・・・。
「はいらっしゃい! また来たの? よく来るね!」
「また八百屋かよ。」
「いいじゃない。来たかったんだし。」
「へー。こういう店もあったんだ。」
今度来たのはズタ袋にここで取れた野菜やら農作物やらが詰めて売られている店だが。現地に近い俺でもカタコトに聞こえる店の主人が出迎えてきた。
「また、遺跡での出土品、見てく?」
「はい!」
女の子はとても嬉しそうに主人と会話をしている。思っていたより、随分変わった物が好きなんだな。スカラベを見ていた俺が言う言葉じゃないかもしれないが。
「えっと、この前の豆は、ネックレスにしました!」
「おおー似合うね!」
しかも既に何か買った後のようで、自慢げに首飾りを見せて会話をしている。
「俺も折角だから、何か見るか。」
少年……ライカ君はおもむろに店の商品を物色し始めたが、野菜ってそんなに見るものがあるのだろうかと思っていると。
「へちまか……。」
長い瓜を手に取り眺めている。この子たちって性格は正反対でも案外、趣味が合うのかもしれないな。
「俺はスイカにするかな。
種が出ないからイチジクの方がいいかな、あと杏とか。葡萄も買っておくか。
ナッツも携帯食にいいからな。あとは飴とかも見ていくか。」
俺は俺で宿屋で研究しているコリスさんの差し入れにもなるだろうと。水の代わりに新鮮な果物や小粒でも腹持ちがいいナッツ類などを食べようと、物色していくと。
「……。」
「へー。」
何故か二人に感心するような目で見られてしまった。
「君たちは王宮でそういうのは出るから必要ないんじゃない?」
「俺たちってそういうの知らないからさ。」
「はい。どうしてもお店の人に勧められたのか、面白そうなのに行っちゃって。」
「二人は遊びに来ているんだから、そういうのでいいんじゃない?」
「いえ、こういうところからの一歩です!」
「こいつほどの意気込みはねーけど、俺も。」
何というか、自立したいけどやり方が分からない子って、他の人が自分の知らないことでそうしているのを見ると、そうなることに対して切実になるんだなと思った。
「でも、他の事はやれるんでしょ?」
「教わったことしか……。」
「俺も。知っててもやっぱり、生活力とかは弱いよな。」
「いや、二人のその好奇心はそのままでいいんだよ! これから学べばいいんだって!」
いつの間にかしんみりしそうになっていたから慌ててフォローしたが。この子たちにとって自立とはとてもデリケートな問題かもしれないんだな。子どもの内なんだから遊んでいればいいと思うけど、となったところで。
「それなら、今日の買い物は、そういうのにする?」
「え?」
俺はこの子たちに提案してみることにした。
「俺も混ぜて貰っちゃった側だし、君たちが興味があるなら。」
「あ、ありがとうございます。」
「わりぃな。」
二人も乗り気になってくれて。
・・・・・・。
「ここはキャンプとかの用具を売りとか貸し出しとかをしてくれる店で。」
「へー。」
「そういう用品もあるんですね。」
この子たちは軍がほとんど用意をしてくれるだろうから、自分で必要にならない限り、そういうことはしないのだろう。知らない分野だからそれでいいんだけどな。
「あとここは保存食も売ってくれるよ。
道具屋で冒険するのを揃えるときはこういうところで何でも置いてあるよ。」
「何だよステラ、ガキのお守りかぁ?」
「お守りじゃないよ。この子たちだっていっぱしの冒険者なんだから。」
「ああ。そうか。」
この道具屋は会ったことがないからだろう。隣の国とは言え同盟国でここで仕事はしたことがある俺の顔は覚えているが勇者たちは知らないようだった。俺も酒場に来るまで知らなかったもんな。
「悪かったな、ガキ扱いしちまってよ。」
「いいよ。ガキなのは本当だからな。」
「はい……。」
「なんだなんだ、随分と素直なんだな。」
「そうだよ、そういう子たちなんだよ。」
「ああ、悪かったよ! それなら俺が冒険に必要なのを何か見繕ってやるか。」
「今回は見に来ただけに近いから、品ぞろえを見るのと買っても不要にならないのでな。」
「はいはい……。」
道具屋のおやじは何か探しに倉庫に行ってしまったが。
「道具屋で貰えるものってなんだ、治療薬とかか?」
「あとは、ステータス異常の万能回復薬?」
ライカ君とライコちゃんが話しているが確かにそれなら貰っても不要にならないものだ。結構、知ってるじゃないか。
「ナイフでもいいよな。」
「うん……あとはバックラーとか。」
「俺もガンドレットとか買おうかな。」
そういうことがスラスラ言えるんだから、知識の範囲は狭くないと思うんだけどな。そういう子でも他の人が自分の知らないことでサラッとやってしまうと悩むときは悩むのだろう。その悩みを解消するように親父が戻ってくる間、きょろきょろと興味深そうに眺めている。冒険に関わるものと、生活力は自立には密着しているのだろう。
「ホラよ。持ってきたぜ!」
「おやじ、来るのに時間がかかった分、この子たちのハードル高くなっているからな。」
「指定はそっちで言ってきたんだろ。冒険と言えばこれだろ。」
親父が持ってきたものは。
「マジックアイテムの……ペンライトか。」
ペンライト。便宜上、俺がそう言っているだけで、先の丸くとがった棒にライト代わりの光球が付いているものだった。
「ああ。ダンジョンには明かりなんてねえからな。
光球だから魔力を持っていれば半永久的に光が出るって訳だ。」
「へえ……ペンにもなる明かりなんですね。」
「冒険用にメモを残したいのにも便利だろ? 目印も付けられる。インクも付けてやるぜ。」
インク。こちらではサボテンから取った墨を瓶に詰めたものだな。固まらないように小瓶になっている。紐でクルクルッと小瓶とペンを括りつけて、無くさないようにもしてくれた。
「ホラよ! 暗いところで何か書く時にもやってみるといいぜ。」
「ありがとうございます。」
「へー。言われてみればあって困るもんじゃねーな。」
道具屋のおやじに渡されたアイテムは二人の興味を引いたようだ。と言うよりも、冒険もそうだが勉強の足しにもなりそうなものだった。おやじも子どもに渡すのにいいところを選んできたな。
「後はステラ、お前にもだ。」
「俺に? 何だよ。」
「前に欲しいって言っていただろう? ここの国の、星座図だよ。」
「ああ。」
星座図と言っても星とそれにまつわる神話をモチーフにしたこの国の工芸品である。俺がもらった国宝とは違うが、民間で家のインテリアや壁掛けとかにもなるもので、この国で見える北極星を中心に星座の神が配置されているものだな。この国の砂に蝋で模様を描いて型にして、そこに熔かした金属を流し込んで細い金属の絵が描かれたような金属細工のようにする。という作り方だ。
「星座図なんてどうするんだ?」
「俺の趣味だよ。」
「そうだったんですね。」
聞いてきたライカ君に説明するとライコちゃんが頷く。本当はこの国の占星術にまつわるアイテムなら何でも知っておこうということからだったが、詳細に説明するわけにもいかないからな。吉凶占いみたいなもんだし。そこは趣味と言っておけば通じるしいいだろう。男性でも吉凶占いが趣味の人はいるだろうからな。
「ありがとな、おやじ。」
「ああ、いいって事よ。」
「俺の用事はこれだけだけど、君たちは他に見たいものとかある?」
「ああ、冒険って他に何が必要なんだ?」
「後は君たちのいるところの人の方が詳しいと思うけど、そういう人はいないの?」
「うーん。ライコに付いている連中なら詳しいかな。」
「後は君たちのところの、そういう人たちと会話するきっかけにするといいよ。」
「あ、ああ、そうだな。」
「はい……。」
俺の言葉に何か気づいたように返事をする二人。言われて気づいたように話すきっかけも特になかったようだ。おやじの店を後にすると。
「あ、そういえば。ティティさんがアサシンで影武者を用意してくれるんだった。」
人気がいないのを見計らって俺に教えてくれるライコちゃん。
「影武者って、ライコちゃんに付くの?」
「そうなんです。私そっくりの子で、アサシンがいたって。
その子に影武者になって貰って、何かあったらその子も軍を率いるって。」
「そうなんだよ。だから俺たちの鍛錬の他にそいつも入るようになったんだ。」
「へえ……。」
もうライコちゃんが勇者だと知られている相手に対して、特に魔軍だろう。囮の数を増やしたということなんだろうけど。この子二人だけの世界だと思っていたら急に人が増えたな。と思ったけどティティさんもいるか。
「その子とは、仲良くなれそうなの?」
「まだよく分かりません。」
「そいつだって波風立てる気はねーだろ。」
「そっか。話の流れだと、その子に君たちも教えて貰えそうだと思ったからさ。」
「うーん……そうなれるといいなと思っているんですが。」
「とりあえずな。」
ライカ君たちはそうしたいと思っているのか。立場もあるだろうしティティさんが選んだ人だったら間違いはないと思うけど、能力的な問題はライコちゃんの誰でも勇者にしちゃうという能力があれば付いていけるか。
「でも、刺激になるんじゃない? 新しい人が入ったら。」
「そう思うしかねーよな。まだ会っていない内からビビっても無駄だ。」
「はい……。」
ライコちゃんもライカ君の言葉でキリっとしたようだ。
「それじゃあ、君たちもティティさんへの報告とかもあるだろうし、今日はここまでかな?」
「すみません。」
「ああ、いいよいいよ。君たちだって息抜きに来たんだろう?
楽しかったし、いいんだよ。そういうのは引きずらなくて。」
「向こうもそう言っているし、お前も引きずるなよ。」
「うん、ありがとうございました。」
「ああ。気を付けて帰ってね。」
「おう。」
二人は王宮へ戻っていったようだ。
「よし、じゃあ俺も用事を済ませたら帰るか。」
俺はコリスさんが他にも欲しがっていた、ここでの占星術の術書を買って帰ることにした。
「それにしても、あの子たちにアサシンの影武者が付くのか。何もないといいけどな。」
元々が、周囲に馴染めなくて悩んでいた子だ。勿論。新しい人とやっていけたら自信も付くだろうし悩みなんて吹き飛ぶだろうけど。そうなってくれるといいなと今は思うだけにしておこう。ひょっとしたらライコちゃんと意気投合したり、ライカ君が仕切ったりするかもしれないからな。二人にもそう言ったけど、そういう、新しい人との交流も、自分に自信をつけるためのイベントだと割り切って思えればいいなと思いながら、俺もコリスさんの所に戻っていく。
・・・・・・。
「ただいま帰りましたー。」
「ああ。お帰り、ステラ。」
宿屋に戻るとコリスさんが俺を出迎えてくれたが。仮にでも作っていた割には何も散らかっていない状態だった。作業を広げるのは、何かあるのだろうか。
「君も帰ってきてくれたし、そろそろ休憩とするか。」
「仮に作るのでも時間がかかるんですか?」
「まあ、一日で作れるものではないかな。」
「そうですね。」
言われてみれば。精霊の作るものでも時間はかかるのか。
「休憩はどうするんですか。」
「そうだね。ご飯が食べたいかな。食べないことには何もやれないからね。」
「お、それならここで酒場にでも行きますか。」
屋台もやってはいるだろうが。他にもご飯をゆっくり食べた方が疲れは取れそうだった。
「それからは風呂にでもゆっくり入って……。
ご飯を食べて、ゆっくり風呂に入らないと一日が終わった気がしないんだ。」
コリスさんの一日を締めくくる習慣はご飯と風呂なのか。ご飯は知っていたけど、そんなに風呂も好きなんだな。
「何だったら君も布団にこだわりがあるんだったらクオンタムロッドで出してあげるよ?」
「あ、盲点。」
「ああ。これからはキャンプ用具やもろもろは私に言ってくれれば出してあげよう。」
「ああ……。」
「これがあるから私は何も持ち歩く必要がなかったのだが。
知らない街の知らないものは知っておきたかったし、知らないと出せないからね。」
「それって、食べ物もです?」
「まあ、全物質だからね。それでも美味しいものを食べたいんだったら。
現地に勝るものはないかな。」
「知らないと出せませんからね。」
「そういうことだ。お金がないときと、そういうものを欲していないときは呼ぶといい。」
今までずっとコリスさんに言わないでいたが、俺も気づかなかったし。コリスさんも言わなかったのは知りたかったからか。
「という訳だ。君が案内してくれる食べ物屋に行こうじゃないか!」
「はい。」
突然のコリスさんの万能能力に驚いたが、気を取り直して行く事になった。
・・・・・・。
「折角だから、ビールで行きましょう。」
「ああ、かんぱーい。」
打ち上げと言えばビールだろうということでビールで乾杯し、胡麻とレモン、香料の混ざったディップが付いたパンをおつまみにして食べる。他にもサラダ、ヨーグルトのようなフレッシュチーズもあって小食な人は、それだけでお腹いっぱいになるところだが、メインに肉料理を頼んでいた。ここは灌漑農業もしているし、家畜も肉や乳、卵などを取るために育てている。それにモンスターを狩ったときの肉もこちらには出回っている。俺たちが仕留めたモンスターもこっちで売ったし報酬以外にもモンスターの肉や素材が売れるのだった。リザードマン将軍も多分いい装甲が……と思ったが。それは思わないでおこう。
いきなり食欲がなくなりそうな話もしてしまったが。メインは肉料理だが俺たちがここで頼んだのは、シチューだった。煮込みならどこでもありそうだがここでは香辛料をたっぷり利かせて内臓も入っている。更にデザートと、お茶を頼んでゆっくりシッカリ食べるという算段だ。デザートは果実とナッツの入ったケーキのような甘いパンでコリスさんも穀物を今回も食べられるだろう。
「はあ……屋台もいいが、こういう店の中でゆっくり食べる料理ってのもいいね。」
「そのために選びましたからね。」
コリスさんは既にビール二杯目に突入し、俺は果物のジュースを頼んだらコリスさんもそれにした。熱い気候の場所だからそういう果物も取れるし、コリスさんにも買ってきたのだがそれは後で食べるのだろう。
「ふーむ。メイン料理はシッカリ食べるものか。」
「ええ。レバーも入っていますが香辛料もあるから独特の香りの良さがありますね。」
「そうだな。ここでは匂いはいい匂いの物が多いかな。」
他にも保存技術や塩のお陰か、食べ物はここでは肉まで美味しく食べられるな。しかも内臓もだ。
「それに……デザートだって美味しい!」
「良かったです。」
甘いパンも気に入って、紅茶を流し込んでいるようだ。
「茶も、随分と飲み口がスッキリしているじゃないか。香草と混ぜるといいんだな。」
「そうですね。香草もここではいっぱい取れます。」
「へーえ。私の国にもあるぞ、この香草なら。だが薬用や、シロップにして舐めるんだ。」
「薬用は珍しくないですが、シロップは美味しそうですね。」
「ああ。ハッカ水と言ってだね。他にも寒天のゼリーにしたり……。」
コリスさんのご当地の話も聞きながら、俺はしばしのお祝いをしていると。
「そう言えば君は私の国も見てみたいと言っていたね。」
コリスさんが尋ねてきた。
「はい。あ、そう言えば、何かあったんです?」
「国自体には何もないが。この国での依頼がなければ行ってしまおうかと思ってね。」
「いいですよ。フローライトサンドの後ですか?」
「ああ。君も、私とこうなっただろう? だったら報告もしておかないとと。」
「ええ。」
精霊と人間が付き合い、もしも子をなすことがあったら。事前に言っておいた方が波風は立つまい。とは言え。
(俺が精霊に謁見するのか……いきなりだな。)
どういう世界なんだろう。精霊と関わるようになってから俺の人生は毎度、急展開を迎えているが。
「後は……勇者もかな。」
「関わることになりましたからね。」
「向こうの精霊との不可侵は破るつもりはないからね。私達だけの判断に余る場合の事を。」
「ありそうですよね。」
既にコリスさんは勇者関連では大分、干渉しているし、それでいいのかと思う場面もあったから、コリスさんはコリスさんで一応、懸念していたのか。
「それはそれとして。美味しい料理だ。ゆっくり味わおう。
胡麻のディップが美味しいな。これもっと食べたい!」
「はーい。お代わり頼みますか?」
「ああ、あと串焼きと、ビール!」
「じゃあ俺は同じ料理と地酒にするかな。」
「また君は違うものを選ぶー。それも追加だ。」
こうして、俺とコリスさんは、付き合うようになったのと、依頼も済ませた記念に美味しいものをたらふく食べたのであった。
「……ふう。食べた呑んだ。」
「俺も腹いっぱいです。」
あっという間に宿屋に戻り。コリスさんはまたベッドでゴロゴロしている。
「コリスさん、お風呂には入らないんですか?」
「ああ。入るよ。食べすぎたから腹ごなしをちょいと済ませたらだね。」
酒で酔って、身体も温まっているからか、ゆっくりと風呂には入りたいが無理したらリバースするからな。酒呑みは呑んだ後は無茶しないのは鉄則である。
「じゃあ、俺が風呂の準備もしておきます?」
「ああ。お願いするよ。持って行っていいよ。」
一度説明を聞いたときはお城が買えるくらいの値段で、更に精霊具にもかかわらず、随分な扱いである。それだけ俺に許してくれているということだけど。
「そう言えば暴飲暴食や酔いに効くお風呂とかも出せるのかな。」
あるのかそんなの、と言いたいところだが無いわけでもあるまい。一応念じて風呂を作って溜めていくと。
「あ、いい匂い。」
爽快感のあるいい匂いが風呂から漂ってきた。
「ああ。君は気を利かせてくれたのか。」
コリスさんも匂いに気が付いたのか、こちらにやってくる。
「じゃあ、せっかくだから二人で入ろうか!」
「はい。」
という訳で二人で風呂に入ることにした。
・・・・・・。
「はあ……お湯も香りも染み渡る……。」
「そうですね。」
二人で風呂に入り、薬湯に浸かっているような気分で風呂に入っていた。
「温泉もいいけど薬湯もいいな。」
「そうですね、いい匂いですし疲れが芯から取れそうです。」
「ここの塩湖も面白かったな。」
「何ならいっそ、プールにしちゃいます? 洗い場全体をそうしちゃえば。
やれないことはなさそうです。」
「ああ。やってみるといいよ。」
コリスさんも止めず、俺もまだ酔いが回っているのか調子に乗って風呂をプールにする。
「おおー大浴場だ。」
「ですねー。」
完全に歯止めの利かなくなった浮かれた酔っ払いである。魔力を出しているのは俺だから全然、問題ないんだけどな。
「じゃあ。泳いじゃおうかなー。」
「どうぞどうぞ。」
コリスさんも泳ぎ始めた。
「……ふう。すー。」
俺は深呼吸する。今日は勇者の子たちと会って、コリスさんと宴会もして。その前は付き合うようにもなって。更にその前は……俺の身に起こったと思えない事の連続だったな。だけど、まぎれもなく俺の身に起こった事だ。俺の運命はコリスさんと組んだことで大きく変わっている。目まぐるしい日々の中にこうした小休止があるとつい、浮かれてしまうのも仕方あるまい。
「俺は、これから……。」
しばらくはコリスさんの仮作が終わるまではここにいるのだろう。それもいつまでかは分からないけど、歩くと勇者の子たちによく遭遇するんだよな。遊びたい場所が同じなのだろう。
「どうしたんだい、ステラ。」
「ああ、そうだコリスさん。」
「?」
「勇者の子たちに今日も会ったんです。」
「ああ、よかったじゃないか。今日も元気だったのかい?」
「そうですね。それと影武者がライコちゃんに付くそうです。」
「まあ、狙われると知ったら今度はそうするだろうね。」
「その子と仲良くなれるといいねって言う話と。」
「主君に近い存在で逆らおうとする者は……いない訳じゃないだろうが。
ティティさんが選んだ相手なら間違いはなさそうだな。」
「そうですね。」
ティティさんには絶大なる期待感があるからな。ティティさんならやってくれる、何とかしてくれる、とか。
「いつの間にか私たちもあの子たちの事がこうなってしまっているな。」
「ええ。こうなるとは思わなかったんですが。やっぱり可愛いですよね。」
「ああ。その話をすると、私は君だってだね。」
「それなら俺もコリスさんもですね。」
「うう……っ。」
コリスさんはお湯に潜りそうな動揺を見せている。
「逃げないでくださいよ。」
「うわあ?」
俺はそこを抱きとめて。
「コリスさん……。」
「う、うう。」
いきなりだったがコリスさんとすることになってしまった。
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説
お嬢様、お仕置の時間です。
moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。
両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。
私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。
私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。
両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。
新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。
私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。
海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。
しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。
海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。
しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
上司に「これだから若い女は」「無能は辞めちまえ!」と言われた私ですが、睡眠時間をちゃんと取れば有能だったみたいですよ?
kieiku
ファンタジー
「君にもわかるように言ってやろう、無能は辞めちまえってことだよ!」そう言われても怒れないくらい、私はギリギリだった。まともになったのは帰ってぐっすり寝てから。
すっきりした頭で働いたら、あれ、なんだか良く褒められて、えっ、昇進!?
元上司は大変そうですねえ。ちゃんと睡眠は取った方がいいですよ?
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる