桜の散る頃に

白石華

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青葉の茂る頃に

桜が咲く頃に

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「ふう……社周りの掃除は終わりっと。ホノカ、少し休憩しようか。」

「はいっ。茂樹さん。」

 山の神様と会って半年とチョット経った頃。季節は桜の蕾が膨らむ季節になっていた。

「お疲れ様。お昼用意してあるから社の中においで。」

 山と街を行き来していた俺たちは現状維持だった。俺は人間だしホノカちゃんは妖精のままで。

「茂樹さん。中でビスケット食べましょう。」

 変わらなかったけどホノカちゃんが濃い紅色になった事は変化と言えるだろう。桜が咲く頃になると、そういう色になるらしい。桜が咲くとまた、色が薄くなり、俺たちにも馴染みがあるソメイヨシノのような薄い桜色になるのだろう。相変わらず、見にきて確認してくださいと言って、俺には教えてくれない。

「俺も、ホノカちゃんと勉強会やるか。」

「はいっ。」

 秋に寄った狐の妖精が住む町では、異様に狐と街との伝承に詳しいガイドさんがいて、狐の伝承について教えて貰えたのだが、その人は街にある神社の跡継ぎ候補らしく、しかし本人は狐と触れ合えれば幸せだから、それ以上は望まず……と、ここまで話せば察しが付くかもしれないが、狐の妖精を許嫁にしているそうだ。仲間が増えて喜びつつ、街にどう、妖精が受け入れられているかを聞いたら。

「勉強と経験あるのみだ! 何ならここに来れば妖精でも違和感なく受け入れて貰えるかもしれません。
 しかし跡継ぎ候補にされるかもしれませんがね。はははっ。」

 と言われてしまった。まあ……引っ越しは最終手段として現状維持で、学習と経験という形でホノカちゃんとの関係は続けている。
 道祖神社もあることだし、申請すればここだって神社になれるから、俺が神主になれば……と思うも、ここは先代の山の神様が山姥のように人を驚かしていたため、誰も寄り付かなくなってしまったらしい。貯金を貯めてここの土地を買い、社を立て直し、維持管理しながら捨て人の生活を覚悟しないと住めないだろう。

「はあ。俺、どうなるんだろうな……。」

 目を閉じてため息を吐き、言ったって始まらない事を呟いて、今日も一日が終わるのだろう。そう思って社に入ろうと目を開けると。

「ん?」

 足元に桜の花びらが。

「ホノカちゃんから出た、のかな?まだ桜は咲いていないし。」

 確認するために屈んで拾おうとすると。

「わっ?」

 光になって弾けて、地面に吸い込まれていった。

「山が……吸った?」

 この山は先代の山の神様と同化しているんだっけか。

「そういえば先代の山の神様ってどういう神様だったんだろうな。」

 身の丈二メートルは超す体格とか、見た目は巨大な山姥とか、熊を一撃で屠殺するとか物騒なイメージがあって正直、山の主(ヌシ)か何かというイメージだ。

「でも、神様だって、再び神になろうとしているんだよな。
 それに、今の山の神様だって元は人間だ。」

 思い直すと俺は大きく背伸びをして。

「んーっ、と。とにかくやってみるか。」

 息を吐き出した瞬間。

「え。」

 桜の花びらだけが目の前で散っていった。

「えっ……ええっ!?」

 驚く間もなく花びらが地面に着地する前に消えてしまう。

「た……大変だ。いや、ようやくか?」

 俺にも霊威が付いた?ホノカちゃんといたから桜の樹の霊威?

「とっ、とにかくみんなに報告だ!」

 大急ぎで社の中に入ると。

「神様、藤さん、ホノカ!俺……桜の花びらが。」

 いつもの食事場へ繋がっているのだろう。そう思って中に入ると。

「「「おめでとー(ございます)!」」」

「へ?」

 鍋を囲んで三人(一柱と二体)に出迎えられる。

「喜べ茂さん。おめでただよ。ホノカに赤ちゃんが宿ったって。」

「茂さんとホノカ、人間と妖精のままでも子供が出来たんだね。」

 山の神様と藤さんの順に説明してくれる。
 
「最近、ビスケット以外の食べ物も欲しくなったから、何でかなと見て貰ったら、
 私の身体の中にもう一体、霊威が宿ったアヤカシがいるって。」

 ホノカも俺の方を見ながら教えてくれる。

「でも、人間として育てるか妖精としてか、生まれて来ないと分からないですね。」

「……いっ、いやっ。」

「茂樹さん?」

「いやったああっ。今日は大ニュースばっかりだな!」

 ホノカの手を取り握ってぶんぶんと振る。

「やったね茂さん。」

 山の神様がバンバンと俺の背中を叩く。

「おめでとう、まあ飲め。」

 茂さんがお酌をしてくれて。

「茂樹さん、さっき何を言おうとされたんですか?」

「それも併せて説明するよ。実は俺……。」

 季節は春の訪れを告げる頃。俺とホノカの関係も変わろうとしていた。
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