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青葉の茂る頃に
青葉の茂る頃に
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「ふう、ふう……。」
「社まで、もう少しですよ茂樹さん。」
今は真夏。青葉の茂る季節になった。ホノカちゃんもスッカリ深緑になっていて髪飾りは青葉の付いた桜の枝とサクランボが付いている。横に並んで歩くだけで桜の匂いがしていた。
今日はホノカちゃんの案内で山道を歩き、山の神様と藤の妖精さんに会いに来ていたのだった。向こうからの申し出だしホノカちゃんの育ての親とは一度、会ってみたいと思っていたのだった。それに、お礼の温泉だって気になる。
「持ち物、自体はヘッチャラなんだけどな。瓶入りの焼酎ぐらい別に。
堅焼き煎餅ももっと別に。リュックで背負っているし。
でも暑くてさあ。」
「夏の盛りですからね。」
木陰で直射日光は遮られている。しかし日本の夏、特有の蒸し暑さで俺は息が上がっていた。
「まあ、山に登る事、自体が好きだから別にいいんだけど。」
吐く息の疲れが見えるのが早いだけで、特に不満はなかった。春や秋の新緑や紅葉が見られる、歩きやすい気温になる季節が行楽シーズンと呼ばれているのを歩きながら深く実感する。
「茂樹さん、山登りがお好きなんですよね。」
「そうそう、ソレがキッカケでホノカちゃんにも会えて。
今日もビスケットとミルクを持ってきたから、みんなで食べよう。」
「はいっ。」
毎度の如く、気合いの入った返事をする。ホノカちゃんは山育ちの妖精だが、ビスケット欲しさに山を下りて、ビスケットを貰える存在である俺の所と山を行ったり来たりしていたのだった。
因みに俺の説明には一文字も嘘はない。現に冒頭でも告げた通り、ホノカちゃんの身体の色は深緑である。桜の匂いもする。
「あっ。社が見えてきましたよ。」
「おー。ようやくか。」
ゴールデンウイークの頃よりも遙かに暑い季節に蒸し焼きにされたが、ようやく一休みできそうである。
「山の神様と藤の妖精さんがいるところって、このまま歩いていけばいいの?」
「はい。社に近づいたら、私が声を掛けますから、後ろに下がってください。」
「分かった。ここら辺でいいかな。」
「ですね。」
鳥居の見えるところまで山道を登ってきた俺たちは、
神様になど会ったことがないため、後はホノカちゃんの案内に任せることにした。
先にホノカちゃんがフワフワと飛んで、中へ向かうと。
「神様、藤さん。ただいま帰りました。茂樹さんもいらっしゃいます。」
「はーい。チョット待っててね。」
随分と軽い口調で女の人の声が聞こえてくる。
「茂樹さーん。もういいですよ。」
ホノカちゃんが俺を呼んだ。
「はいはい……っと。」
リュックの背負うベルトを掴んで登っていくと。
「よっ。ホノカにそちらが……茂樹さんかな。」
「よくいらしてくれました。」
鳥居をくぐって社の前に到着すると、山の神様と藤の妖精さんらしき二人組の女性が俺たちを出迎えてくれた。
「どうもはじめまして。茂樹です。
ホノカちゃんとは仲良くさせて貰っています。」
俺はリュックの背負う部分のベルトをずれないように持つと、お辞儀をした。
「ああ、これはこれはどうも。私は山の神(やまのかみ)です。」
片方の女性が自己紹介する。緑色の癖のある髪を伸ばし放題にし、着物も浴衣のような薄手の衣を長し着に、帯びもぞんざいに留めるのみ。
「どうも、滝藤(たきふじ)です。
藤の妖精をやっています。藤さんと呼んでください」
もう片方の女性は緑色の巻き毛をポニーテールに結い、結わえた部分にツタで巻いたような髪飾り。衣装はホノカちゃんに似た、ノースリーブの裾がフワフワした衣装でキャミソールワンピースを着て背中に羽が生えている。手袋は手首の所で裾は終わっているが日本の妖精さんって、よく分からないけど西洋のと似ているんだろうか。
とにかく、山の神様と藤の妖精さんも挨拶を兼ねた自己紹介をした。
「ときに茂樹さん。」
山の神様が俺に声を掛ける。
「はい?」
「暑い中、よく来てくれたんだ。社の中で休んでいかないかい?」
握った手に親指を立て社の方を示す。
「社って、入れるんですか?」
見た限り小さな社で、とても四人(神様が一柱と……妖精さんってどう数えるのだろう。二体?)が入れるスペースではない。俺一人でも狭いぐらいだろう。
「ああ。大丈夫。神様の世界と繋がっているから。」
「へっ。」
山の神様にいきなりワンダーな事を言われる。
「下界では人間が神のために社を造ってくれるけど、
日本の神々はもう天皇陛下の家系によって平定されているから、
あくまで神同士は人間たちに不干渉というルールができているんだ。
だから普段は社の中と繋がった神の世界にいる。」
「は~。」
深く聞くのが怖くなる説明をされる。
「妖精たちは家が無くて植物や動物に宿るから、人間にも見えるんだ。」
「ほ、ほう~。」
また相づちに力が入らない。
「とにかく、暑い中で立ち話も何だし、中にどうだい?」
「人間が入っても大丈夫なんですか?」
さっき不干渉と聞いたばかりで。
「お供え物は持ってきたんだろう?」
「はい。」
「なら大丈夫。神にお供え物をするために入れる。
食べるところだけだから、チョット手狭だけど入りなよ。」
話を聞くと庶民的なんだか神聖なんだか分からなくなってきた。
「社まで、もう少しですよ茂樹さん。」
今は真夏。青葉の茂る季節になった。ホノカちゃんもスッカリ深緑になっていて髪飾りは青葉の付いた桜の枝とサクランボが付いている。横に並んで歩くだけで桜の匂いがしていた。
今日はホノカちゃんの案内で山道を歩き、山の神様と藤の妖精さんに会いに来ていたのだった。向こうからの申し出だしホノカちゃんの育ての親とは一度、会ってみたいと思っていたのだった。それに、お礼の温泉だって気になる。
「持ち物、自体はヘッチャラなんだけどな。瓶入りの焼酎ぐらい別に。
堅焼き煎餅ももっと別に。リュックで背負っているし。
でも暑くてさあ。」
「夏の盛りですからね。」
木陰で直射日光は遮られている。しかし日本の夏、特有の蒸し暑さで俺は息が上がっていた。
「まあ、山に登る事、自体が好きだから別にいいんだけど。」
吐く息の疲れが見えるのが早いだけで、特に不満はなかった。春や秋の新緑や紅葉が見られる、歩きやすい気温になる季節が行楽シーズンと呼ばれているのを歩きながら深く実感する。
「茂樹さん、山登りがお好きなんですよね。」
「そうそう、ソレがキッカケでホノカちゃんにも会えて。
今日もビスケットとミルクを持ってきたから、みんなで食べよう。」
「はいっ。」
毎度の如く、気合いの入った返事をする。ホノカちゃんは山育ちの妖精だが、ビスケット欲しさに山を下りて、ビスケットを貰える存在である俺の所と山を行ったり来たりしていたのだった。
因みに俺の説明には一文字も嘘はない。現に冒頭でも告げた通り、ホノカちゃんの身体の色は深緑である。桜の匂いもする。
「あっ。社が見えてきましたよ。」
「おー。ようやくか。」
ゴールデンウイークの頃よりも遙かに暑い季節に蒸し焼きにされたが、ようやく一休みできそうである。
「山の神様と藤の妖精さんがいるところって、このまま歩いていけばいいの?」
「はい。社に近づいたら、私が声を掛けますから、後ろに下がってください。」
「分かった。ここら辺でいいかな。」
「ですね。」
鳥居の見えるところまで山道を登ってきた俺たちは、
神様になど会ったことがないため、後はホノカちゃんの案内に任せることにした。
先にホノカちゃんがフワフワと飛んで、中へ向かうと。
「神様、藤さん。ただいま帰りました。茂樹さんもいらっしゃいます。」
「はーい。チョット待っててね。」
随分と軽い口調で女の人の声が聞こえてくる。
「茂樹さーん。もういいですよ。」
ホノカちゃんが俺を呼んだ。
「はいはい……っと。」
リュックの背負うベルトを掴んで登っていくと。
「よっ。ホノカにそちらが……茂樹さんかな。」
「よくいらしてくれました。」
鳥居をくぐって社の前に到着すると、山の神様と藤の妖精さんらしき二人組の女性が俺たちを出迎えてくれた。
「どうもはじめまして。茂樹です。
ホノカちゃんとは仲良くさせて貰っています。」
俺はリュックの背負う部分のベルトをずれないように持つと、お辞儀をした。
「ああ、これはこれはどうも。私は山の神(やまのかみ)です。」
片方の女性が自己紹介する。緑色の癖のある髪を伸ばし放題にし、着物も浴衣のような薄手の衣を長し着に、帯びもぞんざいに留めるのみ。
「どうも、滝藤(たきふじ)です。
藤の妖精をやっています。藤さんと呼んでください」
もう片方の女性は緑色の巻き毛をポニーテールに結い、結わえた部分にツタで巻いたような髪飾り。衣装はホノカちゃんに似た、ノースリーブの裾がフワフワした衣装でキャミソールワンピースを着て背中に羽が生えている。手袋は手首の所で裾は終わっているが日本の妖精さんって、よく分からないけど西洋のと似ているんだろうか。
とにかく、山の神様と藤の妖精さんも挨拶を兼ねた自己紹介をした。
「ときに茂樹さん。」
山の神様が俺に声を掛ける。
「はい?」
「暑い中、よく来てくれたんだ。社の中で休んでいかないかい?」
握った手に親指を立て社の方を示す。
「社って、入れるんですか?」
見た限り小さな社で、とても四人(神様が一柱と……妖精さんってどう数えるのだろう。二体?)が入れるスペースではない。俺一人でも狭いぐらいだろう。
「ああ。大丈夫。神様の世界と繋がっているから。」
「へっ。」
山の神様にいきなりワンダーな事を言われる。
「下界では人間が神のために社を造ってくれるけど、
日本の神々はもう天皇陛下の家系によって平定されているから、
あくまで神同士は人間たちに不干渉というルールができているんだ。
だから普段は社の中と繋がった神の世界にいる。」
「は~。」
深く聞くのが怖くなる説明をされる。
「妖精たちは家が無くて植物や動物に宿るから、人間にも見えるんだ。」
「ほ、ほう~。」
また相づちに力が入らない。
「とにかく、暑い中で立ち話も何だし、中にどうだい?」
「人間が入っても大丈夫なんですか?」
さっき不干渉と聞いたばかりで。
「お供え物は持ってきたんだろう?」
「はい。」
「なら大丈夫。神にお供え物をするために入れる。
食べるところだけだから、チョット手狭だけど入りなよ。」
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