桜の散る頃に

白石華

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続、梅雨の明けない頃に

悩める山さん藤さん

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「ふう……今日は出したな。」

「ご馳走様でした。茂樹さん。」

ベッドに二人、横になると。俺たちは何の気なしに会話をしていた。といってもさっきの情事は相変わらずホノカちゃんにとっては食事の延長のようだ。

「ホノカちゃん、もうちょっと俺の方に。」

「はい。」

「ん……。」

ピッタリとくっつかせると俺は腕を回し、抱き寄せる。

「んんー。桜のいい匂い。」

「茂樹さん。私の匂い、好きだって言ってましたね。」

「うん。匂いだけじゃなくて味も好きだよ。」

会話がどうしても食事から離れられない俺たち。因みにもう歯磨きもお互いしていて。口は綺麗である。

「私もそうです。」

「へ、へー。」

ホノカちゃんの姿は妖精……というか今は桜の葉っぱ色で。人間の色に戻る気配はない。やはり俺の気のせいだったのだろう。

(ホノカちゃんが人間だったら……と、無意識に思った?)

だから幻覚が見えたのだろうか、しかし。

(ホノカちゃんが人間だったらまず、俺とは出会わないだろうし、こうしていることだってないだろう。)

(山にビスケットをお供えしたからホノカちゃんに会えたんだぞ。ビスケット食べたさに俺に会いに来て。)

(アホか俺。幻覚まで見る程か。)

そう心に突っ込みを入れると。

「美味しいなら、ホノカちゃん。」

「あ。」

ホノカちゃんに唇を近づける。

「ちゅ、ちゅ、ちゅる……。」

唇を重ね、舌を差し入れ。

「ちゅる……るる、るっ。茂樹さん、ちゅる……。」

ザラザラと付け合い、唾液を交換する。桜の匂いと味が口に広がり。舌で撹拌しながら堪能する。

「ちゅる、はあっ。ちゅる……るっ。」

唇だってプニプニで。先を擦り合わせていると軽い痺れも感じて。

「はあっ……茂樹さん。」

唇を離し、息の弾んだホノカちゃんが俺に話し掛けてくる。

「何?」

「梅雨が明けたら、今度は山にも来て下さいね。」

「いいよ。俺も行きたいと思ってたし。」

・・・・・・。

数日後、山中にて。再び山の神と藤の妖精に報告するためにホノカが戻っていた。

「―というわけで茂樹さんとお付き合いをすることになりました。」

「うん。そうなんだ。ところでホノカ。」

「はい?」

「茂樹さんとは上手くやっていけそう?」

「私が面倒を見て貰ってる方だから、茂樹さんに助けられてます。
 妖精とヒトとの付き合い方って茂樹さんに指摘されて分かってきたぐらいで。」

「そうか。それなら私と藤さんのところにも会わせて欲しいな。ホノカが初めて出来た彼氏なんだし。」

「彼氏……。そうですね。私と茂樹さんって恋人同士だから。」

ホノカは山の神と自分で言った言葉を反芻しているようで。

「暇があったときでいいからさ。会わせて貰いたいなって。」

「今度茂樹さんにも聞いてみます。」

「分かった。それでいいよ。ありがとうね、ホノカ。」

「はい、失礼します。」

風になってその場を消えるホノカ。気配と。桜の香りがなくなったのを感じると。

「んんー。状況はいいと思うんだけど、ホノカを説得させた方法が気がかりだね、藤さん。」

藤の妖精に尋ねる山の神。

「『田舎に暮らす、純朴な女子。都会の男に口先三寸で引っかかってAVかソープで貢ぎコースまっしぐら。』」

「そこまでじゃないとは思うよ。私だって。でも『俺に好きな人が他に出来るか、ホノカがそうなるかまでは
 付き合える』とか『人間と付き合うより面倒じゃなくていい』って割り切りすぎ。
 過去にどんな恋愛経験していたのさ。」

「会って心情を確かめたい、っていう山さんの気持ちは分かるよ。ホノカもそこは危うい。」

「お節介だとは思うよ。元はホノカがビスケットを貰いに行ったのがきっかけなんだし。
 面倒を見て貰ってお世話になってるヒトが人生経験もそれなりにあっただけって分かれば安心も出来る。
 それに、ホノカには人間と付き合っていくのに、まだ教えてないことだってある。
 人間の彼氏に面倒を見て貰うことになるんだろうし、その人にも聞いて貰う必要がある。」

「でもそうじゃなかったら?」

「問題はその時だね。」

「だね。」

不穏な空気を漂わせつつ、二人は顔を見合わせていた。
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