桜の散る頃に

白石華

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続、梅雨の明けない頃に

続、梅雨の明けない頃に

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「茂樹さん、こんばんわっ。」

今日のホノカちゃんは、きちんと玄関からやってきた。

「おー、いらっしゃいホノカちゃん。っとあれ?荷物、持ってきたの?」

持ってきた包みは……木を薄く切った紙のようなもので包装されて。

「はい。いつも頂いてばかりだと悪いから。山の神様にお土産を包んで貰いました。」

「気にしなくていいよ。俺も頂いてるし。」

「そうはいきません。お互い様です。こちらでお世話になっているお礼も込めて、川で穫れた魚の塩焼き。
 焼いて、味付けしたのは山の神様。水源近くだから水も綺麗ですよ。お腹も取ってあります。」

「旨そうだなそれ。」

話を聞いて食欲が刺激される。川で穫れたと言ってるから天然物だろうか?

(一気にお釣りが来たぞ。)

「よかった。お魚、苦手かどうか事前に聞かなかったから。」

「うん。とにかく上がっていってよ。俺もビスケット用意する。」

「お邪魔します。」

・・・・・・。

「という訳でハイ、ホノカちゃん。ビスケットとミルク。」

テーブルにはビスケット、ミルク、ホノカちゃんから貰った魚の塩焼き、俺が呑むように日本酒を用意する。
魚の塩焼きは三匹入っていて、包装の内側は隈笹の葉で包まれ、焼いたばかりのところを持ってきたのか、まだ温かかった。
仄かに笹の匂いもするし、竹串の打ち方も魚の身体をくねらせる形で、見た目が泳いでいるようで。料理上手なんだろうか。

「ありがとうございます。今日のは何ですか?いい匂い……。色も違います。」

ホノカちゃんは興味津々にテーブルをじーっと見ている。

「コーヒー牛乳にシナモンを入れたのと、キャラメルシナモンビスケットとチョコサンド。  今日は嗜好品と香辛料でいってみた。」

「なるほど。大人の味ですね。」

「俺も川魚と日本酒だし。それじゃ乾杯。」

「乾杯。」

ホノカちゃんも楽しそうにコップを向けてくれる。コンと猪口とマグカップが当たって。 

「……ん。この清酒、当たりだな。度数はあるのにアルコール臭きつくない。」 

「んっ、んっ、……んく。はああ……。コーヒー牛乳って美味しいんですね。甘くて苦くていい匂い。」

ホノカちゃんはイツもの如くうっとりとした表情で味わっていた。
しかし本当に喜んでるな。俺も魚と酒が美味しいけど。それでもこんなに喜ばないぞ。……と眺めていたら、ある疑問が湧く。

「ホノカちゃんもお酒いける?ならお酒のミルク割りとかも出来るけど。」

酒とミルクとならどうなんだろう。

「そんなものもあるんですか。」

「あるよー。呑むなら作るけど。カルーアミルクでいいかな。コーヒーならウイスキーを垂らしても。」 

「はああ……。聞いたことがありませんが美味しそうですね。」 

ホノカちゃんは話を聞いただけでもう呑んだ後のようである。 

「それで、お酒は平気?」

「ときどき山の神様と晩酌にお付き合いすることがあって。少しだけなら。」 

「それならあんまりきつくない方がいいか。山の神様もお酒を呑むんだ。御神酒とか?」

「はい。人間の方からお裾分けして貰うそうです。」

魚をかじりながらホノカちゃんの話を聞く。

「ホノカちゃんが持ってきてくれた山の神様が焼いた魚、旨いよ。酒が進む。料理、得意なんだね。」

炭で焼いたのか燻した匂いがして身がホクホクして、甘くて。脂も適度に乗っている。魚だけじゃなくて塩も旨い。 

「お口に合ってよかったです。神様、魚を焼くのがとても上手なんですよ。」

ホノカちゃんは神様のことを誉めたら、まるで自分のことのように喜んでいる。 

「へー。神様って料理するの?」 

「趣味でするそうです。」

「何か、神様っていうかホノカちゃんのお姉さんみたいなイメージになってきた。」

「神様は神様なんですが。私も山の神様はお姉さんみたいな存在で。それに藤さんも。」

話している内に一匹、胃袋に収めると。 

「よし、っと。ちょっと台所に行って作ってくる。待ってて。」

「お願いします。」

「どういうのにしようかな。」

台所に来た俺は棚を眺める。ミルクに合わせやすい、度数の低いアルコール。

「焼酎はきつい。ブランデー、ウイスキーも、ホンのちょっとでも酔う人いるからな。ビール……は合わない。日本酒は……やったことないけどカクテルって聞いたことないな。」

ガサゴソと棚を漁るが、めぼしいものが見つからない。

「お。金木犀の酒があった。」

奥の方で母親から送られた漬け込み酒を発見する。趣味で季節毎に作るのだが、それを送って貰ってるのだった。

「日付は……っと。1年半前のだとアルコールも落ち着いているだろう。甘くして、ミルクをたっぷりにして、香りが付く程度に。」

材料を混ぜながらカチャカチャとスプーンで掻き回していく。

「……ん。オリエンタルな匂いになった。」

入れた量は僅かだったため味も香りもミルクの方が濃く、うっすら香る程度だった。
口当たりは甘く、アルコールがあるかないかは俺には分からない程度で。これで十分だろう。ホノカちゃんのところへ戻ることにした。

「お待たせ、ホノカちゃん。ハイ。」

「金木犀の香りですね。」

受け取ると香りを嗅いでホノカちゃんはあっさり名前を当てた。

「分かるんだ。」

「はい。山に自生はしていませんが、人間の方から山の神様宛てに頂いたことがあります。」

「お供え物?」

「そう……ですね。季節のものだから。」

どうしてここで考えるんだろう。

「お供え物と言っても交流を持たれている方からで、お裾分けみたいなものです。社に直接、じゃなくて。」

訝しがる俺の顔を見たのか、即座にホノカちゃんが答えた。

「そういえば山に来てお供えする人は今はいなくて。あと人間の誰かと交流しているんだっけ。」

今までのことをスッカリ忘れていた俺はホノカちゃんに確認する。

「です。茂樹さん……あの、頂いてもいいですか?」

お預けを食らっていたホノカちゃんがソワソワしだす。

「ごめんごめん。入れたから呑んで。」

「まずはチョットだけ……はああ。」

一口、口に付けて舐めただけでホノカちゃんは美味しいというのを全身で表現している。

「よし。俺も呑むか。」
ホノカちゃんがお酒を呑んでいる内に次に手を付ける。
俺は酒を呑むと自分だけでなく人にも呑ませたがり、相手が旨そうに呑んでいる所を見ると自分も肴に一杯やりたくなるのだった。

「ホノカちゃん、酒だけじゃなくてツマミもやらないと回るの早くなる。気を付けて。」


そして人の面倒も見たがるのだった。

「はい。茂樹さん。……。はああ……。」

ビスケットも美味しく頂いているようだ。甘くてしょっぱいからな。俺も酒が進む。

・・・・・・。

「……ふう、食べた食べた。」

「私も。お腹いっぱいになりました。」

揃ってお腹に手を当てている。


「茂樹さんの作って下さったお酒、美味しかったです。ミルクに香りが良くて甘いものって合うんですね。」

「合うね。……そういえば。」

ホノカちゃんの様子を確認する。

「何ですか?」

「いや、お酒、ちょこっとだけ呑んだけど、あんまり変わらないんだと。」

至っていつも通りのホノカちゃんだった。

「その位でいいんですよ。フラフラになるまで呑んだら……寝潰れます。」

「ホノカちゃんの酔い方はそういうのなのか。」

ビスケットを食べて、ミルクを呑んでいるときはテンション上がるから、お酒も入ったらどうなるか楽しみだったのに。
既に上限だったようだ。

「んん……でも。」

「?」

「子作りの行為をしたいという……気分は。盛り上がってきているような。」

イツもながら豪速球を投げてくる。

「うん。俺もホノカちゃんとしたい。」

俺も俺でストレートに返したのだった。お互い、酒で明け透けになってるな。
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