桜の散る頃に

白石華

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梅雨の明けない頃に

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「ふはー。サッパリした。」

着替え終わり、タオルを首に巻いて台所に着く。

「ですね。」

「それじゃあ、ビスケットがまだ残ってたと思ったから。」

何となく習慣で、お菓子は買い込んでおくことにしている俺だった。棚を漁ると。

「あった。ハイ、コレ。」

「ありがとうございますっ。」

「おっと。」

ビスケットの袋を渡すとホノカちゃんが飛びついてくる。

「茂樹さん、さっき洗ったから石鹸の匂いがします。」

「ホノカちゃんは桜の匂いだね。ミルクも用意するから待ってて。」

ホノカちゃんに抱きつかれたまま移動し、冷蔵庫からミルクを取り出す。

「……!」

ホノカちゃんの目つきが変わった。

(反応が見てて面白いな。)

食事はすっかり習慣になっているけど。こうして自分が日常的に口寂しいときにモソモソ食べたり飲んだりする物を目の色変えて喜んでいる姿を見るのが新鮮な気持ちで見てしまう。俺にもビスケットが段々、とてつもなく美味しい物に見えてきた。

(ビスケットはこれだけしかない。)

窓から外を見てみると雨はいつの間にか止んでいたようだ。

(ここまで喜んでくれるんなら。)

俺はふと、ある考えが浮かぶ。

「ホノカちゃん、食べ終わったら良いところに連れてってあげる。」

「良いところ、ですか。」

「うん。確か、初めて会ったときは人間の姿にもなれてたみたいだけど。」

「格好だけなら出来ますよ。こうですか。」

羽が消え、スウッと頭から爪先にかけて次第に色が変わり、肌と髪が人間のそれになる。

「服も変えられる?今の格好は……アパートの近所を歩くぐらいだと……普段着の方が。」

「服装も変えるんですね。何か参考になる衣装があれば。」

「ちょっと待って。広告に服の写真が。」

新聞に付いてくる広告を漁る。新しい分はまだ残していたのだった。量販店の広告を見付ける。

「こんな感じ、かな?」

ホノカちゃんに指差して教える。

「こういう服もあるんですね。私、先輩妖精の藤さんに教えて貰った格好しか知らなくて。」

「良かったらあげるけど。」

暫く経ったら別の店の広告が来るだろう。普段用の服なんて、そんなにこだわりはないし。

「ありがとうございます。この服もいいな。」

ホノカちゃんは何でも珍しそうに受け取るんだな。それだけこっちが新鮮だからなんだろうけど。そうこうしている内に、とある場所に向かうことにした。

「茂樹さん!ビスケットがこんなにあります!」

「よーし、食べたいの決めな。好きなだけ買ってあげる。」

「そんな……ええと。買い込みすぎないように。」

「気にしなくて良いってば。」

お菓子買ってアパートの俺の部屋で食べるだけなのに、と思ったが喜んでいるホノカちゃんを前にしては言わない。
ホノカちゃんをアパートの近くのスーパーマーケットに連れてきていたのだった。今いるところは製菓売り場。因みにホノカちゃんの衣装は半袖花柄ブラウスにデニムスカートにスニーカーというラフな衣装である。

「茂樹さん!選べません!」

「凄いテンションだねー。連れてきた甲斐があったよ。」

俺が選ぶことにした。ホノカちゃんに聞きながらならいいだろう。

「まずは、いつものは確保、と。」

「はい、はいっ。」

「お。このメーカー、新作出したんだ。バニラクリームサンドだって。コレも買ってく?」

「はいっ。」

ホノカちゃんの首の振り方は張り子の寅のようだった。

「こっちはメープル味、チョコサンド、……向こうの輸入食料品コーナーにはキャラメルシナモン味なんてのもあるんだなー。薄焼きのが沢山入ったお徳用もある。」

「……。」

ホノカちゃんはポイポイと買い物カゴに入れていく俺を、目はキラキラさせているのに、そんなに買って良いんですか?と冷や汗ダラダラで不安な表情の入り混ざった、味のある表情をして見守っていた。若しくは動けなかった。

「ビスケットだからイギリスのはホノカちゃんに食べて貰いたいなー。っと言うことでコレも。」

「……。」

俺がカゴに入れる度に複雑味が増していく。

「変わり種でビスコッティ、ガレット、ワッフル形のビスケットに。」

「……ぁ。」

ホノカちゃんが言いたくても何も言えないようだ。

(うんうん。可愛いなーホノカちゃん。)

(ビスケットってそんなに美味しいのかな。ホノカちゃんにとって。)

「後はミルクか。」

カートを押して菓子売り場コーナーから移動する。

「頭がクラクラしそうです……。」

(ふむ。)

閃く。

「ミルクにもイチゴ味やコーヒー味があるって知ってる?」

「何と!」

「温めて蜂蜜や黒糖、生姜にシナモン……スパイスを入れる飲み方もあるんだ。甘くていい匂いがするよ。
 よし、これもまとめて買っちゃおう。腐らない物なら大丈夫。
 パーッと、糖類にコーヒーや果物、香辛料を買って俺の部屋で作ろうか。」

「あああ……。」

ホノカちゃんは生まれたての子鹿みたいな歩き方で付いてきた。

・・・・・・。

「ふう。買い物カゴにあるだけ入れたら、やり切れた気分だな。今度はレジで精算だ。」

「ここ、こんなに買って。だ、だだだ。大丈夫なんですよね。」

「うん。どうせ梅雨は出かける用事もそんなにないから金、使わないし。
 それと広告見て、今日は全品、割引で買えるって確認したから大丈夫。生活費の範囲内。」

「はああ……まだ緊張が。」

(ホノカちゃんがコンパスみたいな脚の構えになって歩いてる。)

ホノカちゃんは俺の腕にしがみつき怖じ気づいてプルプルしていた。脚が動かないのを踏ん張って何とか移動させているみたいだ。膝が全く曲がっていない。

(やっぱ可愛いぞホノカちゃん。)

(俺も調子に乗って、物欲に身を任せて買ってたら可哀想なことになっちゃったけど。)

「合計で―円になります。」

「これで。」

レジにて会計を済ませ、エコバッグ片手にホノカちゃんとアパートに戻る帰り道。

「はあ……買い物って凄かったです。」

「あのくらい普通普通。毎日、食べたり飲んだりする分を1週間分買うときを思えば全然。」

「そうなんですか。」

「そう。だから家に帰ったら好きな物から食べようか。
 果物系は痛んじゃうから、それはすぐに食べなきゃだけどホノカちゃんが食べ切れなかったら俺が食べる。」

「……はい。」

ホノカちゃんはまだ落ち着きを取り戻せてなかった。

(ホノカちゃんにはまだ、刺激が強すぎたかな?)

(必要以上に恩を感じすぎちゃうのがホノカちゃんの良いところなんだけど。)

(お菓子食べてワイワイやるぐらいで気にすることないのにな。)

(そんなにビスケットっていいのか?)

何度目かの疑問をもう一度思う。あんなに美味しそうに食べているところを見たら。

「そう言えば、ホノカちゃん。」

「はい?」

「1ヶ月ぶりだけど。ホノカちゃんって山を離れて平気?桜に宿る妖精なんだよね。」

「大丈夫です。桜の木を寄り代にしているだけで。
 妖精がいると生育の助けや豊穣の祝福を受けますけど無くても植物自体は育ちます。
 それに妖精は私一人じゃないから他の妖精が。」

「ふーん。」

山を離れても平気なのか。だったら。

「なら。ここにちょくちょく来ても平気?」

「……え。大丈夫ですけど。茂樹さんはご迷惑じゃないですか?」

遠慮しちゃうんだよな。

「全然。ビスケットが食べたくなったら来て良いよ。夜なら俺……大丈夫だし。
 夜にもいなかったら帰ればいいよ。
 週末なら朝から部屋にいる。ああ、週末って言うのは今から丁度七日区切りの日で計算して。」

「週末なら私も知ってます。山の神様にこちらのことについて教えて貰いました。」

「へー。山の神様って詳しいの?」

「はい。人間の方と交流を持たれているそうです。先輩妖精の藤さんもそうとか。」

「ふんふん……って話を戻して良い?ホノカちゃんさえ良かったら。俺の部屋に。」

「はいっ。来ても良いとおっしゃるのなら是非。」

「……そうなんだ。」

よしよし。これでホノカちゃんもビスケットがしばらく堪能できるだろう。でも、これって多分。

(俺の部屋へご飯を呼ばれに来る感覚なんだろうな。ホノカちゃんにとって。)

(人間と精霊……妖精がどうにかなる訳じゃないってホノカちゃん自身も分かってて言ってるんだろうし。)

(実際、えっちする前にホノカちゃんが言ったんじゃないか。)

(えっち自体は簡単に出来ても、その先には行かない。と言うのは俺の認識で妖精のことはよく知らないけど。)

(俺も……ホノカちゃんのこと、どこまで好きなんだろう。)

(ホノカちゃんと会って、ビスケットをあげて、えっちして……。)

会いたいとは思う。えっちしたいとだって思う。だけどイマイチはっきりしないままズルズル関係を続けてしまうんだろうか。じゃなければビスケットに飽きたら終わりとか。

(それが、人間と人間じゃないアヤカシの精との付き合いなんだろうか。)

俺は考えても結論が出なかった。遊びに来た孫へお菓子をあげる爺さんみたいな関係なんだろうか。

(爺さんは孫へ下心なんて持たないけどな。)

俺のセルフ突っ込みも日常になったものである。

「あの、茂樹さん。」

「何?」

「私、茂樹さんにそこまで面倒を見ていただける理由が分からなくて。どうしてなんですか?」

いきなり理由を問われてしまった。

(流して受け取らないんだな、ホノカちゃん。)

(俺は、どう答えるか。)

「あ、ああ……うん。そうだね。」

(そうだね、じゃないだろ俺!)

肝心なところでシャンとしない俺。

「うん、まあ……その、何て言えばいいのかな。」

「はい。」

「山に登ったら目的って欲しいじゃない。」

「はあ……。」

(うわ、自分で言ってて遠回りなことを……。ホノカちゃんもポカーンだぞ。)

(もうちょっと近づけて。)

「それでさ、ホノカちゃんみたいに可愛い女の子がいて。」

(今度は直球すぎだろ!)

「え……。」

ホノカちゃんの言葉が詰まる。

(い、今の態度は何だったんだー!?アウトか、セーフなのか?)

俺も自分で言った言葉とその返答に気が気じゃなかった。

「だからさ、ほら。お菓子を持ち込んで、ビスケットやミルクで喜んでくれる可愛い女の子がいたら嬉しいから、
 仲良くしておきたいなって。」

「ええと。つまりそれってどういうことなんですか?」

「うう……。」

俺もサッパリだったがホノカちゃんにもよく分からなかったようだ。しかし。

―私とあなたが子作りの行為だけをしても、それはお互いを食べる行為なんですよ―

―どうしてしたらいけないって思うんですか―

ホノカちゃんが俺とえっちする前に言った言葉。結局、問題はここに帰るんだよな。俺、ホノカちゃんとどうなりたいと思ってるんだろう。そこがハッキリ出来てないから、俺……こうなるんだよな。返答がグダグダに。

(それでも今、俺が言えることを言うだけだ。)

やっと頭が結論にたどり着けたようだ。

「あのさ、俺。」

「はい。」

「ホノカちゃんと仲良くなりたいんだ、趣味の山登りがきっかけで知り合えた、山に住む妖精さんだし。」

「はい。」

「俺に友好的な妖精さんだし……だからつい、可愛いって思っちゃったりしたんだ。」

友好的な上、えっちさせてくれる、というのは認識の違いで面倒なことになるから言わない。

「可愛い……ですか?」

ホノカちゃんは難しそうな顔をしている。どうも?喜んでいないような。

「うん、そう。友好的な妖精の女の子だと、俺って単純だからつい、可愛いと思っちゃうんだよ。
 そこは、ホノカちゃんはコイツどうしようもないなー、と思って気にしなくて良いから。」

「……そんなことないですよ。」

「そうなの。俺の態度はそういうタイプの男だと思っておかないと、人間の男で苦労するよ。
 変な男に引っかかる。」

「そう、なんですか?」

「そう。そこはホノカちゃんも学習しなきゃ駄目。」

「は、はい。」

俺に押し切られて返事をしたがホノカちゃんはイマイチ良く分かっていないようだった。

「今回は買い込みすぎちゃったけど、それは歓迎の意味を込めて、ってことで。
 好きな物が分かっているから、それを振る舞おうと。」

「歓迎、ですか。」

「そうそう、友好的な妖精さんをもてなして喜んで貰いたいって。
 だから、こんなにされても戸惑うって思うなら。」

「はい。」

ホノカちゃんの言葉が真剣な声色になる。

「その分、俺が山に入ったときに珍しい物とか、場所とか紹介してよ。
 妖精さんだけが知ってる特別な何かとか。」

「……それで大丈夫、なんですか。」

「そうそう。俺、山登りが趣味だって言ったじゃない。それで良い思いが出来るなら安いくらい。
 異文化コミュニケーションの交際費だと思えば。」

「……分かりました。その代わり、梅雨が明けたら、きっと来て下さいね。歓迎します。」

「うん。俺も、ビスケットとミルクを持参する。山に登ったらホノカちゃんに会えて、
 妖精さんの知ってる場所を案内して貰えるって目的が出来たら俺も嬉しいし。」

「はいっ。」

ホノカちゃんは力一杯に返事する。どうやら一件落着したらしい。

(……うん。最後には名解答にたどり着けたぞ。)

(大体、俺自身もどうしたらいいか良く分かってないのに、その状態でホノカちゃんを混乱させてもな。)

そもそも、人間にとっては。お菓子を沢山、買い込んだだけの話で飛ぶまい。冷静になれ俺。相手がホノカちゃんだからオオゴトになるだけで。えっちが出来る関係だから俺、考えすぎてるだけで。えっちになったときの変わり身の速さを見習え、普段の俺。今の自分とホノカちゃんとの落としどころとしてはこうだろ。

「よっし。部屋に着いたらイチゴミルクから行ってみようか。」

「さっきお話しされてたのですね。」

「うん。生のイチゴを潰して砂糖とミルクを混ぜて食べるんだ。ビスケットと食べたらきっと美味しいよ。」

「楽しみですっ。」

俺は安堵の混じった開放感でオーバー気味に説明してホノカちゃんと家路に戻った。これでだって楽しいじゃないか。今の、このひとときが……どう変わるかなんて、変わるときに考えればいい。そう思うことにした。

「ただいまー、っと。」

「ただいまです。茂樹さん、どれから食べましょうか。」

ホノカちゃんは考えの切り替えが出来たのかウキウキしていた。リビングに着くと、早速ゴソゴソと中を漁る。

「そうだな。イチゴミルクと食べるなら……バニラクリームサンドかな。」

「バニラクリーム。」

「味の説明は難しいな。とにかく甘くていい匂いがするとしか。俺、イチゴ洗ってマグカップ取ってくるよ。」

「はいっ。」

ホノカちゃんはちょこんと座って俺が台所から戻ってくるのを待っていた。俺は洗って二人分のイチゴのヘタを取りカップに入れ砂糖をまぶしミルクを注ぐ。先割れのスプーンを二つ用意してテーブルに戻り。

「お待たせ。じゃあ食べようか。」

「はい。イチゴに……スプーンですか?」

「そうそう。これ、先が割れて尖ってるだろ?スプーンを握って持ったら、こうして……。
 終わり初物だから形や硬さはバラバラでも、このくらいなら。」

ざくざくとマグカップの中を刺していくとミルクがピンク色に染まる。

「前に会ったホノカちゃんみたいな色だね。」

「はい。わあ……。」

ホノカちゃんは珍しそうに俺の手つきを見ている。ミルクはどんどん赤に染まり、最終的には泡立つショッキングピンクまで変わる。潰れたイチゴの入ったミルクはイチゴの甘い香りがして。実に美味しそうである。

「ホノカちゃんもやってごらん。」

「はい……んしょ……っと。」

俺の手つきの見よう見まねでザクザクと潰していく。

「中々これ、潰れてくれませんね。逃げちゃいます。」

「マグカップの隅に押し付けてやってみて。それなら滑らない。」

「はい。……んん。難しいです。」

「本当はイチゴの形に凹んでいるスプーンで潰しても良いんだけどね。
 それぐらいにしか用途がないから買ってないんだ。」

「そんな便利な物があったんですか。んっ、んっ……茂樹さん、潰れてきました。」

「よしよし。潰れたら後は楽だから。」

「私、楽しくなってきました。」

「そうかそうか……お。」

俺と同じくらいにまで潰れたイチゴミルクが見える。

「よし、潰しすぎるとイチゴの食感がなくなるからその位で。はい、ビスケット。」

箱から開けてひとまとまりに入ったビスケットの袋を渡し、ホノカちゃんにあげる。

「ありがとうございます。茂樹さん。」

ホノカちゃんはピリッと包みを裂き。

「ああ……これは。前のビスケットとはまた違う甘い匂い。」

袋の中から漂う匂いだけでホノカちゃんはうっとりしていた。

「うん。バニラが入っているからね。」

ビスケットとビスケットとの間に挟まっているクリームには黒いツブツブが入っていた。エッセンスではなくビーンズか。菓子メーカーもクオリティ高いところは高いよな。

「茂樹さん、私……。」

ホノカちゃんが落ち着かなさそうに俺を見る。

「うん。いいよ食べて。そのために買ったんだし。」

「では……はああ……美味しいです。甘くてザクザクしてクリームがまろやかで。クリームもいい匂い。」

ホノカちゃんの表情が、ソワソワ→驚き→堪能とクルクル変わる。ビスケット一組で凄い喜びようである。

「今度はイチゴミルクいってみたら。」

「はい……ああ。こちらも美味しい。イチゴのツブツブと酸味と砂糖の甘さが……。
 自分で作ったと思うと尚更です。」

ホノカちゃんは既に蕩けきった表情になってビスケットとミルクを交互に口に入れていた。俺も食べながらホノカちゃんを眺める。

(うんうん、ホノカちゃんも喜んでくれたみたいだ。)

(ビスケット欲しさで山を下りて俺にもう一度会いに来てくれたんだしな。)

俺も目的が達成されたような気分を迎える。と、思ったところで。

「ホノカちゃん、口にビスケット付いてる。」

口元にビスケットの食べ滓が付いていた。指先で軽く拭う。ホノカちゃんを見ていると、面倒を見たくなるな。

「すみません、食べるのに夢中で。」

「いいよ。俺が見ててしたかっただけで。そうだ。」

「何ですか?」

「ホノカちゃん、あーん。」

俺のビスケットをホノカちゃんの口に向ける。

「あ、あーん?」

ホノカちゃんも戸惑いながら口を開ける。

「はい。」

「はむっ。……んっ、んん……。」

口に入れると条件反射で閉じ、ホノカちゃんはビスケットを食べる。

「うんうん。」

俺はホノカちゃんにあーんも出来て満足する。

「え、ええと。私も。あーん。」

ホノカちゃんまで俺にビスケットを向けてくれた。

「あーん。んむっ。んぐんぐ。」

俺は躊躇無くパク付く。

「うん。美味しかったよホノカちゃん。」

「私もです。食べさせて貰うのって、何か照れますね。自分が赤ん坊になったみたいで。」

「ホノカちゃんにも赤ん坊の頃ってあったの?」

「はい。目が覚めたときには桜の木の中にいて。
 暗いからポンって外に出てきたら実体化できたんですけど産まれたばかりだから何も出来なくて。
 それでワンワン泣いてたら山の神様と藤さんや他の妖精さんたちがやってきて。
 皆さんで面倒を見て貰ってました。」

「妖精ってそうやって産まれて育つんだ。」

「私がそうだっただけで他の方がどうかは分からないですよ。」

「へー。なら俺もホノカちゃんの面倒見る。あーん。」

「されたいんですか?あーん。ん……。」

ホノカちゃんは少し照れて俺のビスケットを口で受け取った。

「茂樹さんも。あーん。」

「あーん。……うん。食べさせて貰うって旨いな。」

「もう一回。あーん。」

「ホノカちゃんもあーん。」

そんなことをしながら俺とホノカちゃんはビスケットをお互いに食べさせていた。

「これで渡した分のミルクとビスケットはなくなったわけだけど。お腹いっぱいになった?まだ食べる?」

「ええと、私。」

「うん。」

「茂樹さんに、まだ何もお礼が。」

「身体洗ってくれたじゃない。」

「それは……買い物に連れて貰う前のビスケットの分です。」

「じゃあ、する?」

(余計なことは考えるな、俺。)

(したいって言うならホノカちゃんのしたいように……させればいい。)

(お菓子のお礼としてはズレているけど。俺もこの子と……ってオイ。)

(それ以上は考えるなよ、俺。)

「はい。」

ホノカちゃんはコクンと頷いた。

(うーん。)

(やっぱり俺、この子と会ってえっちするの、愉しみになってるみたいだな。)

あっさり同意するホノカちゃんを見て、俺は期待が膨らんでいるのを感じていた。
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