ぼくらの同居生活(仮)

白石華

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俺と楓の同居生活

開けた視界(この章はこれで終わりです)

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「……う。」

 いつの間にか俺は眠っていたようで、目を覚ますと、まだ真夜中だったからか真っ暗闇にいた。背中に布団と固い畳の感触はするから、旅館の布団でまだ寝ていることは間違いない。

「……また変な時間に目を覚ましたもんだな。」

 俺は寝巻だが着替えていたようでもあった。寝相がそんなにいい方ではないのと、服じゃないと風邪をひくから浴衣は旅先でも着ない事にしていた。
 そして僅かに、身体が寒いし再び寝付ける気配もない。

「うーん……。飲み物でも買ってくるか。」

 楓を起こさないように温かい飲み物を外の自販機で買ってくることにすると。

 ・・・・・・。

「おう。」
「常吉もか。」

 偶然だが自販機の前で常吉にも鉢合わせした。二人で飲み物を買って、備え付けのテーブルがある椅子に座ると。

「どうしたよ、お兄ちゃん。」
「……どこから話せばいい?」

 いきなり聞かれた。

「楓ちゃんとどうなったかだけ教えてくれればいいぜ。」
「うん……。どう説明すればいいかな。とりあえず丸くは収まった。」
「おお。」
「今までDVしていた分、DVし返された。」
「ギャハハハハハ! 楓ちゃんもやるなー。」
「お前が笑って丁度いいんだよな。今までのことを思うと。」
「子供を自立させない親は女の子だと毒親のパターンだからな。」
「俺だって子供を学園に行かせない親は毒親だと思っていたんだよ。自立はその後。」
「ひっひっひ。毒親は大変だな。毒親ジャッジメントがいっぱいで。」
「……学園に通わせることは厭でもする事だって思っていたんだよ。」
「でもいいじゃん。いい方向には行きそうなんだろ?」
「うん……話も聞かない親はそりゃあ問題だったからね。」
「……親か。」
「何だよ。」

 急に常吉がしんみりし始めたからとりあえず聞くことにした。

「これはお前の知らない俺の友達の話だと思って聞いてくれ。」
「うん。」

 何でそんな回りくどいことをするのか分からなかったが常吉の話を聞くことにした。

「昔、その友達は親がいて、母親に逃げられたから父親とマンションで暮らしていた。
 友達の方は案の定、グレていて、親父も気づいていたがネグレクトじゃねーが。
 放置されていた。家には住まわせて貰ったし生活費も工面していたが。
 そいつも働いていたな。学校には通っていたが果たしてあれでよかったかは言えん。」
「ふうん。」

 そういう家庭もあると思って聞いてくれって話かなと思って俺は何も判別しない相槌を打つ。

「それで、まあ、自分の家に男と女を連れ込んで合意で3Pしていたんだが。
 その日がすげー運悪かった事に。親父が再婚相手を連れて。
 サプライズ報告をしようとケーキまで持って帰ってきたんだな。
 『これでお前にもまた母親がいるぞ。』とかそういう話なのかすげー嬉しそうに。
 帰ってきたところに、見た目だけだと女一人を回しているように見える男二人。
 繰り返すけど合意だからな。」
「……。」
「最後は友人は親父に家を追い出されて、一人暮らし。
 親父は再婚相手と多分二人で暮らしている。」
「そういう家庭もあるって事か。」
「それ知っちまうとさ。俺もおせっかいだとは思ったんだがな。」
「何とかなったからよかったよ。その友達にも言っといてくれ。」
「おう。それでこの話の肝なんだが。」
「うん。」
「理解できない人には理解して貰おうって事自体が多分、難しい。息子も親父もだ。
 だから、分かって貰いたいときは丁寧に越した事はねーって事だ。」
「それが、俺と楓のお互いぶつかっていた理由って事?」
「それもあるけど、もっと主語を大きくしたら、人類の課題にまで行ける。」
「でかいな。」
「そこまで主語を大きい話に見れば、みんなそういう悩みがあるなら。
 そういうもんだと理解できればいいが現実はそうもいかないって事だ。」
「そうだな。」
「でも、そこを渡るときにもし必要な橋を作るときに技術や何やかやが必要なように。
 断絶している部分には、手間が掛かっても、失敗しても。
 橋を作っていかないと渡る事は出来ねーんだろうよ。
 だから、丁寧にやるのを求める分。失敗も含めて。
 何回やってもいいぐらいの受け入れ態勢がねーとな。」
「うん……。それでさ。」
「おう。」
「そいつは今、親父とはどうしているんだ?」
「さあね。何しろその後の話は聞いたことが無い。」
「だったらそいつも彼女作ったとしたら親父に挨拶しろよって言っとけよ。」
「ああ。言っとくよ。母親の方には会えないかもしれないけどな。」
「どっちの?」
「両方。多分、再婚した母親には女の敵だと思われかねない。」
「ふうん……そいつさ、母親が出ていったの、いつか分かる?」
「さあ? 物心ついたときにはいなかったし、手がかりも無かったらしいからな。」
「へえ……。探す手掛かりはそっちはナシか。」
「そうそう、だからもう、諦めているってさ。」
「……。」

 俺は多分どこかにいる、常吉の友達の親を見るように遠い目になると。

「部屋に戻るか。」
「そうだな。」

 いつの間にか話している内に身体が温まったところで俺たちは買えることにした。

「まあ、常吉の友達も苦労しているんだな。」
「ああ。こんだけ身近にいれば悩んでいる人は他にもいるって知れていいだろ。」
「便利でいいな。」
「元々そういう世界だったんだよ。俺たちが知らないだけで。」
「うん。」

 なんか最後は壮大なのかよく分からない話に着地したが。

「明日はお前もまた、楓ちゃんと写真撮れよ。」
「うん……。」

 明日は旅行、最終日だから観光して、そのまま帰るのだろう。

「……。」

 ペタペタと旅館のスリッパが歩く音を立てているが。不思議と身体は寒くなかった。
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