ぼくらの同居生活(仮)

白石華

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俺と楓の同居生活

俺たちの旅行当日その1

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「うひょーいい眺め。」
「ああ。」

 さっそく旅行先の商店街からのわき道に入ると山の登り口にある階段を登って、寺から海を眺めているのだが、常吉の言う通り、山道になる階段も眺められるし麓の景色も眺められるし、そこから広がる街並みも眺められる。ちょっとした道のりだが山を登るのも、そこからの景色を眺めるのも実に爽やかだった。

「海は今、シーズンじゃねーけど、寺近くにある山を眺めるだけでも十分いいよな。」
「うん……。」

 常吉が俺に話を振っているが、俺はせっかくのベストショットでカメラを構えているため、更にいい絵にならないか、情景を探っているところだった。

「お前、ホントに趣味だったんだな。」
「だから言っているだろ。これは俺のSNSには貼らないけど。」
「へー。貼ればいいじゃん。」
「地元だと個人情報とかあるし、何かと面倒なんだよ。」
「そういうもんか。なあ、今日はどうすんだよ。」
「どうするって何がだよ。」
「何がって。お前、写真撮る以外にここでしたいことってないのかよ。」

 常吉がまた俺の事で言っているが、そう言ってくれないと返答にしようがない。

「ああ。それならここだと、景色を見て、おみくじを買って。」
「寺にもおみくじってあったんだな。」
「あるよ。」

 寺の本堂前の賽銭箱の脇にはガチャガチャで取れる、縁起物とセットになったおみくじが設置されている。

「寺にもガチャだ、と……。これは……どういうことだ!?」

 常吉はご当地や変わったガチャガチャに目がないのか驚愕している。

「お前、大吉出るまでやるつもりか?」
「凶でもネタになるからいいんだが。縁起物ガチャガチャって言うのが気になって。」
「これそんなに数なさそうだし、他の人の分まで取るのやめとけよ。」
「そうだよな。」

 遠目から見てもガチャガチャには三分目ぐらいしか入っていないようだ。

「さっきから二人で話しているけど、まだ景色を眺めていたの?」
「あ、京子さん。」

 俺と常吉で話していると、はた目には景色を眺めながら男二人で延々としゃべっている図になったのだろう。京子さんに声を掛けられた。

「……お兄ちゃん、景色って見るの好きだったんだ。」
「ああ、うん。」

 本当は景色を題材にした写真を撮る事なんだけど、楓の前ではそう言わざるを得なかった。

「知らない所や位置から見る景色って、見ていると刺激的だろう?」
「うん……。」

 楓も元々、そういうことが好きそうなことを仄めかしていたからか、遠くを見るような目になって景色を眺めている。

 バサッ

「あっ。」
「あ……。」

 いつの間にか大鷹が広い羽を広げて空を飛んでいる景色が目に飛び込んでくる。

「か、カメラ。」
「えっ?」

 カシャッ。

「ふう……。」

 慌てていたが何とか写真を撮ることが出来た。

「お兄ちゃん……。」
「あっ。」

 一部始終を楓に見られてしまっていたが。

「い、一応、写真係だからね! 記念撮影に……。」

 俺は慌てて説明するも。

「うん。」
「うう……。」

 楓に大きく頷かれ。これは知られてしまったかもな……と心の中で悟るも。

「まーなー。これから昼飯にしよーぜ。麓に綺麗な店構えの所があっただろ。」
「そうだな。」
「はいはい、行きましょう。ね?」
「うん。」

 山を下りて、昼食を取ることにしたのだった。

 ・・・・・・。

「はい、チーズ」

 カシャッ。

 一応、撮影許可も得て、みんなでご飯を食べている光景をカメラで撮る。

「お兄ちゃんも入りなよ。」
「あ、そっか。」

 俺だけ撮影係だと、俺だけが記念撮影に入れない画像のみが増えていくのだった。

「あ、そいじゃ俺撮るわ。」
「サンキュー。」

 カシャッ。

 楓の脇の俺の席に戻って。調子のいい口調で常吉にも撮って貰い。俺の写真も撮って貰えた。

「写真係はお前に任命したけど、今からだけど俺も撮るわ。
 気づくの遅いのと思い付きだから今からで悪いな。」
「いいよ。」
「ああ。」

 こうして、その場の調子で写真は溜まっていき。

 ・・・・・・。

「うわー。こんなに撮ったんだ。」
「貯まると沢山だけど、見ようと思ったらあっという間の量でしょ?」
「ああ。そうだけどよ。お前、知らない内に、こんなに撮っていたんだな。」
「お兄ちゃん……すごい。」

 山から完全に下りて。商店街にある団子屋で休憩をしながら京子さん、俺、常吉、楓と撮った写真を確認していた。

「結構、人物も撮っているのな。」
「ああ。人がいた方が記念になるからね。」
「へー。」

(楓が食いついているような?)

 写真撮影(特に楓本人の)に興味を持たないようにさせていたけど。楓の反応が気になって仕方ない。

「山行ったし、商店街もちょっとだけ回ったけど。明日は商店街めぐりと海だな。」
「海が近いとカモメとかも撮れるかな。」
「ふーん。」

 常吉と話していると楓がまた食いついている。

「楓ちゃんも撮りたいのか、写真?」
「うん!」

(そっちか。)

 常吉の言葉に大きく頷く楓。女の子でも写真撮影とかしたがるんだな。自分が映りたいんじゃなくて写真を撮りたかったのか。

「それならやってみる? 楓。」
「うん!」

 楓は大きく頷いたため楓に任せることにしたのだが。

「お兄ちゃーん、こっちに来て!」
「はーい。」

 商店街から旅館まで歩く俺の記念撮影を楓に結構、撮られてしまっていた。

「良かったじゃん。楓ちゃん撮りまくってるぜ。」
「ああ。でもこの流れで楓を取ろうという進行にならないようにしないと。」
「まだ言ってんのか。もう別にいいだろ。楓ちゃんなら踏み外さねーよ。このくらいならみんなやるって。」
「良くないけど!?」

 俺はまだ、踏みとどまっていた。結局旅館まで着いてしまった。
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