上 下
224 / 252

224

しおりを挟む
「ミア?もういいのではないか?」

クリストファーはミルアージュを止める。
ミルアージュの推測が正解。
それは元主治医の態度からもわかる。
なぜ、そんなに元主治医の口から答えを聞きたがるのか。

ミルアージュはクリストファーの言葉に首を横に振った。
「?」
クリストファーはミルアージュの様子に違和感を覚える。

ミルアージュは元主治医からの答えを執拗に聞きたがっている。
いつもなら結論が出ている案件に時間をかけるタイプではない。

「私はあなたの口から聞きたい。あなたほど誰よりも優秀で患者を思いやれる医者には会った事がないから。」

「‥‥姫様は私を買い被りすぎです。私はそんなできた人間ではありません。」
元主治医はボソリと答える。

クリストファーは2人のやりとりを見てやっと気づいた。

「ミア、この男と知り合いだったのか?」
ミルアージュはずっと元主治医に敬語を使っていた。
ミルアージュが敬語を使う相手‥。
何より姫様とは呼ぶのは‥
早くその意味に気づくべきだった。

「‥私の師匠よ。」

「師匠?」

「そう‥元アンロック王室筆頭ルンバード医師長、お久しぶりです。」
ミルアージュは元主治医に頭を下げた。
生まれた時から王族であるミルアージュが頭を下げる相手。
ミルアージュが元主治医をどれだけ敬っていたのかがクリストファーにもわかった。

「はっ?筆頭医師長ってアンロックの王室医者のトップだろう?なんでこんなところにいる?」

「お父様が亡くなられた後に引退されたの。守りたい人ができたと言って王城を離れたのよ。私が知っている中でこの世界で1番優秀な医者です。」

ミルアージュの言葉にルンバートは顔を歪めた。

「優秀な医者はこんな風に人生をかけた主人を命の危機には晒しませんよ。」
ボソリと呟く声がミルアージュに届いた。

「何があったのですか?」
ミルアージュはルンバートの言葉を聞きたかった。
自分の進むべき道を示してくれた師が医師としての道を外れて欲しくないからだ。

「領主様はとても素晴らしいお方です。領民達の幸福を守るため色々な取り組みをされました。その一つが領民の健康を守るための予防医療に力を入れていました。その時に誘われたのです。この地を豊かにする為に自分の力になって欲しいとね‥」

懐かしむかのようにルンバートは話す。



「もっとできる事があったのではないか。」
アンロック王が亡くなった際、ルンバートは自分を責め、ずっとその言葉を繰り返していた。

アンロック王があそこまで生きられたのはルンバートのおかげだとアンロックの皆は思っていたが、ルンバート自身はそう考えなかった。

ルンバートにとってアンロック王の死は想定外の急変だった。

もっと早く状態変化に気づいていれば‥
それを見抜く力がなかった自分の愚かさに打ちのめされていた。

その頃のルンバートは自信をなくし自暴自棄になっていた。
だから、ルンバートが辞めると言った時もミルアージュは引き留められなかった。

「アンロックの方が規模も大きく予防医療も進んでいましたが、ここでは領民達の声が聞こえる距離で関われて色々な事を学びました。何より領主様の力になれて本当に幸せだった‥」

ルンバートの目からポロリと涙が溢れた。

「私が領主様の反対をしなければ‥せめて毒の選定を私がしていれば、こんな事にはならなかったのに‥アンロック王を助ける事ができなかったのに‥また主人を死なせてしまう所だった‥。姫様‥本当にありがとうございます。」
ルンバートはミルアージュに頭を下げた。

「領主はあなたに相談したけど、反対されて自分で毒を盛ったのね。」

「まさか、あの計画を推し進めるとは思わなかった‥そんな事をしなくてもルービオ様は領主になれるはずだったから。」

「そう思ったのはなぜ?」
ルーマンの現状をルンバートも知っているはずだ。
女性が基本的に領主になる事はないという事を‥

「あなたがこの国の王太子妃になり、そして王の政務官にもなられた。あなたはこの国の現状に満足できるお方ではない。この国を変えてくれると確信していました。ルービオ様のような女性の領主誕生も夢ではなかった。」

ルンバートはミルアージュの足元に跪いた。





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

【完結】婚約破棄されたので、引き継ぎをいたしましょうか?

碧桜 汐香
恋愛
第一王子に婚約破棄された公爵令嬢は、事前に引き継ぎの準備を進めていた。 まっすぐ領地に帰るために、その場で引き継ぎを始めることに。 様々な調査結果を暴露され、婚約破棄に関わった人たちは阿鼻叫喚へ。 第二王子?いりませんわ。 第一王子?もっといりませんわ。 第一王子を慕っていたのに婚約破棄された少女を演じる、彼女の本音は? 彼女の存在意義とは? 別サイト様にも掲載しております

死ぬまで一緒に・・・そう誓った伯爵様が私の大切な人と浮気をして、離婚すると言いだした。

白崎アイド
ファンタジー
一生仲良く暮らそうと誓い合った矢先、伯爵は浮気をした。 浮気相手は私の大切な人。 私は妊娠していたが離婚し、それから21年経過した・・・

前回は断頭台で首を落とされましたが、今回はお父様と協力して貴方達を断頭台に招待します。

夢見 歩
ファンタジー
長年、義母と義弟に虐げられた末に無実の罪で断頭台に立たされたステラ。 陛下は父親に「同じ子を持つ親としての最後の温情だ」と断頭台の刃を落とす合図を出すように命令を下した。 「お父様!助けてください! 私は決してネヴィルの名に恥じるような事はしておりません! お父様ッ!!!!!」 ステラが断頭台の上でいくら泣き叫び、手を必死で伸ばしながら助けを求めても父親がステラを見ることは無かった。 ステラは断頭台の窪みに首を押さえつけられ、ステラの父親の上げた手が勢いよく振り下ろされると同時に頭上から鋭い刃によって首がはねられた。 しかし死んだはずのステラが目を開けると十歳まで時間が巻き戻っていて…? 娘と父親による人生のやり直しという名の復讐劇が今ここに始まる。 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ 全力で執筆中です!お気に入り登録して頂けるとやる気に繋がりますのでぜひよろしくお願いします( * ॑꒳ ॑*)

【完結】私は死んだ。だからわたしは笑うことにした。

彩華(あやはな)
恋愛
最後に見たのは恋人の手をとる婚約者の姿。私はそれを見ながら階段から落ちた。 目を覚ましたわたしは変わった。見舞いにも来ない両親にー。婚約者にもー。わたしは私の為に彼らをやり込める。わたしは・・・私の為に、笑う。

私はお母様の奴隷じゃありません。「出てけ」とおっしゃるなら、望み通り出ていきます【完結】

小平ニコ
ファンタジー
主人公レベッカは、幼いころから母親に冷たく当たられ、家庭内の雑務を全て押し付けられてきた。 他の姉妹たちとは明らかに違う、奴隷のような扱いを受けても、いつか母親が自分を愛してくれると信じ、出来得る限りの努力を続けてきたレベッカだったが、16歳の誕生日に突然、公爵の館に奉公に行けと命じられる。 それは『家を出て行け』と言われているのと同じであり、レベッカはショックを受ける。しかし、奉公先の人々は皆優しく、主であるハーヴィン公爵はとても美しい人で、レベッカは彼にとても気に入られる。 友達もでき、忙しいながらも幸せな毎日を送るレベッカ。そんなある日のこと、妹のキャリーがいきなり公爵の館を訪れた。……キャリーは、レベッカに支払われた給料を回収しに来たのだ。 レベッカは、金銭に対する執着などなかったが、あまりにも身勝手で悪辣なキャリーに怒り、彼女を追い返す。それをきっかけに、公爵家の人々も巻き込む形で、レベッカと実家の姉妹たちは争うことになる。 そして、姉妹たちがそれぞれ悪行の報いを受けた後。 レベッカはとうとう、母親と直接対峙するのだった……

伯爵様の子供を身篭ったの…子供を生むから奥様には消えてほしいと言う若い浮気相手の女には…消えてほしい

白崎アイド
ファンタジー
若い女は私の前にツカツカと歩いてくると、「わたくし、伯爵様の子供を身篭りましたの。だから、奥様には消えてほしいんです」 伯爵様の浮気相手の女は、迷いもなく私の前にくると、キッと私を睨みつけながらそう言った。

運命の番でも愛されなくて結構です

えみ
恋愛
30歳の誕生日を迎えた日、私は交通事故で死んでしまった。 ちょうどその日は、彼氏と最高の誕生日を迎える予定だったが…、車に轢かれる前に私が見たのは、彼氏が綺麗で若い女の子とキスしている姿だった。 今までの人生で浮気をされた回数は両手で数えるほど。男運がないと友達に言われ続けてもう30歳。 新しく生まれ変わったら、もう恋愛はしたくないと思ったけれど…、気が付いたら地下室の魔法陣の上に寝ていた。身体は死ぬ直前のまま、生まれ変わることなく、別の世界で30歳から再スタートすることになった。 と思ったら、この世界は魔法や獣人がいる世界で、「運命の番」というものもあるようで… 「運命の番」というものがあるのなら、浮気されることなく愛されると思っていた。 最後の恋愛だと思ってもう少し頑張ってみよう。 相手が誰であっても愛し愛される関係を築いていきたいと思っていた。 それなのに、まさか相手が…、年下ショタっ子王子!? これは犯罪になりませんか!? 心に傷がある臆病アラサー女子と、好きな子に素直になれないショタ王子のほのぼの恋愛ストーリー…の予定です。 難しい文章は書けませんので、頭からっぽにして読んでみてください。

処理中です...