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アルトが廊下に出たらニヤついた顔で自分を見ているクリストファーに気づいた。

「ミアに振られたな。ミアは私の妃だ、くだらない懸想はやめてもらおう。」
部屋の中で何があったのかお見通しだい言わんばかりにクリストファーはアルトを牽制した。
アルトはグッと拳を握る。

「わかっている。姫に邪な感情など持っていない。あるのは忠誠心だけだ。」
アルトはそう答えのが精一杯だった。
クリストファーに釘を刺される前から自分の感情は忠臣の域を超えていた事に気づいていた。

だからこそ、ミルアージュの危機的状況において行かれた事はショックだった。
そんな時ですら自分は姫を守る力がない。
そう見せつけられたのだから。

それをいえば夫であるクリストファーもだが、どんな理由があろうと離縁を切り出したのだから当然だとアルトは思っている。

「…わかっているのなら良いが、私から見ればそう見えない。このままならミアのそばから離すぞ。」

クリストファーの目は真っ直ぐアルトを見つめていた。
本当にそうするつもりだとアルトにだってわかる。

「…姫にも言われている。これで失礼致します。」
アルトは唇をギュッと噛み一礼をしてからクリストファーから離れた。

「ミアが悲しむ結果にならなかったらいいがな。アルトはミアが絡むと感情が出やすいからな…」
アルトが自らの行いを変えないのならミルアージュのそばに置いておく事はできない。
ミルアージュ自身の悪評につながり、いらない憶測が流れるのだけは食い止めたかった。

クリストファーはアルトが将軍に向いているとは思っていない。
ミアへの想いが強すぎて隠しきれないからだ。

「気持ちはわからんでもないがな…」
クリストファーはボソリとつぶやく。

アルト以上にミルアージュの事となると無茶をしてきたクリストファーだ。
アルトの気持ちは痛いほどわかる。

だが、何より大切なのはミルアージュであり、それ以外は必要ない。

アルトを切り捨てるのが一番良いのはわかっている。
だが、ミルアージュが自分に怒りを向けるのだけは嫌だ。

どんなに自分勝手だと言われてもミアは私だけのものだ。
誰にも譲らない。

それでもミルアージュが笑って過ごせる環境を作りたい。
信頼できる者達で周囲を固めたい。
アビーナルの様に妻を大切にする男ならいくらいても良いのだがな…

少し考えたが、結論の出ない内容なので気持ちを切り替える事にした。

トントン
クリストファーはミルアージュの部屋のドアをノックする。

「入って。」
中から活気があるミルアージュの声が聞こえてきた。
毒に侵されていないのがわかりクリストファーはホッとする。

「私だ。大丈夫か?さっきは追い出してすまなかった。」

「ううん、さっきアルトにも怒られたわ。私の不注意よ。こちらこそ、ごめんなさい。」
ミルアージュはシュンと頭を下げた。

「…アルトのいう事は素直に聞くんだな。」
クリストファーは小さくつぶやいた。

「えっ、何て言ったの?」

「何も。ミアの気のせいだろう。」
クリストファーは一瞬曇った表情に笑顔を貼り付けた。
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