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「ミア!」
ダミアンがノックもせずにミルアージュの部屋に飛び込んできた。
マカラックはスゥと消えたのでダミアンには気づかれなかっただろう。

「ダミアン?どうしたの?」

「いきなりすまない。やばい情報が入ってきた。」

「やばい情報?」
本来ならダミアンはもっと紳士的だ。
だが、そんな余裕などなく女性の部屋にノックもせずに入ってくるくらいダミアンは焦っていた。

「ああ、王都から軍が派遣された。ここに向かっているとのことだ。」

「王都からの軍…」
ミルアージュはダミアンの言葉を繰り返した。

「そうだ、俺たちは反乱因子として潰すつもりだろうか。」

焦るのも無理はなかった。
反乱因子として軍が動けば一瞬で制圧されてしまうのだから。

「反乱因子と判断する証拠は何もないわ。」

ミルアージュが推し進めたのはこの街での収入の増加、治安の改善だ。まぁ、治安部隊をかなり鍛えたが、治安の維持といえば問題ないだろう。
皆が犯罪に手を染めなくてもよい社会にする必要があった。反乱させないため、皆の不満を抑えるために。

レーグルトとの開戦の可能性があることは公になっていないが、ルーマンとレーグルトの境界となるこの街で反乱が起こるのはレーグルトに隙を見せ、ルーマン国内への進撃を許す事になる。

ルーマンの情報をレーグルトに売っている者がルーマン国内にいる以上、レーグルト優位になるように今回も動いている可能性がある。

嫌な笑いを浮かべるキュラミールを思い浮かべたが、力のある彼を追い詰めるだけの証拠がない。

ここに誰が来るのかしら?
こんな時期に来るのは明らかに何かある。
誰の意図で軍が動くのか。

レーグルトへの牽制かこの街の制圧か…


ミルアージュが黙り考え込むのを見てダミアンは覚悟を決めるしかなかった。
軍は様々な領の優秀なものが集められている。軍部が制圧に来れば一瞬で終わることをダミアンは知っていた。
自分が不謹慎な考えを持ったから皆を巻き込んでしまう…ダミアンは真っ青になっていた。

「この街はもう終わるのか…」
ダミアンの沈んだ声にミルアージュはハッと意識をダミアンに向けた。

「ごめんなさい、不安にさせたわね。いつも言っている通りこの街は大丈夫よ。」
ミルアージュはダミアンに向かいニッコリと笑った。

天使の微笑み…こんなに安心感を与えてくれる笑みをダミアンは何度救われただろう。

「大丈夫」ミルアージュはいつもそう言っていた。
なぜ大丈夫と言い切れるのか何度きいてもその理由について説明をしなかったが、ダミアンはその絶対的な自信と知識、剣の腕を持つをミルアージュに惹かれていた。


あの時出会えてよかった。

最初は酔ってミルアージュに愚痴を言ったが、酔いが覚めると自分の発言の愚かさにダミアンはただただ落ち込んでいた。
そこにミルアージュはやってきた。

「あなたを助けたい。」
そう言って。

スパイかもしれないと疑ったのは最初の一週間だけだった。

ミルアージュが提案したのはこの街の守るために必要な知識だった。
街が良くなるなら、たとえスパイでも良いとダミアン自身思っていたが、それはミルアージュを疑い排除しようとしていた仲間達にも受け入れられた。

そして領主に対し否定的な発言をすればミルアージュは皆を諌めるようにもなった。

「今そんな不用意な発言をして揚げ足を取られたいの?」
ミルアージュの剣幕に皆タジタジになっていたが、本当に自分たちのことを考え行動してくれていると慕うもの達が出始めた。

数ヶ月しかこの街にいないミルアージュが実質この街のリーダーとなっていた。


「ダミアン、これから何が起きても私を信じてほしい。あなた達を決して裏切らない。」
先程大丈夫と言ったミルアージュの笑みとは違い、憂いのある悲しそうな笑顔をダミアンに向けた。
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