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「ミルアージュ様、クリストファー様が今すぐ来て欲しいとの仰せです。」
ミルアージュの執務室にクリストファーの使いがやってきた。

第二部隊の者?
クリストファーがミルアージュの呼び出しに第二部隊を使ったのは初めてで引っかかるものはあり、ミルアージュとアビーナルは顔を見合わせた。

「アビーナルも一緒に来て。嫌な予感がするわ。」

「…わかりました。」

アビーナルの呼び出しはなかったが、ミルアージュはアビーナルを連れてクリストファーのところに向かった。

向かった先では軍部の副隊長以上が全て集まっており、ミルアージュが来た瞬間にギロリと睨んだ。

「ミルアージュはこちらに。アビーナルもきたのか。まぁ、いい。ミルアージュの後ろに立っておけ。」
クリストファーの表情が険しい。
愛称ではなく名で呼ぶところを見ると正式な場での対応が必要という事。

ミルアージュは着席をし、その後ろにアビーナルが立った。

「何があったの?」
ミルアージュは嫌な予感しかしなかった。
クリストファーは少し間を置き重々しく口を開いた。

「国王の護衛をしていた第一部隊がやられ、国王が連れさらわれた。」
クリストファーが静かにいう。
その静けさが余計に怖かった。
クリストファーの抑えた圧に周りにいた者達もビクついたのがミルアージュからも見えた。

「どこで誰に?」
ミルアージュがクリストファーに聞く。
あの圧のクリストファーに質問ができる事に皆驚いた。

「レーグルトに入国直後のようだ。首謀者は今調査中だが、まだわかっていない。」

ミルアージュは少し考えてからクリストファーに答える。

「じゃあ、私が調査に向かうわ。アルト準備を…「いや、私が行く。」
クリストファーがミルアージュの言葉を遮った。

「クリストファー様!ダメです、国王不在の今、あなたがこの国のトップです。今ここを離れるなど許されません。」
宰相が慌ててクリストファーに進言する。彼がこんなに焦るのは珍しい。
それだけ今、ルーマンは追い詰められているのだ…

「早くこの問題を収束させないといけない。ルーマン国王がさらわれるなど軍部の弱さを露呈しているのだ。これ以上の醜態は見せられない。」

クリストファーがそう言うと反対の意を唱えるものはいなかった。
いや、言えないのだ。

クリストファーは国の責任者として状況を見た上で自分が出るしかないと判断したから。

第一部隊がやられ国王がさらわれるなど国の威信に関わる問題。ルーマンの弱さをこれ以上、晒すわけにはいかない。
クリストファーはルーマンでも優秀な武将だ。クリストファーが調査に向かい首謀者を一気に抑えるのが良いと皆わかっている。

だが…その間ルーマン国内の内政が手薄になる。宰相だけでは回しきれない。
その面でもクリストファーは国王もしのぐほど優秀なのだ。

遠征か内政。天秤にかけクリストファーは遠征を選んだ。

「ミルアージュ、状況はわかったな。第三部隊を私に貸せ。」

「第三部隊?なぜ、あんな寄せ集めの隊を…」
会議室にいる隊長、副隊長達はざわついた。

第一部隊でやられたのだ、クリストファーの指揮する第二部隊ではかなわないのはわかる。
だとしても平民の寄せ集めの第三部隊など問題外のはずだとその場にいる皆が思った。

クリストファーとミルアージュ、アビーナル、第三部隊隊長として出席しているアルトを除いては。

「お断りよ。私の隊よ。慣れていないあなたに私の大切な隊員は貸せないわ。」
ミルアージュはすぐさまクリストファーの申し入れを断った。

「ミルアージュ様!国王が不在の今、この国のトップはクリストファー様です。お妃様といえど逆らうなど反逆罪に問えます!」
宰相はミルアージュに怒鳴った。
さっきはクリストファーを国から出せないと言っていたのに。ミルアージュは呆れて冷たい視線が宰相に向けた。

そんなミルアージュと宰相の間にアビーナルとアルトがミルアージュを守る形で横に立つ。
その様子を見た宰相はプルプルと拳を震わせている。補助官と隊長が宰相である自分に盾をついているのに苛立ちを隠せなかった。

「お前達も逆らうのか?返答次第では処罰も考える。」
宰相は苛立ちを隠せない口調でアルトとアビーナルに聞いた。

「逆らってなどいません。私達は国王の命令で動いているだけです。有事の際はクリストファー様ではなくミルアージュ様に従えと言われています。」
アビーナルが答え、アルトも頷いた。

宰相も軍部の者達もその発言に目を大きくした。

「そんなでまかせを!国王がそのような事言うわけないだろう。この者達を捕縛しろ。」
宰相の言葉に隊長、副隊長達が立ち上がろうとしたその時大きな笑い声が聞こえてきた。

クリストファーだ。

「はははっ、父上らしい。こうなる事も予測済みか。」

「クリストファー様?」

「アビーナル、アルトの言葉は事実だろう。父上ならな。」
まだクリストファーは笑っている。

その様子を皆は呆気にとられながら見つめた。

「そんなわけある訳ないでしょう!今、クリストファー様より国にとって重要なお方はいません。」
宰相のその言葉をクリストファーは無視しアビーナルとアルトをじっと見た。

「父上がお前達にそう命令を出していたなら私の命よりミアの命を優先させろと言っていただろう。」

「はい。」

「それなら今は下がれ。」

「それはなぜ…」
アビーナルがクリストファーの言葉の意図をつかめず聞き返した。

「調査だけではなく、必要なら国王の救出、弾圧まで一気にする必要があるわ。だから、状況によっては死ぬ可能性もあるのよ。」

クリストファーはミルアージュをその危険に巻き込みたくはなかった。
ミルアージュもクリストファーの意図を理解はしている。従う事はできないが。

「今回の護衛の選定はクリスがした。第一部隊の中でも優秀な者達を必要配置より多く選んでいたのは間違いない。それでも敗れたって事は相手もかなりの手練れで人数も相当いるという事。他国が絡んでいる可能性が高い。」

一番可能性が高いのはレーグルトだ。
まだ表立っては開戦の発表はないが、戦争を起こす前段階の可能性もある。

だからこそ、早く動かなければならない。
ルーマンに今後手出しができないように徹底的に潰しておかなければ、大規模な戦争に発展する。

「私が行くわ。この件に関してはあなたより私の方が有利に動けるわ。それをわかっていて自分が動く事にしたのでしょう?」
ミルアージュはクリストファーに向かいニッコリ笑った。
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