上 下
2 / 252

2

しおりを挟む
「どちらに行かれますか?今バラが咲き乱れて綺麗ですし、噴水もいいですね。」
侍女のアンが行き先を確認する。

「えっと、騎士団や軍の訓練などを見たいわ。私を守ってくれている者たちを見ておきたいの。」

ミルアージュは花などに全く興味はなかった。
どちらか言えば、食べられない物の何が良いのかもよくわからない。

綺麗な物を愛でるという感覚はミルアージュにはないのだ。

「えっ…それは危険ではないでしょうか。」
アンも護衛騎士も戸惑っている。

皆、元々王女であり、現王太子妃が軍の訓練を見たいなどいうとは思っていなかった。

ミルアージュとしてはせっかく外に出たのだ、興味のあるものを見に行きたい。

「大丈夫よ。遠くから見ているから。」
アンは怪我の心配をしているだけだが、護衛騎士たちは違う。
ミルアージュを軍の訓練に連れて行って良いものか判断がつかなかった。

王太子妃といえど、他国の元王女であるミルアージュに見せたくない軍事秘密もあるかもしれない。
下手に軍の訓練に連れて行って後から大目玉を食らうのは嫌だと思っていた。

ミルアージュだってそんな事はわかっているし、見せてくれる所だけでも良いと思っている。

また、クリストファーのところに確認が入る。
外に出たいと言ってから何度も確認が入る所をみるとかなりの要注意人物のようだと他人事のようにミルアージュはため息をつく。

クリストファーの返事は第三部隊の見学許可だった。

「どうして平民が多い第三部隊に?」
護衛騎士たちは首をひねる。
見られても問題がないと判断されたのか、ほかに理由があるのかわからないが、許可がおりたのだ。
堂々と見学ができる。

第三部隊だろうと軍の訓練を見ることができる事が嬉しくてミルアージュはウキウキしながら歩いていく。

キン、キンと剣を交える音がする。
ドレスやダンスよりミルアージュは剣の方が好きだった。

アンロックでは毎日のように剣を振るっていた。
懐かしいその響きにミルアージュは目を閉じる。

クリストファーからの許可も得ている。
邪魔にならない程度に近づいた。

平民が多いと言っていた。
荒削りな剣の使い方をしている。
それでも王城で仕える兵士達だ。
きちんと訓練を積めば十分に国を守る力を秘めている、そう思うとミルアージュはドキドキしていた。

この中で私も訓練したいわ。
部屋に閉じこもっていたミルアージュの願望はダダ漏れいる。

その中でも目を惹く若者がいた。
赤髪と強い意志を持つ黒色の瞳が印象的だ。
彼の振るう剣には隙がない。

「ねぇ、あの赤髪の若者の名は何というの?」
護衛騎士の一人に声をかける。

「あの者は‥アルトでございます。」
言っていいものか少し戸惑いながら答える。
クリストファーの妃であるミルアージュがウットリとした様子で他の者に興味を示すのは良くない兆候だと思ったから。

その場にいた者達は皆、ミルアージュの様子を見て…クリストファー様が忙しすぎてほっとかれたのが寂しくて他の者に目が向かったのではないかと勘ぐった。

ミルアージュはアルトに興味を持ったが、恋愛の意図などは全くない。
たまたま剣の腕が良い者が美男子だというだけだ。
そもそも美とかそんなものには全く興味も関心もないミルアージュだが、他の者達にはそんな事はわからない。

「そう、ありがとう。」
覚えた、アルトね。
いつか、彼と戦ってみたいわね。
ウットリとアルトをみるミルアージュの様子に護衛達はさらに焦る。

王太子にこんな事がバレれば…下手したら自分達も巻き込まれて首が飛ぶと。

ミルアージュの剣の腕は知るものこそ少ないが、相当なものだった。
元々お茶やダンスを楽しむタイプの王女ではない。

最近は剣も握っていない。
それもストレスになっている事をミルアージュ自身も自覚している。

クリスにお願いしてみようかしら。
あのアルトと勝負をしてみたいと。
クリストファーも強いが、ミルアージュ相手だと怪我をさせたくなくてすぐに手を抜くため、勝負にならない。

外に出た事でミルアージュは目覚めてしまった。
アルトに勝負を挑む前に剣を振る感覚を取り戻さないと。
ミルアージュは目標を定める。

ミルアージュは元々、大人しくできる王女ではない。
王太子妃となってもミルアージュは変わらない。

これからミルアージュは周囲を巻き込んでルーマン王国を変えていくのはまだ誰も知らない。





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

【完結】婚約破棄されたので、引き継ぎをいたしましょうか?

碧桜 汐香
恋愛
第一王子に婚約破棄された公爵令嬢は、事前に引き継ぎの準備を進めていた。 まっすぐ領地に帰るために、その場で引き継ぎを始めることに。 様々な調査結果を暴露され、婚約破棄に関わった人たちは阿鼻叫喚へ。 第二王子?いりませんわ。 第一王子?もっといりませんわ。 第一王子を慕っていたのに婚約破棄された少女を演じる、彼女の本音は? 彼女の存在意義とは? 別サイト様にも掲載しております

死ぬまで一緒に・・・そう誓った伯爵様が私の大切な人と浮気をして、離婚すると言いだした。

白崎アイド
ファンタジー
一生仲良く暮らそうと誓い合った矢先、伯爵は浮気をした。 浮気相手は私の大切な人。 私は妊娠していたが離婚し、それから21年経過した・・・

前回は断頭台で首を落とされましたが、今回はお父様と協力して貴方達を断頭台に招待します。

夢見 歩
ファンタジー
長年、義母と義弟に虐げられた末に無実の罪で断頭台に立たされたステラ。 陛下は父親に「同じ子を持つ親としての最後の温情だ」と断頭台の刃を落とす合図を出すように命令を下した。 「お父様!助けてください! 私は決してネヴィルの名に恥じるような事はしておりません! お父様ッ!!!!!」 ステラが断頭台の上でいくら泣き叫び、手を必死で伸ばしながら助けを求めても父親がステラを見ることは無かった。 ステラは断頭台の窪みに首を押さえつけられ、ステラの父親の上げた手が勢いよく振り下ろされると同時に頭上から鋭い刃によって首がはねられた。 しかし死んだはずのステラが目を開けると十歳まで時間が巻き戻っていて…? 娘と父親による人生のやり直しという名の復讐劇が今ここに始まる。 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ 全力で執筆中です!お気に入り登録して頂けるとやる気に繋がりますのでぜひよろしくお願いします( * ॑꒳ ॑*)

【完結】私は死んだ。だからわたしは笑うことにした。

彩華(あやはな)
恋愛
最後に見たのは恋人の手をとる婚約者の姿。私はそれを見ながら階段から落ちた。 目を覚ましたわたしは変わった。見舞いにも来ない両親にー。婚約者にもー。わたしは私の為に彼らをやり込める。わたしは・・・私の為に、笑う。

私はお母様の奴隷じゃありません。「出てけ」とおっしゃるなら、望み通り出ていきます【完結】

小平ニコ
ファンタジー
主人公レベッカは、幼いころから母親に冷たく当たられ、家庭内の雑務を全て押し付けられてきた。 他の姉妹たちとは明らかに違う、奴隷のような扱いを受けても、いつか母親が自分を愛してくれると信じ、出来得る限りの努力を続けてきたレベッカだったが、16歳の誕生日に突然、公爵の館に奉公に行けと命じられる。 それは『家を出て行け』と言われているのと同じであり、レベッカはショックを受ける。しかし、奉公先の人々は皆優しく、主であるハーヴィン公爵はとても美しい人で、レベッカは彼にとても気に入られる。 友達もでき、忙しいながらも幸せな毎日を送るレベッカ。そんなある日のこと、妹のキャリーがいきなり公爵の館を訪れた。……キャリーは、レベッカに支払われた給料を回収しに来たのだ。 レベッカは、金銭に対する執着などなかったが、あまりにも身勝手で悪辣なキャリーに怒り、彼女を追い返す。それをきっかけに、公爵家の人々も巻き込む形で、レベッカと実家の姉妹たちは争うことになる。 そして、姉妹たちがそれぞれ悪行の報いを受けた後。 レベッカはとうとう、母親と直接対峙するのだった……

伯爵様の子供を身篭ったの…子供を生むから奥様には消えてほしいと言う若い浮気相手の女には…消えてほしい

白崎アイド
ファンタジー
若い女は私の前にツカツカと歩いてくると、「わたくし、伯爵様の子供を身篭りましたの。だから、奥様には消えてほしいんです」 伯爵様の浮気相手の女は、迷いもなく私の前にくると、キッと私を睨みつけながらそう言った。

運命の番でも愛されなくて結構です

えみ
恋愛
30歳の誕生日を迎えた日、私は交通事故で死んでしまった。 ちょうどその日は、彼氏と最高の誕生日を迎える予定だったが…、車に轢かれる前に私が見たのは、彼氏が綺麗で若い女の子とキスしている姿だった。 今までの人生で浮気をされた回数は両手で数えるほど。男運がないと友達に言われ続けてもう30歳。 新しく生まれ変わったら、もう恋愛はしたくないと思ったけれど…、気が付いたら地下室の魔法陣の上に寝ていた。身体は死ぬ直前のまま、生まれ変わることなく、別の世界で30歳から再スタートすることになった。 と思ったら、この世界は魔法や獣人がいる世界で、「運命の番」というものもあるようで… 「運命の番」というものがあるのなら、浮気されることなく愛されると思っていた。 最後の恋愛だと思ってもう少し頑張ってみよう。 相手が誰であっても愛し愛される関係を築いていきたいと思っていた。 それなのに、まさか相手が…、年下ショタっ子王子!? これは犯罪になりませんか!? 心に傷がある臆病アラサー女子と、好きな子に素直になれないショタ王子のほのぼの恋愛ストーリー…の予定です。 難しい文章は書けませんので、頭からっぽにして読んでみてください。

処理中です...