【完結】闇落ちした聖女候補は神様に溺愛される

みやちゃん

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第2章

キースが語る過去(キース視点)

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ヴォルティス、マークバルダ、キース、リーナ、ラリーン、ラハール‥そしてなぜかキースと一緒にいたミラージュがヴォルティスの神殿に来ていた。

普段命の泉にずっといる為、使う事がなかった神殿でヴォルティス自身もその存在を忘れていたが‥
ここならリーナと一緒に住める。
皆が真相を知りたい中、ヴォルティスはこれからのリーナとの生活に思い描いていた。

過去などどうでもいい。リーナがいる、そんな未来が嬉しくて嬉しくて堪らない。
ヴォルティスの頭の中は今お花畑状態だ。

神卓で皆椅子に座るが、リーナはヴォルティスの膝の上に座っていた。
ヴォルティスはリーナをずっと抱きしめて髪をいじっている。

「神様、あの、恥ずかしいので別で座りたいのですが‥」
リーナは顔を真っ赤にしてうつむいている。

ヴォルティスはリーナの髪を触るのを止めない。
「神様じゃなくてヴォルティスだ。いや、皆が呼ぶ名前じゃなく特別な呼び方をしてほしい。何がいいか‥ヴォル?ティス?ピンとこないな。」
ブツブツと名前の候補をいい、リーナの話など全く入っていない。
ヴォルティスはリーナから離れる事が嫌だったのだから、リーナの主張など耳に入る訳がなかった。

ハァとため息をつき、キースは話し出す。
「リーナ、話が進まないからそのままでいてくれ。ヴォルティス様、嬉しいのはわかりますが、少しお付き合いください。あなたにとっても大切な話です。」

ヴォルティスはリーナを抱いたまま、コクリと頷いた。

「まず、皆が一番知りたい事から話していこう。リーナがなぜ、ヴォルティス様の聖女になれるのか。だろう?」
キースはマークバルダを見た。
マークバルダは頷く。

「それはリーナがヴォルティス様の希望‥ヴォルティス様の聖女として生まれたからだ。」

「ヴォルティス様の聖女として生まれた?何を言ったいる?誰の聖女になるなんて最初から決まっていない。」
マークバルダが言い返す。

「いや、リーナはその運命を持って生まれてきたんだ。希望の力によってな。」
キースは過去の出来事を話し出した。




—————

「ヴォルティス様、本当にありがとうございました。」

マリーと結ばれる為、人となる決断をした。
そんな前代未聞の決断を神々が受け入れるはずなどない。反対されるだけでは済まないと覚悟の上の決断だった。
それなのに人を嫌っているヴォルティスがなぜか認めてくれた為、スムーズに人になることができた。
そのお礼を言う為にキースはヴォルティスのところに来ていた。

「キースか、体は大丈夫か?もう人への変化は始まっているのだろう?」
ヴォルティス様は自分の調子も良くないのに俺の様子を気遣ってくれるのが嬉しかった。

「大丈夫です。ヴォルティス様のお陰で少しずつの変化となる為、体が慣れる時間があります。」
少し体がだるいくらいの変化で済んでいる。これが一気に人に変えられていたと思うと‥考えただけでもゾッとする。

「そうか、それなら良かった。もう行くのか。気をつけていけ。」

「ありがとうございます。最後に質問をしてもいいですか?」
ヴォルティス様に会うのはこれが最後だろう。どうしても気になる事を聞いておきたかった。

「なんだ?」

「どうして俺を認めてくれたのですか?」

ヴォルティス様がフッと微笑む。
もう長い間ヴォルティス様に仕えてきたのにその悲しそうな微笑みを初めてみた。

「その決断をしたお前が羨ましかったからだ。」

羨ましい?人となることが?
いや違う。人嫌いのヴォルティス様がそんな事を思うはずがない。
そんな事を考える俺の顔をみてヴォルティス様は答える。

「人となる事は未だに理解できないが、その聖女がお前にとってそれほど大切なんだろう。そんな者に出会い、人となる決断をしたお前が羨ましいと言ったのだ。」

その瞬間自分がどれだけヴォルティス様を理解していなかったのかを知った。

ヴォルティス様は大切と思える者を欲していたのだと今更気付く。
最高神である彼の周りには臣下と呼べる神しかいない。聖女も持つことはできない。
ずっと永い間、孤独の中生きてきたのだ‥
死ぬことも役割を譲ることもできず、これからも独りで生きていく。

「申し訳ありません‥」
声が震える。
そんなヴォルティス様の前で聖女マリーと夫婦になる為に人になると宣言した。
幸せは自分で決めると神々に啖呵をきった。
ヴォルティス様はどんな思いで聞いていたのだろう。

「お前を責めているのではない。ただ、私の望みをお前に託したいだけだ。」

「はい、ありがとうございます‥」
目に涙が浮かぶ。
何が希望の神だ。こんなに近くにいたヴォルティス様の望みすらわからないのに‥

「キースに渡したいものがあるのだ、受け取ってくれるか?」

涙を我慢していた俺は声が出せず、頷いた。
命の泉にある石のついたブレスレットが左手に現れた。

「人になる際に外に出される神の力をその石が吸収してくれる。お前の全ての力とは言わないが、何かがあった時お前の助けとなるはずだ。それは人には見えない。いずれお前にも見えなくなるが、ずっと付いている。私からの餞別だ。」

「勝手な決断をした俺がこんな物受け取れません!」

罰せられてもおかしくない決断をした。
なのに、人となっても神の力を使える権利をヴォルティス様は俺に授けた。
何一つヴォルティス様の事を考えなかった俺に‥

「もう外れないぞ。それを使う使わないはお前が決めろ。必ず幸せになれ。お前がそう言い切ったのだからな。」

「はい‥必ず幸せになります。」

俺は祈った。
ヴォルティス様が幸せになれますように。
俺にとってのマリーがそうであるように、ヴォルティス様の希望の光となる存在に会えますようにと。
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