38 / 87
第2章
ヴォルティスの裁き
しおりを挟む
「神様?」
リーナは神様の言っている意味がわからなかった。
私に手を出した報い?
姿形は確かに神様だ。だが、リーナが知っている神様と全く雰囲気が違っている。
今まで怖いなんて思った事もなかったのに‥
神様の冷たい微笑みに背筋がゾクリとする。
そんな私の様子に気づいた神様は民衆から私に視線を向けた。
「怖いか?これが元々の私だ。」
そう言って神様は悲しそうに乾いた笑いを浮かべた。
私が神様にそんな顔をさせていると思うと胸が苦しくなった。
「神様!罰は私が受けます。私が闇落ちをしたのがいけなかったんです。ごめんなさい、ごめんなさい。」
「かわいい子が悪いわけではない。そなたは陥れられた、この男にな。」
神様は公爵を睨みつける。
「何を言う!私は何もしていない!」
公爵は神に怒鳴りつける。
「私はお前に発言の許可を出してはいない。」
低くなった神様の声が公爵に向けられる。
公爵は膝をつき、口をパクパクと動かすが、声を出せなくなっているようだ。
「私は裁きの神だ!私の前で嘘など通用しない!!」
神の神気が一気に強くなる。
神様は裁きの神?
リーナは一年半一緒にいたが、神様の役割を初めて聞いた。
民衆がパタパタと倒れる。
その様子を神様はチラッと見た後、別の方向を向く。
「この状況を見てもまだ、人々を守るつもりか?マークバルダ。」
神様の視線の先にはマークバルダ様が立っている。
「ヴォルティス様、民衆が真実を知ればパニックを起こし、穢れが多くうまれます。」
マークバルダ様は真っ直ぐに神様を見つめ答える。民衆はマークバルダ様によって眠らされただけのようだ。
「構わないだろう。今から裁きが始まるのだから、すぐに減る。」
神様は笑っている。
「ヴォルティス様‥」
マークバルダ様は次の言葉が出てこず、眉間のシワはさらに深くなった。
裁き?リーナにも状況はわからないが、最悪の事態になっている事だけは伝わってきた。
その時、バタバタと国王と騎士たちがやってきた為、ヴォルティスとマークバルダの話は中断された。
リーナは呆然と神達のやりとりを見ていた。
神様とマークバルダ様が信頼しあっていたのをずっと見てきた。
神様も口では文句を言いながらもマークバルダ様を大切にし、決してないがしろにしなかった。
それなのに‥神様とマークバルダ様の間に冷たい壁が見える。完全に対立している‥
「マークバルダ様、これはどう言うことでしょう?」
王がマークバルダに聞いた。
普通、神は民衆の前になど現れない神聖なもの。王は状況がわからず焦っていた。
ヴォルティスの冷たい視線が王に向く。
「お前がもっとしっかりしていれば、このような事態にならなかった。裁きを早めた罪は重いぞ。」
ヴォルティスの視線も声も冷たく突き刺さるようだ。
怒っている‥誰の目にもわかった。
王はゴクリと唾をのんだ。
ヴォルティスと王の間にマークバルダが入る。
「このような事態になり申し訳ありません。全ては私の責任です。」
ヴォルティスに頭を下げるマークバルダを見て人々は驚く。マークバルダは人と関わる神で一番高位の神だったのだから。
王達はヴォルティスがマークバルダより高位の神だと認識した。
「もう全て終わった事だ。私がかわいい子を望む事はそんなに難しい事だったか?唯一の望みすら私は叶えられないのか?」
ヴォルティスはマークバルダの謝罪など必要ないと目で言う。謝罪などなんの意味もないのだから。その代わりに何度も自分自身に問いかけた言葉を口にした。
「‥‥」
マークバルダは何も返答できなかった。
ずっと側にいたマークバルダにはヴォルティスの辛さや苦しみが痛いほど伝わっている。何を言っても慰めになどならない事がわかっていた。
「なぜ、人が裁かれるのですか?闇落ちした者への処理は人に任されているはずです。」
王が神々に問う。
「マークバルダが結んだ取り決めなど私には関係ない事だ。裁きの神として私のかわいい子を闇落ちさせ、悪意の対象とした者達への罪を問うだけだ。」
いちいち口を挟むなと言うように低い声でヴォルティスは答える。
「裁きの神?闇落ちさせた?どう言う事ですか?」
王は恐る恐る聞く。
「ここにおられるのは最高神ヴォルティス様だ。そしてそこにいる聖女候補はヴォルティス様の聖女となるはずだった。その者が闇落ちさせなければな。」
マークバルダが公爵を睨みながらヴォルティスの代わりに答える。
「最高神の聖女‥」青い顔をして王は繰り返す。
ヴォルティスは映像を王達に見せた。公爵の愚かな行為、民衆のリーナへの憎悪、最高神と呼ばれる神がかわいい子と呼ぶ者に向けられた悪意の一部始終を。
ヴォルティスは信じたかった。かわいい子が守ろうとしていた人達を‥あたたかい心もあるのだと。だからこそ、公開処刑の場まで様子を見ていた。
だが、民衆はかわいい子へ憎悪を向け、攻撃した。結局は公爵と何も変わらないという結論となった。
ヴォルティスは公爵に話しかける。
「わかるか?お前が犯した罪。私のかわいい子にどれだけ穢れを浄化する力があるのか。かわいい子がいなければ、もうこんな世界はとっくに終わりを迎えていた。」
公爵はパクパクと口を動かすのみで言葉を発せられなかった。
「マークバルダ、お前もわかっているだろう。私のかわいい子がいなくなれば、私の穢れは増える。どちらにしても人への裁きの時は近い。」
「はい、ヴォルティス様。」
「ならば、今でも良いだろう?少し早まるだけだ。」
そう言ってヴォルティスは微笑んだ。とても冷たく、決定事項だと言うように。
リーナは神様の言っている意味がわからなかった。
私に手を出した報い?
姿形は確かに神様だ。だが、リーナが知っている神様と全く雰囲気が違っている。
今まで怖いなんて思った事もなかったのに‥
神様の冷たい微笑みに背筋がゾクリとする。
そんな私の様子に気づいた神様は民衆から私に視線を向けた。
「怖いか?これが元々の私だ。」
そう言って神様は悲しそうに乾いた笑いを浮かべた。
私が神様にそんな顔をさせていると思うと胸が苦しくなった。
「神様!罰は私が受けます。私が闇落ちをしたのがいけなかったんです。ごめんなさい、ごめんなさい。」
「かわいい子が悪いわけではない。そなたは陥れられた、この男にな。」
神様は公爵を睨みつける。
「何を言う!私は何もしていない!」
公爵は神に怒鳴りつける。
「私はお前に発言の許可を出してはいない。」
低くなった神様の声が公爵に向けられる。
公爵は膝をつき、口をパクパクと動かすが、声を出せなくなっているようだ。
「私は裁きの神だ!私の前で嘘など通用しない!!」
神の神気が一気に強くなる。
神様は裁きの神?
リーナは一年半一緒にいたが、神様の役割を初めて聞いた。
民衆がパタパタと倒れる。
その様子を神様はチラッと見た後、別の方向を向く。
「この状況を見てもまだ、人々を守るつもりか?マークバルダ。」
神様の視線の先にはマークバルダ様が立っている。
「ヴォルティス様、民衆が真実を知ればパニックを起こし、穢れが多くうまれます。」
マークバルダ様は真っ直ぐに神様を見つめ答える。民衆はマークバルダ様によって眠らされただけのようだ。
「構わないだろう。今から裁きが始まるのだから、すぐに減る。」
神様は笑っている。
「ヴォルティス様‥」
マークバルダ様は次の言葉が出てこず、眉間のシワはさらに深くなった。
裁き?リーナにも状況はわからないが、最悪の事態になっている事だけは伝わってきた。
その時、バタバタと国王と騎士たちがやってきた為、ヴォルティスとマークバルダの話は中断された。
リーナは呆然と神達のやりとりを見ていた。
神様とマークバルダ様が信頼しあっていたのをずっと見てきた。
神様も口では文句を言いながらもマークバルダ様を大切にし、決してないがしろにしなかった。
それなのに‥神様とマークバルダ様の間に冷たい壁が見える。完全に対立している‥
「マークバルダ様、これはどう言うことでしょう?」
王がマークバルダに聞いた。
普通、神は民衆の前になど現れない神聖なもの。王は状況がわからず焦っていた。
ヴォルティスの冷たい視線が王に向く。
「お前がもっとしっかりしていれば、このような事態にならなかった。裁きを早めた罪は重いぞ。」
ヴォルティスの視線も声も冷たく突き刺さるようだ。
怒っている‥誰の目にもわかった。
王はゴクリと唾をのんだ。
ヴォルティスと王の間にマークバルダが入る。
「このような事態になり申し訳ありません。全ては私の責任です。」
ヴォルティスに頭を下げるマークバルダを見て人々は驚く。マークバルダは人と関わる神で一番高位の神だったのだから。
王達はヴォルティスがマークバルダより高位の神だと認識した。
「もう全て終わった事だ。私がかわいい子を望む事はそんなに難しい事だったか?唯一の望みすら私は叶えられないのか?」
ヴォルティスはマークバルダの謝罪など必要ないと目で言う。謝罪などなんの意味もないのだから。その代わりに何度も自分自身に問いかけた言葉を口にした。
「‥‥」
マークバルダは何も返答できなかった。
ずっと側にいたマークバルダにはヴォルティスの辛さや苦しみが痛いほど伝わっている。何を言っても慰めになどならない事がわかっていた。
「なぜ、人が裁かれるのですか?闇落ちした者への処理は人に任されているはずです。」
王が神々に問う。
「マークバルダが結んだ取り決めなど私には関係ない事だ。裁きの神として私のかわいい子を闇落ちさせ、悪意の対象とした者達への罪を問うだけだ。」
いちいち口を挟むなと言うように低い声でヴォルティスは答える。
「裁きの神?闇落ちさせた?どう言う事ですか?」
王は恐る恐る聞く。
「ここにおられるのは最高神ヴォルティス様だ。そしてそこにいる聖女候補はヴォルティス様の聖女となるはずだった。その者が闇落ちさせなければな。」
マークバルダが公爵を睨みながらヴォルティスの代わりに答える。
「最高神の聖女‥」青い顔をして王は繰り返す。
ヴォルティスは映像を王達に見せた。公爵の愚かな行為、民衆のリーナへの憎悪、最高神と呼ばれる神がかわいい子と呼ぶ者に向けられた悪意の一部始終を。
ヴォルティスは信じたかった。かわいい子が守ろうとしていた人達を‥あたたかい心もあるのだと。だからこそ、公開処刑の場まで様子を見ていた。
だが、民衆はかわいい子へ憎悪を向け、攻撃した。結局は公爵と何も変わらないという結論となった。
ヴォルティスは公爵に話しかける。
「わかるか?お前が犯した罪。私のかわいい子にどれだけ穢れを浄化する力があるのか。かわいい子がいなければ、もうこんな世界はとっくに終わりを迎えていた。」
公爵はパクパクと口を動かすのみで言葉を発せられなかった。
「マークバルダ、お前もわかっているだろう。私のかわいい子がいなくなれば、私の穢れは増える。どちらにしても人への裁きの時は近い。」
「はい、ヴォルティス様。」
「ならば、今でも良いだろう?少し早まるだけだ。」
そう言ってヴォルティスは微笑んだ。とても冷たく、決定事項だと言うように。
0
お気に入りに追加
230
あなたにおすすめの小説
追放された偽物聖女は、辺境の村でひっそり暮らしている
黎
ファンタジー
辺境の村で人々のために薬を作って暮らすリサは“聖女”と呼ばれている。その噂を聞きつけた騎士団の数人が現れ、あらゆる疾病を治療する万能の力を持つ聖女を連れて行くべく強引な手段に出ようとする中、騎士団長が割って入る──どうせ聖女のようだと称えられているに過ぎないと。ぶっきらぼうながらも親切な騎士団長に惹かれていくリサは、しかし実は数年前に“偽物聖女”と帝都を追われたクラリッサであった。
将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです
きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」
5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。
その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?

【完結】婚約破棄寸前の悪役令嬢は7年前の姿をしている
五色ひわ
恋愛
ドラード王国の第二王女、クラウディア・ドラードは正体不明の相手に襲撃されて子供の姿に変えられてしまった。何とか逃げのびたクラウディアは、年齢を偽って孤児院に隠れて暮らしている。
初めて経験する貧しい暮らしに疲れ果てた頃、目の前に現れたのは婚約破棄寸前の婚約者アルフレートだった。
【完結】辺境伯令嬢は新聞で婚約破棄を知った
五色ひわ
恋愛
辺境伯令嬢としてのんびり領地で暮らしてきたアメリアは、カフェで見せられた新聞で自身の婚約破棄を知った。アメリアは真実を確かめるため、3年ぶりに王都へと旅立った。
※本編34話、番外編『皇太子殿下の苦悩』31+1話、おまけ4話
無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
スーパームーンの美しい夜。仕事帰り、トラックに撥ねらてしまった私。気づけば草の生えた地面の上に倒れていた。目の前に見える城に入れば、盛大なパーティーの真っ最中。目の前にある豪華な食事を口にしていると見知らぬ男性にいきなり名前を呼ばれて、次期王妃候補の資格を失ったことを聞かされた。理由も分からないまま、家に帰宅すると「お前のような恥さらしは今日限り、出ていけ」と追い出されてしまう。途方に暮れる私についてきてくれたのは、私の専属メイドと御者の青年。そこで私は2人を連れて新天地目指して旅立つことにした。無一文だけど大丈夫。私は前世の特技を活かしてお金を稼ぐことが出来るのだから――
※ 他サイトでも投稿中

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

私は幼い頃に死んだと思われていた侯爵令嬢でした
さこの
恋愛
幼い頃に誘拐されたマリアベル。保護してくれた男の人をお母さんと呼び、父でもあり兄でもあり家族として暮らしていた。
誘拐される以前の記憶は全くないが、ネックレスにマリアベルと名前が記されていた。
数年後にマリアベルの元に侯爵家の遣いがやってきて、自分は貴族の娘だと知る事になる。
お母さんと呼ぶ男の人と離れるのは嫌だが家に戻り家族と会う事になった。
片田舎で暮らしていたマリアベルは貴族の子女として学ぶ事になるが、不思議と読み書きは出来るし食事のマナーも悪くない。
お母さんと呼ばれていた男は何者だったのだろうか……? マリアベルは貴族社会に馴染めるのか……
っと言った感じのストーリーです。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる