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第1章
リーナの闇落ち
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馬でラハールはリーナを一緒に乗せて走っている。リーナはラハールにしがみつくのが精一杯だった。
その後ろから護衛の二人がついてくる。
村を出るときは馬車だったため時間はかかったが、帰りは早い。
同じ道を通っているはずなのに村を出た時と見えている景色は全く違うもののようにリーナは感じていた。
世界はこんなに暗いものだっただろうか。
早く確かめたい。皆が無事な事を‥でも戻りたくない。もし、あの人が言った事が本当なら‥
リーナは精神的にもう限界にきていた。
胸につけていたペンダントをギュッと握りしめる。
神様に村の人達の無事を祈る事しかできなかった。
村もだいぶ近くなってきたところになり、警備兵に止められる。
「ここから先は入ってはダメだ。」
「何故ですか?この先に村がありましたよね?」
ラハールは警備兵に聞く。
「その村が盗賊に襲われ一昨日全滅した。埋葬は終わったが、今調査待ちだ、穢れをうんでる可能性がある。あんな何にもない貧しい村を襲っても何もないだろうに酷いことをする。」
警備兵は眉間にシワを寄せながら答える。相当怒っている様子が伝わってくる。
いきなり襲われたり殺されたりしたら恐怖や苦痛のまま亡くなった魂が穢れにのまれ、どこにもいけずにその場で穢れをうみ続ける場合がある。
そうなる前に埋葬し弔うのだが、人数が多い場合はその危険が高い。
神殿に依頼が来て、場の調査と必要があれば浄化をする‥それも聖女の役目だった。
リーナはその言葉を聞いて制止を振り切り村に向かって走り出した。
リーナもまた、その知識があり、何を意味するのかがわかってしまったから。
「まだ立ち入り禁止だ!危険だ、入るな!」
「リーナ様!」
警備兵やラハールの声を無視して走り抜ける。
リーナが生まれ育ったところであり、ラハールや警備兵よりこの場所に慣れていた為、リーナを止める事ができなかった。
ハァハァハァ
全速力で走る。足がとても重い。
村が近づいてくると周囲はさらに暗くなり、ピリピリした冷たい空気が肌にあたり痛みも感じた。
村の入り口まできたリーナは立ち止まった。
そこで見た光景は‥悲惨なものだった。
警備兵の言う通り埋葬はされていたらしく死体を見ることはなかった。
だが、実は生きているのではとの希望など持てないくらい色々なところに血が飛び散っている。
人が生存できているとは思えない量だ。
何よりリーナには見えて聴こえている。
リーナの聖女としての強い力が裏目にでて皆が感じる程度の穢れをはっきりと認識できてしまっている。
「あぁぁぁ」「助けてくれ」「怖い!」「殺さないで!」
最期の村人達の声が渦めいている。
いきなり殺される事に対する恐怖、怒り。
もう村人達は埋葬されている。
だが、村人達の魂は穢れにのまれ、どこにもいけずに村の中にとどまっている。
どこにも行けない魂‥即死ではなく恐怖や苦しみが強いまま死んだんだ。
辺り一面の血を見ればどんな風に殺されたのかわかってしまう。
相当怖かった筈だ。痛かった筈だ。あんなに優しい人達が穢れをうむのだから‥
フラフラと村の中を歩く。
リーナの実家にたどり着き、扉を開けると部屋の中は血まみれだった。
争ったのだろうか、色々な物が散乱している。
誰もいない。いつも「お帰り」って笑って迎えてくれた家族はもういない。
ぼんやりとレフーガン公爵の言葉を思い出す。
「お前のようなクズかこんなところにいるからお前の家族も村人も全て死んだんだ。恨むなら自分を恨め。アリーティナを追い詰めた自分をな。」
私のせい?私のせいで皆が殺された?
リーナはその場に立ち尽くし動けなくなっていた。
少ししてラハールが追いついた。
「リーナ様!!見てはいけません!心をしっかり留めてください。感情をコントロールしてください。」
ラハールは叫んで、これ以上何も見えないようにリーナを力強く抱きしめた。
神官であるラハールもこの状況を感じ取っており、リーナ程の力があればさらに見えている事がわかっていた。
家族や村人とリーナの関係性も知っている。
だからこそ、リーナを抱きしめ声をかけることしかできなかった。
ラハールの声にリーナは現実に引き戻される。
「あぁぁぁ!お母さん!ルート!ネマみんな!ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!」
リーナは泣き崩れるのをラハールが支える。
「あなたは何も悪くありません!しっかりしてください!」
ラハールの声はもうリーナには届かない。
レフーガン公爵は村人の死体より穢れをうみ苦しむ村人の魂を聖女候補であるリーナに見せたかった。
そちらの方がリーナへのダメージは大きいと考えたから。
だから全滅させ一日経ってからリーナに知らせたのだ。
公爵の思惑通りに状況はすすんでいた。
周囲の空気から穢れが消えた?
リーナを抱きしめながらラハールは周囲を見渡した。
何があったのかわからない。だが、確実に空気が澄んでいる。
その瞬間リーナに突き飛ばされた。
リーナの胸につけていたペンダントがパァンという音とともに粉々に割れたのが見える。
神からの贈り物が割れた‥ラハールは焦る。
「リーナ様!ダメです!落ち着いてください!」
「あぁぁぁぁ!」
リーナが叫び、倒れ苦しみ出した。
「リーナ様⁉︎」
リーナから禍々しい穢れが出ており、ラハールは後ずさる。
それからどのくらいの時間が経っただろうか。倒れたリーナがゆっくりと起き上がる。
もう優しくあたたかな光はでていない。
「リーナ様!!」
リーナは完全に穢れにのまれていた。闇落ちした瞬間だった。
これこそ、公爵が望んだリーナの姿だった。
その後ろから護衛の二人がついてくる。
村を出るときは馬車だったため時間はかかったが、帰りは早い。
同じ道を通っているはずなのに村を出た時と見えている景色は全く違うもののようにリーナは感じていた。
世界はこんなに暗いものだっただろうか。
早く確かめたい。皆が無事な事を‥でも戻りたくない。もし、あの人が言った事が本当なら‥
リーナは精神的にもう限界にきていた。
胸につけていたペンダントをギュッと握りしめる。
神様に村の人達の無事を祈る事しかできなかった。
村もだいぶ近くなってきたところになり、警備兵に止められる。
「ここから先は入ってはダメだ。」
「何故ですか?この先に村がありましたよね?」
ラハールは警備兵に聞く。
「その村が盗賊に襲われ一昨日全滅した。埋葬は終わったが、今調査待ちだ、穢れをうんでる可能性がある。あんな何にもない貧しい村を襲っても何もないだろうに酷いことをする。」
警備兵は眉間にシワを寄せながら答える。相当怒っている様子が伝わってくる。
いきなり襲われたり殺されたりしたら恐怖や苦痛のまま亡くなった魂が穢れにのまれ、どこにもいけずにその場で穢れをうみ続ける場合がある。
そうなる前に埋葬し弔うのだが、人数が多い場合はその危険が高い。
神殿に依頼が来て、場の調査と必要があれば浄化をする‥それも聖女の役目だった。
リーナはその言葉を聞いて制止を振り切り村に向かって走り出した。
リーナもまた、その知識があり、何を意味するのかがわかってしまったから。
「まだ立ち入り禁止だ!危険だ、入るな!」
「リーナ様!」
警備兵やラハールの声を無視して走り抜ける。
リーナが生まれ育ったところであり、ラハールや警備兵よりこの場所に慣れていた為、リーナを止める事ができなかった。
ハァハァハァ
全速力で走る。足がとても重い。
村が近づいてくると周囲はさらに暗くなり、ピリピリした冷たい空気が肌にあたり痛みも感じた。
村の入り口まできたリーナは立ち止まった。
そこで見た光景は‥悲惨なものだった。
警備兵の言う通り埋葬はされていたらしく死体を見ることはなかった。
だが、実は生きているのではとの希望など持てないくらい色々なところに血が飛び散っている。
人が生存できているとは思えない量だ。
何よりリーナには見えて聴こえている。
リーナの聖女としての強い力が裏目にでて皆が感じる程度の穢れをはっきりと認識できてしまっている。
「あぁぁぁ」「助けてくれ」「怖い!」「殺さないで!」
最期の村人達の声が渦めいている。
いきなり殺される事に対する恐怖、怒り。
もう村人達は埋葬されている。
だが、村人達の魂は穢れにのまれ、どこにもいけずに村の中にとどまっている。
どこにも行けない魂‥即死ではなく恐怖や苦しみが強いまま死んだんだ。
辺り一面の血を見ればどんな風に殺されたのかわかってしまう。
相当怖かった筈だ。痛かった筈だ。あんなに優しい人達が穢れをうむのだから‥
フラフラと村の中を歩く。
リーナの実家にたどり着き、扉を開けると部屋の中は血まみれだった。
争ったのだろうか、色々な物が散乱している。
誰もいない。いつも「お帰り」って笑って迎えてくれた家族はもういない。
ぼんやりとレフーガン公爵の言葉を思い出す。
「お前のようなクズかこんなところにいるからお前の家族も村人も全て死んだんだ。恨むなら自分を恨め。アリーティナを追い詰めた自分をな。」
私のせい?私のせいで皆が殺された?
リーナはその場に立ち尽くし動けなくなっていた。
少ししてラハールが追いついた。
「リーナ様!!見てはいけません!心をしっかり留めてください。感情をコントロールしてください。」
ラハールは叫んで、これ以上何も見えないようにリーナを力強く抱きしめた。
神官であるラハールもこの状況を感じ取っており、リーナ程の力があればさらに見えている事がわかっていた。
家族や村人とリーナの関係性も知っている。
だからこそ、リーナを抱きしめ声をかけることしかできなかった。
ラハールの声にリーナは現実に引き戻される。
「あぁぁぁ!お母さん!ルート!ネマみんな!ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!」
リーナは泣き崩れるのをラハールが支える。
「あなたは何も悪くありません!しっかりしてください!」
ラハールの声はもうリーナには届かない。
レフーガン公爵は村人の死体より穢れをうみ苦しむ村人の魂を聖女候補であるリーナに見せたかった。
そちらの方がリーナへのダメージは大きいと考えたから。
だから全滅させ一日経ってからリーナに知らせたのだ。
公爵の思惑通りに状況はすすんでいた。
周囲の空気から穢れが消えた?
リーナを抱きしめながらラハールは周囲を見渡した。
何があったのかわからない。だが、確実に空気が澄んでいる。
その瞬間リーナに突き飛ばされた。
リーナの胸につけていたペンダントがパァンという音とともに粉々に割れたのが見える。
神からの贈り物が割れた‥ラハールは焦る。
「リーナ様!ダメです!落ち着いてください!」
「あぁぁぁぁ!」
リーナが叫び、倒れ苦しみ出した。
「リーナ様⁉︎」
リーナから禍々しい穢れが出ており、ラハールは後ずさる。
それからどのくらいの時間が経っただろうか。倒れたリーナがゆっくりと起き上がる。
もう優しくあたたかな光はでていない。
「リーナ様!!」
リーナは完全に穢れにのまれていた。闇落ちした瞬間だった。
これこそ、公爵が望んだリーナの姿だった。
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