32 / 87
第1章
リーナに忍び寄る罠2
しおりを挟む
朝の祈りが終わってラハールが部屋に戻ると聖女候補の勉強時間であるリーナが扉の前で立っていた。
「リーナ様?」
リーナの真っ青な顔をして、震えていた。
昨日までは普通だった。何があったのだ?ラハールには思い当たる事がなかった。
「どうされたのですか?顔色が真っ青ですよ。医者を呼びましょうか?」
ラハールは心配そうに覗き込んだ。
リーナは震えながら言葉を発する。
「ラハールさん、実家まで‥いえ、私の村まで連れていってください。」
リーナの低い声にラハールは驚いた。
「何があったのですか?」
「言えない、言ったら本当だと認めてしまう‥きっとうそだ。そうに決まってる‥」
リーナはガタガタと震えるだけで理由を言わず、自分に言い聞かせるように小さな声を発していた。
リーナは何かに怯えている、そんな様子だった。
今問い詰めているのは無理だと悟ったラハールはリーナの望みを叶えることにした。
担当神官は聖女の心の安寧を保つ事も役目の一つだ。
この状態はホームシックなんてものではない。
原因がわからない。村に行けばこうなった原因がわかるはずだとラハールは考えた。
「神殿の許可を取らなければなりません。少しお待ちください。」
ラハールは何も聞かず、神殿の許可を取りに行く。
ラハールの部屋で椅子に腰かけたリーナは顔色を失い、ただガタガタと震えていた。
神殿をでる許可をとるのには時間がかかるのにリーナ様の都合というと許可はすぐにおりた。
いつもあるはずの馬車は出払っていたが、ラハールは乗馬もできたため、馬を走らせることにした。馬車よりもずっと早く着くので好都合だった。
神もラリーンもいないタイミングで村に帰る事になる。
護衛もすぐに見つかった。守りの神マークバルダよりは劣るが、リーナを守れる準備が整う。
そう、ラハールはスムーズに事が運びすぎている事に気づかねばいけなかった。普段と違う違和感に。
それが公爵が張り巡らせた罠であり、知らず知らずにラハールはリーナを連れ出してしまう。
リーナは神に好かれただけの聖女候補ではない。
ヴォルティスという最高神の穢れを浄化できる唯一の聖女候補だ。
ラリーン達と十分に信頼関係を築けていなかったラハールにそれらの説明はされていなかった。
ラハールはただ神殿の悪意からリーナを護ろうとしていただけだったため、疑わなかったのだ。
リーナを護り抜かねばならなかった、神殿から出してはいけなかった。人々のためにも。
レフーガン公爵が囁いた言葉‥
「お前のようなクズかこんなところにいるからお前の家族も村人も全て死んだんだ。恨むなら自分を恨め。アリーティナを追い詰めた自分をな。」
冷たい視線がリーナに向けられる。
なぜ、アリーティナが出てくるの?この人はだれ?
皆が死んだってどういう事?
そんな訳ない、無事だよね‥お母さんもルートもネマも村の人たちも。
全てたまたま起こったのではない。
レフーガン公爵に仕掛けられた巧妙な罠だった。
ヴォルティスの不在時にマークバルダ、ラリーンが離れなくてはならなかった事も、ラハールがいない時を狙いリーナに近づいたのも、神殿の許可がすぐに取れたのも馬車がなかったのも、護衛がすぐに見つかったのも。
異変に気付いた神が対応する前にリーナは村に到着する必要があった。
そこには聖女の希望を優先する神官の行動パターンやラハールの乗馬経験、リーナの家族との関係性なども全て含まれ計画されていた。
この半年かけ徹底的に調べ上げ、ここまでの計画を立てた公爵の執念はすごかった。
「これから何が起こるのか楽しみだ。」
声高らかに笑う公爵は今晩はお祝いをしようと決めていた。
「リーナ様?」
リーナの真っ青な顔をして、震えていた。
昨日までは普通だった。何があったのだ?ラハールには思い当たる事がなかった。
「どうされたのですか?顔色が真っ青ですよ。医者を呼びましょうか?」
ラハールは心配そうに覗き込んだ。
リーナは震えながら言葉を発する。
「ラハールさん、実家まで‥いえ、私の村まで連れていってください。」
リーナの低い声にラハールは驚いた。
「何があったのですか?」
「言えない、言ったら本当だと認めてしまう‥きっとうそだ。そうに決まってる‥」
リーナはガタガタと震えるだけで理由を言わず、自分に言い聞かせるように小さな声を発していた。
リーナは何かに怯えている、そんな様子だった。
今問い詰めているのは無理だと悟ったラハールはリーナの望みを叶えることにした。
担当神官は聖女の心の安寧を保つ事も役目の一つだ。
この状態はホームシックなんてものではない。
原因がわからない。村に行けばこうなった原因がわかるはずだとラハールは考えた。
「神殿の許可を取らなければなりません。少しお待ちください。」
ラハールは何も聞かず、神殿の許可を取りに行く。
ラハールの部屋で椅子に腰かけたリーナは顔色を失い、ただガタガタと震えていた。
神殿をでる許可をとるのには時間がかかるのにリーナ様の都合というと許可はすぐにおりた。
いつもあるはずの馬車は出払っていたが、ラハールは乗馬もできたため、馬を走らせることにした。馬車よりもずっと早く着くので好都合だった。
神もラリーンもいないタイミングで村に帰る事になる。
護衛もすぐに見つかった。守りの神マークバルダよりは劣るが、リーナを守れる準備が整う。
そう、ラハールはスムーズに事が運びすぎている事に気づかねばいけなかった。普段と違う違和感に。
それが公爵が張り巡らせた罠であり、知らず知らずにラハールはリーナを連れ出してしまう。
リーナは神に好かれただけの聖女候補ではない。
ヴォルティスという最高神の穢れを浄化できる唯一の聖女候補だ。
ラリーン達と十分に信頼関係を築けていなかったラハールにそれらの説明はされていなかった。
ラハールはただ神殿の悪意からリーナを護ろうとしていただけだったため、疑わなかったのだ。
リーナを護り抜かねばならなかった、神殿から出してはいけなかった。人々のためにも。
レフーガン公爵が囁いた言葉‥
「お前のようなクズかこんなところにいるからお前の家族も村人も全て死んだんだ。恨むなら自分を恨め。アリーティナを追い詰めた自分をな。」
冷たい視線がリーナに向けられる。
なぜ、アリーティナが出てくるの?この人はだれ?
皆が死んだってどういう事?
そんな訳ない、無事だよね‥お母さんもルートもネマも村の人たちも。
全てたまたま起こったのではない。
レフーガン公爵に仕掛けられた巧妙な罠だった。
ヴォルティスの不在時にマークバルダ、ラリーンが離れなくてはならなかった事も、ラハールがいない時を狙いリーナに近づいたのも、神殿の許可がすぐに取れたのも馬車がなかったのも、護衛がすぐに見つかったのも。
異変に気付いた神が対応する前にリーナは村に到着する必要があった。
そこには聖女の希望を優先する神官の行動パターンやラハールの乗馬経験、リーナの家族との関係性なども全て含まれ計画されていた。
この半年かけ徹底的に調べ上げ、ここまでの計画を立てた公爵の執念はすごかった。
「これから何が起こるのか楽しみだ。」
声高らかに笑う公爵は今晩はお祝いをしようと決めていた。
0
お気に入りに追加
230
あなたにおすすめの小説
追放された偽物聖女は、辺境の村でひっそり暮らしている
黎
ファンタジー
辺境の村で人々のために薬を作って暮らすリサは“聖女”と呼ばれている。その噂を聞きつけた騎士団の数人が現れ、あらゆる疾病を治療する万能の力を持つ聖女を連れて行くべく強引な手段に出ようとする中、騎士団長が割って入る──どうせ聖女のようだと称えられているに過ぎないと。ぶっきらぼうながらも親切な騎士団長に惹かれていくリサは、しかし実は数年前に“偽物聖女”と帝都を追われたクラリッサであった。
無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
スーパームーンの美しい夜。仕事帰り、トラックに撥ねらてしまった私。気づけば草の生えた地面の上に倒れていた。目の前に見える城に入れば、盛大なパーティーの真っ最中。目の前にある豪華な食事を口にしていると見知らぬ男性にいきなり名前を呼ばれて、次期王妃候補の資格を失ったことを聞かされた。理由も分からないまま、家に帰宅すると「お前のような恥さらしは今日限り、出ていけ」と追い出されてしまう。途方に暮れる私についてきてくれたのは、私の専属メイドと御者の青年。そこで私は2人を連れて新天地目指して旅立つことにした。無一文だけど大丈夫。私は前世の特技を活かしてお金を稼ぐことが出来るのだから――
※ 他サイトでも投稿中
【完結】辺境伯令嬢は新聞で婚約破棄を知った
五色ひわ
恋愛
辺境伯令嬢としてのんびり領地で暮らしてきたアメリアは、カフェで見せられた新聞で自身の婚約破棄を知った。アメリアは真実を確かめるため、3年ぶりに王都へと旅立った。
※本編34話、番外編『皇太子殿下の苦悩』31+1話、おまけ4話

【完結】婚約破棄寸前の悪役令嬢は7年前の姿をしている
五色ひわ
恋愛
ドラード王国の第二王女、クラウディア・ドラードは正体不明の相手に襲撃されて子供の姿に変えられてしまった。何とか逃げのびたクラウディアは、年齢を偽って孤児院に隠れて暮らしている。
初めて経験する貧しい暮らしに疲れ果てた頃、目の前に現れたのは婚約破棄寸前の婚約者アルフレートだった。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです
きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」
5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。
その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが
【完結】追放された元聖女は、冒険者として自由に生活します!
蜜柑
ファンタジー
レイラは生まれた時から強力な魔力を持っていたため、キアーラ王国の大神殿で大司教に聖女として育てられ、毎日祈りを捧げてきた。大司教は国政を乗っ取ろうと王太子とレイラの婚約を決めたが、王子は身元不明のレイラとは結婚できないと婚約破棄し、彼女を国外追放してしまう。
――え、もうお肉も食べていいの? 白じゃない服着てもいいの?
追放される道中、偶然出会った冒険者――剣士ステファンと狼男のライガに同行することになったレイラは、冒険者ギルドに登録し、冒険者になる。もともと神殿での不自由な生活に飽き飽きしていたレイラは美味しいものを食べたり、可愛い服を着たり、冒険者として仕事をしたりと、外での自由な生活を楽しむ。
その一方、魔物が出るようになったキアーラでは大司教がレイラの回収を画策し、レイラの出自をめぐる真実がだんだんと明らかになる。
※序盤1話が短めです(1000字弱)
※複数視点多めです。
※小説家になろうにも掲載しています。
※表紙イラストはレイラを月塚彩様に描いてもらいました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる