【完結】闇落ちした聖女候補は神様に溺愛される

みやちゃん

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第1章

ヴォルティスの贈り物(マークバルダ視点)

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「ヴォルティス様?」

マークバルダは戸惑う。

ヴォルティス様の機嫌が悪い。
いや、悪いなんてものではない。
しかも、その苛立ちは自分に向いているのがわかる。

今日もいつも通り聖女候補のところに行ったはず‥
なぜこんなに機嫌が悪いのだ?
いつもなら今頃、幸せいっぱいで神気ダダ漏れなのに‥

今日、私は別用があり、ヴォルティス様についていく事ができなかった。
最近では一人でもスムーズに人の世界に行けるようになっていたため、安心していたが‥

ヴォルティス様は私をにらみながら言う。
「私のかわいい子からお前の神気を感じた‥」

えっ?私の神気?なぜ?
ヴォルティス様の言葉の意味がわからない。

「私の神気ですか?」

「正確には首にかけていた石からだ。かわいい子への贈り物は私が最初にしたかったのに‥」

私が贈り物をした事になっているのか?

「いや、私は贈り物など‥」
何がどうなっているのかわからず、言い訳のしようがない。

「わかっている。あの神気は最近のものではない。何十年か前のものだ。」

何十年か前の石‥
そこまで言われて気がついた。
私の聖女になった記念としてラリーンに贈ったものではないかと。
私の神力で作った物であり、神気を感じるのは当然だ。

まだ、持っていたのだと思うと胸が熱くなる。
ラリーンは私と結ばれていた聖女だった。
神と人の生きる時の長さが違う。
老いるのが早い聖女といつまでも結ばれるのは不可能だ。
彼女の事は気に入ってはいたが、2年前に関係を解除していた。

ラリーンが石を渡したのだとすれば、聖女候補の将来に期待したのだろう。
きっと聖女になってくれると。

私は昔を思い出し、しんみりしていた。

ヴォルティス様は別の事を考えていた様子で
「私が贈り物がしたい。私だけのかわいい子に他の神の神気など必要ない。」
と言い出した。

「あの石を再現したら交換してくれるだろうか。」

根掘り葉掘り石について聞いてくる。
ヴォルティス様は私の石を真似て作るようだ。

「ヴォルティス様からの贈り物ならば、聖女候補は何でも喜びそうですが。」

「神様、ありがとうございます!」と言って笑顔で受け取る聖女候補が思い浮かぶ。

ヴォルティス様も同じ事を考えたのだろう。
少し考えたのちに、ニヤニヤと笑い「いいかもしれない」との声が聞こえた。

ヴォルティス様は最高神で誰にも平等で厳しい。
そんな事は身近で見てきた私が一番よくわかっているつもりだった。
ヴォルティス様の石をみるまでは‥




「ヴォルティス様、これは‥」
私は唖然として言葉が続けられなかった。

「気にいると思うか?」
次の日、ニコニコとした機嫌の良いヴォルティス様に青い石を見せられた。

聖女候補はヴォルティス様にとって大切な人だと私も思っている。

だが、ヴォルティス様の神力で作られた石には加護や保護、結界、挙句に攻撃する力まで付いている。
思いつく限り、ありとあやゆる神力が込められていた。

これ、その辺りの神より力が強いぞ‥

人には神力を与えすぎてはいけないという暗黙のルールがある。
人はありすぎる力を手に入れると欲がでる。
その欲から穢れをうむ場合もあるためだ。
人には神の力を使いこなせない。
基本的に結ばれて与える力も浄化の力を強めるだけだ。

何よりこの石とヴォルティス様を神力が繋げている。
常に聖女候補の存在を感じることができるのと同時に何かあれば、直接ヴォルティス様の中に流れ込む。

「ヴォルティス様、これを人には渡せません。力が強すぎます。それにもし、聖女候補が穢れを持てば、ヴォルティス様に直接入り込みます。」

私は焦る。
こんなもの人に絶対に渡してはいけない。

「これはかわいい子にしか使えないようにしているから悪用はされない。もし、かわいい子がいなくなれば、私はこの先誰とも結ばれないかもしれない。守りたいのだ、かわいい子を。あの子でも穢れをうむのならば、私も一緒に滅びても良いかもしれない。」

ヴォルティス様は笑う。

ヴォルティス様の聖女候補に対する執着はここまでだったのか‥
聖女候補を失えば、自分が滅びても良いのか。

ヴォルティス様が消えれば、この世界は消滅する。
だからこそ、永遠の時を生きてきた筈だ。

他の神は役割を他者に譲り、永久に眠ることや消滅する事も選べる。
だが、ヴォルティス様はそれができない。
ヴォルティス様の存在自体がこの世とつながっているから。

ヴォルティス様自身、もう滅びたいのかもしれない‥

私の顔を見てヴォルティス様は苦笑いをする。

「滅びたいと思っている訳ではない。私が存在する、それは必要な事だ。だが、かわいい子と出会って初めて幸せを感じ、今まで孤独だった事に気付いた。かわいい子を失えば、私はどうなるのだろうな‥」

「ヴォルティス様‥」

私は何も言えなくなった。

「これは私のわがままかもしれないが、かわいい子を失う事は絶対にできない‥」
ヴォルティス様は辛そうな顔をする。

「だが、マークバルダの言いたい事もわかっているつもりだ。私と直接繋げるのはやめておこう。それなら良いか?」

私は頷くしかできなかった。

ヴォルティス様、気づいていますか?
聖女候補と過ごせる時は何十年かしかない事を‥
先に老いて亡くなることを。
だから神は執着しなくても良いように何人もの聖女と絆を結ぶことができるのだ。

まれに聖女と一緒に死を望む神もいるが、それはその神が好きにすれば良いこと。

だが、ヴォルティス様は違う。
聖女候補が亡くなっても永遠の時を生きなければならない。

皆のために‥
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