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「今何て言った?」
ノルディの耳に聞こえるはずのない言葉が聞こえた。
望みすぎて生み出した幻聴だろうか…
「ノルディを愛しているって言ったわ。」
「もう一回言ってくれ…」
二回聞いてもレピアが言った言葉が信じられない。
「あなたを愛している。アリア様が言うように今更だっていうのも自分勝手だというのもわかっている。だけど…」
レピアは視線をノルディから外した。
「そんな事はない!私はずっとアールに嫉妬していたんだ。レピアからの愛が欲しかった!信じられない。ああ、夢じゃないだろうか…それならもう目覚めなくてもいい…」
ノルディはレピアに話しかけるでもなく独り言のようにブツブツと言葉を並べた。
「…信じられないのは私のせいね。本当に今更だもの。気づくのが遅くなってごめんなさい。まだ間に合う?」
レピアは少し辛そうに視線を落とした。
ノルディはブンブンと首を縦に振った。
振りすぎて首を痛めるのではないかと思われるくらい勢いがよかった。
「もちろんだ!もう絶対に離さないから。ずっと私のそばにいてくれ。やっぱり気のせいだったって言うのは無しだから。後、嫉妬して他の男たちを牽制するだろう…今だって会わせたくないし…それに…」
ノルディは早口で言葉を発する。
その唇にレピアは右手の人差し指をあてて微笑んだ。
レピアはそんな慌てるノルディをあまり見たことがなかった。
少し呆気にもとられたが、その反応がうれしかった。
「私もよ。あなたがアリア様と仲良くしている姿を見て胸がモヤモヤしたわ。誰かを羨んで醜い感情に支配されるなんて聖女失格ね。」
アリアに嫉妬…
それで会ってくれなかったか。
「もう二度とアリアには会わない!」
レピアがそばにいてくれるのなら簡単な事だ。
「それは極端だから。アリア様は王太子妃よ。公務もあるし会わないなんて無理よ。」
レピアがおかしそうにクスクスと笑う。
そんなレピアを見て暖かいものが込み上げてきた。
「では公務以外では会わないし、レピアが共にいなければ口も聞かない。レピアより大切なものなどないのだから。」
ノルディは真顔で言う。
「気持ちだけもらっておくわ。ありがとう。」
「レピア口づけしていい?」
レピアは恥ずかしそうに小さくうなずいた。
ノルディとレピアの唇が触れた。
何度か唇が合わさるうちに深いキスとなっていく。
唇が離れるとノルディはレピアを強く抱きしめた。
もう二度と放さないというように。
「レピア、やっぱり結婚式をしてもいいか?聖女との婚姻はどうでもいいが、レピアが私の妃だと国内外に知らせたい。一生あなたの夫は私だけだ。」
「あなたがそうしたいのなら構わないわ。」
レピアはギュッとノルディを抱きしめ返す。
花が舞い散る季節。
レピアが大好きな庭で大好きな人と将来の話をする。
それがこんなに幸せなものだなんて。
ノルディにはドキドキはしない。
だが、一緒にいてこんなに心地よい。
レピアはノルディの温もりを感じて自分が今どれだけ幸せなのか実感できた。
それからしばらくしてレピアの妊娠が判明した。
「ノルディ、結婚式をしてくれると言ったばかりではないか。もう少し待てなかったのか。」
皇太子は苦言を呈する。
祝い事だ。皇室と聖女の結びつきが一段と強かなるのだから反対はしない。
だが、結婚式を早めなければならず結婚式に関わる官吏たちは過労死するかと思われるくらい多忙になるだろう。
「兄上、レピアが私を愛してくれるのです。これ以上の喜びはありません。ああ、男の子だろうか、それともレピアに似た女の子だろうか。子ども服やおもちゃも用意しなければ、いやその前にレピアの心が穏やかであるようにこの庭をもっと整えなければ。」
浮かれきっているノルディの耳にはもう何も入らない。
ノルディとレピアの結婚式は皆から祝福された。
皇室と聖女の結びつきが深まる政治的な意味を持つものではあったが、そんなものはどうでも良いというように二人はとても幸せそうに笑い合っていたのが印象的だった。
そんな二人に大神官は神殿代表として心からの祝福を表した。
皇室と神殿の確執などなくなったように皆が二人の幸せを願った。
その様子を見たハンバルはこれからの神殿が変わっていく事に期待し、投げやりになっていた夢をもう一度叶えようと決意した。
ハンバルの横でハンバルの妻となったノアは涙が止まらなかった。
レピアが幸せそうに笑うのがノアの夢だったのだから。
遠回りはしたが、今レピアが心から幸せそうに笑っている。
レピアの様子を見て肩の荷がおりたノアはハンバルの求婚を受けることにしたのだ。
結婚式の後、間もなくしてレピアは出産する。
レピアの子は女の子だった。
レピアの大好きな庭は、ノルディとレピアと子どもの笑い声が絶えない幸せな場となった。
そしてアールの犠牲があったとはいえ、レピアが魔の扉を閉められたのは事実。
大きな犠牲を出し止まっていた魔の扉を閉める研究に予算が大きくつけられた。
今までいがみ合っていた皇室と神殿もその研究に協力的だった。
その裏にはレピアはもちろんノルディ、ハンバル、大神官の働きも大きかった。
レピアの出産の後少ししてハンバルとノアの子も生まれた。
レピアの子と共に神殿と皇室の垣根をなくし、魔の扉の封じ込めに成功するのはずっと後のお話。
Fin
ノルディの耳に聞こえるはずのない言葉が聞こえた。
望みすぎて生み出した幻聴だろうか…
「ノルディを愛しているって言ったわ。」
「もう一回言ってくれ…」
二回聞いてもレピアが言った言葉が信じられない。
「あなたを愛している。アリア様が言うように今更だっていうのも自分勝手だというのもわかっている。だけど…」
レピアは視線をノルディから外した。
「そんな事はない!私はずっとアールに嫉妬していたんだ。レピアからの愛が欲しかった!信じられない。ああ、夢じゃないだろうか…それならもう目覚めなくてもいい…」
ノルディはレピアに話しかけるでもなく独り言のようにブツブツと言葉を並べた。
「…信じられないのは私のせいね。本当に今更だもの。気づくのが遅くなってごめんなさい。まだ間に合う?」
レピアは少し辛そうに視線を落とした。
ノルディはブンブンと首を縦に振った。
振りすぎて首を痛めるのではないかと思われるくらい勢いがよかった。
「もちろんだ!もう絶対に離さないから。ずっと私のそばにいてくれ。やっぱり気のせいだったって言うのは無しだから。後、嫉妬して他の男たちを牽制するだろう…今だって会わせたくないし…それに…」
ノルディは早口で言葉を発する。
その唇にレピアは右手の人差し指をあてて微笑んだ。
レピアはそんな慌てるノルディをあまり見たことがなかった。
少し呆気にもとられたが、その反応がうれしかった。
「私もよ。あなたがアリア様と仲良くしている姿を見て胸がモヤモヤしたわ。誰かを羨んで醜い感情に支配されるなんて聖女失格ね。」
アリアに嫉妬…
それで会ってくれなかったか。
「もう二度とアリアには会わない!」
レピアがそばにいてくれるのなら簡単な事だ。
「それは極端だから。アリア様は王太子妃よ。公務もあるし会わないなんて無理よ。」
レピアがおかしそうにクスクスと笑う。
そんなレピアを見て暖かいものが込み上げてきた。
「では公務以外では会わないし、レピアが共にいなければ口も聞かない。レピアより大切なものなどないのだから。」
ノルディは真顔で言う。
「気持ちだけもらっておくわ。ありがとう。」
「レピア口づけしていい?」
レピアは恥ずかしそうに小さくうなずいた。
ノルディとレピアの唇が触れた。
何度か唇が合わさるうちに深いキスとなっていく。
唇が離れるとノルディはレピアを強く抱きしめた。
もう二度と放さないというように。
「レピア、やっぱり結婚式をしてもいいか?聖女との婚姻はどうでもいいが、レピアが私の妃だと国内外に知らせたい。一生あなたの夫は私だけだ。」
「あなたがそうしたいのなら構わないわ。」
レピアはギュッとノルディを抱きしめ返す。
花が舞い散る季節。
レピアが大好きな庭で大好きな人と将来の話をする。
それがこんなに幸せなものだなんて。
ノルディにはドキドキはしない。
だが、一緒にいてこんなに心地よい。
レピアはノルディの温もりを感じて自分が今どれだけ幸せなのか実感できた。
それからしばらくしてレピアの妊娠が判明した。
「ノルディ、結婚式をしてくれると言ったばかりではないか。もう少し待てなかったのか。」
皇太子は苦言を呈する。
祝い事だ。皇室と聖女の結びつきが一段と強かなるのだから反対はしない。
だが、結婚式を早めなければならず結婚式に関わる官吏たちは過労死するかと思われるくらい多忙になるだろう。
「兄上、レピアが私を愛してくれるのです。これ以上の喜びはありません。ああ、男の子だろうか、それともレピアに似た女の子だろうか。子ども服やおもちゃも用意しなければ、いやその前にレピアの心が穏やかであるようにこの庭をもっと整えなければ。」
浮かれきっているノルディの耳にはもう何も入らない。
ノルディとレピアの結婚式は皆から祝福された。
皇室と聖女の結びつきが深まる政治的な意味を持つものではあったが、そんなものはどうでも良いというように二人はとても幸せそうに笑い合っていたのが印象的だった。
そんな二人に大神官は神殿代表として心からの祝福を表した。
皇室と神殿の確執などなくなったように皆が二人の幸せを願った。
その様子を見たハンバルはこれからの神殿が変わっていく事に期待し、投げやりになっていた夢をもう一度叶えようと決意した。
ハンバルの横でハンバルの妻となったノアは涙が止まらなかった。
レピアが幸せそうに笑うのがノアの夢だったのだから。
遠回りはしたが、今レピアが心から幸せそうに笑っている。
レピアの様子を見て肩の荷がおりたノアはハンバルの求婚を受けることにしたのだ。
結婚式の後、間もなくしてレピアは出産する。
レピアの子は女の子だった。
レピアの大好きな庭は、ノルディとレピアと子どもの笑い声が絶えない幸せな場となった。
そしてアールの犠牲があったとはいえ、レピアが魔の扉を閉められたのは事実。
大きな犠牲を出し止まっていた魔の扉を閉める研究に予算が大きくつけられた。
今までいがみ合っていた皇室と神殿もその研究に協力的だった。
その裏にはレピアはもちろんノルディ、ハンバル、大神官の働きも大きかった。
レピアの出産の後少ししてハンバルとノアの子も生まれた。
レピアの子と共に神殿と皇室の垣根をなくし、魔の扉の封じ込めに成功するのはずっと後のお話。
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