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「聖女様が戻ってくる。」
皇都ではいち早くその情報が流れた。
聖女の行いを批判していた者たちもいざ聖女がいなくなれば魔の扉の出現に不安を抱えた。
今までは聖女がいたから皇都は魔物の侵入から守られていた。
そして聖女がいたからこそ皇都では病気なども少なかったのだと知った。
聖女不在により魔物は侵入し、病気で苦しむ皇都民も増えた。
「ノルディ第二皇子の妃となるらしいし、ずっとここにいるんだな。本当に良かった。」
そう言われレピアは皇都民から歓迎を受けていた。
だが、年頃の娘を持つ貴族達にとっては面白くなかった。
ノルディ第二皇子という優良物件がレピアという悪評のある聖女に持っていかれる事になったのだから。
レピアは皇都民の歓迎も貴族やその令嬢達の妬みもどうでも良かった。
自分がノルディの妃であるのは聖女としての役割を果たす為、自分がまた馬鹿な事をしないように見張る為。
皆が羨むような関係ではないのだから。
「レピア様、一緒に庭に出ないか?今、レピア様の好きな花々が満開だ。」
ノルディはレピアが自分と同じ想いでない事を知っている。
それでも横にいてくれるだけで嬉しかった。
「ノルディ様、私の事はレピアとお呼びください。私は聖女である前にあなたの妃なのですから。」
レピアがノルディに頭を下げる。
ノルディはゴクリと唾を飲んだ。
「レピアと呼んでもいいのか?」
「もちろんです。私達は夫婦です。」
レピアは無表情ままそう答えた。
レピアがノルディを愛さないと言った。
だから形ばかりの夫婦となるつもりだったのに、いつか名前を呼びたいというノルディの夢が一つ叶った。
「レピア、あなたも私の事はノルディと呼んでくれ。敬語もいらない。今まで通りでいい。」
「そういう訳には…」
レピアは皇子妃としての教育も受けており、夫となる皇子に対し敬意を示す為の言動を学んでいた。
聖女ならば敬語を使わなくてもいい。
ノルディよりも身分は高いのだから。
だが、形ばかりの妃といえ、ずっと自分を支えてくれたノルディだからこそ、その立場を尊重したいと考えていた。
「頼む。聖女のあなたは私に敬称も敬語も使わなかっただろう?」
アールと出会う前、一緒にお茶会でたわいもない話をしていたあの頃にノルディは戻りたかった。
だからこんなふうに敬称と敬語を使われると距離を取られているようで寂しかった。
「そうね、あなたが望んでいるのは聖女だものね。」
レピアは頷き、ノルディの言葉に従う事にした。
自分に妃としての役割は求めないと言っていたのを思い出したからだ。
レピアは勘違いをしている。
聖女だから求めているのではない。
ノルディはそう言いたかった。
だが、その言葉を言った瞬間レピアに拒絶されるのが怖くて言えなかった。
求めてすぎてはいけない。
今レピアがここにいる。
それだけでいい。
ノルディはそう言い聞かせた。
「ノルディ?」
黙っているノルディをレピアが覗き込んだ。
「ああ、すまない。少し考え事をしていた。きっと気にいるはずだ、行こう。」
ノルディはレピアに微笑みかけた。
花が大好きなレピアの好みを知り尽くしているノルディが何年もかけて作った庭。
その庭を見たレピアが少しでも癒されることを願った。
皇都ではいち早くその情報が流れた。
聖女の行いを批判していた者たちもいざ聖女がいなくなれば魔の扉の出現に不安を抱えた。
今までは聖女がいたから皇都は魔物の侵入から守られていた。
そして聖女がいたからこそ皇都では病気なども少なかったのだと知った。
聖女不在により魔物は侵入し、病気で苦しむ皇都民も増えた。
「ノルディ第二皇子の妃となるらしいし、ずっとここにいるんだな。本当に良かった。」
そう言われレピアは皇都民から歓迎を受けていた。
だが、年頃の娘を持つ貴族達にとっては面白くなかった。
ノルディ第二皇子という優良物件がレピアという悪評のある聖女に持っていかれる事になったのだから。
レピアは皇都民の歓迎も貴族やその令嬢達の妬みもどうでも良かった。
自分がノルディの妃であるのは聖女としての役割を果たす為、自分がまた馬鹿な事をしないように見張る為。
皆が羨むような関係ではないのだから。
「レピア様、一緒に庭に出ないか?今、レピア様の好きな花々が満開だ。」
ノルディはレピアが自分と同じ想いでない事を知っている。
それでも横にいてくれるだけで嬉しかった。
「ノルディ様、私の事はレピアとお呼びください。私は聖女である前にあなたの妃なのですから。」
レピアがノルディに頭を下げる。
ノルディはゴクリと唾を飲んだ。
「レピアと呼んでもいいのか?」
「もちろんです。私達は夫婦です。」
レピアは無表情ままそう答えた。
レピアがノルディを愛さないと言った。
だから形ばかりの夫婦となるつもりだったのに、いつか名前を呼びたいというノルディの夢が一つ叶った。
「レピア、あなたも私の事はノルディと呼んでくれ。敬語もいらない。今まで通りでいい。」
「そういう訳には…」
レピアは皇子妃としての教育も受けており、夫となる皇子に対し敬意を示す為の言動を学んでいた。
聖女ならば敬語を使わなくてもいい。
ノルディよりも身分は高いのだから。
だが、形ばかりの妃といえ、ずっと自分を支えてくれたノルディだからこそ、その立場を尊重したいと考えていた。
「頼む。聖女のあなたは私に敬称も敬語も使わなかっただろう?」
アールと出会う前、一緒にお茶会でたわいもない話をしていたあの頃にノルディは戻りたかった。
だからこんなふうに敬称と敬語を使われると距離を取られているようで寂しかった。
「そうね、あなたが望んでいるのは聖女だものね。」
レピアは頷き、ノルディの言葉に従う事にした。
自分に妃としての役割は求めないと言っていたのを思い出したからだ。
レピアは勘違いをしている。
聖女だから求めているのではない。
ノルディはそう言いたかった。
だが、その言葉を言った瞬間レピアに拒絶されるのが怖くて言えなかった。
求めてすぎてはいけない。
今レピアがここにいる。
それだけでいい。
ノルディはそう言い聞かせた。
「ノルディ?」
黙っているノルディをレピアが覗き込んだ。
「ああ、すまない。少し考え事をしていた。きっと気にいるはずだ、行こう。」
ノルディはレピアに微笑みかけた。
花が大好きなレピアの好みを知り尽くしているノルディが何年もかけて作った庭。
その庭を見たレピアが少しでも癒されることを願った。
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