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「もうやめて…」
レピアの声が震えている。
声は小さかったが、沈黙が続いていたその場で声がよく通った。
ノルディはレピアを見た。
レピアは俯いているが、目からポロポロと涙をこぼれているのが見える。
「レピア様…」
ノルディは駆け寄って抱きしめたかった。
だが、今レピア様を泣かせているのは自分であるという自覚はある。
話すべきではなかったか…
レピア様が誤解されて皆に恨まれたままなのが、どうしても嫌だった。
レピア様に嫌われる覚悟もしていた。
だが、こんなふうに泣かれるのを見たくなかった。
レピアが絡むとノルディは冷静ではなくなる。
オロオロと伸ばしている手のやり場はなく宙をかいていた。
「…私が全て悪いの。…私が愚かだったからアールを死なせたの。私なら何とかできるんじゃないかって傲慢になってたのよ。」
レピアはあの時を思い出すように静かにゆっくりと話し出した。
誰もレピアを止めない。
神殿の調査も周囲からの情報と状況から判断された。レピアがその当時の事を話すのは今回が初めてだった。
「前回、全滅した街を見て何もできない自分自身が悔しかったの。魔の扉が開きらないと何もできない自分が…」
レピアは震えて涙をこぼしている。
ノルディはもう何も言うなと止めたかったが、吐き出すことも今のレピアには必要だとグッと我慢した。
何に苦しんでいるのかわからなければ助けようがないから。
「そんな時、アールは自分の故郷を救ってくれと言ったの。アールも私の力を信じてくれたのだと思う…私もこの街を救いたい。その気持ちもあったけど…」
レピアは言おうか一瞬悩んでいるように見えた。
それほど言いにくい内容なのだとノルディにもノアにもわかった。
「それ以上に断った時のアールの反応が怖かったの…街がもし全滅すれば恨まれるのでないかと。聖女の力が及ばなかった時その後どうなるかわかっていながらね。アールに嫌われるのが怖くてそちらを優先した。私はアールを死なせ国も危険に晒した。聖女失格よ…私が死ねばよかったのに…」
レピアは今まで聖女である矜持を持って生きてきた。
誰よりも民の幸せを考えてきた。
ただ最愛の者を亡くしただけではなかった。
初めて自分の欲を優先させた結果、アールを死なせてしまったレピアの心の傷ははかり知れない。
それをこんな場で言わせてしまった事にノルディもノアも罪悪感で胸が押し潰されそうだった。
真実を知りたいなんて思うのではなかった。
「レピア様は今までだって民の為だけに生きてきました!一度くらい自分を優先させたからって何が悪いのですか?止められなかった私たちのせいです。」
ノアも涙を流しながらレピアに言う。
「そしてアールは聖騎士です。全てを知っていたのにあなたの命をかけされるなど許されない事です!」
そんなノアの言葉も否定してレピアは首を横に振った。
ノルディはそんなレピアを抱きしめた。
「ノルディ様…離して。」
レピアは驚いてノルディから離れようと手に力を入れた。
皇族といえど本来、抱き締めるなど聖女に対して無礼すぎる。
しかも婚約関係でもない異性を抱き締めるなどありえないが、レピアを抱きしめている両手が緩まる事はなかった。
レピアの声が震えている。
声は小さかったが、沈黙が続いていたその場で声がよく通った。
ノルディはレピアを見た。
レピアは俯いているが、目からポロポロと涙をこぼれているのが見える。
「レピア様…」
ノルディは駆け寄って抱きしめたかった。
だが、今レピア様を泣かせているのは自分であるという自覚はある。
話すべきではなかったか…
レピア様が誤解されて皆に恨まれたままなのが、どうしても嫌だった。
レピア様に嫌われる覚悟もしていた。
だが、こんなふうに泣かれるのを見たくなかった。
レピアが絡むとノルディは冷静ではなくなる。
オロオロと伸ばしている手のやり場はなく宙をかいていた。
「…私が全て悪いの。…私が愚かだったからアールを死なせたの。私なら何とかできるんじゃないかって傲慢になってたのよ。」
レピアはあの時を思い出すように静かにゆっくりと話し出した。
誰もレピアを止めない。
神殿の調査も周囲からの情報と状況から判断された。レピアがその当時の事を話すのは今回が初めてだった。
「前回、全滅した街を見て何もできない自分自身が悔しかったの。魔の扉が開きらないと何もできない自分が…」
レピアは震えて涙をこぼしている。
ノルディはもう何も言うなと止めたかったが、吐き出すことも今のレピアには必要だとグッと我慢した。
何に苦しんでいるのかわからなければ助けようがないから。
「そんな時、アールは自分の故郷を救ってくれと言ったの。アールも私の力を信じてくれたのだと思う…私もこの街を救いたい。その気持ちもあったけど…」
レピアは言おうか一瞬悩んでいるように見えた。
それほど言いにくい内容なのだとノルディにもノアにもわかった。
「それ以上に断った時のアールの反応が怖かったの…街がもし全滅すれば恨まれるのでないかと。聖女の力が及ばなかった時その後どうなるかわかっていながらね。アールに嫌われるのが怖くてそちらを優先した。私はアールを死なせ国も危険に晒した。聖女失格よ…私が死ねばよかったのに…」
レピアは今まで聖女である矜持を持って生きてきた。
誰よりも民の幸せを考えてきた。
ただ最愛の者を亡くしただけではなかった。
初めて自分の欲を優先させた結果、アールを死なせてしまったレピアの心の傷ははかり知れない。
それをこんな場で言わせてしまった事にノルディもノアも罪悪感で胸が押し潰されそうだった。
真実を知りたいなんて思うのではなかった。
「レピア様は今までだって民の為だけに生きてきました!一度くらい自分を優先させたからって何が悪いのですか?止められなかった私たちのせいです。」
ノアも涙を流しながらレピアに言う。
「そしてアールは聖騎士です。全てを知っていたのにあなたの命をかけされるなど許されない事です!」
そんなノアの言葉も否定してレピアは首を横に振った。
ノルディはそんなレピアを抱きしめた。
「ノルディ様…離して。」
レピアは驚いてノルディから離れようと手に力を入れた。
皇族といえど本来、抱き締めるなど聖女に対して無礼すぎる。
しかも婚約関係でもない異性を抱き締めるなどありえないが、レピアを抱きしめている両手が緩まる事はなかった。
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