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食堂のシェフであるアビーがコソコソ話す街人達の前に出た。

「レピア、お前がアールを死なせた聖女だったのか?」
いつもの優しい笑みではなく憎しみがこもった表情をしていた。
今にも殴りかかるのではないかと思わせるほどの気迫があり、ノアや護衛である隠密達が前に出た。

その護衛達を見てレピアは少し驚いた顔をしていた。
平民として暮らしていると思っていたが、結局は誰かに守られていた事に気付いた。

「あなた達は下がりなさい。」
ノアや護衛達を手で制してレピアは言ったが、ノアも護衛達も下がる様子はなかった。

「これは私からの命令です。下がりなさい。」
そうレピアが言葉きつめに言う。
普段のレピアからは想像もできない圧をノアも護衛達も感じたため、言葉に従い渋々と後ろに下がった。

ノアや護衛が下がったのを確認しレピアがアビーや街人に対し頭を下げた。

「私が元聖女レピアです。皆様を騙した事は申し訳なく思っています。」
レピアがそう言うと待ち人達はざわついた。

「アールを死なせたお前が何の目的でこの街にきた!聖女のくせに民も救わず男に溺れて殺すなんてな、生きている価値があるのか!アールの代わりにお前が死ねばよかったんだ!」
アビーが怒鳴っている。

街人達もアビーの暴言に続きレピアを非難した。
レピアはそれを反論もなく聞いていた。

「皆様の言う通りアールを死なせたのは私の罪です。申し訳ありませんでした。」
先ほどよりレピアは深々と頭を下げた。

「もうやめてください!レピア様は何も悪くないのに!」
ノアが叫んだ。
こんな茶番に付き合う必要はない。
無理矢理にでもレピアをこの場から連れ出そうとした。

「逃げる気か?」
そう聞こえた瞬間レピアに向かい石が飛んできた。
一つ飛んでくるとそれを見た街人が数人、石を拾い投げつけてきた。
ノアも護衛も動いたが全てを止められずレピアの額に当たり血が流れた。

レピアが顔をしかめ額を抑える。
ポタポタとレピアの額から血が溢れている。
その血の感触にレピアはホッと胸をなでおろした。
アールを死なせる原因となった加護が外されているのがわかったから。

大神官がレピアの命に逆らい嘘を言うとは思わないが、自分のために誰かが死ぬ恐怖にレピアは怯えていた。
こうして傷つき血が流れる。
誰も自分のために傷つかない。
痛みよりもその喜びの方が大きかった。

「レピア様!」
ノアはレピアに近づきハンカチで額を抑えた。
護衛達は剣を抜きレピアと街人の間に立った。

「あなた達はその剣をしまいなさい。街人を傷つける事はこの私が許しません!」
レピアがこんなに大声で怒鳴るのをノアも初めて見た。

レピアが怒っている。
街人ではなく自分たちに…

「レピア様…とりあえず治療しましょう…このままでは出血が止まりません…」
ノアのハンカチが真っ赤に染まるくらい出血していた。

「必要ないわ。これは私が受けるべき罰なのだから。」
レピアはノアの手を払いのけた。
ノアが手を外すとさらに出血量は増えレピアの足元は血まみれになっていた。

それなのにレピアは笑っていた。
こうされたかった…
そういうように満足そうに笑った。

「レピア様…」
ノアも護衛達もどうしたら良いのかわからなかった。
街人達は静まり返りその様子を見ていた。

「そこまでだ。」
突然レピアの後ろから聞き慣れた声が聞こえた。


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