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レピアはいつも通り街に向かって出発した。
これはもうレピアの日課だった。
アールが育った街。守りたかった街。
悲劇が起こらず平和な日常が続いているのを毎日確かめていた。

レピアの様子があまりにおかしいのでノアは嫌な予感がしてレピアについていくことにした。

護衛からの報告はないから実質的な危害はないのはわかっている。
だけど…
取り越し苦労ならいいのだけれど。

ノアの暗い心持ちとは裏腹に街に行く道の横の木々も青々としており、レピアの好きな花が咲き乱れている。
神殿のような植えられた花ではなく、必死で生きそうとしているその花々に生命の息吹を感じる。
鳥の鳴き声や木々の葉擦れの音が聞こえている。

「レピア様がこの景色を見て何も思わないなんて…」

あんなに花を見るのが好きだったのに。
宝石やドレスなどよりレピアは花々や自然に囲まれることを望んだ。
神殿から出られず、いつか外に出てみたいと夢見ていたのに。

今のレピアは無表情で何を考えているのかノアにもわからなかった。





街に来てノアは嫌な空気を読み取った。
街の皆が自分たちに向けて冷たい視線を向けているのが明らかだ。

前に来た時はこんな感じではなかった。
来たばかりの頃だってもっと友好的に笑ってくれていたのに。

ノアは慌ててレピアを見た。
「レピア様…これは…」

「私の正体がバレたのよ。昨日帝都で見た事のある人に会ったから、こうなる可能性はあるかなとは思ってたけど。」
レピアは淡々とノアに言う。

「わかっていてどうして…」
帝都の人間ならばレピアの顔を知っていてもおかしくない。
レピアは人々の前に立ち、民の幸福を祈っていたのだから。
そこまでわかっていながら誰にも伝えず一人で街に来ようとするなんて…
ノアは拳をギリギリと握った。

「どうして黙っていたのですか!レピア様、家に帰りましょう!ここは危険です。」
アールはこの街で英雄扱いだ。
それだけ神殿は力を持ち、聖騎士はエリートなのだ。
こんな小さな街から聖騎士を輩出したのは初めてで誇らしかったと報告書にもあった。

「なぜ?」
無表情のままレピアは言う。

「なぜって…ここはレピア様への悪意に満ちています。レピア様、お願いです。私の話を聞いてください。何かあってからでは遅いのです!」
護衛も付いているが、この街全体を敵に回すとなれば敵わないだろう。

「私はここから逃げるわけにはいかないの。ノア、あなたを巻き込むつもりはないわ。あなたは帰って。」

「私だけ戻るなんてあり得ません。一緒に戻りましょう。」
ノアはレピアの手を掴み街から離れようとしたが、レピアはそんなノアの手を振り払った。

「ノア、私は帰らないわ。」

「どうしてここまで…」

街の人たちがジロジロとレピアを見ている。
ノア達には聞こえないくらいの小さな声でコソコソと街人達で話をしていた。
悪意のある視線がレピアとノアに突き刺さっている。



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