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「ちゃんと聞いてください!」
ノアの声が部屋の中で響く。

その声があまりにうるさく男は手で耳を抑えている。
「聞いてるよ。で帰ろうと決めたわけ?そんな事は最初からわかってただろ?」
その男は呆れ顔で答える。

ノアがレピアについて真剣に相談しているが、その男の態度はいつもこんな感じだった。

「ハンバル様、真剣に考えてください!」
ノアの声はさらに大きくなる。

レピアはまた街に一人で行っているため、今家にはノアとハンバルしかいない。

ハンバルはレピア達のご近所さん。
色々と世話を焼いてくれる優しいお兄さんという設定だが、そもそもその設定には無理があった。

世話焼きでもなければ優しくもない。

ノアはギリギリと歯ぎしりをしそうな勢いでハンバルを睨みつけている。
ハンバルもそんなノアの対応にも慣れていて視線をずらす。

「聞いてるけど、俺にどうしろっていうんだ?聖女様は罰せられたい。お前らはそんな聖女様を守りたい。話が全く噛み合っていないだろ。」

「そうですが、治癒師でしょう?レピア様を助けたいと思わないのですか?」

「治癒師だから…」
ハァァァ。
ハンバルから大きなため息が漏れた。

「誰もが人を救いたいから治癒師になっている訳じゃないだろ。特に皇室付はな。」
給料は神殿よりずっといいからなとハンバルは付け加えた。

そんなハンバルに冷たい視線を送るノア。
この男とは話が噛み合わない。
最初からそう思っていたが、ここに来て二人の距離は完全に開いていた。

「ノルディ様からレピア様を助けるように言われているのでしょう?」

「ああ、だが救えるのは心じゃね。命だ。聖女様に何かあれば命なら助けてやる。」

「なんて失礼な物言いでしょう!レピア様をなんと思っているのですか!」

ノアがバンと扉を開け外に飛び出した。
これ以上話し合うことにはなんの意味もない。
そう言わんばかりの言動だった。

そんなノアが飛び出したドアの方を見ながらハンバルはつぶやく。

「俺だって聖女様がどんな人間かは知っているし救いたいと思ってるさ。だが、聖女様自身が自分で乗り越えるしかないだろ。」

聖女の功績ならハンバルだって知っている。
歳こそは聖女より上だがハンバルよりもずっと多くの民衆を救ってきた。

治癒師を志す者は一度は聖女に憧れる。

ハンバルもお金のために治癒師になったとはいえ、例外ではなかった。
聖女みたいになれないと気づくのも早かったが。

アールという一人の男によってこの国の宝が失われる。
ハンバルとしても心穏やかなわけがない。

治癒師と名乗りながらただ見守るしかない今の現状を歯がゆくも思っている。
ノアにそんなカッコ悪い自分を見せたくなくて言えないだけだった。

「ノルディ皇子は特に聖女様への下心だけで治癒師になったからな。俺が思うより余計に堪えてるだろうな。」

聖女様に何かあれば俺も無事じゃないんだろうな…
ハンバルは嫌な予感しかしない。

ノルディに今の現状を報告をしたくないと心の底から思っていた。
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