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「聖女様がお目覚めになられました!」
神女が慌てて調査に加わっている皆が集まる部屋に駆け込んだ。
レピアが目覚めの知らせだった。
皆は我先にとレピアの部屋に走り出した。
聖女様が目覚めてくれた。
皆その報告を喜んだ。
だが、皆レピアがいる部屋に入り固まる。
目覚めたレピアを見た者はなんて表現していいかわからなかった。
レピアに姿形を似せた人形?
レピアの愛らしい特徴を何もおさえていない歪な表情。
いや、表情など完全に死んでしまったかの様にただ目を開いているだけ。
「…レピア様?」
ノルディは想像もしていなかったレピアの様子に戸惑いを隠せない。
最愛のアールを亡くしたレピアはどうなるのかと考えていた。
悲しくて泣くのか。
自分の力不足を嘆くのか。
それとも現実が受け入れられずパニックになるのか。
アールはもういない。
レピアが抱く感情に合わせて慰めよう。
そしてレピアの心の拠り所になりたい。
ノルディにそんな下心がなかったといえば嘘になる。
だが、誰よりもレピアの笑顔が好きでずっと幸せそうに笑っていてほしいという気持ちが大きかった。
だが、目の前のレピアは無表情で視線さえ合わない。
誰も見ていない。
ノルディはレピアのベットの側に跪いてレピアの手を握った。
きっとまだ治癒の力が足りないのだ。
だからこんな風になっているのだと自分に言い聞かせた。
手を繋ぎ、治癒の力を注入してすぐにそうではないと気付く。
もうレピアが治癒の力を必要とせず、力を注ぐ事ができなかったのだから。
「完全に体は治っているのに…どうしてだ?レピア様…」
繋いだ手をノルディは離す事ができなかった。
手を繋げる距離にいるのにレピアとノルディの間に分厚い壁がある様に感じて怖くなった。
「……」
レピアからの反応はない。
繋いだ手は暖かい。
規則的に脈は打っている。
息もしている。
それなのに…レピアの表情から生が全く感じられなかった。
「お願いだから、返事をしてくれ!」
ノルディは立ち上がり、寝ているレピアを抱き起こした。
生まれて初めてレピアを抱きしめている。
この瞬間をずっとずっと夢見てきた。
ノルディの腕の中にいるレピアは完全に力が抜けていてノルディに体を預けてしまっている。
レピアを抱きしめたらどんな顔をするだろうとノルディはいつも想像していた。
頬を赤らめ嬉しそうな顔をしてくれるのを期待するのと同時に虫を見る様な嫌悪感を持った目で睨まれるのを恐れた。
だが、こんなレピア様を見るくらいなら嫌がられる方がマシだ…
心の底からノルディは思った。
周囲にいた神殿の者たちはその様子を黙って見つめるしかなかった。
神女が慌てて調査に加わっている皆が集まる部屋に駆け込んだ。
レピアが目覚めの知らせだった。
皆は我先にとレピアの部屋に走り出した。
聖女様が目覚めてくれた。
皆その報告を喜んだ。
だが、皆レピアがいる部屋に入り固まる。
目覚めたレピアを見た者はなんて表現していいかわからなかった。
レピアに姿形を似せた人形?
レピアの愛らしい特徴を何もおさえていない歪な表情。
いや、表情など完全に死んでしまったかの様にただ目を開いているだけ。
「…レピア様?」
ノルディは想像もしていなかったレピアの様子に戸惑いを隠せない。
最愛のアールを亡くしたレピアはどうなるのかと考えていた。
悲しくて泣くのか。
自分の力不足を嘆くのか。
それとも現実が受け入れられずパニックになるのか。
アールはもういない。
レピアが抱く感情に合わせて慰めよう。
そしてレピアの心の拠り所になりたい。
ノルディにそんな下心がなかったといえば嘘になる。
だが、誰よりもレピアの笑顔が好きでずっと幸せそうに笑っていてほしいという気持ちが大きかった。
だが、目の前のレピアは無表情で視線さえ合わない。
誰も見ていない。
ノルディはレピアのベットの側に跪いてレピアの手を握った。
きっとまだ治癒の力が足りないのだ。
だからこんな風になっているのだと自分に言い聞かせた。
手を繋ぎ、治癒の力を注入してすぐにそうではないと気付く。
もうレピアが治癒の力を必要とせず、力を注ぐ事ができなかったのだから。
「完全に体は治っているのに…どうしてだ?レピア様…」
繋いだ手をノルディは離す事ができなかった。
手を繋げる距離にいるのにレピアとノルディの間に分厚い壁がある様に感じて怖くなった。
「……」
レピアからの反応はない。
繋いだ手は暖かい。
規則的に脈は打っている。
息もしている。
それなのに…レピアの表情から生が全く感じられなかった。
「お願いだから、返事をしてくれ!」
ノルディは立ち上がり、寝ているレピアを抱き起こした。
生まれて初めてレピアを抱きしめている。
この瞬間をずっとずっと夢見てきた。
ノルディの腕の中にいるレピアは完全に力が抜けていてノルディに体を預けてしまっている。
レピアを抱きしめたらどんな顔をするだろうとノルディはいつも想像していた。
頬を赤らめ嬉しそうな顔をしてくれるのを期待するのと同時に虫を見る様な嫌悪感を持った目で睨まれるのを恐れた。
だが、こんなレピア様を見るくらいなら嫌がられる方がマシだ…
心の底からノルディは思った。
周囲にいた神殿の者たちはその様子を黙って見つめるしかなかった。
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