上 下
17 / 49

17

しおりを挟む
「ヴゥゥ…」
意識が戻った時、激しい全身の痛みがレピアを襲った。
手足を自分で動かすこともできず、意識をなくすこともできず苦しみ続けた。

誰でもいい、殺して。
気絶させて。

そう言いたいが舌を噛まないように口に布を噛まされておりレピアは言葉を発することもできなかった。

その場にいた治癒師は治癒力をほぼ使い切っていた。
ノルディは交代せず、ずっとレピアの手を握り励ましていた。

「レピア様、治療班が戻ればその痛みも何とかする!それまでの辛抱だ!耐えてくれ!私の力じゃ命しか繋げない…すまない…」

ノルディは目の前でレピアが苦しむ姿など見たくない。
目をそらしたくなるような苦しみ方だった。

私以上にレピア様が辛いはずだ、しっかりしろ!

だが、どうして彼女がこんな目に合う?
もうすぐ結婚するはずだった。
誰よりも幸せな笑顔で微笑むはずだった。

それなのに…なぜ…

「ノルディ様もう限界です!このままではノルディ様がもちません。」
側近のウースはノルディを止めるがノルディは聞く耳を持たなかった。

「レピア様の代わりに死んだっていい!ここにいる皆が証人だ、私がそう言っているのだから皇室からの責められることもない。だから口を挟むな!今私が手を離せばレピア様の心臓は止まる。」
そう言われるとウースも何もいえなくなった。
神官達はノルディとウースから目をそらす。
誰もノルディを止めようとはしなかった。

この場にノルディの代わりとなる治癒師はいない。
止めればレピアが死ぬのがわかっていたから。

それからどのくらい経ったのか…
静まり返った部屋の中でレピアの唸り声だけが響いている。
ノルディは冷や汗を流し意識が朦朧としていた。床にはポタポタと汗が落ちた。

「ノルディ様、もうやめてください。本当に死んでしまいます。」
ウースにとってノルディが誰よりも大切だった。
このままではレピアだけではなくノルディも死んでしまう。

「ウース、すまないが私の足を刺してくれ。もう意識が飛びそうなんだ…血を使う。」

ノルディはもう限界だった。
それはそばで見ていたウースにはわかっている。
「そんなこと私にはできません。命令違反で罰せられても構いません。」
ウースは涙を流しながら首を横に振った。

「では、親友として頼む。お前にしか頼めない。私は流れる血しか使えないんだ。」
ノルディはもう目の前すらかすんでいてウースの顔すら認識できなくなっていた。

「嫌です…あなたに最期のとどめを刺してしまうとわかっていてどうしてそんな事が言えるのですか…」

「レピア様が私の全てだから。レピア様が助かるなら何だってする。お前はそれをよく知っているだろう?だから、お願いだ。今私は手を離せない。」

ノルディはもう治癒班が戻るまで自分が保たないと判断した。
意識を失うとその瞬間にレピア様は死ぬ。
それならば自分の命とひきかけにレピア様を助ける。

血を使い力を底上げする。
そう考えた瞬間ノルディは血まみれのこの部屋で何があったのかが想像できた。

レピア様も血の力を使ったのだ…

自分のためではないだろう。
誰かのために自分を犠牲にしようとした…

ノルディは遠のきそうな意識の中でアールに優しく微笑むレピアを思い出し、誰のためだったのかわかってしまった…
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】聖女として召喚されましたが、無力なようなのでそろそろお暇したいと思います

藍生蕗
恋愛
聖女として異世界へ召喚された柚子。 けれどその役割を果たせないままに、三年の月日が経った。そして痺れを切らした神殿は、もう一人、新たな聖女を召喚したのだった。 柚子とは違う異世界から来たセレナは聖女としての価値を示し、また美しく皆から慕われる存在となっていく。 ここから出たい。 召喚された神殿で過ごすうちに柚子はそう思うようになった。 全てを諦めたままこのまま過ごすのは辛い。 一時、希望を見出した暮らしから離れるのは寂しかったが、それ以上に存在を忘れられる度、疎まれる度、身を削られるような気になって辛かった。 そこにあった密かに抱えていた恋心。 手放せるうちに去るべきだ。 そう考える柚子に差し伸べてくれた者たちの手を掴み、柚子は神殿から一歩踏み出すのだけど…… 中編くらいの長さです。 ※ 暴力的な表現がありますので、苦手な方はご注意下さい。 他のサイトでも公開しています

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

王命を忘れた恋

水夏(すいか)
恋愛
『君はあの子よりも強いから』  そう言って貴方は私を見ることなく、この関係性を終わらせた。  強くいなければ、貴方のそばにいれなかったのに?貴方のそばにいる為に強くいたのに?  そんな痛む心を隠し。ユリアーナはただ静かに微笑むと、承知を告げた。

【完結】私を断罪するのが神のお告げですって?なら、本人を呼んでみましょうか

あーもんど
恋愛
聖女のオリアナが神に祈りを捧げている最中、ある女性が現れ、こう言う。 「貴方には、これから裁きを受けてもらうわ!」 突然の宣言に驚きつつも、オリアナはワケを聞く。 すると、出てくるのはただの言い掛かりに過ぎない言い分ばかり。 オリアナは何とか理解してもらおうとするものの、相手は聞く耳持たずで……? 最終的には「神のお告げよ!」とまで言われ、さすがのオリアナも反抗を決意! 「私を断罪するのが神のお告げですって?なら、本人を呼んでみましょうか」 さて、聖女オリアナを怒らせた彼らの末路は? ◆小説家になろう様でも掲載中◆ →短編形式で投稿したため、こちらなら一気に最後まで読めます

ある辺境伯の後悔

だましだまし
恋愛
妻セディナを愛する辺境伯ルブラン・レイナーラ。 父親似だが目元が妻によく似た長女と 目元は自分譲りだが母親似の長男。 愛する妻と妻の容姿を受け継いだ可愛い子供たちに囲まれ彼は誰よりも幸せだと思っていた。 愛しい妻が次女を産んで亡くなるまでは…。

【完結】婚約破棄されたので、引き継ぎをいたしましょうか?

碧桜 汐香
恋愛
第一王子に婚約破棄された公爵令嬢は、事前に引き継ぎの準備を進めていた。 まっすぐ領地に帰るために、その場で引き継ぎを始めることに。 様々な調査結果を暴露され、婚約破棄に関わった人たちは阿鼻叫喚へ。 第二王子?いりませんわ。 第一王子?もっといりませんわ。 第一王子を慕っていたのに婚約破棄された少女を演じる、彼女の本音は? 彼女の存在意義とは? 別サイト様にも掲載しております

追放された令嬢は英雄となって帰還する

影茸
恋愛
代々聖女を輩出して来た家系、リースブルク家。 だがその1人娘であるラストは聖女と認められるだけの才能が無く、彼女は冤罪を被せられ、婚約者である王子にも婚約破棄されて国を追放されることになる。 ーーー そしてその時彼女はその国で唯一自分を助けようとしてくれた青年に恋をした。 そしてそれから数年後、最強と呼ばれる魔女に弟子入りして英雄と呼ばれるようになったラストは、恋心を胸に国へと帰還する…… ※この作品は最初のプロローグだけを現段階だけで短編として投稿する予定です!

【完結】どうして殺されたのですか?貴方達の愛はもう要りません  

たろ
恋愛
処刑されたエリーゼ。 何もしていないのに冤罪で…… 死んだと思ったら6歳に戻った。 さっき処刑されたばかりなので、悔しさも怖さも痛さも残ったまま巻き戻った。 絶対に許さない! 今更わたしに優しくしても遅い! 恨みしかない、父親と殿下! 絶対に復讐してやる! ★設定はかなりゆるめです ★あまりシリアスではありません ★よくある話を書いてみたかったんです!!

処理中です...